白いの全部ごっくん♡


愛莉に告白された翌日の夜、玲奈が寝た後に三人で愛莉の部屋に集まった。


「とりあえず初めに、夏祭りのことから」


俺の口から発せられた夏祭りというワードで、愛莉と白波瀬は不安と希望が混ざったような表情で俺を見つめた。


「夢野と行こうと思う」

「そう‥‥‥」

「でも、もし時間があれば、みんなとも遊びたい!これは気遣いじゃなくて本心だ」

「流川くんは夢野さんが好きなの?」


白波瀬の質問に一瞬言葉を詰まらせたが、今日はちゃんとしなきゃ。


「みんなが好きだ。でも、支えたいと思ったのは夢野だった」


二人は納得できない様子だ。やっぱりゲームとは違う。


「私は受け入れられないわ」

「私も」


あのゲーム、マジでなんの意味あったのー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎どうすんのこの状況‼︎


「で、でも、夏祭り中どこかで会うだろ?それからみんなで遊べばいいだろ」

「夏祭りは分かったわ。だけど、私は流川くんを諦めたくないわ」


白波瀬は俺と夢野が付き合うことを絶対に認めたくないみたいだな。


「付き合うかどうかは分からないって!とりあえず夏祭りは夢野とって話で」

「結局夢野さんと付き合う気しかないなら、曖昧にしないでほしいわ」

「‥‥‥ごめん」


結局、他にしたかった話をする空気じゃなくなり、その日は自分の部屋に戻って、電話で秋月にも同じ話をした。


「そっか。夢桜を選んだんだね」

「おう」

「ありがとう」

「そう言ってもらえて良かった」

「でも、私は塁飛くんに謝らなきゃいけなくなるかもしれない」

「どうしてだ?」

「その時にならないと言えない。謝りたくないからとかじゃなく、本当にその日が来なければいいなと思ってるけど」

「よく分からないけど、秋月に謝られることなんかなにもないぞ?」

「今はまだね。それじゃ、夏祭りで会ったら声かけてね!」

「お、おう!」


謝らなきゃいけない?なんのことだ?


それから琴葉にも電話をかけて、夢野と行くと話をすると、予想に反して琴葉は意外とあっさりしていた。


「だと思った!」

「怒らないのか?」

「私決めたからさ!側に居れないわけじゃないし、るっくんが幸せになるように、全力でるっくんをサポートする!それがるっくんの幸せでしょ?」

「琴葉‥‥‥」

「ただ、夢野さんがるっくんを傷つけたら容赦しないよ」

「分かった。ありがとうな」

「うん!夢野さんで満足できなくなったら、私の体使っていいからね♡」

「アホか!」

「新品だよ?」

「なおさら遊びでやっちゃダメだろ!」

「私の気持ちは本気だからいいの♡」

「変な男に遊ばれないようにな」

「私はるっくんだけだから、これから先も」

「そ、そうか」

「それじゃ、生徒会の仕事あるからさ!」

「夏休み中もあるのか?しかも家で」

「あるよ〜、本当疲れる〜」

「がんば〜」

「もっとちゃんと応援してよ!」

「頑張れ〜」

「本当昔から適当なんだから」

「適当が一番楽だからな」

「るっくんらしいからいいけど!それじゃ切るね!」

「おう」


電話を切ると、夢野から不在着信がきていて、かけ直そうとした時に電話がかかってきた。


「もしもし」

「忙しかった?」

「いや、大丈夫」

「今日も電話しよー!」

「話す内容尽きて、小説の読み聞かせになりつつある電話しようか」

「ねぇ!わざわざ言わなくていいじゃん!」

「悪い悪い。それより夢野」

「ん?」

「夏祭り楽しもうな」

「‥‥‥え!やったー‼︎」

「バカ。そんなデカい声出したら怒られるぞ」

「怒られてもいいもーん!」

「ダメだろ!」

「そうだ!浴衣買わなきゃ!‥‥‥あー!言っちゃったらサプライズにならないじゃん!」

「よ、夜なのに元気だな」

「聞かなかったことにして!」


夢野の浴衣姿を想像してみた。可愛すぎる‥‥‥


「浴衣楽しみにしてるからな!」

「ふん!浴衣なんて着ないし!」

「えぇ〜‥‥‥」


とか言って着て来るんだろうな!勝手に期待しとこ!


