あの日見れなかったものを今


学園祭1日目は色々大変だったが、2日目は昨日みんなが俺に手を出したことから、夢野への謝罪も込めて、俺達二人に丸一日自由行動の権利をくれた。

それはいいんだが‥‥‥夢野は俺が浮気しないように、俺に首輪とリードを繋ぎ、さらに手を繋いで学園祭を回り始めた。


「浮気は誤解だって」

「でもポチの体は反応してたもん」

「あんないきなり舐められたらしょうがないだろ⁉︎」

「浮気にしょうがないとかないから」

「はい」


こうやって冤罪が生まれるんだ‼︎許せん‼︎


「冤罪だとか思ってる?」

「いえ、思ってません」

「よかった!的当てしにいこ!」 

「的当て?」 

「一年生のクラスでやってるんだって!景品がギター!」

「ギター⁉︎」

「なんか、担任の先生が要らなくなったギターを景品にしたらしいよ?」

「ゲットしても弾けないだろ。かさばるし」

「いいじゃん!面白そうだし!」

「とりあえずやってみるか」

「うん!」


一年生の教室に行き、少し並んで夢野の番になった。


「全部のペットボトルを倒せばいいんだよね?」

「はい!10本のペットボトルを10球で倒してください!」

「分かった!」


一球外したらギターは貰えないのか。説明だけだと簡単そうに見えるけど、裏に誰かいるのか、ペットボトルがずっと動いている‥‥‥


「一球目いきまーす!えーい!」


夢野はゴムボールを軽く投げ、大きく的を外した。


「えー!頑張ったのにー!」

「夢野、もうそこそこ本性知れ渡ってるから、可愛こぶらなくていいんだぞ」

「え⁉︎そうだったの⁉︎」

「結構前からな」 

「くそー!」


それから夢野は連続でボールを投げたが、一本しか倒れず、参加賞の10円ガムを貰って俺の番がきた。


「ポチ!本気でね!」

「おう」


夢野に言われた通り本気で挑み、残り一球、残り一本のところまできたが、急にペットボトルの動きが早くなった。


「ちょっと!不正だよ!ズルい!」

「こ、こういうルールなので‥‥‥」

「夢野、最後の一本倒したぞ」

「えー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


夢野がよそ見している間に、最後の一本を倒した。


「おめでとうございます!景品のアコースティックギターです!」

「あ、要らないよ」

「ポチ⁉︎」

「え、欲しいの⁉︎弾かないだろ!」

「ポチが悪いことしたら、全校集会でギター使って一発芸させたいのに!」

「あ、本当に要らないわ。残念賞ちょうだい」

「は、はい」


残念賞を受け取り、強引に夢野を連れて教室を出た。


「ねぇ!なんで⁉︎」

「欲しい理由が鬼畜だからだよ‼︎」

「バカ‼︎」

「はいはい、よしよーし」


なだめるために頭を撫でてやると、威嚇する犬の様な顔をしているが、顔は赤くなっていて、実は喜んでいるのがバレバレで可愛い。


「なぁ夢野」

「なに?」

「夏祭り大変だったからさ、今日はその代わりに楽しもうぜ」

「う、うん」

「実は夢野にサプライズで、生徒会に頼んで、あるものを作ってもらったんだ」

「サプライズ⁉︎」

「行こう!」

「うん!」


夢野と手を繋いで図書室の前までやってくると、廊下には図書室にあった本棚が全て出されてあり、図書室の扉には関係者以外立ち入り禁止の紙が貼られていて、夢野は不思議そうに首を傾げた。


