お風呂で密着⁉︎


「塁飛くーん。おーい、朝だよー」

「んー」


朝になると、携帯から夢野の声が聞こえてきたが、眠すぎて適当に返事をしてしまった。


「今日私の家来るでしょ?」

「んっ」

「ねー、起きてよー」

「起きてるだろ」

「ちゃんと返事してほしい」

「めんどくさい彼女感出すのやめろ。彼女いたことないけど」

「私って彼女になったらめんどくさいのかな⁉︎」

「多分めんどくさい」

「‥‥‥」

「じょ、冗談だからな?」

「よかった。拷問しなくて済みそう」

「拷問ってなんだよ‼︎怖すぎて目覚めたわ‼︎」

「手足を縛って、5時間ムチ打ち」

「俺、やっぱり今日行けなくなったわ」

「やらないよ‼︎疼くだけで、塁飛くんに酷いことしないって決めたし!」

「お前あれだろ。結婚した瞬間に本性出しちゃうあれだろ」

「それは結婚して確かめて!」

「言ってることめちゃくちゃだわ!とりあえず朝風呂入るから切るぞ」

「えー」

「昼過ぎに会えるんだから我慢しろ」

「分かったー」

「じゃあな」

「はーい」


夢野との距離が一気に縮まった気がする。ただ、秋月と白波瀬のことも忘れちゃいけない。あとついでに琴葉。


ふと時計を見ると午前8時で、起きてるとしても白波瀬だけだろうと思ってリビングに行くと、珍しく白波瀬も起きていなかった。


「ラッキーすぎる」


久しぶりにゆっくりお風呂に入れる!いつも入っては来ないものの、動画を回した携帯を脱衣所に隠したりして、服を脱ぐ前に隅々まで確認してから入らなきゃいけないのが疲れて嫌なんだ。


さっそくお風呂を沸かし、完全に沸く前にお風呂に入り、目を閉じてのんびりしていると、お風呂が沸いた時のメロディーが流れ、一番気持ちいい温度の完成だ。やっぱり沸く前に入って、じわじわと体を温めていくのが一番だな。


