第40話
プレートが便利な財布に進化した後、私は協会の図書室へ訪れていた。
Fランクの魔石は、勿論レベルによるとはいえ、使い捨ての電池代わりに使われることが多い。
軽く火を付ける程度ならスライムの魔石でも相当持つし、流石に風呂一杯の水を出すとなれば一発でなくなってしまうかもしれないが、使い終わった魔石はチリになり風に溶ける。
要するにゴミが出ない。
こんな理想的なエネルギー源人類が飛びつかないわけもなく、世界各地で開発が今も進んでいる。
だから高く売れるし、探索者は儲かる。
そんな素敵素材を今から私は敵へ叩きつけ、ましてやぶっ壊そうと目論んでいるのだから、自分でも正気とは思えない。
とはいえお金自体は容易に確保できるようになった今、そんな狂気の沙汰に身を投じるのもやぶさかではない。
ぺらぺらと魔石に関する本をめくっていけば、四冊目にしてようやく見つけた。
魔石の耐衝撃性と破損時の危険性について……要するに壊れたらどうなるかってことだ。
魔石の耐衝撃性と破損時の危険性について
現在生活に深く浸透している魔導力学ではあるが、その多くが魔石によって補われているのはご存じの通りだろう。
特にFランクの魔石は最も流通しており、手軽な……
……ここで普段魔石を研究している我々が注意すべき点を……
以下の表を見てもらえば分かる通り、魔石による衝撃波というのは、各石に保有される魔力に比例して……
……また魔石は属性による指向性を示すため、純化していない魔石を破壊した場合、空間に滞在する魔力を消費して各属性の原始的な魔法を発揮することが……
……見ていると頭痛がしてくる。
どうして論文だとかの類はこうも長々と書くのか、私にも一発でわかるように書いてほしい。
「あー……」
なんか要するに、ぶつかって砕けたら爆発するし、属性によって火が付いたり凍ったりするらしい。
まあそもそも魔石は、一般人が全力でアスファルトに叩きつけた程度では壊れないのだが、レベルの上がった私なら別だ。
あと発生する爆発の威力は魔石に溜まってる魔力量で決まるらしい。
これを読んだ私は……
「……やれば分かる!」
色々放り投げた。
下手したら手元で爆発して大変なことになるが、うまく使えば手ごろな爆弾として使えるわけだ。
しかもこれ、魔力量によって左右されるということはつまり、魔法ダメージとして期待できるのではないだろうか。
魔法が使えない、というより使ってもダメージの低い私にとって、これは存外の事実であった。
今すぐにでも試したい、爆発させたい。
けれど魔石は先程全部うっぱらってしまった、不覚だ。
今からダンジョンに向かって魔石を取りに行くのもありだが、流石に空も真っ暗だしなぁ……
今日は帰ることにしよう。
◇
というわけで今日訪れたのは『麗しの湿地』。
『落葉ダンジョン』と悩んだのだが、あちらは地下ダンジョンというのもあって、爆発の威力が高かった場合下手したらこちらまで被害を被る。
その点を考えるなら、広々とした沼地の方がいいだろう。
「ふんっ!」
ピンクナメクジの胴体をカリバーで殴り飛ばすと、以前は弾き飛ばされていたが、圧倒的レベル差もあって大きく吹っ飛び、そのまま消滅する。
ふふん、弱い弱い。
ナメクジごときが私に勝てると思うなよ。
酸なんて使う必要もないし、ストライクも不要。 格下のダンジョンで戦うことのなんと楽なことか。上のダンジョンへ挑むのをやめ、魔石回収だけで生きていく人の気持ちもわかる。
魔石を拾い上げ、10を超えたあたりで回収を終える。
今日の目的は魔石を集めることではなく、魔石を叩きつけること。
しばし奥へ進んでいくと巨大な蓮が乱立し始める、ヤゴやトンボが多くあらわれるエリアだ。
ここで魔石を一つ上に投げ
「『ストライク』!」
まずは軽く一発目、ストライクを受けぐんぐん距離を伸ばしながら、沼へと向かう。
ここからでも罅が入り、スキルが発動するときのようにそこから光がこぼれるのがわかる。
そして水の奥底へと沈んでいった……
何も起きないのか。
落胆。
想像だとド派手に爆発するのかと思ったが……と、その時。
ドンッ!
決して派手ではない、ともすれば聞き逃してしまいそうな破裂音。
緩慢に水が揺れ、暫く待っているとぷかーっと、何匹ものヤゴが浮かび上がってきた。
光になって消えないので、死んではいない。恐らく気絶しているだけであろうヤゴたちが、次から次へと水上に浮かび始める。
なんだっけこれ……パチンコ漁?
確かそんな名前だったはずだが、衝撃波によって水中のヤゴたちが一気に気絶したようだ。
水のせいもあってそこまで派手ではなかったが、ナメクジの魔石でこれなのだから結構使えそうだ。
やばい。
自分でいうのもあれだが、私は天才かもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます