下着姿で抱きつかれた理由


白波瀬と寝て目を覚ますと、隣に白波瀬は居なく、一階のリビングから騒がしい声が聞こえてきた。


「あー!玲奈ちゃんダメじゃない!」

「どうしよ!お兄ちゃんに怒られてる!」


朝からなにしてんだ‥‥‥


一気に目が覚め、リビングへ駆けつけると、白波瀬は制服にエプロン姿、玲奈はスイカ柄のパジャマを着て、俺を見て顔を引きつらせながら青ざめた。


「んー?リビングは普通だな。玲奈、なにした?」

「あっ、えっと、凛先輩がね」

「ちょっと玲奈ちゃん⁉︎」

「白波瀬がなんだ?」

米櫃こめびつ倒した」

「‥‥‥おいー‼︎」


キッチンの方を見ると、大量の米が床に溢れていた。


「わ、私じゃ‥‥‥私が倒したわ」


玲奈が倒したのは分かってる。白波瀬の優しさに乗っかって、後からちゃんと分かってるって説明するか。


「白波瀬〜」

「ごめんなさい!」

「まぁ、洗えば食べれるから戻しとけ」

「はい!それで、お仕置きは‥‥‥」


優しさじゃなくて、それ目的かよ‼︎見損なったぞ白波瀬‼︎‼︎‼︎


「ご主人様?」

「玲奈、ハエ叩き持ってこい」

「わ、分かった!」


玲奈は自分の部屋から、一度も使ってないピンクのハエ叩きを持ってきて俺に渡した。


「持ってきた!」

「白波瀬、テーブルに手つけ」

「はい♡」

「おらぁ‼︎」

「あーん♡!」


白波瀬の尻を叩くと、玲奈はゴミを見る目で俺を見つめてきた。


「お兄ちゃん、しばらく話かけないで」

「ち、違うんだ玲奈!」

「話かけないで‼︎」

「はい‥‥‥」


玲奈は不機嫌になるし、白波瀬は余韻に浸ってビクビクしてるし、三人での生活が不安になる朝だ。

それから三人で朝ごはんを食べ、白波瀬と一緒に学校に向かった。


「流川くんと一緒に登校だなんて夢みたい!」

「夢だよ夢。玲奈に嫌われたのは夢」

「まだ引きずっているの?」

「そこそこ傷ついた」

「私でストレス発散してください♡」

「白波瀬のその性癖が原因なんだぞ⁉︎」

「楽しそうに叩いてたじゃないですか♡」

「あー、はいはい」


間違いないけどね⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎でも俺悪くないよね⁉︎多分。


そして、学校に着いてS組にやって来ると、夢野がイチゴミルクを飲みながら携帯をいじっていた。


「あ、俺もイチゴミルク飲もうかな」

「あ!二人ともおはよう!イチゴミルク?あげるよ?」

「マジ⁉︎」

「はい!」


夢野は飲んでいたイチゴミルクを渡してきて、これ間接キスじゃんと思っていると、白波瀬がイチゴミルクを奪って一気に飲み干してしまった。


「ごちそうさま」

「え、凛ちゃん?殴っていい?」

「お断りします」

「まぁまぁ、奢ってやるから行こうぜ」

「行く!」


夢野がガチギレする前に、それを回避する。俺って大人だな。


夢野と二人で一階の自販機にやって来ると、秋月が自販機でジュースを買っていて、目の前でイチゴミルクが売り切れてしまった。


「あっ、おはよう。塁飛くんと夢桜もジュース買うの?ん?夢桜?なにほっぺ膨らませてるの?」

「イチゴミルクを白波瀬に飲まれて、新しいのを買いに来たところだったんだよ」

「そうなの⁉︎ごめん!飲んでいいよ!」

「でも、ポチのがないもん」