「ふぅー」


お風呂で寝るのは危険だと知りながらも、このまま寝てしまいそうになった時、サバーっとお湯が溢れ、脚に人の肌が当たる感触がして目を開けた。


「ふぁ〜♡」

「愛莉⁉︎」

「あら、居たの?」

「なに入ってきてんだよ‼︎」

「ごめんなさい。寝ぼけていて気づかなかったわ」

「早く出ろ‼︎こんなとこれ見られたらヤバいって‼︎」

「分かったわ」

「たーつーな‼︎」

「なんなのよ」


愛莉が立ち上がろうとし、危うく全てを見てしまうところだった。


「いいか?今から言うことをよく聞け」

「その前に少し寝るわ」


愛莉は目を閉じて力が抜けていき、顔がお湯についてしまった。


「バカ!死ぬぞ!」

「んぁ〜」

「あっ」


肩を掴んで顔を上げさせると、そのまま抱きついてきてスヤスヤと眠ってしまった。


ヤバい‥‥‥過去一ヤバい‼︎俺の俺が起き上がっちまう‼︎‼︎‼︎


「愛莉?寝ちゃうんだから朝風呂はダメって言ったわっ‥‥‥」


最悪だ‥‥‥

パジャマ姿の白波瀬がお風呂の扉を開け、裸で密着しているのを見られてしまった。


「そういう関係だったのね」

「ち、違うからな!」

「私への返事もしないで、愛莉と付き合ってたなんて、どうして言ってくれなかったのかしら」

「違う違う!」

「なにも違わないわ。いくら流川くんでも、私、怒ってるから」


かなり久しぶりに白波瀬に冷たい表情を向けられ、胸が強く締め付けられた。


「今日からしばらくはご飯作らない」

「待って!」


白波瀬は眉間にシワを寄せ、扉を強めに閉めて出て行ってしまった‥‥‥


「愛莉!起きろ!」

「‥‥‥」

「あーいーりー‼︎」


愛莉の両耳を引っ張ると、愛莉はハッ!と目を覚まし、俺の腕を掴んで暴れ始めた。


「痛いわよ!」

「目覚ましたか⁉︎お前のせいで白波瀬が怒っちゃったじゃないか‼︎」

「離して!」


手を離すと、少しふてくされながら耳を触り、挙句の果てに俺を睨みつけた。


「凛になにをしたの」

「お前が俺に抱きつきながら寝てるのを見られたんだよ‼︎」

「貴方最低ね」

「お前が100悪いわ‼︎目閉じてるから、さっさと出ろ‼︎」

「そうするわ。その前に一つ言いたいことがあるわ」

「なんだよ」

「耳を引っ張られて目を覚ました時、当たってたわよ」

「‥‥‥」


恥ずかしさで死にそうになり、湯船に潜ると、愛莉はすぐにお風呂から出て行ってくれた。


「最高で最悪な朝だな」


しばらく時間を置いてお風呂から出ると、3人がリビングで朝食を食べていた。

白波瀬の機嫌の悪さを察しているのか、玲奈は気まずそうにパンをかじっている‥‥‥もう家を出よう‼︎


黒いジャージを着て財布と携帯だけを持ち、午前9時に家を出た。

とりあえず夢野に電話だな。


「もしもし」

「お風呂上がったの?」

「訳あって、もう家を出たんだ。今から遊べないか?」

「遊べる!急いで行くから橋の上集合ね!」

「ありがとう!」


さっそく橋の上に向かい、しばらく夢野を待っていると、夢野は白いショートパンツを履いて、大きめの淡いピンク色のパーカー姿で走ってやってきた。


「お待たせ!」

「今日はツインテールなんだな!」

「いつもじゃん」

「まぁ、そうだけど」

「あー!」

「なに⁉︎」

「ネックレスつけてない!」

「急いでたから忘れたわ」

「んー」


出だしから機嫌損ねちゃったし。


「次からつけるよ」

「約束ね?」

「おう。夢野の家行こうぜ」

「うん!」


話しながら歩き続けること25分ぐらい、やっと夢野の家に着いた。


「ここ!」

「おー!庭広いな!」

「でしょ!」


家のサイズは普通より少し大きいぐらいだが、庭が広く、雑草なども綺麗に整っている。


「入ろう!」

「お邪魔します!」


家に入ると、リビングであろう場所から夢野と同じ、ミルクティーのような優しい髪色の綺麗な女性が出てきた。


「あら、いらっしゃい!」

「は、はじめまして」


お姉さんいるとか聞いてないし。めちゃくちゃ気まずいし。


「はじめまして!夢桜の母です!」

「お母さん⁉︎」

「そうよ?」


え⁉︎何歳⁉︎20代前半に見えるけど⁉︎


「まさか!君がポチくん⁉︎」

「え、はい。ポチじゃないですけど」

「夢桜がいつも、ポチがね、ポチがねって、貴方の話ばっかりなのよ」

「お母さんは黙ってて!」

「ついに大好きなポチくんを家に連れてくるなんて、お母さん嬉しい!」

「もう!行くよポチ!」

「あ、はい」


二階に上がって夢野の部屋に入ると、寝心地の良さそうな真っ白なベッドと勉強机があり、勉強机の上には小さなサボテンが3個と、虫かごが一つ置かれている。それより目を引くのが大きな本棚だ!少女漫画から少年漫画や小説!ライトノベルまで大量にある!


