もっと罵ってください♡
白波瀬と愛莉の誕生日の翌朝、玲奈は髪を爆発させながら歯磨きをしていた。
「今日暇か?」
「ぴま〜」
「昨日、二人の誕生日で、歌歌ってあげただけだったろ?」
「んー」
「こっそり、プレゼント買いに行かないか?」
「行く!」
「早くちょんまげにしてこい。二人が起きる前に家出るぞ」
「分かった!」
起きる前にって言ってるのに、デカイ声で返事するのは何故なんだ。そうだ、アホなんだ。
もう朝の9時だが、白波瀬と愛莉は昨晩、ずっとリビングでゲームをしていて寝不足なのか、早起きの白波瀬すら起きてこない。
今日に限っては良かったけどね。
俺はプレゼントで貰ったジャージを気に入っていて、休みの日に外へ出る時は、ほぼこのジャージに黒いジャンバーを着るだけだ。俺はジャージで買い物に行くのを気にしないけど、玲奈は嫌がるかな。
「お待たせ!」
玲奈の気持ちを気にする必要なんてなかった。玲奈は髪をちょんまげにし、スイカ柄のパジャマに赤いジャンバーを着て戻ってきた。
「派手だな」
「楽な格好が一番!」
お兄ちゃん恥ずかしいよ。
「んじゃ行くか」
「うん!」
最初にファーストフード店に向かい、俺はハンバーガーとジュースを飲み、玲奈は大きなパンケーキを一人でペロリと食べてしまった。
「喉乾かないのかよ」
「お兄ちゃんのもーらい!」
「別にいいけど」
玲奈は無邪気だなー。どこまでも可愛い妹だ!
「なに買うか決めてるのか?」
「見てから決める!お兄ちゃんは?」
「俺も見てからかな」
「お兄ちゃんは女心分からなそうだからな〜。変なの選びそう」
「ほー。んじゃ、どっちのプレゼントが喜ぶか勝負するか?」
「受けて立つ!」
それからショッピングモールに行き、真っ直ぐ雑貨屋にやってきた。
「それじゃ、買い終わったら入り口集合ね!」
「了解!」
さて、まずは白波瀬へのプレゼントだ。白波瀬は焼きたてのパンの匂いがするスクイーズで間違いない!いや、待て。愛莉が渡そうとしてるやつと被ったらどうする。昨日誕生日だったし、同じ部屋にいたし、もう渡したかもしれない!よし!白波瀬には、本物の焼きたてのパンを買ってやろう!
それじゃ最初は愛莉だな。愛莉は未知数だ‥‥‥意外と可愛い物が好きだったり?
いやいや、愛莉は絶対にスタンガンとか好きだ。でもスタンガンなんて雑貨屋にないし‥‥‥
そんな時【爆音で嫌でも目が覚める‼︎】と書かれたポップが目に入り、近づいてみると、見た目はシンプルな目覚まし時計だった。
「これにしよ」
レジで2200円を支払い、雑貨屋の入り口前で玲奈を待っていると、玲奈は小さな袋を持って店を出てきた。
「なに買った?」
「愛莉に目覚まし時計」
「凛先輩のは?」
「パンが好きらしいから、パンでも買おうかなって。玲奈は何買ったんだ?」
「私はね!二人は姉妹だから、お揃いのストラップ!」
「おっ、いいね!どんな?」
「見て見て!うんちのストラップ!」
「わーお‥‥‥」
女のくせに女心分かってねー‼︎‼︎‼︎
あんな清楚な双子にうんち⁉︎絶対ドン引きするぞ‼︎
「にひひー!」
まぁ、玲奈は楽しそうだし何も言わないでおこう。
「あとはパン買って帰ろうと思うんだけど、他に見たい店あるか?」
「帰る!早く渡したい!」
「オッケー」
一階にあるパン屋で焼きたてのクロワッサンとパンの中に、大きなウインナーが丸ごと1本入っているパンを買って帰宅すると、愛莉が白い下着姿でうつ伏せになりながら廊下に倒れていた。
「愛莉⁉︎」
「愛莉先輩‼︎」
「玲奈!心臓マッサージ!」