「俺はいいって。いつまでもハムスターみたいな顔してるなよ」

「ポチのがない」

「んじゃ俺がもらっていいのか?」

「うん」


なんだこいつ。今日は優しい。


秋月にイチゴミルク代を渡そうと財布を開いたが、秋月はいつもの明るい笑顔で言った。


「お金はいいよ!また今度なにか奢って!」

「分かった」

「ほら夢桜?行くよ?」

「うん。本当凛ちゃん酷い」

「まぁまぁまぁ」


秋月は夢野を励ましながら歩いて行き、俺はその場でイチゴミルクにストローを刺した。


「ねぇ、お話ししない?」


イチゴミルクを飲んでいる時、背後から声をかけられ振り向くと、そこには愛莉が居た。


「愛莉か。話すことなんてなにもないぞ」

「貴方を凛から引き剥がす方法は何パターンもあるのよ?周りを不幸にしないうちに、凛と縁を切ってちょうだい」

「例えば何するんだ?」

「今日の昼休み、保健室に来たら教えてあげる」

「分かった」


教えてくれるなら回避のしようがある。意外と危機感ないな。


「それじゃ、また昼休みに」 

「おう」


昼休みに会う約束をし、S組に戻り、天沢先生が来るのを待った。

朝のホームルームを終えてS組に来た天沢先生は、今日の昼休み以降のことについて説明を始めた。


「えーっと、今日は昼休みが終わったら、学校全体のワックスがけだ。めちゃくちゃ滑って汚れるからな。まぁ、S組は教室と三階の廊下だけでいいから頑張るぞ」

「冬華ちゃんもやるの?」

「先生も全員やることになってる。マジで仮病使おうか悩み中だ」


天沢先生がどうやって教師になれたのか疑問だ。確かに学校に一人は居なきゃいけないようなタイプだけど、疑問だ。


‥‥‥そして昼休みになり、一階の保健室向かう途中、職員室の中から、天沢先生の声が聞こえてきた。


「大丈夫ですか⁉︎」


なにをやらかしたんだか。天沢先生のことだから、なにかやらかしても上手く乗り切るんだろうけど。

特に気にせず保健室に行くと、一つのベッドだけカーテンがかけられていて、中に一人の人影があった。


「愛莉か?」

「えぇ。入っていいわよ」


ベッドのカーテンを開けると、愛莉は白い下着にワイシャツ一枚でベッドに座っていた。


「おいおいおい‼︎」

「ごめんなさい。体が痛くて動けないの‥‥‥ちょっと横になるの手伝ってくれないかしら」

「無理だって!」

「お願い。今までのことは謝るから。体が辛いわ‥‥‥」


嘘はついてなさそうだ‥‥‥表情も辛そうだし。


目を閉じながら愛莉の肩に触れ、ゆっくり愛莉の体を倒すと、体をガシッと掴まれ、そのまま抱き寄せられるようにベッドに倒れてしまった。


「なにしてんの⁉︎」


目を開けると、愛莉は辛そうだった表情から一変し、見下すような表情をしていた。


「今日はお昼休みが終わったら、放課後まで学校全体のワックスがけだったわよね」

「だ、だからなんだよ」

「あれ、滑りやすくて怪我とかしやすいのよね」


その時、保健室の前から、天沢先生と一人の女性教師の声が聞こえてきた。


「なんであんなところにワックスがけの液があったんですかね」

「本当ビックリですよ。天沢先生、わざわざ保健室までありがとうございます!」

「いえいえ!」


愛莉‥‥‥こいつ‥‥‥


「どうする?凛と縁を切るか、社会的に殺されるか選びなさい。時間がないわよ」

「白波瀬と縁を切るつもりはない。離せ」

「そう」


