どっちがいい?
俺は堂々たる歩き方で三年生のメイド喫茶に向かい、メイド喫茶に近づくにつれて緊張で猫背になっていった。
そしてお客さんとして潜入に成功した。
「おかえりなさいませご主人様♡」
「は、はい!」
ギリギリのミニスカート‼︎胸元がハート型にくり抜かれたメイド服‼︎こんなの高校生が着ていいんですか⁉︎ありがとうございます‼︎
「こちらへどうぞ♡」
「はい‼︎」
胸元の名札を見たいのに谷間に目がいってしまう‼︎ダメだ‼︎俺には夢野がいるんだ‼︎
「こちらメニューになります♡」
「え、えっと、とりあえずカフェラテで」
「かしこまりました♡」
冬華先輩はどの人だ?琴葉に写真ぐらい見せてもらうべきだったか。
数分後、泡のようなもので作られたクマがモコっと乗っかった、可愛いカフェラテが運ばれてきた。
「お待たせいたしました♡」
「ありがとうございます」
「もっと美味しくなるように、一緒に魔法をかけましょう!」
「は、はい」
その時、入り口から顔を半分だけだし、恐ろしい形相で俺を見つめる夢野のお母さんと目が合ってしまった。
「ま、魔法とかいいです!いいいいただきます!」
「かしこまりました♡」
手が震えて飲めない‼︎手の震えで全部こぼれていく‼︎
「ご主人様!大丈夫ですか?」
「あ、はい‥‥‥」
ん‥‥‥?‥‥‥冬華先輩だ〜‼︎‼︎‼︎乳デカ‼︎
「あ、あの」
「どうしました?」
夢野のお母さんには後で事情を説明するとして、今は周りに聞こえないように、声のボリュームを下げて話すことにした。
「よく平然とやってられますね」
「なにが?」
「調理室にあったメイド服、ボロボロにしたの冬華先輩ですよね」
「え?なんで私?」
「違うんですか?」
「違うけど」
そんなはずない!かまをかけるか。
「もう、証拠は揃ってますよ」
「は?やってないって言ってるじゃん。なんなの?」
「監視カメラに、先輩がやったところが映ってます」
「無理矢理私を犯人にする気ならすれば?」
「えっ」
「その代わり、復讐は必ずする」
なに⁉︎怖い!てか、本当に犯人じゃないの⁉︎もう謝ろう!
「ご、ごめんなさい。人違いでした」
「そっ。カフェラテ代180円払って、さっさと出て」
「は、はい」
恐ろしいメイドだ‼︎やっぱり従順な白波瀬は優秀だったんだな!
180円を払って教室を出ると、夢野のお母さんは居なくなっていた。不気味だ‥‥‥にしても犯人は誰なんだ‥‥‥
周りを見渡すと、指名手配の紙を持った人が沢山居て、犯人探しは想像以上に盛り上がっているようだ。
「るっくん!」
「あ、琴葉」
「冬華ちゃんどうだった?」
「それが、犯人じゃないみたいなんだよ」
「そりゃそうだよ!冬華ちゃん、ああ見えて真面目だし!お金持ちだよ?無料券とか絶対要らないと思うよ?」
「先に言って⁉︎」
「それよりほら、指名手配の紙」
「ああ、そういえば詳しく見てなかったな。黒髪ボブ‥‥‥いやこれ、天沢先生じゃないじゃん」
「なんでだろうね。真犯人の特徴だったりして!」
「は⁉︎だとしても黒髪ボブとか、わりといるぞ」
「紙ごとに書いてる文字が違ったりするみたいだよ?」
「んー。この事件、どうなってんだ」
「なんだろうねー」
俺が困っているのに、何故か琴葉はニコニコしている。
「なんか楽しそうだな」
「そんなことないよ!あとね、紙は暗いところで、よーく見たほうが良いよ!じゃあね!」
「お、おう」
よく見た方がいいって言われてもなー。暗いところでって、逆に見えないだろ‥‥‥とりあえず調理室に行こう。
調理室に着くと、看板が【探偵カフェ】に変わっていて、一杯80円のコーヒーを飲みながら、大勢の人が考え込んでいた。
「おっ、リーダーが来たぞ!」
「リーダー⁉︎」
「あの放送を流したのは君だろ?」
「は、はい」
なんかめちゃくちゃ囲まれてる〜!