玲奈は慌てて愛莉の体を仰向けにし、心臓に手を添えた。
待て‥‥‥愛莉のあの薄ら目を開けた顔‥‥‥
「ん〜‥‥‥」
愛莉は不機嫌そうに謎の声を発した。
「玲奈!愛莉から離れろ!」
「え?うっ‼︎」
玲奈は愛莉に胸ぐらを掴まれて、そのまま硬いフローリングの床に叩きつけられてしまった。そして愛莉は立ち上がり、下着姿のまま俺に背中を向けてファイティングポーズをとった。
「愛莉!それは玲奈だ!俺じゃない!ちなみに俺でもやめて!」
騒がしい声が聞こえたのか、白波瀬が二階から慌てて降りてくるやいなや、愛莉のブラジャーのホックを外し、そのままブラジャーを奪い取った。
「なにしてんの⁉︎」
「はぁー♡気持ちいい♡」
「は?」
「目が覚めた?」
「えぇ。ありがとう」
愛莉はそのまま俺の方を振り返ろうとし、慌てて目を閉じた。
「愛莉!玲奈生きてるよな⁉︎」
「え?玲奈ちゃん⁉︎」
「なに驚いてんの⁉︎お前がやったんだぞ‼︎これで前科二犯だな‼︎」
「いてて‥‥‥」
「大丈夫?」
「いきなり酷いよ」
「ごめんね?」
「今回だけ許す!」
「ありがとう‥‥‥」
「あ、おっぱいだ」
「俺は見てないからな!」
「見ても構わないのよ?」
「え?マジで?」
「お兄ちゃん?」
「み、見たくないし!全然見たくないし!」
白波瀬は俺が困っているのに気づいたのか、愛莉を部屋に連れて行こうとしてくれた。
「ちゃんと服着ないと、家から追い出されるわよ?」
「今から着るわ」
「行きましょ」
二人が部屋に向かって歩いていく足音がして目を開けると、玲奈が一人でうんちストラップを見てワクワクした表情をしていた。
「いつ渡す?」
「部屋から出てきたら渡すか」
「うん!」
数分後、愛莉は灰色の地味なパジャマを着て、白波瀬と一緒に部屋から出てきた。
「凛先輩!愛莉先輩!」
「どうしたの?」
「1日遅れの誕生日プレゼント!」
「え⁉︎いいの⁉︎」
「わ、私にもくれるの?」
「もちろん!愛莉先輩にもあるよ!はい!」
玲奈は二人にプレゼントを渡し、二人は嬉しそうに小さな袋を開けた。
「これは‥‥‥」
愛莉は素直に顔をしかめたが、白波瀬はすぐに笑顔を見せた。
「ありがとう!」
それを見て、愛莉もすぐに笑顔で言った。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
「俺からもプレゼントだ!」
最初に白波瀬にパンの入った袋を渡した。
「開けていい?」
「いいぞ!」
白波瀬は袋を開け、嬉しそうな声を上げた。
「わー!パンが2個も!」
「焼きたてのパン!だったやつだ!」
「だったやつ?」
「帰ってくる間に冷め切った」
「それでも嬉しいわ!今すぐ食べたいぐらいよ!」
「食べてもいいぞ?」
「それじゃ」
白波瀬はウインナーが入ったパンを取り出し、パクッと一口食べて口元を淑やかに隠した。
「流川くんのウインナーから肉汁が♡お口にいっぱいに♡」
「‥‥‥愛莉にもあるぞ!」
「私にウインナーは付いてないわよ」
「そうじゃねーよ‼︎話流したの察しろよ‼︎」
「あら、ごめんなさい」
「まぁいい。はい、プレゼント!」
「ありがとう」
愛莉は目覚まし時計を見て、目を細めて俺を見つめた。
「ありがとう」
「なんなんだよ!不満なのかと思ったわ!」
「学校の日に使うわ」
「そうしてくれ」
お互いにプレゼントを渡し終わると、玲奈はぴょんぴょん飛び跳ねながら、期待の眼差しをして聞いた。
「ねぇねぇ!どっちのプレゼントが嬉しい?」
俺はぶっちゃけどっちでもいい。玲奈が喜ぶ回答を頼むぞ!
