先輩の卒業式
2月に入り、天沢先生はまだ入院中で、俺が夢野の病気のことを知ったことは夢野に言っていない。
そして、玲奈の受験も残すところ、発表を待つだけになり、玲奈は毎日緊張している。
「明日は合格発表の日だな!」
「落ちてたらどうしよ〜」
「大丈夫よ。流川くんが入れた程度の学校だもの」
「愛莉?お前も同じ学校だからな‼︎」
「私はテストの成績オール100点、流川くんが100点を取ってるところは見たことないけど、私と同じレベルだと思っているの?哀れね」
「なぁ!もしかして俺のこと嫌い⁉︎」
「嫌いじゃないわよ!」
「いや、怒らないで?なんかごめんね?そしてありがとう」
白波瀬は夜ご飯を作りながら話に混ざってきた。
「発表は学校?ネットで見るの?」
「ネットだよ!」
「そうなのね。合格したら、みんなでケーキを食べましょうね!」
「食べるー!10日には結果出るよ!」
「楽しみね!」
そして2月10日、俺と愛莉と白波瀬は、学校が終わって急いで家に帰った。
「ただいま!玲奈!」
「お兄ちゃん‥‥‥」
玲奈は悲しげな表情でリビングから出てきて、俺達は察してしまった。
「大丈夫だ玲奈!玲奈が頑張ってたのはみんな知ってる!」
「そ、そうよ!」
「そう‥‥‥だよね。だからね‥‥‥私‥‥‥頑張ったから‥‥‥合格しましたー‼︎‼︎‼︎」
「えー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
俺達三人は同じリアクションをし、玲奈は少し不機嫌な顔をした。
「なにそのリアクション!私が落ちるわけないじゃん!お兄ちゃんじゃないんだから!」
「お兄ちゃんバリバリ合格して学校通ってますけど⁉︎」
「えへへ!」
「私、ケーキ買ってくるわね!」
「わーい!ケーキケーキ!」
その日の夜はお祭り騒ぎで、明日が祝日ということもあり、みんな夜更かしする気満々で、誰も寝ようとしない。
「あー!マジで玲奈が合格でよかったー!爺ちゃんにも電話で報告したけど、喜んでたぞ!」
「おじいちゃんは、ずっと玲奈なら受かるって言ってくれてたもん!お兄ちゃんと違って」
「俺も言ってたよね⁉︎」
「愛莉先輩!ゲームしよ!ゲーム!」
「いいわよ!」
「待って⁉︎無視しないで⁉︎」
「今日は負けない!」
「手加減しないわよ」
「望むところだ!」
玲奈に無視されてガッカリしていると、白波瀬は俺の手を引いて、愛莉の部屋に俺を連れてきた。
「なんだ?」
「私がご主人様の相手をします♡」
「ご主人様って呼ばれてる時点で、そういう相手だよね⁉︎」
「ダメですか?」
まぁいいや、最近、最強のお仕置き方を思いついたし、試してみるか。
「四つん這いで待ってろ」
「はい♡」
一度自分の部屋に漫画を取りに行き、愛莉の部屋にいる白波瀬の背中に座った。
「漫画読むから、白波瀬は今から椅子な」
「はい♡!喜んで♡!」
これなら座って漫画を読んでるだけで、白波瀬の欲を満たせる!女の子に座ることに罪悪感はない!なぜならこいつはドMだから!
「体プルプルしてるぞ。座りにくい」
「申し訳ありません♡ご主人様♡」
たまにこういうことを言ってやれば、尚、満足させることができる。俺は天才だ。
そして漫画を読み終え、白波瀬に漫画を加えさせた。
「そのまま四つん這いで本棚に戻せ。戻したら大人しく寝ろ」
「ふぁい♡」
完璧。なのか?