そして今日も夢野と寝るまで電話をし、白波瀬と愛莉はこの日から俺に話しかけてこなくなり、玲奈と話す時もあまり元気がない。

そして7月31日、今日は玲奈の誕生日で、久しぶりに白波瀬が俺の部屋に入ってきた。


「流川くん」

「な、なんだ?」

「これからケーキ買いに行くのだけれど、ショートケーキでいいかしら」

「いいと思うぞ?」

「分かったわ」

「なぁ白波瀬」

「なに?」

「今日だけは元気だしてくれよ」

「私も愛莉もそのつもりよ」


そう言って微笑む白波瀬の表情は、切なさしか感じない。

一応プレゼントは、夏休み前に白波瀬と愛莉の二人と一緒に選んだ、そこそこいい値段のするヘアアイロンを買ってあり、誕生日パーティーの準備に問題はない。ただ、玲奈が白波瀬と愛莉のテンションを心配していないかが不安だ。


それから玲奈には漫画を読ませて、部屋からなるべく出ないようにし、夜になる頃には誕生日パーティーの準備も整い、愛莉が玲奈を呼びに行ってくれた。


「白波瀬、二人が来たらクラッカーな」

「うん」

「笑顔で頼む」


俺の決断は間違っていたのかと思うほどに、白波瀬は元気がない。


「来るぞ」


リビングの扉が開いた瞬間、俺と白波瀬はクラッカーを鳴らし、声を揃えた。


「誕生日おめでとう!」

「‥‥‥三人が仲直りしないとパーティーなんてしたくない‼︎」


玲奈の口から出た言葉に驚く間も無く、玲奈は続けた。


「ずっと雰囲気暗い‼︎お兄ちゃんに振られたからって、話もしないで落ち込んでばっかりじゃ意味ないじゃん‼︎どうにもならないじゃん‼︎」

「‥‥‥そ、そうよね。私が間違っていたわ。玲奈ちゃんに気を遣わせてしまってごめんなさい」

「確かに流川くんはまだ、夢野さんと付き合っていないのよね」

「う、うん」

「なら、まだ奪える」

「え」


白波瀬と愛莉は突然服を脱ぎ始め、俺は玲奈に両目を塞がれた。


「なに⁉︎」

「き、今日は特別!二人とも今日はお兄ちゃんになにしても許される日!」

「何言ってんの⁉︎」


二人に腕を掴まれ、てのひらにプニッとした感触を感じた。


「お兄ちゃん‼︎揉むのは禁止‼︎」

「それは俺の座右の銘に反する‼︎」

「私を好きになってください♡」

「さすが双子だな‼︎そんな胸キュンセリフ、普通ハモる⁉︎この普通じゃない状況で‼︎」

「わーい!三人が元気になった!」

「相棒も元気になりそうなんですけど‼︎」

「は?お兄ちゃんなに言ってるの?」

「なんでもない」

「凛先輩、あれ取って!」

「これ?」

「それ!」


ガタガタと物を動かす音が聞こえ、なんとなく嫌な予感がする。


「目開けたらダメだからね」

「お、おう」


手からも幸せな感触が消え、なにかコソコソ話してる声が聞こえる。

次の瞬間、背後から誰かに両腕を掴まれ、身動きが取れなくなってしまった。


「凛!今よ!」


ブォーン!と掃除機の音がして思わず目を開けると、白波瀬はちゃんと服を着ていたが、手に掃除機を持ち、吸い込み口を俺の大事な急所に向けていた。


「お前ら!なに考えてんだ!」 

「私を選ばないからこうなるんですよ♡奴隷がご主人様に反撃しないとでも?」

「待って!愛莉!離してくれ!」

「凛!躊躇しないで私の分までやって!」

「やれやれー!」

「や、やめ‥‥‥ぬあぁ〜‼︎‼︎‼︎」

「ご主人様♡攻められるのが癖になっても、私がちゃんと相手しますからね♡」

「わ、私だって」

「助けて!誰か助けて〜‼︎‼︎‼︎」


それから5分間吸い続けられ、全身から力が抜けてしまった。


「さぁ!ケーキ食べましょ!」

「ケーキあるの⁉︎」

「玲奈ちゃんの誕生日ケーキよ!」

「私も選んだのよ」

「愛莉先輩も⁉︎」


倒れている俺を空気にして楽しみ始めた‥‥‥これから俺の扱いが雑になる予感しかしない。


「れ、玲奈」

「なに?」

「キッチンの下の棚開けてみろ」

