こっそりバーベキュー!


白波瀬と愛莉の関係性を知った翌日、白波瀬はいつもと変わらない様子で夢野達と話していて、ひとまず安心だ。

いつも通り天沢先生が来るのを待っていると、教室の扉から顔を覗かせ、ニコニコしながら俺達四人を手招きした。


「冬華ちゃん、どうしたの?」


夢野が聞くと、天沢先生は小さな声で答えた。


「今から学校抜け出して、前できなかったバーベキューしに行くぞ」

「本当⁉︎」

「え、マジ?行こう!秋月も味分かるんだし!」

「行く行く!」

「白波瀬も行くよな?」

「もちろん!」

「あまり騒ぐな。バレたら私が怒られる。お前ら、私の車は分かるよな?」

「はい!」

「車で待ってるから、こっそり乗り込め。流川きゅんは〜♡私の隣ね〜♡」

「よし、みんな!バレないように行くぞ!」

「おいこら流川。無視すんな」


それから天沢先生は先に車に向かい、俺達は一時間目の授業が始まってからS組を出た。

そして靴を履き替えている時、誰かに腕を掴まれて背筋が凍った。


「どこへ行くの?」


腕を掴んだのは愛莉だった。


「ちょっとな。てか、今授業中だろ」

「貴方達も授業中でしょ?」

「アンタには関係ないでしょ。ポチを離して」


やめろ夢野!お前のアホな頭で勝てる相手じゃない!


「まぁいいわ。流川くん、今日も話しましょうね」

「無理!やだ!お前と話すと気が狂う!」


愛莉が目を見開き、ニヤッと笑った時、白波瀬が俺の腕を引き学校を出た。


「白波瀬!まだ靴履いてないんだけど!」

「え⁉︎」


幸い、靴は手に持っていて、その場で靴を履いた。


「凛ちゃん!急にどうしたの?」


夢野も走って学校を出てきた。


「なんでもないわ。早く車に行きましょう」

「秋月は?」

「愛莉ちゃん?の威圧感に怯えて、もう車に乗ってる」

「はやっ‼︎」


それから俺達も天沢先生の車に乗り込んだ。


「よし!レッツゴー!」

「ゴー!」


天沢先生の元気な掛け声で車は動きだし、バーベキューができる広い公園にやって来た。


「この公園でバーベキューするぞ!」

「道具とかあるんですか?」

「全部レンタルだ!どこでもいいから場所取りしてこい!」


俺と夢野がクーラーボックス、秋月が炭を持ち、白波瀬が天沢先生と道具を借りに行った。


「空いてる場所ならどこでもいいんだっけ?」

「みたいだよ?」

「平日だから人少なくていいなー。木の下らへんとか、日陰になる場所にしようぜ」

「さんせーい!」


大きな木の下に荷物を運び、天沢先生と白波瀬を待っていると、二人はバーベキューセットを持ってやって来た。


「よし!流川、火を起こせ!」

「俺やったことないですよ」

「ヤッたことはあるのに⁉︎」

「なんですかね。なんかカタカナが頭に浮かんだんですけど。ちなみにヤッたこともないです」

「プププー!」

「ぶっ飛ばすぞ‼︎」

「あはははははははは‼︎」


まったく。とりあえず挑戦してみるか。


バーベキューセットに炭を入れ、着火剤に火をつけ、団扇うちわで必死に扇いだ。


「塁飛くん頑張って!」

「流川くんファイトです!」

「フレー!フレー!ポーチ!」


三人に応援されたからって簡単に火がつくものでもない。


「流川、もっと毎晩やるみたいに激しく動かせ」

「毎晩はしてねーよ‼︎」

「一昨日は?」

「一昨日はー‥‥‥って、教師がなに聞いてんだよ‼︎」

「まったくよー。貸してみろ」

「は、はい」


天沢先生が団扇を扇ぎ始めると、あっさり炭に火が移ってしまった。


「先生すごい!」

「天才だわ!」

「さすが冬華ちゃん!」


悔しい〜‼︎‼︎‼︎三人の前でいいとこ見せれなかった‼︎


「へっ」

「おい、その顔やめろ」


天沢先生は俺を小馬鹿にするような顔で見てきて、ますます悔しさが増した。

そして天沢先生はコーヒーを手に取り、椅子に座ってコーヒーの蓋を開けた。


「クーラーボックスに肉が入ってる。お前達で好きなだけ食え」

「天沢先生は食べないんですか?」

「私はいいんだよ。お前らのためのバーベキューだからな」

「ダイエット中っすか?」


ニヤニヤして聞くと、いつも怒る天沢先生は、真顔で言った。


「私、スタイルはいいぞ」

「あ、はい。そうっすね」


それから四人で肉を食べまくり、バーベキューをエンジョイし始めた。


「朝ごはん食べたけど、結構食べれるな!」

「まだまだ食べれるー!」

「夢野、食いすぎると太るぞ」

「は?」

「大丈夫よ流川くん。夢野さんは食べた分だけ排出するから」

「ポチに何言ってんの⁉︎そんなに出ないし‼︎てか、全然出ないしー‼︎」

「もう、食事中になんの話してるの?」


秋月、よく言ってくれた。つか、全然出ないはヤバイだろ‼︎あれか?『私、マシュマロが出るんです〜♡』みたいなアイドルのあれか?