そんなこんなで一週間が経った頃、学校に来てS組に行くために階段を上っていると、夢野が苦しそうに階段の手すりを握っていた。
「夢野!」
「‥‥‥」
「痛いのか?」
「大丈夫‥‥‥」
「お前、心臓弱いんだってな」
「聞いたんだ」
「おう。保健室行くか?」
「少しすれば落ち着くから」
「そうか、一旦階段に座れ」
「みんな来るのに、恥ずかしくて無理」
「俺も座ってやるから」
夢野と一緒に階段に座ったがら夢野は息が浅くて苦しそうだ。
「薬とかないのか?」
「朝の分は飲んだから」
俺が知らなかっただけで、夢野は合宿の時も、俺の家に泊まった時も薬を飲んでいたのか。
「私ね、14歳で死ぬ予定だったんだ」
「えっ」
「でも、それから2歳も歳をとったんだよ」
「すげーじゃん!」
「でもね、それからは、もういつか分からないよって言われてる」
「んじゃ、100年後ぐらいじゃね?」
「そんなのポチも死んじゃってるよー」
「いつか分からないなら、前向きに生きた方がいいだろ。俺は夢野が居なくなったら立ち直れないわ」
「本当?」
「当たり前だろ!みんなだってそうだ!」
「そっか。それじゃ頑張る」
「おう」
「だいぶ良くなってきたし、教室行こ!」
教室にやってくると、天沢先生がいないだけで、いつもと変わらない、みんなの仲良さげに話す声が教室に響いている。
そんな中、机の中に見覚えのない、半分に折られた紙が入っていた。
なんだこれ。
紙を開くと、薄ピンクの背景に、可愛らしい花柄のメモ帳に、少し汚い文字で『学校に来たら屋上に来い』と書かれている。
嫌な予感しかしないんですけど‼︎
S組を潰したい人達だったらどうしようと思いながらも屋上に行くと、片桐先輩がベンチに座っていた。
「お!来たか」
「先輩、可愛いメモ帳使いますね」
「クラスの奴に貰ったんだよ」
「なるほどです。それで、なにか話ですか?」
「あぁ、S組を潰そうとしてた連中、天沢先生の怪我を知って可哀想とでも思ったのか、もうS組には手出さないらしいぞ」
「本当ですか⁉︎」
「本当だ。よかったな」
「はい!」
「でも、なにが起こるか分からないからな。俺はもう卒業だ。なにかあっても助けてやれない。絶対夢野だけは守ってやってくれ」
「先輩、案外いい人ですね」
「さすがに更生しなきゃな」
「ま、なにかあったら、卒業したのに調子乗って学校の校門前に現れちゃう先輩になってください」
「は?」
「冗談です‼︎」
「卒業したら、もうこんな学校来ることねーよ」
「んじゃ、街で絡まれてるのを見つけたら助けてくださいね」
「有料な」
「えぇ〜‥‥‥」
「伝えたいのはそれだから。じゃあな」
「はい」
これで一旦、夢野のことに集中できる。と考えたが、特になにをするわけでもなく毎日は過ぎていった‥‥‥
そして3月22日、三年生の卒業式前日、俺は秋月と二人で天沢先生のお見舞いにやってきた。
「先生!」
「秋月!流川!なんで全然来てくれなかったんだよ〜!」
「なかなか来れなくてごめんなさい!」
「俺はめんどくさかったです」
「流川、ちょっと掛け布団取ってくれ」
「はいはい」
掛け布団を取ろうと天沢先生の真横に立つと、天沢先生は左手で思いっきり俺の大事な部分を握ってきた。
「あっ‥‥‥うっ」
「もう一回来なかった理由を言ってみろ」
「ちょっと!どこ触ってるんですか⁉︎」
「秋月は黙ってろ!流川、言えよ」
「あ、天沢先生が美人すぎて、会うと緊張しちゃうので‥‥‥」
「べっ、別に緊張とかしなくても」
天沢先生は照れたのか手を離し、俺はその場に
「腹痛い‥‥‥」
「なんでお腹?」
「男にしか分からないよ‥‥‥」
「大丈夫大丈夫!流川の子孫が生まれないだけだ!」
「大問題だろ‼︎」
「あはははは!」
「あ、もう普通に笑えるんですね」
「だいぶ良くなったからな!」
「よかったです」
あー、まだ痛い‥‥‥初めて他人に触られたのに、痛すぎてまったく興奮できなかったし、とんでもない冷や汗かいた。
「明日、三年生の卒業式ですよ!」
俺は全然立ち上がれず、秋月は天沢先生に話を振った。
「もうそんな時期か!お前らが三年生じゃなくてよかったわ!」
「なんでですか?」
「お前の卒業式は必ず見届けないとな!」 「今回は来なくていいんですか?」
「今の三年が卒業しようが、どうでもいいし」
クズだ‼︎この先生クズだ‼︎
「私も今の三年生には、あまり思い入れないですけど、やっぱり卒業ってなんか寂しいですよ」
「三日もしないうちに忘れちまうよ!」
「先生って‥‥‥」
そうだ秋月!思ってること言ってやれ!
