『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
BUILD
第1話
突然隣の山田がナイフを振るい、私の足を浅く切りつけた。
無様に転び、泣きそうになる。
「え……!?」
「それじゃ、あとはよろしく!」
手を伸ばし助けを求めるも、アイツらはニコニコ笑顔で走り去ってしまった。
奥からはドスドスと強烈な足音を立て、私をぶち殺そうと嬉々として駆け寄ってくるオーク。
死ぬ、のか。
本当は探索者なんてやらず、幸せに暮らしたかった。
普通の家族と笑ったり喧嘩したりして、友達とスイーツ店巡りをしたかった。
それが現実は、十五になってそうそう、こんな場所で何も出来ずに死ぬ。
はあ……本当に最悪だ。
拾い集めていた希望の実を一気に口へ放り込み、最後の晩餐を終える。
サクサクと青臭く、苦く、渋く、酸っぱい。
食べるドブが人生最後とは、我ながら悲しいものだ。
希望の実は食べると一日分の食事が不要になるほど、栄養とカロリーがある。
その代わり吐きそうなほどまずいが。
希望の実を食べ尽くせば、目の前にいるのは絶望のみ。
『グオオオオオオオッ!』
高々と掲げられた石斧。
ああ、最後にショートケーキ食べたかった……
◇
「あ……お金ない……」
財布を天高く掲げ、硬貨が一枚たりとも転がり落ちてこないことを確認する。
なんてことだ。施設から貰った大切なお金だったのに、人生で2度目となる憧れだったショートケーキやら、スイーツやらに全部使い切ってしまった。
だって夢だったんだ、お腹いっぱい甘いものを食べるの。
夢なら仕方ない、誰も見ていない中一人頷く。
人々があくせくと行き来する中、公園のベンチでこの先どうするか頭を抱える。
私は結城フォリア、現在住所不定の15歳だ。
色々あって母親から保護され児童養護施設にいたのだが、15という年齢になり多少の金と共に追い出され今に至る。
名前から分かる通りハーフで、見た目だけは整った外国人に見えるらしい。
だから何だって話なのだが、そんなことよりお金をくれ。
本当は働き場所も決まっていたのだが、なんだか工場長がねちっこく私を見てくるのが気持ち悪くて、直ぐに辞めてしまった。
ごめん、誘ってくれた人。
さて、この先どうするかという話だが、いくつか選択肢がある。
バイトを掛け持ち生き延びるか、命を懸けて探索者になりダンジョンへ潜るか、段ボールでも集めて路上生活でもするかだ。
いやはや、野草を食べて生き延びたことはあったが火も使わず生は厳しいし、そもそもそれだけではじり貧のまま、ゆっくりと死へ向かうことはあっても前に進むことはできないだろう。
バイトもそこまで体力が持つとは思えない。
だが、その体力不足を解決するのが、ダンジョンへ潜ることだ。
詳しいことは知らないが、三十年ほど前に異世界と繋がった? らしく、世界各地にぽこじゃかとダンジョンが生まれた。
その中で戦えば魔力が染み渡り、どんどん身体が強くなる……らしい。
「ダンジョンで鍛えて、体力を付けてからバイトをする……完璧」
ダンジョンでとれるアイテムや素材は高価で取引されるらしいが、私がそこまで強くなれるとも思えないし、最低限の体力をつけれればいいのだ。
ダンジョン内には食べられるものが生えているらしいし、それを食べれば食費もかからない。
なんて天才的なんだ、自分の考えに拍手を送りたい。
スニーカーの紐をキュッと結び、気分一新その場から走り去った。
◇
「えーっと、新規登録……ですか?」
「うん、お金一円もないから」
「……お母さんとか呼んできてくれるかな? 小学生一人だと登録できないのよ」
ようやくたどり着いた探索者協会、受付の女性が眉を顰める。
カウンター……だと頭しか出ないので、椅子に立って交渉をするが、困った顔で拒絶されてしまう。
なんてことだ、完全に小学生だと思われている。
お母さんは今どこに居るかもわかりません。
困った……
するとカウンターの裏から、筋肉モリモリのゴリラっぽいハゲが現れた。
凄い筋肉だ、ぴくぴくしてて気持ち悪い。
「おう、どうした園崎」
「あ、マスター。その、この子が探索者になると言って聞かなくて……」
「探索者にならないと死ぬ。本当に無一文」
「ふむ……《鑑定》 なんだ、もう十五じゃねえか、登録できるぞ」
「嘘ぉ!? 《鑑定》……あ、本当だ……申し訳ありません、今から登録しますね!」
なんと筋肉ゴリラのおかげで窮地を免れることが出来た。
ありがとう筋肉ハゲゴリラ……ハゲゴリラは失礼かな、筋肉にしよう。
それにしても鑑定、か。
きっとスキルという奴なのだろう。あまりになじみがなさ過ぎて失念していたが、確認方法があるなら最初からそうして欲しかった。
スキルという奴は始めてダンジョンに入ると、ステータスと共に必ず付与されるらしい。
その中でも鑑定は基本的かつ必須なスキルで、真っ先に皆が取ると知り合いの万丈が言っていた。
私もダンジョンで食べ物を漁るのなら取るべきだろう、お腹壊すと困るし。
名前、年齢、住所は無しと伝え暫く待てば、一枚のプレートが手渡された。
伝えたことだけが書かれている,簡素な金属の板。だがこれが探索者の証。
登録は無料だ。レベルの高い探索者というのは一般人と比べ、絶大な力を振るうことが出来、それを生み出すために各国が躍起になっているから。
なんだか体力をつけるために来ただけなのに、こうやって持ってみれば不思議な実感がわいてくる。
取り敢えずバイトを掛け持ちできるくらい体力つけて、お腹いっぱい甘いものを食べるために頑張ろう。
「お嬢ちゃん」
カードをリュックに仕舞うと、突然筋肉が話しかけてきた。
「なに?」
「事情は知らんが探索者は過酷だ。それだけの価値があり、国も目を逸らしているとはいえ、最初の一年で三割が死ぬ……これで包丁でもなんでもいい、身を守れる武器を買ってこい」
「え……? いいの?」
筋肉が手渡してきたのは、一枚のお札。
ケーキがニ十個位買える、凄い大金だ。
私が二度見するとニカっと白い歯を見せ、陽気に笑う筋肉。
やっぱりこの筋肉はすごい良い奴だ。
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