「見て!私の家族のエビくん!」

「やっぱり、その虫カゴはカニか」

「可愛いよ!」

「んー、カニだな」

「可愛くない?」

「微妙」

「んじゃサボテンは?可愛いでしょ!」

「微妙」

「んじゃ私は?」

「か、可愛い」


夢野は自分で聞いといて顔を赤くし、俺から目を逸らしてカニを見つめた。

そして俺は、どんな漫画があるか、勝手に本棚を見ていると、前に読んでいた少年漫画を見つけた。


「おっ!いい漫画読んでるじゃん!」

「あ、それ?最近読みはじめて、コツコツ集めてるの!」


読みたい‼︎でも遊びに来て漫画読むとかダメだよな。たまにいるんだよ、遊びに来たのにずっと漫画読んでて、お前なんで来たの?みたいな裕之ひろゆきくんとか。

てか、裕之くんとか久しぶりに思い出したわ。小学生の頃の友達で、給食のパンを机に隠してカビはやしてたっけな。


「あとね!これも最近集めてる!」

「あ、これ、玲奈が最新刊まで持ってるぞ。主に俺の金で買ったけど」

「そうなの⁉︎」

「この漫画の話すれば仲良くなれるかもな」

「よし!頑張る!」


その時、部屋のドアがノックされ、男性の声が聞こえてきた。


「お茶だよー!」

「ありがとう!」


夢野がドアを開けると、イケメン以外の言葉が見つからない爽やかな男性が、ピンクのエプロンをつけて、お茶を持っていた。


「お、お邪魔してます」

「いらっしゃい!夢桜のお父さんです!」


顔面偏差値5億の家族‼︎この家族、ルックスに恵まれすぎだろ‼︎‼︎


「はじめまして」

「僕の夢桜とはどんな関係かな?」


夢野のお父さんはニコニコしているが、お父さんがするその質問には『彼氏じゃないだろうな?あん?』みたいな意味が込められている。98パーセントそうだ。


「友達です!」

「男友達が異性の家に一人で遊びに来るかな?」

「く、来ると思います‥‥‥」

「来ないよね?」

「す、すみません!帰ります!」

「なんで⁉︎ちょっとお父さん!ポチは私を助けてくれた人!前に話したでしょ!」

「‥‥‥」


夢野のお父さんは持っていたお茶を落とし、白いフワフワのカーペットを薄茶色に染めた。


「うぁー‼︎なにやってんのー‼︎」

「すみませんでしたー‼︎君がポチくんと知っていれば‼︎こんな失礼な態度を〜‼︎」

「えぇー⁉︎⁉︎⁉︎」


父親が娘の前で全力の土下座‼︎なんだこの状況‼︎


「顔を上げてください!」

「本当にすまなかった!ポチくん」

「は、はい。ポチじゃないです」 

「娘をよろしくお願いします‼︎」

「‥‥‥えー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「えー⁉︎」

「夢桜は生意気で自分勝手なところがあるけど、この通り美少女だ!高校を卒業したらもらってやってくれ!」

「し、慎重に考えさせていただきます‼︎」

「ポチ⁉︎⁉︎もう!ちょっとお父さん出て行って!」


夢野はお父さんの体を押して部屋から出し、ティッシュでカーペットを拭き始めた。


「もー、ビショビショ〜」

「すごいお父さんだったな」 

「それよりさ!考えてくれるの⁉︎」 

「ん?」

「結婚とか!」

「一ミリも考えてない」

「は?じゃなくて、え?」

「今一瞬、本性出てたぞ」

「そんなことないよ!」

「まぁいいけど。付き合ってもないのに結婚のことは考えられないだろ」

「付き合ったら考える?」

「焦りすぎだろ!まだ高ニだぞ⁉︎」

「私にとっては、もう高ニなの!」

「分かったから落ち着け!せっかく遊びに来たんだから、なにかしようぜ?」

「そうだね!なにしようかなー。あっ!小さい頃の写真見る?」

「見たい!」


夢野は机の引き出しからアルバムを取り出して俺に見せてくれた。


「これ、小学2年生の時の私!」


その写真は、運動会でお母さんとご飯を食べている写真だ。

小さい頃から可愛すぎ‼︎


「お母さん変わらないな」

「確かにあまり変わってないかも!」

「夢野は整形じゃないのがよく分かったわ」

「疑ってたの⁉︎」

「少しな」

「酷くない⁉︎」 

「すまんすまん。この写真は?元彼か?」


知らない男とのツーショットを見つけ、気になって聞いてしまった。


「お母さんの一個上のお姉ちゃんの子供!」

「へー」

「まさか不安で嫉妬しちゃったの〜?」

「し、してねーし!」

「元彼とかいないから安心して!」

「そ、そうか」


俺が嫉妬とかアホか!するわけないだろ。多分。


それからたくさんの写真を見せてもらった後、結局二人で同じ漫画を読み始めてしばらくした時、愛莉から電話がかかってきた。


「もしもし?」

「凛の誤解は解いたわよ」

「白波瀬はなんて?」

