ナスの太さは癖になる♡


土曜日の午前9時、動きやすく暖かい格好をして学校の駐車場で天沢先生を待っていると、天沢先生は8人は乗れるぐらいの大きな白い車でやってきた。


「お待たせ!」

「車新しくしたんですか?」

「レンタカーだよ!出発するから乗れ!」


喧嘩にならないように、また俺は助手席に乗せられ、スキーのできる山に向かい始めた。


「今日はちゃんと見てるからな。怪我だけはするなよ!」

「はーい」


それからしばらくして雪山に着き、何も持たずに車を降り、スキー場の入り口にやって来ると、そこのスタッフらしき男性が近づいて来る。


「花苗坂高校の皆さんですか?」

「はい!」

「今日はよろしくお願いします!」

「はい!よろしくお願いします!」

「それじゃさっそく、そこにあるスコップで、駐車場の雪を邪魔にならないとこにまとめてもらえますか?」

「はい!」


あー、ですよねー。分かってましたよ。普通にスキーをするだけじゃないくらい。

愛莉以外のみんなも呆れ顔だし。


「さぁ、お前ら頑張れよー」


俺達は無言でスコップを手に取り、雪かきを始めたが、天沢先生はどこかへ行ってしまった。ずっと見てるとか言っといてなんなんだよ。


「あー‼︎ムカつくー‼︎また騙されたー‼︎」

「うるさいぞ夢野」

「はー?ポチ、今なんて言った?」 

「いいからさっさと終わらせようぜ。終わらせたら遊べるかもしれないし」

「はいはい!やればいいんでしょ!」

「おー、偉いぞー」

「本当⁉︎偉い⁉︎」

「あぁ、偉い」


それからの夢野は思いっきり張り切り、一気に雪をはき終えてしまった。


「おー」


みんなで夢野に拍手を送り、夢野が今までで一番のドヤ顔を見せたその時、天沢先生から電話がかかってきた。


「まったく。もしもし?何処にいるんですか?」

「どっか〜」

「なんですか、その小学生みたいな言い方」

「にしても、早く終わったな!」

「はい。ほとんど夢野がやってくれましたけど」

「誰が一番頑張ったとかどうでもいいよ」

「それ、夢野に言ったらぶっ飛ばしますよ」

「分かった分かった。今からは自由に遊んでいいぞ。必要ならスキーウェアとかもレンタルしろ。もちろん、スキーの板も借りれるからな!」

「分かりました」

「じゃ、楽しめ〜」

「はーい」


電話を切り、みんなに天沢先生との電話内容伝えると、白波瀬だけが浮かない顔をした。

そんなにスキーが嫌なのかよ。

それから俺と秋月は、スキーウェアに着替えるのがめんどくさく、スキーの板を借りて三人を外で待つことになった。


「ねぇ、最初に誰が来るか当てよ!」

「最初は愛莉だろうな」

「んじゃ私も愛莉!」

「それじゃつまらないだろ」

「んじゃ夢桜!」

「お待たせ!」

 

秋月が夢野を選んですぐに夢野が出てきた。


「秋月、ズルしたろ!」

「へへ♡バレたー?♡」

「バレバレだよ‼︎」

「ん?なんの話?って、それより、どう?似合う?」


夢野は白とピンクカラーのスキーウェアを着ていて、とんでもなく可愛い。


「合格!」

「お待たせ」


白波瀬は真っ白なスキーウェア、愛莉はナスのコスプレをして出てきた。


「なんでナスなんだよ‼︎」

「コスプレ衣装も貸し出していたわ」

「だからってなんでナス⁉︎ほとんど脚出てないし!滑れんのかよ!」

「ナスは興味本位よ。ちなみに、経験豊富な上級者は、ナスの太さと絶妙な反り具合を気にいるらしいわよ。癖になって、ナスを見ただけで疼くらしいわ」

「は?なんの話してんの?まぁ、顔以外の防御力は高そうだけど」

「そうね。顔から転んだら終わりだわ」

「白波瀬は合格!」


白波瀬は無言だ。昨日からずっと機嫌が悪い。本当、どんだけスキー嫌いなの⁉︎しかも借りてきたのソリだし!


