第2話

「これください」

「まいどありー」


 ちゃららっちゃらー

 フォリアは 金属バットを 手に入れた!

 お金を7000円失った!


 昔施設に来た卒業生の、木戸さんにやらせてもらったゲームの音声が、脳内に鳴り響く。

 ナイフや包丁はもっと安く手に入るが、切れ味の手入れや接近して戦うとなれば危険が危ない。

 そこで適当に振っても威力がそこそこあって、手入れも不要、その上振る事に特化した小学生用金属バットを手に入れた。


 本当はこの一万で安いホテルでも借りて、バイト面接した方が良かったのだろう。

 でも筋肉の笑みを思い出すと、彼を裏切るようなことはしたくなかった。


 大人用の奴も考えたのだが、値段が跳ね上がるのと重かったので諦めた。

 まあこれで護身は十分だろう。

 さあ、早速ダンジョンにれっつごーだ。


「えいえいおー」


 掛け声を上げたら、横のサラリーマンに凄い見られた。

 ちょっとぞくぞくした。



 今日私が向かうのは、最低難易度であるGクラスの花咲ダンジョンだ。

 スライムとかネズミがたくさんいるらしい。


「君、本当にひとりでダンジョンに入るつもり?」

「え? うん」


 ダンジョンへの侵入許可を待っていると、後ろにいた三人組が話しかけてきた。

 男二人、女一人のパーティで、近くの大学生らしい。

 一人で並んでいる私を心配して、俺達のチームに入らないかと誘ってくれた。


 気遣ってくれるなんて、多分いい人たちだ。

 体力をつけるためとはいえ、確かに一人で潜るのには不安があった。渡りに船という奴で断る理由もなく、それを受け入れる。

 男二人は茶髪と金髪、女は金髪だったのでもしかしたら、私と同じハーフなのかしれない。



「それじゃあ、入ろうか!」

『おー!』


 リーダーだという金髪の山田、その声に合わせ皆で掛け声を上げる。


 遂にギルドの登録証を見せ、迷宮探索の許可が下りた。

 これからは他のダンジョンであっても、自己責任で侵入することが出来る。


 踏み入れたダンジョンは、どこかじめっとした草原だった。

 その瞬間、無機質で電子的な音声が脳内に鳴り響く。


「……! ステータスオープン」


―――――――――――

結城 フォリア 15歳

LV 1

HP 2 MP 5

物攻 7 魔攻 0

耐久 11 俊敏 15

知力 1 運 0

SP 10


スキル

悪食 LV5

口下手 LV11

―――――――――――


 凄い、本当にステータスが出てくるんだ……!

 自分自身不思議に思う程、この超常現象に素直に感動していた。

 耐久が高いのは良く母親に殴られたからで、速度が高いのは多分こっそりご飯を食べていたからだろう。


 三人の大学生もワイワイと、スキルがどうだとか、ステータスが高いだとかで互いに騒ぎ合っていた。

 遂に手に入れた能力、そして初期値として渡されているスキルポイント。

 ここまでは話に聞いていたままだし、定石通り鑑定を皆でとって、私たちの冒険は始まった。



 ……と、これがここ一週間での出来事だ。

 皆で朝に集まって、一時間ばかしダンジョンに潜る。

 互いの身の上話なんてこともして、両親を頼る箏の出来ない現状も話したら、大西……金髪の女は泣いてくれた。


 食事は迷宮内に落ちている、希望の実という種で過ごしている。

 渋くて苦くて酸っぱくて、更にドブのような匂いがする。いや、もはや食べるドブと言っても過言ではない。

 でも栄養が大変豊富で、ダンジョン内で食料が尽きた時は、これを見つければ生き延びれると言われている、大変凄い実なのだ。


 まあ本当に不味いので、私以外は誰も食べていないだろうが。


「なあ、そろそろFランクのダンジョンに潜ってみないか?」


 お金は山分けと、互いに不満もおそらく少なく、平穏なダンジョンライフを過ごせていた。

 男その2、もとい飯山がそう切り出すまでは。


「え……でも危ない……」

「大丈夫だって、俺達ならいけるよ!」

「確かに……ここでちんたらやっているより、上のダンジョンでレベル上げした方が効率いいよな」

「そうね! スライムとネズミばっかで飽きてたところだわ!」


 流石に危ないだろうと止めたのだが、三対一では分が悪く、Fランクである落葉ダンジョンへと行くことに決まった。

 他の三人と比べ基礎的な力のない私は、この時点でレベル3。他の三人は10を超えていたので気が大きくなっていたのだろう。

.