「謝りたいって。なのに流川くんが家を飛び出したから、落ち着かなくて家中をウロウロしているわ」

「マジか。今日中に帰るって言っといてくれ」

「分かったわ」

「んじゃ」


電話を切ると、夢野は俺を見て頬を膨らませていた。そんなに頻繁にハムスターフェイスしてると、本当にひまわりの種あげたくなる。


「ブッ」


人差し指で頬を押してやると汚い音が出て、夢野は恥ずかしいのか、髪で顔を隠してしまった。


「口からおならするなよ」

「してない!」


なんだろ、昨日から夢野が可愛くて仕方ない!別に夢野はブリッ子してるわけじゃないし、なのになんでだ‼︎


「私が意地悪しなくなったからって、調子に乗ると大変なことになるからね?」

「え」

「いつか、溜まりに溜まったものが一度にドカン!と」

「なんでそれを今忠告すんだよ!今イライラ中⁉︎」

「大丈夫だよ!でも、塁飛くんがMに目覚めたら楽しそうだね!」

「隠しきれない本性!」

「ちーがーう!」

「なにが違うの⁉︎なんか道具持ってるって言ってたよな!その気になれば、いつでも俺を黙らすことができるんだろ⁉︎」

「うん!」

「うんじゃねーよ!」

「だからね、もし私達が付き合うことになって、浮気なんてしたら‥‥‥」


やはり夢野は本性を隠しきれない。目を見開いて顔を近づけてくるこの感じ‥‥‥恐怖‼︎


「それ!」

「んにゅー!」


夢野の両頬を潰し、タコのような顔にして怖い表情を無理矢理変えてやった。


「タコみたいになってるぞ」


夢野は眉間にシワを寄せ、危機感を感じた俺はすぐに手を離したが、夢野はまったく怒らなかった。


「やっぱり少し変わったな」

「へへ♡」


それから、夢野が写真を撮りたいと言い出し、エフェクトで顔が変わったり、パンダの鼻と耳が付いたりするアプリで沢山ツーショットを撮り、お昼になると、オムライスまでご馳走してくれ、夕方まで夢野と遊び続けた。


「そろそろ帰ろうかな」

「えー、もう帰るの?」

「もう18時だからな」

「また来る?」

「来る!漫画読み終わるまで、たまに通うわ!」

「んじゃ、また新しい漫画買う!」

「楽しみにしとく!んじゃ、また学校でな」

「うん!」


夢野の家を出て、白波瀬と話さないといけないと思い、早歩きで家まで帰ってきた時、シュークリームを買い忘れたことを思い出したが、めんどくさくてそのまま家に入った。

だが、その決断を一瞬で後悔することになってしまった。愛莉がシュークリームを待ちわびて、玄関に立っている‥‥‥


「なぜ手ぶら?ねぇ、なぜ?」

「か、買うの忘れた‥‥‥」

「手を出して」

「手?」

「手」


言われ通り手を出すと、愛莉は俺の腕を掴んで、本気で手に噛み付いてきた。


「いてててて‼︎」

「んー‼︎」

「流川くん⁉︎ちょっと愛莉!」


白波瀬が慌ててリビングから出てくると、状況を見て、愛莉の服を引っ張りながら止めようとしてくれている。


「離しなさい!」

「手がちぎれるー‼︎」

「愛莉‼︎」

「なによ」

「なにしてんだよ‼︎血が出るかと思ったわ‼︎」

「約束を守らないからよ」

「だらからって噛むことないだろ‼︎」

「ん〜‼︎」

「いってー‼︎‼︎白波瀬!なんとかしろ!」

「あ、そうだ!流川くん!今朝はごめんなさい!」

「許す!許すからなんとかしてくれ!」

「私、すぐに流川くんを疑ってしまうなんて最低だわ‥‥‥」

「あれは誰だって疑うって!つか、その話は今じゃないだろ‼︎」

「ん‼︎」

「愛莉‼︎今すぐ離したらシュークリーム4個だ!」


そう言うと、愛莉はすぐに噛むのをやめてくれ、トコトコとリビングに向かい、絆創膏を持ってきて貼ってくれた。


「いいか?怒っても噛むな」

「んじゃどうしたらいいのかしら」

「脱げ!」

「そうね。それはスッキリするかもしれないわ。ついでに流川くんも、その日の夜はスッキリするネタができるものね」

「白波瀬、愛莉を夜ご飯まで押し入れに閉じ込めとけ」

「はい!」

「ちょ、ちょっと凛!」

「ご主人様の命令は絶対なの!」


まったく。体が休まらないな。


こんな騒がしい毎日を過ごし、それから学校では夢野と行動することが増え、寝落ち通話をする頻度も増えた。

そして暖かい季節から7月20日、夏休み前日の、ただただ暑いだけの季節に入り始め、愛莉以外のS組の三人と琴葉から『よかったら夏祭りは二人で』との誘いのメッセージが届き、誰と行くかを決めなければいけない問題が発生してしまった。

これは、誰と付き合うかに等しい選択かもしれない‥‥‥夏休みだけど冬眠したい気分だぜ‼︎一人で穴に潜ってやり過ごす!熊はいいよなー‼︎あはは‥‥‥

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