第262話
どこもかしこも人手が足らない、か。
彼曰く昨日も実は別の場所で作業をしていたらしいので、睡眠以外ほぼフル稼働なのが現状のようだ。
「呉島、あなたの力を借りたい」
そんな状態でモノを頼むのもちょっと悪い気がするが、こちらはこちらで結構急がなくてはならない事情を抱えている。
それに彼の力はなんとも使い勝手が良い。
そこまで時間を取るつもりはなかったのだが、しかし彼は嫌そうに口を曲げた。
「うえええ……勘弁してくださいよ、キナ臭過ぎて協会とは正直今関わりたくないんスわ。それにほら、海自の仕事あるんで」
「……?」
何の話をしてるんだ……?
「勘違いしてるんだろ」
「ああ、そういうのじゃなくて、貴方のユニークスキルでちょっと調べたいことがあるだけ」
「はあ……」
だるそうに背中を掻く彼を見てカナリアが、どうにも信用できないといった表情を浮かべる。
「ふむ……知り合いなのは分かったが、こいつの力はそんなに優れたものなのか?」
「占いなんだ、凄いよく当たる」
以前出会ったときに彼の力を一度見せてもらったが、確かに差す方向へ走ってみれば芽衣がいた。
もしかしたら偶然そちらにいただけかもしれない。しかし長年使ってきたという彼の言葉、そして芽衣本人からもやはり似たような話が出てきたのでそこそこ信用は置けるのじゃないだろうか。
「占いィ? 貴様そんなもの信じてるのかぁ? あんなものありがちな事や、相手が望む言葉を適当に投げかけるだけのインチキだろ。所詮は貴様も思春期にも満たないちんちくりんだな!」
外見的にちんちくりん度の変わらぬカナリアだが、何故か小馬鹿にした顔で煽ってくる。
「占いは信じてないけど、呉島のは予知とかそういうのに近いから」
「パイセンも初めての時は結構散々な物言いだったじゃん……そんじゃちょっとだけ証明でも」
おもむろに『アイテムボックス』を漁り財布を取り出すと、小銭入れを覗き込む呉島。
しかしどうやら想像とは少しばかり中身が違ったらしく、小さく舌打ちをしながら中身をつまみ上げていった。
「あー五枚しかないか……まあいいっしょ。この桜の絵が描かれている方が表、百円玉の数字が書いてある方が表。これの表がYES裏がNOとして……」
一枚ずつ親指で弾いていった。
軽い金属音を立てて空を舞う百円玉たち。
はずみ、転がり、回転してはその速度を緩め、漸く止まった彼らは……全て桜の模様、つまり表を示していた。
偶然のようにも見えるそれにカナリアは少しばかり目を見開きながらも、腕を組んで鼻を鳴らした。
「……全部表だな」
「今俺は一つ占ったんスよ、アンタが
「はぁ!? 貴様失礼過ぎないか!? 常識に欠けてるぞ!」
常識に欠けたエルフが常識を語り地団駄を踏んだ。
そう、なんかいまいち彼のスキルは派手なエフェクトがない。
はたから見たらコインを適当に投げて偶然全部表を向いたようにしか見えないし、一応理解しているはずの私ですら、あれ、本当にスキル発動してるのかな? みたいな疑問が湧いてくる。
「まあまあ、人ってのは必ず死にますから。つまりYES以外に選択肢はない占いなんですって」
「三十二の一なら十分にあり得る! 偶然全部表になっただけかもしれないだろ! 第一後からならいくらでも言える、話にならん!」
「んじゃもう一回同じ質問で」
再び空を舞うコインたち、そして至極当然だと言わんばかりにすべてが表を示す。
「……偶然二回とも全部のコインがなっただけかもしれないだろ?」
「んじゃさらにもう一回」
五つのコインは……やはり全て桜の模様をこちらへきらりと向けた。
信じがたいものを見るかのようにカナリアの顔が歪んだ。
彼の手から百円を奪い取って弄り回すも、先ほどいきなり頼んでみせたのだから当然仕掛けなどもない。
しかしそれにしても、スキル以外の魔法を使えない私たちからすれば、奇妙きわまりない術をこね回しているというのに、こんなことでそこまで驚くことについ笑ってしまう。
ユニークスキルは人によって本当に多種多様、彼女にとっても未知の物が多いというのは本当らしい。
「だから言ってるじゃないっすか、この世界誰だって最後は死ぬんですって……おっと」
百円玉たちを掌で軽く投げ弄ぶ彼であったが、一枚だけがポロリと零れ落ちた。
『100』の文字が朝日に照らされるそれを拾い上げて投げてやると、彼は落とした照れ隠しからか大げさな手振りで受け取った。
「センパイあざっす! それでそっちの子はもう一回やる? やっちゃう? 何回でもやっちゃうよ?」
「……くぁ~~っ! 分かった分かった! 認める! もういらん! 死ねバカ!」
◇
「さて俺サマの力信じて貰ったところで……一体何を探してるんです?」
「人……いや、遺品かな」
壁にもたれかかった呉島の目がきゅうと細まる。
「条件は『
「……了解」
彼は無言でカリバーを受けると、地面へ擦るように先端を押し付けた。
「あんま遅いと怒られるんで十分だけっスよ」
「ありがとう」
「まあ、芽衣の礼っすわ」
筋肉は死んだ。
世界中のどこにも彼の情報はなく、もはやそれを疑う必要はない。
間違いなく死んでいる、殺されたのだ。
だが同時に、私はまだ心のどこかで信じ切れていなかった。
いや、私だけではない。園崎さんも、そしてカナリアも、彼の存在を知っていてなお、ああ、本当に死んでしまったのだとすんなり信じ込める人間はいないのではないか。
しかし今私が立つここは、地面に刻まれた痕跡、スピーカー越しから聞いた音、そしてそれ以前に知っていた情報とぴったり一致している。
遺品なんて持っていた所で何が変わるわけでもない。
そもそもここに存在しているかも怪しいのだから、無駄に時間を食う可能性だってある。
もしかしたら私は、彼の死を飲み込めるような証拠を求めているのかもしれない。
ああ、本当に死んでしまったのだと。諦めて他の道を探せる何かを探しているのかもしれない。
「お願い」
「遺品は……」
パッ、と彼の手がグリップから離され――
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