第41話

 魔石の実験も終わりお腹もすいてきたので、帰ることにした。

 初めの頃はびくびく乗っていた電車だが、今では慣れたもの。

 流れるように切符を買って、華麗に搭乗だ。


 とろけるように後ろへ流れていく木々、遠くで空へ伸びる人類未踏破ダンジョン『蒼穹』。


 あ、ピザ食べたい。



 青は食欲を減退させる色だというが、運動後でおなかの空いていた私には真逆であった。

 後ろに『とろけていく』木々といい、空へ『伸びる』蒼穹といい、ピザを食べたい欲が刺激されるだけ。

 一度思考がそちらへ向いてしまえばそれしか思い浮かばない、ピザだピザ、ピザを食べよう。

 ピザトーストなら施設で出たが若干冷えて固まっていたし、丸くて大きなピザなんて食べた記憶がない。


 きっとこれは昨日部屋に備え付けられていたテレビを見たのも、多分に影響しているのだろう。

 とろりととろけるチーズ、分厚い生地を口いっぱいに頬張るCMの俳優が思い出される。

 あ、でもどうやって頼もう?




 結局ギルドで話をしたらどうせ昼間は人が来ないからと、電話を借りるついでに皆で昼食にすることになった。

 頭割りするか? といった流れにもなったが、ここは私が払うことに。

 初めて筋肉に出会ったとき一万円を貰ったし、そのおかげで今の私がいるようなもの。

 恩返しというにはいささか俗っぽいが、たまにみんなで食事するときくらい私が奢ってもバチはあたらないだろう。


「ほら」

「ん」


 ウニは私に奢られることを最後まで渋っていたが、携帯を借りることでどうにかなだめた。

 前は目つきや態度が悪いとウザかったが、今は今で融通が利かなくてウザい。


『はい、ピザマッチョです!』

「えっと、ピザください」

『はい! 注文はお決まりでしょうか!』


 あ……そうか、どんなの頼むかも決めないといけないのか。

 困った、どんなものがあるか分からない。


「お任せで良いんじゃないか?」

「じゃ、じゃあ一番人気の奴お願いします」

『一番人気はタンパクMAX四種のアソートピザですね!』

「うん、それの一番大きいサイズください」

『耳までソーセージや耳までチーズはいかがですか?』


 耳までチーズやソーセージ……!?

 え、どういうことなの……?

 耳の中にアツアツのソーセージやチーズを突っ込まれちゃうのかな、流石にそれは嫌だ。


『最後まで楽しめると大好評いただいております!』

「人気なの……!?」

『左右の耳に半々でチーズとソーセージを入れられる欲張りセットもありますよ!』

「右耳と左耳にチーズとソーセージ……!?」


 そんなのが大人気だなんて、日本人疲れすぎじゃないか。


『いかがでしょうか?』

「あ、じゃあそれで……」

『サイドにドリンクとポテトとチキンと……』


 結局ごり押しされて全部頼んだ。



『かんぱーい!』


 ソーセージや鶏肉、ステーキの細切れなどタンパクMAXの名前だけあって、肉、肉、肉って感じのピザ。

 しかし甘辛いソースや、酸味のきいたトマトソースなどそれぞれ味がしっかりと考えられていて、決して飽きることはない。

 しかも端っこの余った生地の部分、何もないのかと思いきやソーセージやチーズが詰まっていて、最後までたっぷり楽しめる。


 うまい……!


 想像通り、いや、想像以上だ。

 なんかよくわからない葉っぱが乗っているが、それも爽やかな香りがして良い。

 これはいい物だ。月一くらいでピザパーティー開こう、今決めた。


 ピザに舌鼓を打っていると、筋肉が寄ってきた。


「おう、ごちそうさん」

「うん」

「コーラ飲むか?」


 コップを手渡すとなみなみと注がれる黒い液体。

 グイっと飲み干せばすっきりと爽やかで甘酸っぱい、脂っぽくなった口内を流す。


 そういえば今まで筋肉と会うときは、大体何か質問するときだったので、こうやって近くにいるのに何もしないのは不思議な気分だ。

 どうして筋肉はここのトップをしているのだろう。 彼の筋肉や普段の様子を見ていれば分かる。こいつはめちゃくちゃ強い、それに探索者はレベルアップで多少の衰えは無視できる。

 わざわざ稼ぎの減るトップなんてやる必要がない。


 と、気になって聞いたが、彼が浮かべたのは苦い顔。

 まあわざわざやっているのだから、何らかの理由があるのだろう。

 別に気になる程度で、無理に聞く必要もない。


「あ、見てキー君! フォリアちゃん笑ってるわ!」

「痛っ、見えてる見えてる! 姉ちゃんレベル高いんだから叩くなって!」


 ポテトをつまんでいると、ダブル園崎が何やら叫んでいた。


 ダブル園崎と筋肉、そして私。

 のんびりと焚火を囲んではピザやポテト、チキンを炙ってのんびりの昼食。

 楽しい。

 施設を出た時はバイト詰めが一番で、死ぬ危険がある探索者なんてすぐに辞めるつもりだった。

 けどこうやって誰かと笑えるのなら、探索者を続ける選択は間違いじゃなった気がする。


「そういやお前、ポーションは持ってんのか? 金に余裕が出てきたなら買っとけよ」


 ウニが焚火を消しながら言ってきたそれで、そういえばポーションをこの前使ってしまったことを思い出す。

 あの時買ったのは最低レベルの物だったが、今ならもう少し良い品質のが買えるだろう。

 一本あるだけでも緊急用として使えるし、できる限り高品質のを買っておいた方がいいか。


 どこかでいい物が売っていないか聞くと、ここからちょっと離れたところに、協会で買い取ったものを卸している場所があるらしい。

 以前行ったときはそんなところ分からなかったと伝えれば、協会に所属してる人以外には紹介していないから当然だと、ウニはあきれたように首を振った。


 ポーションはどんな傷でも治すが、魔力を保持していない人間、つまりダンジョンに潜ったことのない人間には一切の効果がない。

 あくまで体内の魔力に働きかけ、治癒能力を増幅することで体を治しているのだとか。

 実は回復魔法も同じ仕組みだとか。そういえば確かに、協会に加入する前は回復魔法を受けたことがなかった。

 そういう事だったのか。


 しかしそれを知らない人は何でも買い占め、転売したり、どうして効かないんだと怒鳴り込んだり、案外大変らしい。

 お前が買ったのは転売した奴をさらに薄めた奴だろうな、呆れたように笑うウニ。


 なんと。

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