「と、とりあえず滑るか!」

「行こう!」


最初はチェアリフトには乗らず、少し歩いて登り、低い場所から滑ることにした。

愛莉はナスの無駄にデカいコスプレのせいで手が足に届かず、スキーの板を装着できないでいる。なんか必死な動き可愛し、ほっとこ。


「もう!このナスではダメね。脱ぐわ」

「バカ!こんな場所で露出するな!」

「中はジャージにジャンバーよ。こんな場所で露出なんて考えているの?流川くん変態ね」

「俺じゃないだろ‼︎つか、学校で露出する奴はどこでしてもおかしくないんだよ‼︎」

「最近はしてないわよ」

「へー、まぁいいや」


家で毎日見られてるから、満足して学校でしないだけだろ‼︎


「んじゃ!私達お先!」


まったく滑れないのを想像ていたが、秋月と夢野は綺麗に滑りだした。


「おー!スキーできる女ってなんかいいよな!」

「それじゃ、私も行くわ」

「ナス置いていくな‼︎」


三人は行ってしまい、白波瀬はソリに丸めた雪を集めて一人で遊んでいる。


「滑らないのか?」

「怖いもの」

「ジェットコースターよりは怖くないぞ?白目になる心配もない」

「流川くんは、スキーできる女の子の方がいいんでしょ?」

「し、嫉妬か?」


そう聞くと、白波瀬はソリにため込んだ雪玉を無言で投げまくってきた。


「やめろやめろ!白波瀬らしくないぞ!」

「やっぱり休めばよかったわ」

「なんか、めんどくさい女の子みたいになってるぞー」

「ポチー!早くー!」


下から夢野に呼ばれ、白波瀬にナスのコスプレ衣装を持たせ、無理矢理ソリに乗らせた。


「ちょっと⁉︎」

「レッツゴー!」

「いやー!」


白波瀬はソリの上で小さく丸まりなが滑っていき、無事、愛莉がソリを止めてくれた。


「俺も行くか」


スキーに多少の自信があった俺は、みんなに格好いいところを見せようと、意気揚々と滑り出したが、何故か、何故今なんだということが頭に浮かんでくる。

夢野と秋月と白波瀬が俺を好きでいてくれている。奇跡みたいなことなのに、俺って割と冷静にやれてる方だよな。でも、俺はそれが何故なのか分かってる。親は生きていると思い込んで自分を守ったのと同じ、傷つけないように解決したいと思いながらも、心のどこかでは、好きなはずないと思い込んで、心の逃げ道を作っているからだ。でも今はそれでいいや‥‥‥


「あっ!うわっ‼︎」


滑りながら考え事をしていたせいで、みんなの前で派手に転んでしまった。


「ポチ、格好悪いよ」 

「うっせーな‼︎」

「塁飛くん怪我は?」

「問題ない」

「凛をいじめた罰じゃないかしら」

「いじめてませんけど⁉︎な?白波瀬?」

「微妙なところね。でも少しだけ楽しかったかも」

「お!よかったよかった!」


まぁ、今は心の逃げ道にすがってもいいだろ。また愛莉あたりが現実に引き摺り出してくれる。そもそも、そうしてる間に月日も経って、俺のこととかどうでもよくなるだろうし‥‥‥それが一番いいよな。


「流川くん。ちょっと」

「ん?」

「みんなは先に滑っててちょうだい」

「え、うん」


愛莉に手を引かれ、休憩室に連れてこられた。


「なんだ?一回で疲れたのか?」

「流川くんの目が曇ってたわ」

「人間観察とか好き?よく性格が悪いとか言われないか?」

「それ、前に私が言ったような気がするわね」

「言われたからな」

「それを真似た理由は追求しないであげるわ」

「どうも」

「本当に悩みの尽きない人ね。家族のこと以外にも抱えて、ドMなのかしら」

「ちげーわ!てか、なんで家族のこと以外って分かるんだよ」

「簡単よ。家族のことで悩む時は苦しそう。でも今は、もうどうでもいいやみたいな清々しさを感じるわ」

「清々しく悩むって不気味すぎるだろ」

「本当よ。勘弁してくれないかしら」

「そう言われてもなー」

「流川くんも分かる通り、私は人の不幸に興味があるの。教えてくれないかしら」

「根本は変わってないのかよ」

「変わったわよ。前は貴方を苦しめるため。今は救うためよ」

「本当、双子なんだなー」

「なにが言いたいの?」

「二人とも優しい!でも気にするな。今の悩みは、今すぐ解決できなくてもいいと思ってるからさ」

「そう。なら、限界になったら言いなさい。手を貸すわ」

「ありがとう!ヤバイ時に手を貸してくれる人がいるって分かってるだけで気持ちが楽だわ!」

「よかったわ」


愛莉は、別に俺のこと好きとかじゃないだろうし、意外と客観的に的を得たアドバイスをくれるかもしれない。


「ん?白波瀬から電話だ」

「出たら?」 

「おう。もしもし」


白波瀬からの電話に出ると、白波瀬は慌てた様子だった。


「大変!」

「どうした⁉︎」

「もう一回滑ろって、私も上に連れてこられてしまったわ!」

「おー!見ててやるから頑張れよー」


電話を切り、休憩室から白波瀬達を探した。


「白波瀬達どこにいるか見えるか?」

「赤いソリだったわよね」

「そうそう」

「あの左側を滑ってるの、夢野さんと秋月さんじゃないかしら」

「うわ〜‥‥‥」


あの二人、俺より上手いじゃん‼︎‼︎もう俺の見せ場ないよ‼︎


「凛はどこかしら」

「もっと低い場所だろ」

「まったく見当たらないのだけれど」

「スキーウェアも真っ白だからなー」

「あ、いたわ」


愛莉は斜面の上の方を指差し、その先に視線を移すと、白波瀬はソリに座ってまったく動いていない。


「まさか、あそこからソリで滑るわけないよな」

「滑ったら凄いわね」

「バカか!あそこは上級者コースだ!しかも一番高いところじゃん!」

「え?」

「ソリは簡単に曲がったりできないし、想像以上にスピードが出る!しかもあの崖寄りの位置はヤバイ。あんな場所から滑ったら‥‥‥落ちるぞ」

「り、凛に電話するわ」

「頼む」

「‥‥‥え?電波の届かないところ?同じ山なのになぜ?」

「山ならよくあることだな。でも怖がってたし、さすがに滑らないだろ」

「凛は、勢いで恐怖をねじ伏せるタイプだから安心できないわよ」

「それじゃ、俺達も上に向かおう。あと、一応天沢先生に電話する」


休憩室を出て、早歩きでチェアリフトに向かいながら天沢に電話をかけた。


「流川‼︎」


俺が喋る前に大きな声で名前を呼ばれ、耳が痛い。


「なんで白波瀬を一人にした!」

「今向かってます」

「私はもうリフトに乗ってる。万が一白波瀬が滑り出して、そのまま下まで行けたら、何かにぶつかる前にしっかり受け止めろ」

「んじゃ、俺達は下にいればいいですか?」

「そうしてくれ」

「分かりました」


天沢先生もあの位置からソリに乗る危険さを分かってる。頼む白波瀬、そこでジッとしててくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る