「君の推理を聞かせてくれたまえ」
「いやー‥‥‥」
「ふっ。期待外れだな」
「は⁉︎なんなんだよ!」
「ほら、低脳はすぐ吠える」
「ゆ、夢野!こいつになんか言ってやれ!」
「ポチは犬だけど吠えたりしないよ‼︎」
「そこじゃねーだろー‼︎‼︎‼︎‼︎あ、あれだ!みんなの持ってる紙貸してくれ!」
「これかい?」
「そうだ!」
みんなから紙を集めて見てみても、特徴は黒髪ボブとしか書いていなく、琴葉が言っていたことと違った。
「同じ紙を見てどうしたんだい?」
「とにかくこの紙は預かる」
「まぁ、沢山あるから構わないけど」
暗いところって言ったら体育館か。劇とかやってるから基本暗いはずだし行ってみるか。
沢山の紙を持って体育館へやってくると、バンドの演奏中で体育館は盛り上がっていたが、俺は紙に集中した。
んー、むしろ暗くて、文字が見えづらくなっただけだ。
その時、体育館の後ろにある二階のスペースからブラックライトが紙に当たり、一瞬文字が浮かび上がったような気がして、急いで二階に走り、ブラックライトを操作する人に声をかけた。
「そのライト貸してください!」
「いや!無理無理!今ライブ中だから!」
「んじゃ借ります!」
「話聞いてた⁉︎」
紙にブラックライトを当てると、緑の文字で【う】と浮かび上がり、他の紙も照らしていくと【ゅ】【ぶ】【や】【き】の文字が浮かんできたが、全ての文字が何枚かあったり、まったく意味が分からない。
「ブラックライトありがとう!」
「もう邪魔するなよ!」
「はーい!」
急いで調理室に戻ると、夢野達とクッキング部が猪熊だけを残していなくなっていて、探偵くん達が推理を続けていた。
「熊」
「ん?」
「みんなは?」
「休憩だってよ」
「そうか。みんな聞いてくれ!これの謎を解いてほしい!」
「どれだ」
「この紙、ブラックライトに照らすと文字が浮かび上がってくるんだ」
「なんだと!よし!見てみよう!」
一人の生徒がポケットからペン型のブラックライトを取り出した。
「何で持ってんの⁉︎」
「探偵の基本だろ」
「そ、そうなんだ」
「ふむふむ。うゅぶやき‥‥‥並び替えると‥‥‥野球部か!野球部の中に犯人がいる‼︎」
探偵くん達は調理室を飛び出していった。
「熊はどう思う?」
「その紙を作ったのは生徒会だろ?」
「そこなんだよ。何でわざわざこんな小細工するんだ?それに俺は、偽の犯人を天沢先生に指定したのに、野球部となんの関係もない。ボブでもないし」
「それよりさ、切られたメイド服って見たか?」
「見てない。一番乗りで調理室に来たけど、メイド服は普通にあったし、その後怪しい人も来てないんだ」
「いつメイド服が無くなったんだ?」
「玲奈っぴと愛莉と白波瀬がカバンを置きに来て、気づいたらなくなってた」
「なんか‥‥‥三人怪しくね⁉︎あと玲奈っぴってなんだ」
「でもあの三人がそんなことするか⁉︎」
「しないだろうな」
さらっと質問スルーしやがって‼︎
「なんかハブられたー」
杏中はしょんぼりして、一人で戻ってきた。
「え、ハブられた?」
「うん『杏中さんは来ないでくれるかしら』って愛莉ちゃんが」
「あいつ女には優しいはずだけど⁉︎」
「まさか‥‥‥」
「き、嫌われてるわけないだろ?」
「冬に無駄毛処理サボったのがバレたから女扱いされてないのかも!」
「なにそれ!なんか知りたくなかった!ちょっとショック!」
「愛莉ちゃんだって絶対サボってたよ‼︎」
「愛莉は全身ツルツルだよ‼︎」
「え?なんで知ってるの?」
「ん、んで、みんなはどこ行ったんだ?」
