花火の音と鼓動
夏祭り当日、昼に起きると玲奈の姿がなく、廊下の掃除をしていた白波瀬に声をかけた。
「玲奈どこ行った?」
「友達と遊んでから、そのまま夏祭りに行くそうよ」
「へー。男じゃないよな」
「男も居るみたいよ?」
「は⁉︎ちょっと玲奈に電話する!」
「過保護になりすぎよ。お兄ちゃんは女の子とギリギリアウトなこと沢山してるじゃない」
「アウトの自覚あったのかよ‼︎」
「最初からあったわよ?それと、玲奈ちゃんはクッキング部の二人と行くみたいだから安心して大丈夫じゃないかしら」
「なんだ、男って熊かよ。なら安心だな」
「私は愛莉と見てるから」
「なにを?」
「流川くんを」
「なにそれ怖い。でも秋月は?祭りに来ないのか?」
「琴葉先輩と行くそうよ?」
「珍しい組み合わせだな」
「いつの間にか仲良くなったみたいね。それにしても楽しみだわ!」
「祭り?」
「夏祭りなんて初めて行くもの!」
「そうなのか!テンション上がって金魚とか掬ってくるなよ?」
「え、してみたかったわ‥‥‥」
「ダメだ。水槽とか買わなきゃいけなくなるぞ?」
「ちゃんと我慢するわよ」
「よし!」
少し掃除を手伝い、夢野と約束した集合時間17時まで、玲奈の漫画を借りてのんびり過ごすことにした。
そして16時30分。
「行ってきまーす」
「私達も行くわ」
あぁそうだった。俺を見てるんだったな。
あまり気にしないで家を出ると、白波瀬と愛莉は俺から少し距離をとって付いて来ている。でも白波瀬の性格上、祭りに着いたらいろんなものに興味津々で、すぐ何処か行きそうな気もする。
それから待ち合わせ時間ピッタリに祭り会場の近くにある神社に着き、夢野を待っている間、白波瀬と愛莉は大きな岩の後ろから俺を監視し始めた。
なにもしてこないし、もう無視しよう‥‥‥
待ち合わせ時間から30分経っても夢野は待ち合わせ場所の神社に現れず、すぐそばに居る白波瀬から『夢野さん来ないなら、私と行きましょう!』とメッセージが届いたが、返事をせずに携帯をしまった。すると次は愛莉から同じメッセージが届き、また無視すると、携帯の通知音が止まらなくなり『無視しないで』と二人から合わせて80件近くもメッセージが届いていた。
「怖いって!」
二人に声をかけると、スッと素早く岩陰に隠れ、不思議に思っていると、俺を呼ぶ夢野の声が聞こえてきた。
「おーい!」
鳥居の前で手を振る夢野に小走りで駆け寄ると、夢野は浴衣ではなく、何故か学校のジャージを着ている。
「ごめんね!ちょっと遅れちゃった!」
「いいけど、浴衣は⁉︎」
「え、えっとー、まぁいいじゃん!ネックレスは付けてるんだし!」
「楽しみにしてたのにー」
「きっとまた着る機会あるからさ!」
「分かった。あっ、俺も今日はネックレスつけてきたぞ」
「すぐ気づいた!嬉しい!」
夢野の笑顔が可愛すぎる‼︎きっと夏のせい‼︎
「お祭り行こ!」
「おう!」
さっそく祭り会場にやってくると、暗くなる前なのに、すでに大勢の人で賑わっている。
「なにか食べたいものとかあるか?」
「かき氷!」
「買いに行くか!」
「うん!シロップはイチゴ味だよね!」
「ブルーハワイだろ!」
「いちごミルク好きなのに⁉︎」
「いちごミルク好きだけど、別にいちご好きじゃないし」
「それどういうこと⁉︎」
「いちごってたまに酸っぱいのが」
「あっ!あれやろ!」
「最後まで聞いて⁉︎あとかき氷は⁉︎」
「射的が先!」
振り回されるのには慣れてるからいいや。
射的の店の前に来て、どんな景品があるか見ていると、夢野は何も気にしないで500円を払い、コルクを10個受け取った。
「やるぞー!」
「欲しいものあるのか?」
「リスのぬいぐるみ!」
ぬいぐるみか‥‥‥まぁ、ゲーム機は取れないだろうし、キャラメルとかのお菓子系は要らないしな。手のひらサイズのぬいぐるみが一番いいか。
「一人5発ね!」
「俺もやっていいのか?」
「うん!」
夢野は銃を構えてリスのぬいぐるみに狙いを定めて撃ったが、まったく命中せずに5発撃ち切ってしまった。
「惜し〜‼︎」
「全然惜しくなかったし」
「惜しかったよ!そんなん言うなら絶対取ってね!」
「絶対は無理!」
「取れなかったら、かき氷奢りね!」
「いいよ」
「よし」
俺はこう見えて、この手のゲームはかなり上手い!輪投げとかも得意だし、なにかを狙う系なら余裕!
