第23話

 うう、痛い……

 先生に出会った当初腹パンされた時も痛かったが、今回はそれに匹敵するかもしれない。


 カリバーを支えにして中腰になり、よたよたと歩いていく。


「かい……ふく……!」

「大丈夫か君!? ちょっと回復魔法使える奴来てくれ! 協会の術師でもいいから!」


 麻婆の体で協会の入り口へたどり着くと、丁度探索を終えたのだろう、壮齢の探索者によって抱き上げられ協会へ運び込まれた。

 優しくしてほしい……振動が響いてすっごい痛い。


 数人に囲まれて床に安置、暫くすれば奥からお抱えの術師が現れ私に回復魔法をかけた。

 中には園崎弟、ウニもいて大丈夫かだとか、いったい何にやられたんだとか言っている。

 ウニの様子からして鬼気迫るものなので、騒ぎがどんどん大きくなっていき、私を切りつけた奴がいるのかなどと話がどんどん大きくなっていく。


 ヤバい、どうしよう。


 逃げよう。

 明日しれっと戻ればなんとかなるはず。

 何もありませんでした、うん。


「ど、どいて!」

「おい結城待てって! 速っ!?」


 ストライク走法で一気にその場を脱出。

 繰り返すとまた腰が大変なことになる気がしたので、人だかりを抜けた後はそのまま走って逃げた。


 その場で探索者の一人が私の動きを見て


「あー。ありゃ自殺ダッシュやってるわ」

「じゃあさっき苦しんでたのは……」

「その反動だろうなぁ……」


 そんな会話をしていたとは知らずに。



 検索で疲れた目を休めるように瞑り、嘆息。

 あまりに衝撃的な内容に、襲ってきた悲しみや羞恥を流し込むように紙コップの水を飲み干す。


「自殺ダッシュ……」



 吐き出すようにこぼれた言葉、それが今見たページに書かれていたタイトルだ。

 手書きであれこれ検索したところ、どうやら私のやったスキルの重ね掛けはそんな呼び方で、ある程度知れ渡っていた。


 探索者の身体は強い。

 流石に今の私だとわからないが、レベルが数百、数千になれば、たとえトラックに引かれようとも平然としていられるほどの耐久力になる。

 数十万のレベルならば地雷を踏もうが、なんちゃら爆弾といわれるようなものを食らってもかすり傷すらつくまい。

 だが、基本的な構造は人間なのだ。


 目が乾けば痛いし、食事をずっと取らなければ死ぬ。

 めったなことではならないが、関節を逆に曲げれば折れる。

 『怪我をしにくくなる』がしないわけではないというのが、今回の自殺ダッシュの問題点だった。


 『ストライク』に限らず攻撃スキルは角度こそある程度自由に変えられるとはいえ、綺麗な一直線を描くようにスキルが導く。

 それは効率的なダメージを与えられると同時に、攻撃後の余韻自体が衝撃を和らげる役目もあるから。

 しかし私はそのスキルの導きを、『ステップ』によって無理やり遮った。


 例えばめちゃくちゃ重たいものがあったとして、それを振り下ろしたとしよう。

 そのまま重力に任せて落とすのは簡単だ。

 だがその途中で腕を止めて、無理やり上に持ち上げたならどうなるか。

 関節を痛めたり、下手したら折れることだってあり得る。

 私がしたのはそういうことだった。


 ストライクによって踏み込み、腰のひねりも加わった理想的な攻撃。

 振り切ることで余計な衝撃を逃がすはずが、強制的に動きを書き換えてステップをしてしまった結果、余計な衝撃は逃げることなくそのまま私の腰を直撃、さらにそれを繰り返したことによって無事、そこそこ高い耐久力を誇る私の腰は破壊されたということ。


 あなたが思いついたそれは、『誰もやらなかった』のではなく、『やって駄目だった』ものです。

 高レベル、スキルが強力であるほど、より大きな衝撃が体にかかるので気を付けましょう。


 と、悲しい一言。


 強いて言うのなら『累乗ストライク』のあとに『ステップ』をしなくて良かったと、自分を慰める。

 下手したら一発で腰の骨が砕けていたかもしれない。


 しかし自殺ダッシュ、もといストライク走法は確かに危険ではあるが、実際相当便利な動きではある。

 実際上位の探索者はこれを応用して戦っているらしいので、一切使えないというわけではない。

 要は使いようだ。さっきの私みたいに駆けずり回るのではなく、必要な時に最低限使うことが大切なのだ。


 将来的にポーションを多用できるほどお金を手に入れたら、たとえストライク走法で身体を痛めてもその場で回復できる。

 回復出来ればデメリットなどないのと変わらない、無限に高速で移動できる裏技だ。

 だからこの発見は無駄ではなかった、未来で役に立つ予定がある。今そう決めた。


 ……希望の実でも食べて寝よ。

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