「キッチンの下?」

「うん」


あぁ〜、全然立てない‥‥‥


玲奈はキッチンの棚を開け、満面の笑みで振り返った。


「三人でお金出し合って買ったやつだからな。大事にしろよ!」

「うん!ありがとう!」


嬉しそうな玲奈を見て、俺達三人は顔を見合わせ、思わず笑みが溢れた。


「ケーキ食べよ!」

「おう!」


クソ‥‥‥思うように力が入らない。白波瀬と愛莉、覚えておけよ‼︎


それからみんなで先にケーキを食べ、ケーキの後に夜ご飯を食べた。白波瀬と愛莉も玲奈のおかげで元気を取り戻し、久しぶりに家の中が明るい雰囲気に包まれている。

解けかけた糸に玲奈が誰よりも敏感になって結び直してくれたんだ。ただ心配事が一つ‥‥‥白波瀬と愛莉と夢野、この三人がバチバチになったらどうなっちゃうの⁉︎今から怖いよ‼︎


「食べた食べたー!愛莉先輩!お風呂入ろ!」

「いいわよ」


食事も終わって、二人がお風呂に行った後、俺は部屋から制服のネクタイを持ってきて、椅子に座ってテレビを見る白波瀬の腕を後ろに回して縛り付けた。


「な、なに⁉︎」

「さっきはよくもやってくれたな!」

「ご、ごめんなさい♡」

「あ、いや、脚は広げなくていいから」

「久しぶりのお仕置きで我慢できなくて♡」

「そのデカい胸、掃除機五分の刑だ‼︎」

「はい♡」


な、なんか調子狂うな‥‥‥


「スイッチオン‼︎」

「ん〜♡」

「どうだ!苦しいだろ!」

「強でお願いします♡」

「あ、はい。どうでしょうか」

「私、なんか変に♡」

「なんなんだよ‼︎全然仕返しになんねぇじゃねーか‼︎」

「もっとご主人様の好きなようにお願いします♡なにをされても受け入れますから♡」

「なんでも?」

「はい♡」

「だったらこれでもくらえ〜‼︎」


玲奈が『スペシャルケーキにする!』とか言って冷蔵庫から出した生クリームのチューブを白波瀬に咥えさせ、思いっきりチューブを押してやった。


「んっ!ん♡ごひゅじんしゃまのでいっぱいでしゅ♡」


え‥‥‥なにこれ‥‥‥写真撮ろ。


「しゅきなだけ撮ってくらさい♡」

「お、おう」


その時、話し声が聞こえたのか、誰かがお風呂から出てくる音が聞こえた。


「なっ‼︎」


白波瀬は力任せにネクタイを解き、勢いよく俺のズボンをパンツごと下まで下げた。


「なにをしているの?」

「愛莉⁉︎」

「流川くん?別に隠さなくていいのよ?」

「隠すよ‼︎あとお前も隠せ‼︎」

「凛、一人で抜け駆けかしら?」


白波瀬は生クリームを飲み込み、愛莉を挑発するような目つきを見せた。


「流川くんの全部飲んじゃった♡」

「わ、私だって!流川くんのならそれくらい!」

「バ、バカ!近づくな〜‼︎」


大事なところを隠しながらリビングを出て階段を駆け上がり、自分の部屋に逃げ込んだ。


「白波瀬の愛莉に対するマウントの取り方ヤバすぎだろ‼︎まさかこれが‥‥‥恋愛バトルロイヤル‼︎」

「流川くん」 

「は、はい⁉︎」


ドアの向こう側から愛莉に話しかけられて緊張が走った。


「凛のあれ、生クリームだったのね。騙されるところだったわ」

「よく分かったな」

「少しでも貰おうと思って、無理矢理舌を入れたら甘かったもの」

「姉妹でなにしちゃってんの⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「貴方のDNAの奪い合いよ?」

「お前ら本当狂ってるよ‼︎あと、白波瀬とディープキスするなら俺を呼んでくれ!」

「なぜ?」

「いや、なんも」


見たかったなんて言えない。絶対言えない。


「私、もう少しお風呂入ってくるわね」

「あ、はーい」


どんなにぶっ飛んでる二人でも、暗い二人より全然いい!夏祭りの日にどうするか、全部ハッキリさせよう!

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