「二階。ねぇ、なんで知ってるの?」
「し、白波瀬が言ってた‼︎」
「下もツルツルって?」
「もういいだろ!この話終わり!」
その時、愛莉から電話がかかってきた。
「はいはい?」
「今何してるかしら」
「杏中と熊と一緒に調理室にいる」
「そう。今からは三人で犯人探しをしてちょうだい」
「そんなことより愛莉!なんで杏中をっ‥‥‥切られた‼︎」
「これからは冬も剃るようにしたら仲良くしてくれるかな‥‥‥」
「多分それが理由じゃないと思うんだけど」
「んじゃなに⁉︎愛莉ちゃんみたいに下もツルツルじゃないから⁉︎」
「杏中さ‼︎身体の事情言いすぎだから‼︎熊が興奮しちゃうだろ!」
「俺?二次元でしか興奮しないんだが」
「さ、最低‼︎」
「だな。行こうぜ杏中」
「ま、待ってくれよ〜!」
結局三人で犯人探しを始め、さっきまで調理室に居た探偵くん達は野球部に聞き込みをしていた。
「俺達は野球部の部室でも行ってみるか?」
「鍵かかってるんじゃない?」
「とりあえず行ってみようぜ」
「だね!」
外に出て、野球部の部室にやってくると、部室の前に野球ボールが一つ落ちていて、猪熊がそのボールを拾った。
「あ‼︎」
「どうしたー?てかやっぱ鍵かかってるわ」
「野球ボールに文字が‼︎」
「んー?【タケシ】とか、持ち主が名前書いてるんじゃねーの?」
「美術室‼︎」
「美術室?」
「ボールに書いてんだよ!」
「行ってみよ!」
「よし、行くか」
校内に戻り、二階にある美術室の扉を開けると、S組のみんなと玲奈がメイド服を着て俺達を待っていた。
「お疲れ様です♡ご主人様♡」
「はーいー⁉︎」
次の瞬間、美術部のみんなが立ち上がり、全員で隠していたクラッカーを鳴らした。
「杏中さん!お誕生日おめでとーう!」
「わたし〜⁉︎」
そして玲奈と愛莉がキャンパスボードのようなものから赤い布を外すと、杏中と玲奈と猪熊が楽しそうに料理をしているイラストが現れた。
「アンアンにプレゼント!」
「いいの⁉︎」
「ま、待て待て!これどういうことだ⁉︎メイド服着てるし!」
「アンアンの誕生日だからサプライズ!でも、普通のサプライズじゃつまらないから、琴葉先輩とかいろんな人に協力してもらったの!」
まんまと玲奈達に騙されたー‼︎みんな演技上手すぎ‼︎
「流川くん」
「なんだよ」
「ここまでのドッキリを考えた張本人、犯人を捕まえて全部終わりよ。身近にいる黒髪ボブといえば?」
「‥‥‥琴葉⁉︎」
「放送室に居るわ。私達は調理室で待ってるわね」
「分かった!」
一人で放送室に走り、ドアに背を向けて椅子に座る琴葉のつむじに強めのデコピンをしてやった。
「痛い!」
「逮捕」
すると琴葉は頭を押さえながらマイクのスイッチを入れた。
「メイド服切り裂き事件!犯人逮捕です!皆さんお疲れ様でしたー!」
「めんどくさいこと考えやがって」
「楽しかったでしょ?」
「楽しくなかったわ‼︎」
「さぁさぁ!みんな待ってるだろうから行きな!犯人を捕まえた人は全部無料なんでしょ?」
「あ、そっか。食べ放題じゃん」
「楽しんでね!」
「おう!」
結局誰も傷付かずに問題は解決して、軽くなった心で調理室に戻ると、調理室の扉に【閉店】の紙が貼られていて、中では夢野が椅子に縛りつけられ、口にガムテープを貼られてていた。
「なにやってんだよ‼︎」
「おかえりなさいませ♡ご主人様♡」
「は⁉︎」
ノリノリの白波瀬と、恥ずかしそうな愛莉に両手を掴まれて椅子に座らせられた。
「頑張ったご褒美です♡」
「なー‼︎‼︎‼︎」