.

.


「ハァ……ハァ……! こんなにヤバいところだなんて聞いてねえぞ……!?」

「ま、まって……私はっ、レベル低いから……!」


 後ろから爆音を上げ、巨大な斧を片手に走ってくるオーク。

 俊敏こそある程度はあるが、体力も低くレベルも劣っている私では、三人を追いかけるのがやっと。

 少しでも足を縺れさせれば、このまま捕まって死んでしまうだろう。


 やはりというべきか、Gランクの踏破すらしていない私達ではステータスが足りず、落葉ダンジョンでまともに攻撃が通ることは無かった。

 無謀だったのだ、何もかもが。


 皆の顔が恐怖に引き攣り、どうにか逃げようとジグザクに走り回る。

 しかし匂いで追いかけているのか全く撒ける気配もなく、このまま死ぬのか……そんな雰囲気が漂い始めた。


 その時、大西が山田に何かを耳打ちした。

 飯山にもそれを伝え、にやりと笑う三人。何か逆転の一手を思いついたのかもしれない。


「ね、ねえ! なんか思いついた?」

「ええ、最高の案がね……!」


 ひょいと大西がナイフを抜き取り……一閃。

 私の太ももを浅く切りつけた。


「え……!?」


 驚愕、そして激痛。

 そのまま地面を無様に転がり、痛みに呻く。

 一体何で……!?


「ごめんねぇフォリアちゃん。貴女スキルも習得しないし、基礎ステータスもよわっちいから要らないのよ。元々肉壁として確保したわけだし、なんか表情変わらないのも不気味なのよねぇ。まあ追放ってことで、あとはよろしく!」


 あとから分かった事だが、本来パーティを組む場合経験値がパーティメンバーにも流れるらしい。

 その分経験値の取り分が減るとかはなく、みな平等にレベルアップすると。


 そう、私のレベルは3で三人のレベルは10超え。

 つまり元からパーティメンバーとして組んでいたわけではなく、有事の際の肉壁として確保されていたにすぎない。

 いや、もしかしたら最初は打算ありきの好意だったのかもしれないが、天涯孤独な身の上などを知って、使い捨ててもバレないことに気付いたのかもしれない。


 どちらにせよ私は、ゴミ屑の様に捨てられたわけだ。


 手を伸ばし助けを求めるも、アイツらはニコニコ笑顔で走り去ってしまった。

 奥からはドスドスと強烈な足音を立て、私をぶち殺そうと嬉々として駆け寄ってくるオーク。


 死ぬ、のか。


 本当は探索者なんてやらず、幸せに暮らしたかった。

 普通の家族と笑ったり喧嘩したりして、友達とスイーツ店巡りをしたかった。


 それが現実は、十五になってそうそう、こんな場所で何も出来ずに死ぬ。


 はあ……本当に最悪だ。

 拾い集めていた希望の実を一気に咀嚼し、最後の晩餐を終える。

 希望の実は食べると一日分の食事が不要になるほど、栄養とカロリーがある。

 その代わり吐きそうなほどまずいが。


 希望のみを食べ尽くせば、目の前にいるのは絶望。


『グオオオオオオオッ!』


 高々と掲げられた石斧。

 ああ、最後にショートケーキ食べたかった……


『希望の実の特殊効果による、レベル10以下の復活判定が行われます』

『失敗』

『失敗』

『失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗……成功』


『称号 生と死の逆転 を獲得しました』

『ユニークスキル スキル累乗 LV1 を獲得しました』

『スキル 経験値上昇 LV1 を獲得しました』


 脳裏に響く不思議な音を聞いて、私は気絶した。

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