「ちょっと!もうちょっと右じゃない?」
「ちょっとうるさい」
「は⁉︎」
「ここだ‼︎」
「おめでとうございまーす!」
リスのぬいぐるみを1発で取り、夢野は開いた口が塞がらなくなっている。
「どうだ!あと4発も残ってるぞ!」
「かっこいい!」
「あ、ありがとう」
思わず照れてしまい、ふと歩いてきた方を見ると、白波瀬が楽しそうにどこかを指差しながら、愛莉を引っ張って行った。
なにを見つけたんだろか。まぁ、二人も楽しめたらいいな。
「次はなに狙う?」
「あと欲しいのなーい」
「んじゃキャラメルで」
そして、1発も外さずにキャラメルを4個ゲットすると、夢野はまた開いた口が塞がらなくなってしまった。
「一個もらっていいか?玲奈にあげたい」
「い、いいよ!てか塁飛くんって天才⁉︎」
「今更気づいたのかよ!俺は常々自分のことを天才って言ってきたぞ!」
「それはちょっとどうかと思うけど。でも塁飛くんだからオッケー!」
それから二人でかき氷と唐揚げを食べ、くじ引きを引きに向かった。
「なぁ夢野‥‥‥」
「なに?」
「このくじ引き屋、なんかおかしくね?」
「そう?」
「景品が手錠とかエアガンとかビリビリペン的なものばっかりだし、店員さんモヒカンだし、首にトゲトゲの首輪みたいなのしてるぞ。他のくじ引き屋探そうぜ」
「よし!引こう!」
「話聞いてる⁉︎」
夢野は300円を払い、一回だけクジを引いた。
「シックスナイン!」
「なに言ってんの⁉︎」
「英語で言っただけだけど」
「あ、うん。そうだね」
「69番か!ハズレはそこから選びな」
「ハズレか〜」
「ちょっと待って店員さん!」
「なんだよ」
「ハズレってエアガン⁉︎こいつに持たせるとなにするか分からないから他のハズレないですか⁉︎」
「んじゃこれでどうだ」
店員さんが裏から出したのはメリケンサックだ。
「あ、エアガンでいいです」
「そうか」
「私の拷問コレクションが増えた!」
「夢野?帰っていい?」
「冗談って言ってるじゃん‼︎」
「言ってないじゃん‼︎」
「あはは!お前の彼女、クレイジーだな!」
彼女かどうかの一番デリケートな時に、モヒカン店員の放った言葉で俺は動揺し、夢野は顔を赤くしながらも、どこか嬉しそうだ。
「い、行こうぜ」
「うん」
しばらくブラブラと歩いているうちに暗くなってきて、祭り会場もいい雰囲気になってきた。そんな時、チョコバナナを買っている琴葉と秋月を見つけた。
「あ!るっくん!」
二人は駆け寄ってきて、秋月は夢野を見てニコッと笑みを見せ、夢野もニコニコして嬉しそうだ。
「楽しんでるか?」
「うん!」
「そうだ、玲奈見なかったか?」
「さっき居たよね!」
「居た!」
「二人に迷惑とかかけてなかったか?」
「楽しそうにしてたよ!あと、天沢先生がいたよ」
「え」
「見回りなんだって。すごいダルそうだった」
「あー、めんどくさそうだから会いたくないわ」
「でも、後ろにいるよ?」
「はっ⁉︎」
「流川〜」
天沢先生は俺の肩に手を回し、拳でグリグリと頭を痛めつけてきた。
「誰と会いたくないってー?んー?」
「冗談ですよ!痛い痛い!」
「今日はこれで勘弁してやるかー。あ、チョコ溶けそうになってるぞ」
「早く食べなきゃ!」