「入っていいの?」

「今日は俺達専用だから」

「そうなの⁉︎なにがあるんだろう!」

「開けてみ」


夢野が図書室の扉を開けると、窓には黒いカーテンがつけられて、図書室内は真っ暗だった。


「入れ」

「うん」


二人で中に入って扉を閉めると、夏祭りでよく耳にする様な音楽が流れ始め、図書室内がライトアップされた。


「‥‥‥これ、私のために?」

「おう!楽しもう!」


図書室の中は夏祭りと同じく、いろんな出店が立ち並び、床もコンクリートに見えるシートが貼られて、生徒会のみんなが店員さんをしてくれている。

そして夢野は首輪を外してくれ、嬉しそうに腕を組んできた。


「いらっしゃーい!くじ引きあるよー!」

「琴葉先輩!」

「くじ引きやってく?」

「やる!幾ら?」

「今日だけ無料でーす!」

「ポチ!一緒に引こ!無料だって!」

「あ!その前に、夢野さんちょっと来て!」

「え?う、うん!」


夢野は図書室の先生だけが入れる部屋に連れて行かれ、しばらくして夢野は、髪を可愛くまとめて、白い生地に、ピンクと青紫の花柄の浴衣を着て戻ってきた。


「ポチー!」

「めっちゃ可愛いじゃん!」

「本当⁉︎」

「本当本当!」

「さぁ!くじ引き引いていいよ!」

「よし、俺はこれ!」

「私はこれ!」

「91番!」

「27番!」

「二人とも大当たりー!はい!景品でーす!」


琴葉は俺達にお菓子の詰め合わせと、夏祭りの一日無料券を渡してくれた。


「やったー!」


くじ引きの大当たりがお菓子の詰め合わせとか、普通誰もやらないけど、夢野が喜んでくれてよかった。


「おーい!こっちはスーパーボール掬いだよー!」

「ほら夢野!夢野が好きなやつ!」

「やる!」


店員が冬華先輩だったが、冬華先輩も事情を知ってくれているのか、嫌な顔せずに楽しそうにしてくれている。


「無料券はお持ちですか?」

「はい!」

「OKです!どうぞ」

「わー!ポイが5枚も貰えた!」

「俺も5枚だから、一個ぐらいデカいの取れるかもな!」

「よし!頑張るぞー!」


夢野は浴衣の袖を濡らしながら、無邪気にスーパーボールを掬っている。その姿が可愛く、見ていると幸せな気持ちに満たされていき、全然スーパーボール掬いに集中できない。


「取れたー!見て見て!」

「おっ!デカいの取ったじゃん!凄いな!」

「えへへー♡」


その後も射的や輪投げをして遊んだり、焼きたてではないが、焼きとうもろこしを食べたりして、夏祭り気分を味わった。


「ポチ!」

「ん?」

「楽しいね!」

「おう!」


あの日の地獄のような時間が消えてくような気がした。夢野の笑顔にはそんな不思議な力がある。


その時、電気が全て消えて、図書室が真っ暗になった。


「あれ?終わり?」

「あの日、一緒に見れなかった花火を夢野と見たい」

「‥‥‥」


そして、プラネタリウムの様な機械で壁や天井に花火が映し出され、同時に花火の音も鳴り、喜んでるか気になって夢野を見ると、夢野は静かに涙を流していた。


「ゆ、夢野?」

「私もポチと見たかった。あの日の心残りで‥‥‥夢を叶えてくれてありがとう」


夢野は俺にキスをし、ニコッと幸せそうな笑顔を見せてくれた。


「大丈夫なのか?」

「うん。大好きだよ、ポチ」

「お、俺も」

「ちゃんと聞きたい」

「‥‥‥夢野が大好きだ」


それから花火が終わるまで手を繋いで静かに花火を眺め、夢の様な時間は終わってしまった。


「終わっちゃったね」

「だな」

「あ!浴衣返さなきゃ!」 

「そ、それなんだけどさ」

「なに?」

「きっと夢野に似合うだろうなって、退院祝いも含めて俺からのプレゼントなんだ」

「これ⁉︎」 

「気に入らなかったら捨ててくれ」

「すごい嬉しいよ!来年も着る!毎年着る!」 

「よかった!」


夢野と来年も再来年も、10年先も一緒に花火が見たい。そう強く想い、強く願った。


夢野は俺に抱きつきながら、俺の顔を見上げてニッコリと笑った。


「ずっと大好き!」

「ずっとそう思ってもらえるように頑張るよ」


夢野の幸せが俺の幸せ。こんな風に思える相手と出会えたことが嬉しい。


その後も、浴衣姿の夢野と手を繋いで学園祭を楽しんだが、夢野は男子生徒の注目の的になり、俺はなんだか複雑な気持ちだ。


「学園祭は楽しかったかー!」

「イェーイ!」

「終わりたくないかー!」

「イェーイ!」

「でも終わります」

「ブーブー!」


終わるんかい!なにか最後にあるのかと思ったわ!


「さてさて、最初に言っていた、食堂無料券!」


学園祭の最後、琴葉はステージに上がり、一番お客さんを呼んだクラスの発表を始めた。


「一番お客さんを呼んだクラスは〜!1年3組のお化け屋敷でーす!」

「やったー‼︎」


探偵の流れてワンチャンあるかなって思ったけど、そんな上手くいかないか。


「流川くん!」

「おー、お疲れ白波瀬」

「天沢先生が教室で呼んでるわよ」

「分かった。夢野」

「ん?」

「ちょっと行ってくるからな」

「うん!」


天沢先生に会いにS組に行くと、天沢先生は段ボールが貼られていた窓ガラスから段ボールを外し、外を眺めながら缶コーヒーを飲んでいた。


「来ましたけど」

「流川」

「はい」


天沢先生は振り返らずに話を始めた。


「わがままで、迷惑かけてばっかりでごめんな」

「いきなりなんですか?」

「私、もしかしたら他の学校に飛ばされるかもしれないんだ」

「え‥‥‥」

「‥‥‥助けてくれ‥‥‥」


グシャっと震える手で缶を潰し、微かに震えるその声は、いつもの強気な天沢先生ではなかった‥‥‥

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