第22話

 さて、穂谷さんには悪いが無言で家を出てきた。

 お金は今日のネットカフェ代を除いてすっからかんだが、なんなら今から先生をシバいたりしても稼げるし、そこまで焦る必要はない。


 リュックサックはものすごい便利だった。

 普段移動するときはカリバーを片手に握っていたが、今はリュックへ横にぶっ刺してベルトで押さえればしっかりと抑えられる。

 手もフリーになってすこぶる行動しやすい、こんなのを気軽にくれた穂谷さんには感謝している。

 あとはさっさと戻ってお昼寝でもしたいところだが……まあ、まだ試すことがある。


 向かう先は協会の裏、鍛錬場だ。



 時刻は午後三時を回った程度、想像以上に穂谷さんの家へ長居し過ぎた。

 相変わらず人のいない鍛錬場だが、恐らく夜になると多くの人が集まっては、ここでバーベキューでもやっているのだろう。

 あちこちに残る黒い燃えカス、もう名前鍛錬場じゃなくてバーベキュー会場にでも変えた方がいいと思う。


 しかし今日の私はナメクジ肉を焼くのではなく、ちゃんと鍛錬をしに来た。

 目的は一つは思いついたことの実験、そして『スキル累乗』を宣言なし、或いは短縮して発動することである。


 今日の戦いで分かったが、たとえ体が麻痺していてもスキルによって身体を無理やり動かすことは可能だ。

 そして『ストライク』が外れた時、それを認識しているにもかかわらず、動きを止めることが出来ないのも分かった。


 ふとそこで考えたのが、二つのスキルを繋げて使ったらどうなるのか、ということだ。


 今私が持っているアクティブスキルかつ。身体をつかうスキルは一つ、『ストライク』のみ。

 だがSPで習得できる基礎スキルは無数にあって、当然その中にはアクティブスキルもある。

 朝のナメクジ狩りで丁度40レベルに上がってSPも10余っているから、何か習得して試すには絶好の機会だろう。

 うまくいけばスキルの硬直時間とでもいうべき、攻撃後の余韻を打ち消すことが出来る。


 もしかしてこれって……私だけが気づいてるんじゃないか……!?


 正直自分で自分が恐ろしい。

 だってそうだろう、強力なスキルは大体詠唱だとか、溜めだとか、撃った後に身体が硬直したりする。

 でもスキルを繋げていけば、そのデメリットを一部なかったことにできてしまうのだ。

 特に私みたいな一人で戦っている探索者は一瞬の隙が命取りで、それを潰せるならそれほど大きなこともない。


―――――――――――――――


結城 フォリア 15歳

LV 41

HP 90 MP 195

物攻 87 魔攻 0

耐久 251 俊敏 246

知力 41 運 0

SP 10


スキル

スキル累乗 LV1

悪食 LV5

口下手 LV11

経験値上昇 LV3

鈍器 LV2

活人剣 LV1


称号

生と死の逆転


装備

カリバー(フォリア専用武器)


―――――――――――――――


 さてはて、私の攻撃力はだいぶ低く、あまりアタッカーには向いていないステータスだ。

 しかし今のところナメクジの様に打撃耐性がある敵を除いて、攻撃時特に困ることはない。

 『累乗ストライク』、小柄とはいえ私の体すら空高く打ち上げてしまう威力を発揮する、これさえあれば今後もそこまで急いでほかの攻撃スキルをとる必要もないか。


 攻撃スキルから攻撃スキルに繋げるのも興味はあるが、それはもう少しSPに余裕が出てから。

 となると今回とるべきは……


―――――――――――――――


ステップ LV1


 消費MP1

 任意の方向へ、強制的なステップ

 最大距離 10cm+俊敏値補正


 必要SP:10

―――――――――――――――


 これだろう。

 主に前衛職が習得するらしいが、ストライクの隙を攻撃された時でも、これを発動すればうまくよけられるはず。

 ふふ、完璧だ。


 早速習得したらリュックを端っこの方に置き、カリバーを持って鍛錬場の中心へ。

 

「ステータスオープン」


――――――――――――――




結城 フォリア 15歳

LV 41

HP 90/90 MP 181/195


――――――――――――――


 HPは十分、MPも多少使った分が回復している。

 これなら失敗して何か起こっても、即死はしないよね。


 カリバーを右下に構え、深く深呼吸


「『ストライク』!」


 いつも通りカリバーが輝き、素早い斜めの切り上げ。

 ちょうど目前にまで差し掛かったところで


「『ステップ』!」


 勝手に足へ力が籠められ、まだスキルの途中だというのに勝手に世界が歪む。

 そして気が付けば私は、わずか数十センチとはいえ前へと進んでいた。


 きた、成功だ!


 手に汗がたまり、『スキル累乗』と『経験値上昇』を組み合わせた時と同じくらいの興奮が沸き上がる。

 『ステップ』を発動した瞬間、カリバーを握った腕が重力に引かれ落ちた。

 これはつまり抗いがたいスキルの誘導が、ステップを発動したタイミングで消えたということ。

 上書きに近いのかもしれない。


「『ステップ』!『ストライク』!『ステップ』!」


 交互に使っていくことで、とんでもない速度で前進する私の身体。

 ストライク走法とでもいうべきそれは、MPが続く限り行える画期的な戦闘方法……の、はずだった。


 興奮のまま、猛烈な速度で鍛錬場を駆け回っていた私。

 しかし突然


「はうっ!?」


 腰へ雷が落ちたかのような、とんでもない激痛によってその場に崩れ落ちた。


 すわ敵襲か、ダンジョンが崩壊したのか。

 異常に痛む腰は一体どうなったのだ、私の下半身は切り落とされてしまったのか……!?

 足を見てみればどうやら着いている、一応動くがあまり感覚がない。


 周囲を首だけ動かして見回しても敵などおらず、何か騒ぎが起こっている様子もない。


「す、すてーてす……」 


―――――――――――――――


結城 フォリア 15歳

LV 41

HP 47/90 MP 61/195


―――――――――――――――


 やばい、なんかHPめっちゃ減ってる。

 MPはストライクとステップのせいだろうが、HPが減る要素なんて今までなかったはず……


 上手くいっていて完璧な作戦であったが、突然異常なダメージを受けてしまえばどうしようもない。

 これ以上の実験は原因がわからないと危険だ、協会に戻って回復魔法を受けてから、ネットカフェで考え直さないと……死ぬ。


 歩くほどに鋭い痛みが腰を襲い、そのたびに奇妙な声が口からこぼれる。

 せっかくもらったリュックを引きずりながら、這うようにして私は訓練場を後にした。

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