愛莉は絶対俺が離れないように強く俺を抱きしめ、大きな声を出した。


「キャー‼︎‼︎先生助けてください‼︎‼︎」


絶望で声が出なかった。保健室で話すって言ったのも、先生がこのタイミングで来るように仕掛けたのも、全部計算されてたんだ。


保健室の扉が勢いよく開き、天沢先生がカーテンを開けた。


「流川。なにしてんだ」

「先生!」

「愛莉さんから離れなさい!」

「違うんです‥‥‥」


天沢先生の冷静な声、もう一人の女性教師、渡辺先生の怒った声がこもって聞こえる。何にも考えられない。

渡辺先生は教師のなかでも厳しく、あまり意見を曲げないで有名なおばさんの先生だ。


「天沢先生のクラス子じゃないですか?」

「そうです。愛莉、制服を着ろ」

「はい」

「流川、説明できるな」

「‥‥‥」


俺は天沢先生と渡辺先生と教頭先生に、生徒指導室に連れて行かれた。


「流川くん。わけを聞こうか」

「はめらるたんです。俺はあんなことにしません」

「私は流川を信じますよ」  


天沢先生はこんな状況でも俺を信じてくれた。


「天沢先生!さっきの見ましたよね!」

「確かに見ましたが、私達はなぜあの状況になったのかを見ていません」

「下着姿の愛莉さんに抱きついていたことには変わりありません!無期限の停学にしましょう!」

「渡辺先生、少し話が早いですよ。焦りすぎです」

「教頭はどう思うんですか!」

「いやー、私はなにも見ていないからね。お二人の話を聞いて判断するしか」

「弁解の余地はありません!こういう生徒がいると、学校の評判まで下がりかねません!それにこの生徒は両親がいませんし、クレームの心配もありませんよ!」


次の瞬間、天沢先生は目の前のテーブルを力強く叩いて立ち上がった。


「学校をダメにするのは生徒じゃない。アンタみたいなクソな教師がダメにするんだ」

「ク、クソですって⁉︎」

「天沢先生、俺は大丈夫です」


天沢先生が本気で怒ってるとこ、初めて見たな。


「先生同士で喧嘩になっては、らちが明かないですね。流川くん、停学ってことでいいかな」

「はい」

「停学中、反省文を書くように」

「分かりました」

「愛莉さんの気持ち次第では、退学も視野に入れておくんだよ」

「はい‥‥‥」

「ちょっと待てーい‼︎」

「熊⁉︎」


生徒指導室の扉の前から猪熊の声が聞こえ、扉についた擦りガラスにアフロのシルエットが見えていた。


「入りなさい」

「失礼します!」


教頭先生に許可を得て、猪熊は生徒指導室に入ってきた。


「ちょっと待てと言っていたが、なにか話でもあるのかい?」

「俺はS組の三人に、ある頼まれごとをされていた!三人は愛莉を危険視していて、塁飛が愛莉と接触する時は、大体決まって昼休みだから、昼休みの間だけでも塁飛を見張っていてほしいと言われていたんだ!」


俺は差し込んだ一筋の希望の光に、思わず立ち上がった。


「熊!つまり⁉︎」

「録音した音声がある‼︎」

「よっしゃー‼︎先生方、ちゃんと聞いてください‼︎」


その後、猪熊が録音した俺と愛莉の会話の音声で俺の無実は証明されたが、愛莉は停学にもならないという、とんでもない理不尽さを目の当たりにした。


「それじゃ、俺の仕事はここまでだ!塁飛!ジュース奢れよ!」

「おう!」


猪熊は俺の知るどの男よりもカッコいい!今日だけかもしれないけど!