「わ、私は、流川くんの‥‥‥」
「へっ、へー、凛先輩は?」
愛莉〜‼︎‼︎‼︎こんな時だけ素直になってんじゃねー‼︎‼︎‼︎不器用なのか⁉︎そうなんだな⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎
白波瀬は玲奈と俺の顔をチラチラ見ながら、なんて言えばいいのか悩んでいるようだった。
「私はー‥‥‥どっちも嬉しい!」
「どっちかじゃないとダメ!」
「え〜、それじゃー、玲奈ちゃん!」
「やったやったー‼︎」
勝負は引き分けになったが、仲のいい白波瀬に選んでもらえて、玲奈は最高に嬉しそうだ。
「んじゃ、俺は部屋でゆっくりするわ」
部屋に戻り、ベッドに腰掛けて携帯をいじっていると、すぐに白波瀬がやってきた。
「どうしたー?」
「私、流川くんのプレゼントも嬉しいわよ?」
「そんなこと言いにきたのか?」
「だって」
「玲奈を選んでくれてありがとうな!でも、今考えたらパンじゃなくて、なにか残る物がよかったよなー」
「パンだと、食べてしまったらなくなっちゃうものね」
「今すぐあげられる物とかないからなー、来年は期待してくれ!」
「私は流川くんがくれた物なら、なんだって嬉しいわよ?」
「そんなことないだろ」
「こうやって、流川くんと暮らせている毎日が、私にとってはプレゼントなの。だから、これからも思い出をちょうだいね」
「思い出かー、んじゃ、いつか四人で遊びに行こう」
「はい!ちなみに、ふ、二人では‥‥‥」
「一年に一回な」
「もう!冷たい!」
「冗談冗談。それよりさ、愛莉がS組を潰そうとしてる集団に狙われてる話だけど」
白波瀬は床に座り、真剣に話を聞いた。
「愛莉はプライドが高いから、なにかあっても助けを求めないと思うんだ」
「それは私も思うわ」
「だから、このことは夢野と秋月にも話すけど、さりげなく愛莉を見張っててほしい。俺達が愛莉のピンチに気づいてやれないとヤバイと思う」
「分かったわ」
「白波瀬も、困ったことがあったらなんでも言えよ?」
「私は大丈夫。このままだと、流川くんはいつか、疲れてしまうと思うわ」
「S組に入った日から疲れてる。白波瀬に冷たく睨まれて、女子更衣室から助けてくれなかったし」
「そ、そんな前の話!」
「今だったら助けてくれんの?」
「当たり前だわ!流川くんがピンチになったら、私がすぐに駆けつける!いじめた人は許さない!」
「本当かな〜」
「疑うならいいわよ。さよなら」
白波瀬はスッと立ち上がり、ドアノブに手をかけた。
「冗談ですよー⁉︎」
すると、白波瀬はクスクス笑いながら振り向いた。
「冗談よ。そんなに必死で、まだ私と話してたかったの?」
「なんか、天沢先生の優しい煽りバージョンみたいな言い方だな」
「似てきたのかしら」
「頼むから似ないで⁉︎」
「大丈夫よ。でも、不満はあるわ」
「え?なに?」
「最近、お仕置きが少なすぎます!」
「そう言われても」
「私も愛莉みたいに脱げばお仕置きしてもらえますか?」
「いやいや」
「ご主人様を興奮させればいいんですか?」
「興奮は常々してます」
「愛莉の露出でですよね!私は、私で興奮してほしいです!」
「は⁉︎このド変態が‼︎」
「あっ♡ダメです♡」
「はーい」
「もっと罵ってください♡」
「メス豚」
「ん〜♡」
「はーい」
そんなこんなで、土日の間は平和にまったり過ごし、月曜日の朝、とんでもない爆音で目を覚ました。
「なんだこれー‼︎‼︎‼︎」
部屋を出ると、白波瀬と玲奈も耳を塞いで部屋から出てきたところだった。
「なんだよこれ‼︎」
「爆発⁉︎」
「目覚まし時計じゃないかしら!」
「はー⁉︎」
急いで愛莉の部屋に走り、部屋に入ると、頭が痛くなりそうなほど目覚まし時計の音がうるさく、止めようとしたが、まったく止まらない。
てか、愛莉はなんで爆睡してんだよ‼︎寝顔可愛すぎるし‼︎口開けてヨダレとかギャップ萌えすぎるし‼︎
「お兄ちゃん!お兄ちゃんってば‼︎」
「はいー⁉︎」
相当大きな声を出さないと、お互いの声が聞こえない。
「早く止めてー‼︎」
「止まらないんだよ‼︎」
「なんで‼︎電池抜いてよ‼︎」
「それだ‼︎」
電池を入れる場所を探しても見当たらず、嫌なものを見つけてしまった。
「ヤバイ‼︎この時計、USB充電だ‼︎」
「なんでそんなの買ったのー‼︎」
「クソー‼︎」
目覚まし時計を持ってお風呂に走り、残り湯に沈めると、数秒は音が鳴っていたが、どんどん変な音になっていき、音は完全に止まった。
「疲れた‥‥‥あーいーりー‼︎‼︎‼︎」
愛莉に対して怒りが込み上げ、部屋に戻り、勢いよく布団を剥いでやった。
「ひゃー‼︎‼︎‼︎」
愛莉はすっぽんぽんで寝ていて、勢いよく布団をかけてやった。
そして、ふと部屋の時計を見ると、まだ午前4時で、更に怒りが込み上げたが、大人しく二度寝をすることにし、それから二時間ぐらい経っただろうか、次は愛莉の声で目を覚ます。
「起きなさい‼︎ねぇ‼︎」
「なんだよ‥‥‥」
愛莉は制服姿で俺の体に跨り、俺の胸ぐらを掴んでいた。
「目覚まし時計壊したわね‼︎」
「当たり前だろ‼︎」
「酷いわ‼︎初めての誕生日プレゼントだったのよ‼︎」
「知るか‼︎‼︎」
「嬉しかったのに‼︎」
「知るか‼︎」
「クズ‼︎」
「知るか‼︎」
「もういい。あの時計は飾りとして大事にするわ」
愛莉は不機嫌になり、俺の部屋を出て行ってしまった。
そんなに嬉しかったのかよ。そのうち、普通の目覚まし時計買ってやるか。
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