白波瀬に谷間を顔に押し付けられ、愛莉は俺の手を太ももに挟んだ。
「んー‼︎‼︎」
「夢野さん、静かにしてくれる?」
「んーん‼︎‼︎」
「る、流川くん、これはご褒美だから、したくてしてるわけじゃないのよ。勘違いなんてしないことね」
愛莉〜‼︎実はノリノリなんだろ⁉︎
「塁飛くん!今日だけだからね!」
秋月に首筋をペローンと舐められ、全身がビクッとしてしまった。
「ご主人様の体が喜んでるわ!」
「やめろー‼︎‼︎‼︎」
杏中と猪熊と玲奈は⁉︎なんで見てるだけなんだよ‼︎助けろよ‼︎
その時、勢いよく扉が開き、カチン、カチンと鉄がぶつかる音がして、俺は一瞬で全てを察して背筋が凍った。
「ポチくーん。分かってるよねー?」
「ち、違うんです‼︎誤解なんです‼︎」
夢野のお母さんは大きなペンチを持ち、不気味な笑みを浮かべて近づいてくる。
「君達、夢桜の彼氏に手を出したことを許してほしいなら、そのままポチくんを逃さないでね?」
「はい‼︎」
「お前らー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎し、白波瀬!奴隷失格だぞ!」
「罰は受けます!受けたいです!」
「おいこら‼︎」
みんなに体を抑えられ、椅子から立ち上がることができなくなってしまった。
「ゆ、許して‥‥‥」
ペンチを大事なところに当てられ、夢野のお母さんはカウントダウンを始めた。
「さーん、にー」
「熊が悪いんです‼︎あのアフロ‼︎」
「お、俺か⁉︎」
「詳しく」
「熊がこの状況を作り出したんです!みんなを脅して!」
「ポチくんを離してあげて」
助かった‥‥‥
「アフロくーん。右と左、どっちがいいかなー?」
「ま、真ん中‥‥‥がふっ‼︎」
夢野のお母さんは猪熊のいちもつをペンチで挟みながら全力で引っ張り始めた。
「痛いですー!もげちゃいます‼︎ひー‼︎」
「あら?真ん中を希望したのはアフロくんよ?」
「ちーす!」
「先生助けて!」
天沢先生が調理室にやってきて、猪熊は天沢先生に助けを求めた。
「な、なにやってるんですか⁉︎」
「あら先生!夢桜を傷つけた生徒にお仕置きしてるんです」
「やめてあげてください!」
「そうですね。そろそろいいでしょう」
猪熊は椅子に座ってプルプル震え、杏中に本気で心配されている。
「先生」
「はい」
「ポチくんが浮気しないように日頃から見張っててくださいね?」
「は、はい」
「まさかー、先生はポチくんに気があったりしませんよねー?」
天沢先生⁉︎なんで俺を見るの⁉︎すぐ否定しろ‼︎
「そ、それは‥‥‥」
「右と左、どっちがいいですか?」
「はい?」
「どっちがいいですか?」
「右ですかね」
「分かりました!」
「いってー‼︎‼︎‼︎」
「きゃ!」
天沢先生はペンチで胸の中心を引っ張られ、勢いで夢野のお母さんを背負い投げしてしまった。
「あ!す、すみません!」
「わ、私なにを⁉︎」
「え?」
「なんでこんなところに?ゆ、夢桜!なんで縛られてるのよ!」
怒ると我を見失うタイプ‥‥‥怖い‥‥‥
夢野はお母さんにロープを解いてもらい、無言で俺の膝に跨ってきた。
「夢野?」
「1から100、好きな数字選んで♡」
この位置は!ついにキスできる日がきたのか⁉︎100って言ったら100回キスとか⁉︎機嫌良いみたいだし間違いない!にしても、メイド服の夢野かわいい〜‼︎
「んじゃ100!」
「了解♡」
・・・・・・
100回ビンタされた。
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