第61話


 先週は結局彼女と遊び歩き、ダンジョンに向かうことが出来なかった。

 まああれはあれで楽しかったのだが、それでは色々と困る。

 今日も出会って早々カラオケでも行こうと言ってきたので、いや待て待てと、そもそも琉希も学費を稼がないといけないのじゃないかと説き伏せ、落葉へと潜ることになった。


 本当はもう少し上のレベルに行きたかったのだが、彼女のレベルが上がったのはあまりに偶然、そこまでの本来積むべき経験を一切積んでいない。

 仕方のないことである。


 それはいい、それはいいのだ……が。

 二人でダンジョンに潜ってから、奇妙な出来事が起こっていた。


「……落ちた?」

「落ちませんねぇ……」


 ダンジョンに入ってから彼女と手のひらを翳し、パーティ契約を結んでからのことだった。

 魔石が落ちない、一つたりとも。

 どちらかが隠しているだとか、暗くて見えないとかではない。

 一つたりとも落ちることがないのだ、たとえ階層を潜ってもそれは同じであった。


 思い出すのは白銀の騎士と戦った後、なぜか魔力の減っていた……というより異常に少ない保有量であった魔石。

 だがしかし今日はその肝心のペンダントも、一つたりとて持ってきていない。

 何が原因なのか、どうして魔石が落ちないのかさっぱり見当もつかない。


 どうしたらいいんだ……?


 思わずその場で頭を抱えしゃがみ込む。


 私はいい、まだお金は沢山ある。

 しかし琉希は割と死活問題だ。

 なんたって彼女が探索者になったのは、そもそも学費を稼ぐため。

 今は花咲のダンジョン崩壊で貰った報奨金があるとはいえ、それだけでは流石に学費に足りないだろう。


「ま、まあそういう時もありますよ! 帰ってこのままゲーセンでも行きません?」

「うん……」


 互いに手のひらを重ね、パーティの契約を解除する。

 なんと空しい帰還だろう。

 一時間ばかり狩り続けたというのに、成果がないとはここまで虚無に満ちたものだったのか。



 一階へ戻ったときの事であった。

 来た道をトボトボと歩き、成果なくスカスカのリュックをぶらぶら振り回す。


「お」


『フゴッ!』


 丁度目の前にオークが居て、こちらと仲良く視線が交わった。


「ほいっと」


 琉希の掛け声とともに岩が飛び掛かり、ぐしゃっと豪快な一撃。

 流石に二桁もレベルが離れていれば、どんな適当な攻撃でも一撃で沈む。

 それに何度も倒しているので、何か興奮だとか、得られることもないので淡々としたもの。


 しかしそこに転がっていたもの、それが私たちの動きを停止させた。


 つやつやと輝く、手のひらに乗る程度の石ころ。

 しかしただの灰色ではなく、その透き通る見た目は間違いなく……


『魔石……!』


 先ほどまで私たちが欲してやまなかった、貴重な収入源であった。

 二人で顔を突き合わせ、頷く。


 魔石、魔石だ。

 モンスター狩りの時間だ。

.

.

.


「落ちましたね……!」

「うん」

「どうしてさっきまで落ちなかったんでしょう……?」

「うーん……?」


 私たちの前には、リュックいっぱいの輝く魔石たち。

 ダンジョン1階から最終階、そのすべてが今までの落ちなさは何だったのかと思ってしまうほど簡単に、ボロボロと魔石を落としてくれた。


 まあ最終階と言えばボスエリアで、この奥に行けば『ゴブリンキングダム』が待ち受けているのだろう。

 しかしボスエリアはパーティメンバー以外入ることが出来ないので、今の私たちでは片方だけが侵入することになる。

 片方だけ元来た道を戻るのも大変なので、彼女と再度パーティ契約。そしてそのままボス戦を重ねることとなった。




「おお、あれが……『鑑定』」


 くるり、くるりと蒼い結晶が回り、相変わらず趣味の悪い骨のシャンデリアが、高校と輝きを灯す。

 今回は特にボスが前回と変わるなんてこともなく、以前私が訪れた時同様、ゴブリンキングダムがお迎えしてくれた。


 琉希の瞳がせわしなく動き、軽く何度か頷く。

 ステータスもやはり私が戦ったときと同じで、事前に伝えていたことを確認し終えたようだ。

 MPによってモンスターを召喚し、次々と襲い掛からせてくる。

 やはり同様の戦闘方法らしく、私たちの後ろに現れたホブゴブリンの攻撃が、彼女の平たい岩によって阻まれた。


 そして背後に回った私が膝を叩き潰し、彼女のチェンソーで首を跳ね飛ばされる。

 まあこのレベル差の探索者が二人だ、苦戦しろって方が難しい。

 そしてそこには……


 魔石が、落ちていなかった・・・・・


 ふむ……

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