琴葉は普通に食べ始めたが、秋月は俺を見ながらチョコバナナの先端をペロペロと舐めている。
「普通に食えよ!」
「いきなり咥えろなんて焦りすぎ♡」
「言ってねーから〜⁉︎」
「秋華ちゃん!塁飛くんにちょっかいかけないで!」
「分かったよ〜。まったく夢桜は嫉妬深いんだから〜♡」
「ち、違うし!」
「なぁ流川」
「なんですか?」
「先生が咥えてあげようか?♡」
「はい⁉︎」
「チョンコバナナをな!」
二つの名前が混じり、意図的ではなかったのか、天沢先生は少し頬を赤くして一歩下がった。
「頭にヤバいもの浮かんだ状態で言うからそうなるんですよ。ドン引きです。消えてください」
「う、うるさい!とにかく問題起こすなよ?」
「はーい」
天沢先生はトコトコと足早に去っていった。
「それじゃ、私達も邪魔しないように行くね!」
「あ、二人とも」
「ん?」
「ありがとうな」
「‥‥‥うん!」
「楽しんでね、るっくん!」
「おう!」
二人と別れ、俺達は水ヨーヨーを取りに向かった。
「水ヨーヨーってさ、遊んでると割れそうで怖いよね」
「確かにな。数百円で大量に入ってる風船に、水入れただけのやつを200円払って取ろうとしてるのも怖い」
「やめてよ!雰囲気ぶち壊し!」
「しかも取れなかったら、とんでもなく損!」
「やめてってば!」
「はいはい!今回は俺が払うよ」
「いいの⁉︎」
「もちろんだ!」
「ありがとう!」
可愛らしく笑う夢野を見ると、いくらでもお金を使いたくなってしまう。そんなに持ってないけどね!
水ヨーヨーの店に着き、夢野の分と自分の分のお金を支払い、一緒に遊ぶことにした。
ティッシュでできた紐に小さなフックが付いていて、フックを水ヨーヨーに付いたゴムに引っ掛けるやり方か。
「なに色狙い?」
「俺は水色」
「んじゃ、私も水色にしよ!」
「んじゃピンクにするわ」
「ねぇ!なんで変えるの⁉︎お揃いがそんなに嫌⁉︎」
「違うって!夢野‥‥‥ピンク好きかなって」
「‥‥‥」
夢野は照れたのが表情に出ているが、顔を逸らして水ヨーヨーに集中してしまった。
「と、取れるかな」
「水に流れがあるから意外と難しいな」
「そうだね」
なんだろ、なんか気まずい!夢野との距離感が分からん!さっきの、ピンクが好きかなみたいな、もしかしてあれキモかった⁉︎もう頭がおかしくなりそうだ!これが恋ってやつですか⁉︎
「あ!取れたよ!」
「おっ!やるな!」
「塁飛くんも頑張って!」
「あ、俺は余裕。ほら」
「うわ!さっき難しいとか言ってたじゃん!なのにそんなあっさり取る⁉︎」
「すごいだろ!」
「うん!すごいよ!」
「あ、ありがとう。次なにする?」
「スーパーボール掬いしたい!私ね、スーパーボールって丸くてカラフルだから好き!」
「子供か!」
「いいじゃん!バブゥー!」
「それは赤ちゃんだろ!」
はい!可愛い〜‼︎‼︎‼︎
「いいから行こ!」
「おう」
水ヨーヨーの店の近くにやってくると、玲奈達が一つのスーパーボールを追いかけて走っていくのが見えた。
「なにやってんだか」
「楽しそうでいいじゃん!」
「いや、完全に三人とも慌ててただろ」
「それも大切な思い出になるんだからいいの!」
「だな!俺達もやるか!」