「前向きでかっこいい!」
「そうじゃねーだろ⁉︎」
「え、なにが?」
「いや、なんでも」
今、天沢先生を悪く言う勇気はない。言っちゃダメだと、白い妖精達が言っている。
「私がかっこいいとかふざけるな。可愛いだろ?♡」
「可愛いじゃなくて美人!」
「秋月は分かってるなー。将来金持ちになるぞ」
「え⁉︎」
「間違いないな」
間違いだらけだよ‼︎‼︎秋月も信じるな‼︎
「天沢先生〜」
「なんだ流川」
「なんか食べたいものありますか?」
「肉」
「無理」
「酒」
「無理!天沢先生吐くし!」
「肉も食えない。酒も飲めない‥‥‥私の生きがいとは⁉︎」
「生きがいそれだけ⁉︎」
「当たり前だろ‼︎」
言い返す言葉がない。というか、言い返しても無駄だ。
「ねぇ先生」
「ん?」
「そういえば、スキー場にレンタカー置きっ放しですよね。一月から」
「‥‥‥」
天沢先生は秋月の言葉を聞いて一気に青ざめ、無言になってしまった。こんな天沢先生は初めて見る。
俺は日頃の仕返しに、ここぞとばかりに天沢先生を煽り倒すことにした。
「あれれー?天沢先生?どうしましたー?まさかー、延長料金にビビってますー?今俺が、延長料金幾らになるか調べてあげますねー!」
「いやっ‥‥‥現実を見せないで!」
俺はニヤニヤしながら携帯で延長料金の相場を調べた。
「一時間ごとに1188円!ヤバイですね〜!えーっと、携帯のカレンダーを見るに、あれから72日経ってますよ〜?」
「や、やめて!」
「計算機を使ってー、1188円と24を掛けてー、さらに72を掛けると!252万864円!大変ですね〜。64円あげましょうか〜?」
「じ、事情説明すれば許されるんじゃないかな」
「だよな秋月!そうだよな⁉︎」
「た、多分」
「252万も払うことになったら、私は生きていけない!なにも食べれないで飢死する!」
「俺の家の雑草食べていいですよ」
「流川‥‥‥お前は優しいな‥‥‥」
いじめすぎた‥‥‥天沢先生が気弱になってる!
「か、帰りますね」
「また来てね‥‥‥」
「は、はーい‥‥‥秋月、行くぞ」
「う、うん」
病室を出ると、秋月はムッと怒った表情で俺を見つめた。
「天沢先生をいじめちゃダメでしょ?」
「いつも馬鹿にされてるし、たまにはいいだろ?」
「よくない」
「はい、ごめんなさい」
「うん。帰ろっか!」
「おう」
謝れば許してくれて、美少女で心優しい!舐めてくるところ以外は完璧だ!