「じゃ、私達も仕事に戻りますかね」


教頭先生が出て行き、渡辺先生が生徒指導室を出ようとした時、天沢先生は渡辺先生の肩を掴んだ。


「流川に謝ってください」


渡辺先生は天沢先生の手を払い、無視して出て行ってしまった。


「あのババア」

「いや、ババアって」

「わりとおばさんだろ」

「まぁそうですけど」 

「ああいう人間は知らず知らずに周りから人が居なくなるからな、ほっとくか。にしても流川」

「はい?」


天沢先生は嬉しそうに俺の髪をぐしゃぐしゃにしながら頭を撫でてきた。


「よかった!」

「うっす」

「三人に礼を言えよ」

「三人には、売店でなにか買って戻りますよ」

「きっと喜ぶぞ!よし、行け!」


それから売店でイチゴジャムのコッペパンを3個買ってS組に戻ると、俺に何が起きたのかも知らない三人は、ジャージ姿でびしょ濡れになっていた。


「なんでびしょ濡れなんだよ」

「ポチ遅い!もうワックスがけ始めてるよ!」

「三人して転んだのか?」

「夢桜が転びそうになって、私と凛にしがみついてきた」

「夢野、反省しろ」

「うるさい!」

「てことで、三人にパンのプレゼントだ!帰ったら食え!」

「プレゼント⁉︎」

「ありがとう!」

「大事に食べます!」


三人は嬉しそうにコッペパンを受け取り、大事にカバンにしまった。


「んじゃ、ワックスがけやるか」

「塁飛くん!そこ危ない!」

「うわっ‼︎」


ちょうどワックスがけの液が塗られた場所を踏んでしまい、よろけて秋月のズボンを掴んでしまった。


「いってー‥‥‥悪い、あきつ‥‥‥きー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


ピンク‼︎‼︎‼︎‼︎


「み、見ないで!」

「ごめんなさい!」

「ポチー‼︎」

「馬鹿‼︎来んな‼︎」

「うわ〜‼︎」

「うっ!」

「ひゃ!」


夢野も滑って転んで俺に抱きつき、ズボンを掴まれていた秋月は尻餅をつき、白波瀬が俺を心配して近づいてきた。


「ご主人様!大丈夫ですか!きゃ!」

「おふ‥‥‥」


白波瀬もわざとか、たまたまか、滑って転び、胸を俺の顔に押し当てた。


「やってるかー?ヤッてんじゃねー‼︎」


天沢先生は、またくだらないツッコミを入れ、俺は心底呆れるしかなかった。


「ローションプレイはまだ早い‼︎」

「ローションじゃねぇよ‼︎」

「秋月、意外と可愛いパンツ履いてんな。濡れて透けそうになってるぞ」

「え、マジ?」

「きゃー‼︎‼︎‼︎‼︎」

「うっ!」


秋月からのビンタは2回目な気がする‥‥‥痛い‥‥‥


それから何度も転びながらワックスがけを終え、クタクタになりながら白波瀬と帰宅した。


「白波瀬、先にシャワー浴びていいぞ」

「はい♡ベッドで待っててくださいね♡」

「本気にするぞ」

「はい♡喜んで♡」

「はいはい、そういうのは付き合ってからな」

「え?」

「ち、違うぞ⁉︎まだ決めたわけじゃない!」

「ビックリさせないで‼︎」

「怒るなよ‼︎」

「もう、シャワー浴びてきます‼︎」

「あ、はい」


白波瀬がシャワーを浴びに行ってすぐに家のチャイムがなり、ドアを開けると愛莉が立っていた。


「なにしに来た」

「上手くやったわね」

「お前の作戦は失敗だったな」

「素直に悔しいわね。でも安心するのは早いわよ?貴方が凛と縁を切るまで、何度でも」 

「今回のことで、先生は愛莉を疑うぞ」

「先生が関与しないやり方なら?」

「‥‥‥」

「それじゃ、また学校で」


愛莉はそれだけ言い残して帰って行き、俺は愛莉がなぜこんなことをするのか考え込んだ。


「る、流川くん⁉︎」


考え込んでいるうちに、お風呂に来てしまっていた。完全にアウトだ。おっぱいだ。

白波瀬はすぐに下と胸を手で隠し、顔を真っ赤にした。


「胸でか」


ここは慌てずに冷静に。


「嫌っ!なんなの!」

「いきなり見られると本気で恥ずかしがるのはなんなの⁉︎」

「こっちがなんなのよ!玲奈ちゃんに言いつけるわよ!」

「いつも喜ぶくせに!」

「いつまでいるのよ!」

「ごめんなさい!」


慌てて風呂を出て、大事な部分は一切見えなかったが、白波瀬の姿を思い出しながらリビングの椅子に座った。


前は風呂で押し当ててきたのに、急にだと、さすがの白波瀬も恥ずかしいのか。ちゃんと女の子だな。


しばらくして白波瀬がシャワーを浴び終わり、バスタオルを巻いてリビングにやってきた。


「ご主人様♡今ならいいですよ♡」

「逆になんでさっきはダメだったんだよ‼︎」

「さ、さっきは流川くんと付き合えたらなーとか、そういうこと考えてて、なんだか急に恥ずかしくなってしまって‥‥‥」

「は!可愛いんですけど‼︎」

「だだっ、だって!」

「ただいま〜‥‥‥」


最悪のタイミングで玲奈が学校から帰ってきてしまった。


「凛先輩、お兄ちゃんと付き合ってるならいいけど、違うんでしょ?」

「え、えぇ」

「んじゃダメだよ」


玲奈!ついに俺が悪くないって気づいてくれたか!


「お兄ちゃんはチャラ男なんだから、凛先輩みたいに綺麗な人は自分を大切にしなきゃ。クズ兄に体なんで見せちゃダメ」

「おい‼︎違うだろ‼︎」

「黙れクズ兄」

「はい」


お兄ちゃんへの信頼はどこへ。

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