「やる!」
夢野はスーパーボール掬いのポイを受け取り、ポイが破けないように慎重に一番大きなスーパーボールを取ろうとした。
「もうちょっと、もうちょっと、あー!破けちゃった!」
「もっと小さいの狙わないと」
「ん〜」
悔しそうな夢野を見て、俺は自分の財布を開いてお金を出した。
「おばちゃん、もう一回」
「はいよー」
「取ってやるから見とけ」
「難しいよ?」
「大丈夫大丈夫!任せろ!」
不安そうな夢野をよそに、俺は次々と小さいスーパーボールを救っていき、テンションが上がった夢野は、さっき狙っていた大きなスーパーボールを指差した。
「あれも取って!」
「あれは取れるか分からないぞ?」
「やってみてよ!」
「取れなくても怒るなよ?」
「ちょっとだけ怒るかも!」
「おい」
無理だろうなと思いながらも挑戦すると、やっぱり無理だった。
「あー!」
「しょうがないって!」
「ん〜!」
「み、見ろ!袋がパンパンだ!」
「塁飛くん、溜めすぎは良くないよ」
「そっちの袋じゃねーよ!とりあえず、はい。全部やるよ」
「全部⁉︎」
「持って帰ってもしょうがないしな」
「やったやったー!全部大切にする!」
「一つも無くすなよ〜」
「うん!全部宝物だもん!」
「そうか!そういえば、もう少ししたら花火大会だな」
「待ち合わせした神社から見えるよ!あそこ誰も来ないから私の秘密スポットなの!」
「マジか!行こうぜ!」
「うん!」
祭り会場を離れて最初の神社にやって来ると、本当に誰もいなく、電気も薄明るいオレンジ色で、花火を見るのに邪魔にならなそうだった。
「一応お賽銭しておくか」
「そうだね!」
賽銭箱に5円を入れ『お邪魔させてもらいます』と心の中で伝えた。
それから賽銭箱の前の階段に座り、花火が上がるのを待っていると、ずっと携帯のバイブ音のような音が聞こえてきて、気になって聞いてみることにした。
「電話きてるんじゃないのか?」
「あ、いや、電源切っておくね」
「出なくていいのか?」
「大丈夫!気にしないで!」
「お、おう」
夢野が携帯の電源を切り、数分の沈黙が続くと、夢野はなにも言わずに俺の左手を握り、足をもじもじ動かし出した。
「の、喉乾かないか?なんか買って来るわ!」
「う、うん!」
やっちまったー‼︎‼︎‼︎今のって俺から告白し直して付き合う流れだったよな‼恥ずかしくて︎逃げてきちゃったよー‼︎‼︎‼︎とりあえず自販機でジュース買って戻ろう。いや、会場の入り口にラムネ売ってたし、ラムネにするか。
そしてラムネを二本買い、どうするべきか神社に向かいながら考えていると、ドーン!と花火の音がして空を見上げた。
「やっべ!急がないと!」
できるだけラムネを降らないように走って神社に戻って来ると、地面にはカラフルなスーパーボールが大量に散らばっていた。
「なにやってんだよー。拾うのたいへっ‥‥‥」
賽銭箱の前に座っていたはずの夢野は、階段を降りて少し歩いたぐらいの場所に、うつ伏せで倒れていた‥‥‥動揺と心臓の鼓動が早くなり、一気に花火の音が小さくなるのを感じる‥‥‥
「夢野?‥‥‥夢野‼︎」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます