第10話
「ふんふん、それで探索者を……」
「うん」
私のモンブランを台無しにした女は、私にケーキを奢るからと店を逆戻り、更に夜風の吹くテラス席で紅茶と共にモンブランとショートケーキをごちそうになった。
名前を
茶髪を適当に結んだり、よく見ると靴下があべこべなあたり、多分結構身だしなみは適当な人だ。
「貴女の名前は?」
「結城フォリア」
「あらー、私の尊敬してる先生と同じ苗字ねぇ」
ダンジョン探索の第一人者で、旅に出ると言って十年近く姿を消しているらしい。
尊敬される結城さんもいるのか、失踪した私の父とは大違いだ。
でも十年近く帰ってこないって、多分その凄い結城さんも多分死んでると思う。
まあ剣崎さんのことはどうでもいい、そんな事より目の前のケーキだ。
モンブランは濃厚な栗の風味がするうにょうにょとした奴の下に、コクはあるがくどくない生クリーム、更にど真ん中には茶色い栗がドンと入っている。
全体的に柔らかいのだが、土台になっているクッキーのようなものがサクサクとしていて、ちゃんとアクセントになっていた。
おいしい、すごくおいしい。
甘い、さくさく、とろとろ、ほくほく、いいにおい。
「あらー、たかがモンブランで凄い幸せそうな顔」
「初めて食べた、おいしい」
「……お母さんとか、買ってきてくれなかったの?」
「……」
「あらー……お代わりとか欲しいなら好きに言ってね。お金なら余ってるから」
「うん」
剣崎さんはいい人だった。
ケーキをたくさん奢ってくれたし、持ち帰りで二つ、フルーツタルトとアップルパイも持たせてくれた。
「私はここの近くにある大学で研究室開いてるから、なんかあったら来るといいよ」
「え、それって……」
近くにある大学、既視感が私を襲う。
そう、私の足を切り見捨てた三人、アイツらも近くの大学生だと言っていた。
ここらに大学は一箇所しかないので、同じ大学であることは間違いない。
思い出すだけでも腹が立つ。
あれのお陰で『スキル累乗』や『経験値上昇』を手に入れたとはいえ、死んだことに変わりはない。
それにアイツら、絶対私以外にも肉壁扱いして、今なお殺しているはずだ。
会った時にはみんなレベル1であった以上、私が初めての犠牲者ではあるだろうが、人の性質はそう簡単に変わらない。
寧ろ味を占めてより積極的に、無知な相手を使い捨てている可能性が高い。
「ふむ……」
だが剣崎さんの反応は、あまりいいものではなかった。
「少なくとも私の講義や研究室に、そういった三人はいなかったはずだが。男二、女一で山田、飯山、大西でしょ?」
「だ、だってあいつら大学生だって……!」
「もし、最初から君を使い捨てにする考え、或いはそれに近い考えを持っていたのなら、態々本当のことを伝える必要もないんじゃないかな?」
「そう……か……」
確かにその通りだ。
両親の病気で生活費がきついから頑張るだなんて言っていた大西、ダチの為なら何でもするだなんて言っていた二人も、きっと全部嘘だったのだろう。
許さないだなんて言いながらも、少しだけ信じていた自分の間抜けさに苛立つ。
やっぱり人は信じれない。
「ま、まあもしかしたらうちの大学生ってのは本当かもしれないし、一応事務に聞いて調べておくわ。一週間くらいしたら来なさい、報告してあげる」
「うん……」
きっと向かったところで、新たな情報を得ることは無いだろう。
それでも会ったばかりの私の言葉を信じて、あれこれと動いてくれる彼女には感謝している。
最後に頭を下げて、剣崎さんとの会遇は終わった。
◇
「ふぅ……」
ネットカフェに戻り、小さな鍵を回したところで漸く緊張が緩む。
大学に在籍していた、していないはともかくとして、結局私の目的は変わらない。
上に登れば人脈とかでいくらでもあいつらを探すことが出来るし、そしたら見つけ出してぼこぼこのぼこにしてやるんだ。
そうと決まれば次潜るダンジョンを決めなくてはいけない。
手書き入力をカチカチとやりつつ調べた所、どうやらこの近くにはもう一つGランクのダンジョン『麗しの湿地』があるようだ。
花咲は超初心者でも潜ることが出来たが、そのダンジョンはGランクでもトップクラス、推奨レベル15~50らしいので気を抜いてはいけない。
推奨レベルとは読んで時の如く、おおよそその程度のレベルがあればまともに戦っていける基準で
G 1~50
F 50~500
E 500~1000
D 1000~10000
C 1万~10万
B 10万~50万
A 50万~100万
人類未踏破ライン 100万~
となっている。
上に行くほど幅が大きくなってしまうのは、レベルが上がるほど多少のレベル差は無視できるようなるからだ。
人類未踏破ラインのダンジョンは幾つか確認されているが、当時のトップランカーたちが潜った『天蓋』では150万レベルがうじゃうじゃいたらしいのでちょっとヤバい。
これを見れば分かるが麗しの湿地は間違いなくG最高峰、生温い覚悟で挑んでは私が飲み込まれる。
ふと、横に立てかけられていたカリバーが目に入った。
随分と傷だらけで、小さなへこみも目立ってきた相棒。
普通のバットとして使うのならこんな短期間でボロボロにはならないだろうに、私に買われたのが運の尽き、こんな無残な姿になってしまった。
……買い替えの時だろうか。
鈍器スキルを十二分に使うのなら、モンスターを殴るために作られていないバットよりも、しっかりしたメイスやハンマーを買うべきだ。
それにしても名前を付けたのは失敗だった、あまりに愛着がわいてしまっている。
掌の皮がべろべろになるまで振るって、私の成長を共に分かち合った、唯一と言っていい仲間。
今後SPが溜まれば『アイテムボックス』等の便利なスキルも取れるようになり、今みたいに手で持たなくとも問題が無くなる。
仮に武器を変えることとなっても、それまでカリバーは捨てずにとっておこう。
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