それから電車に乗り、話をしながら地元の駅に向かった。
「恋愛はどんな感じー?」
「なにも進展なし」
「私はさ、もしも私が選ばれなかったら、夢桜を選んでほしいと思ってる」
「秋月がそう言う理由は少し分かるけど、白波瀬のことも大切なんじゃないのか?」
「大切だよ。でも‥‥‥」
「秋月の気持ちは分かった。でも、秋月だって選択肢の中にいるんだからな。ただ、付き合うかは分からない!」
「まったくー。私は、なかなか自分勝手な人を好きになっちゃったみたいだね」
「なんだ、今ので好きじゃなくなると思ったんだけどな」
「待って⁉︎嫌われたいの⁉︎」
「バカ、大きな声出すな。冗談だよ」
「もう」
「はは。お前らって、すぐにハムスターフェイスするよな。可愛いの分かっててやってんの?」
「わ、私可愛くないし」
なに言ってんの⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎あんた、ちょー可愛いからね⁉︎学校で同じこと言ってみろ!他の女子生徒にボコボコにされるぞ⁉︎
「なに?可愛いって言われたいのか?」
「うん」
「確信犯!でも素直だからいい!可愛い!」
「ちょっと!静かに!」
「あ、ごめん」
周りの人の目が痛い‥‥‥
選べる自由。選ばなければいけない辛さ。みんなもこういう恋愛なの⁉︎聞いてた恋愛と違うよ‼︎
それからは静かに、たわいもない会話をして、駅で秋月とは別れた。
そして三年生の卒業式当日、片桐先輩が軽く染めていた髪を黒くしていたことに驚きながらも無事に卒業式を終え、外で三年生を見送ることになった。
「あ、片桐先輩だ。夢野、最後に挨拶ぐらいしてやれよ」
「えー」
「最後ぐらいいいだろ」
そうこうしているうちに、片桐先輩は目の前までやってきて立ち止まった。
「ゆ、夢野」
「先輩!バイバーイ!」
「バ、バイバーイ」
冷たっ‼︎先輩行っちゃったよ‼︎
「夢野!今のは可哀想だろ!」
「希望を持たせて旅立たせる方が残酷だよ!」
「一理ある」
「でしょ?」
「うん」
変に納得してしまった。
「私達も二年生ね」
「早かったな」
「二年生になっても、S組を辞めたりしないわよね?」
白波瀬からの質問で、みんなが俺を見つめる。
「白波瀬が心配してることにはならないよ。今更、普通の教室で過ごすとか無理な気がするし」
「よかったわ!」
「あ、夢野と秋月には言ってなかったけど、春から玲奈も同じ学校だから、よろしくな!」
「そうなの⁉︎」
「仲良くする!」
「夢野は仲良くの前に誤解を解け」
「誤解?」
「夢野は玲奈に嫌われている!」
「そんな‥‥‥」
「あはははは!」
夢野はその場にうなだれ、それを笑いながら琴葉が近づいてきた。
「なに笑ってるんですか」
「玲奈ちゃんは私と仲がいいからね!夢野さんと違って」
「はい?いい加減調子に乗るのもほどほどにした方がいいですよ」
「先輩になにか文句でも?」
「二人とも、玲奈の前で喧嘩したら、そこそこ説教されると思うぞ?あいつは先輩を先輩扱いしないからな」
「るっくんが喧嘩するなって言うならしないよ♡」
「いちいち抱きつくな!」
「わ、私もしない!」
「わっ!」
夢野は勢いよく琴葉を突き飛ばし、俺に抱きついてきた。
「やーめーろ!みんな見てるから!俺達が主役みたいになってるから!」
「夢野さん。私のるっくんを汚さないでくれるかな。るっくんは私以外の女に触れられたくないの」
え、なんか勝手に決められたんですけど‼︎
「琴葉先輩は無理矢理ポチとイチャイチャしないでください。ポチも迷惑がってます」
「さっきから勝手に決めるな!てか、俺の話聞いてた⁉︎」
夢野と琴葉は、お互いに目で殺すぞと言わんばかりに睨み合い、卒業生はそれを引きつった表情で見つめ、卒業式の感動ムードをぶち壊した。
二年生になる頃には問題を無くそうって考えてたけど、なんか問題が増えた気がする‥‥‥二年生からは、夢野と琴葉を注意深く見張ってた方が良さそうだな。
「喧嘩はやめなさい。この場で脱ぐわよ」
「だから、愛莉は捨て身技やめろってー‼︎」
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