白波瀬と夢野は、相変わらず喧嘩するほど仲がいい状態だが、白波瀬もみんなとご飯が食べれて嬉しそうだ。


「白波瀬」

「ん?」

「みんなで食べれてよかったな!」

「えぇ。とても嬉しい!」

「ねぇねぇポチ」

「なんだよマシュマロ」

「マシュマロ?」

「いやなんでもない」


白波瀬と話している時に夢野に話しかけられ、夢野は焼いてもいないピーマンを丸ごと一個紙皿に乗せ、地面に置いた。


「餌だよ♡」

「白波瀬、餌だ」

「はい♡ありがたくいただきます♡」


いい回避方法を見つけてしまった。


白波瀬は四つん這いで『はぁはぁ♡』言いながらピーマンに顔を近づけたが、夢野に制服を引っ張られた。


「何してるの‼︎それはポチの‼︎」

「私はご主人様のポチだから、間違いではないわよ」

「何言ってるのー‼︎」

「塁飛くん♡」

「ん?」


秋月に声をかけられ振り向くと、秋月は箸で焼いたウインナーを持っていた。


「あーん♡」

「じ、自分で食うよ」

「あーん!」

「分かった分かった」


秋月にウインナーを食べさせてもらい、白波瀬と夢野が怒るんじゃないかと思ったが、二人はピーマンの取り合いに夢中だった。


「美味しい?♡」

「んっ、美味かった」

「私が一回口に入れたやつ♡」

「飲み込んでから言うなよ‼︎」

「えへへー♡」

「えへへじゃねーよ」

「んじゃ、うへへー♡」

「そうじゃない」

「ぐへへ♡」

「違う」

「ニヒヒ♡」

「もういいわ」


秋月がたいして可愛くない女子生徒だったら、女だろうが殴るか殴らないかのギリギリのラインだ。要するに、秋月ならいい‼︎大歓迎‼︎幸せいっぱい夢いっぱいおっぱい‼︎

最後のおっぱいに関しては意味が分からないと、自分で思ってなんだか恥ずかしくなった。


それからみんなお腹いっぱいになり、天沢先生は椅子に座りながら寝ていて、俺達は天沢先生を起こさないように公園で遊ぶことにした。

美少女だろうが、大人びてようが女子高生。三人は楽しそうに遊具で遊び、俺はブランコに乗ってそれを眺めていた。そして三十分ほど経った頃、天沢先生から電話がかかってきた。


「もしもし」

「ほひほひ〜ふぁー」


あくびをしながら喋る天沢先生からは、声だけで疲れを感じられる。


「眠そうですね」

「うん。そろそろ学校に戻るぞー」

「あ、今そっち戻ります」

「よろしくー」


電話を切り、ジャングルジムでパンツ丸見えの夢野と秋月、黒タイツ越しに白パンツが見えちゃってる白波瀬に声をかけた。


「おーい!帰るってよ!」

「今行くー!」


夢野は相変わらず元気で、秋月も肉を味わえて、白波瀬も元気を取り戻したし、いいバーベキューになった。

ただ最近、こういう良い結果になることを見越した、天沢先生のやり方なんじゃないかと、天沢先生がただのアホ教師じゃないような気がしている。

俺が目眩を起こした時も、すぐに俺を支えに来たし、天沢先生は、ずっと俺達を見てるのかもしれない。そう思いながら天沢先生の元へ戻ると、天沢先生は椅子に座りながらヨダレを垂らし、綺麗なお腹を出しながら二度寝していた。その姿を見て、さすがに俺の考えすぎだと感じた。この人がそこまで深く考えてるはずがない。


「天沢先生、帰りますよ」


体を揺らして起こすと、天沢先生は寝返りを打って椅子から落ちてしまった。


「いったーい‼︎‼︎‼︎」

「冬華ちゃん大丈夫⁉︎」

「先生!」

「あぁ、大丈夫だ。後片付けして帰るぞ」


全員で後片付けを済ませて学校に戻ると、校門前で教頭先生が待っていた。


「あちゃー」

「天沢先生、これヤバくないですか?」

「ヤバイな。まぁ、私がなんとかするよ」


車の窓を開け、天沢先生がペコッと教頭先生に頭を下げると、教頭先生はピリついた態度で言った。


「何度目ですか」

「ま、まぁまぁ教頭先生。その話は二人でしましょう」

「すぐに職員室に来なさい」

「はい。お前らはS組で自習してろ」

「分かりました」


車を降りてS組に戻ってくると、天沢先生の椅子に愛莉が座っていた。


「なにしてんだ?」


愛莉はこっちを見ずに、真っ直ぐ前を見て答えた。


「ダメよ?先生と仲良くしすぎると、他の生徒の保護者が黙ってないんだから」

「教頭先生に言ったのは愛莉か?」

「さぁ?私が言わなくても、問題になるのは時間の問題だったと思うわよ?」

「天沢先生は、ちゃんと許可を取って、俺達の単位の為にやってるんだ」

「そうだよ!冬華ちゃんは悪くない!」

「そ、そうそう!」


今日のバーベキューはこっそりだったから、まずかったのかもしれないけど。


「凛もそう思うのかしら?」

「貴方には関係ないわ。S組から出て行って」

「そうね。出て行くわ」


愛莉はS組を出ようと俺とすれ違う瞬間、小さな声で囁いた。


「クビにならないといいわね」


一気に不安に襲われたが、愛莉が出て行って数分後、天沢先生は笑顔で戻ってきた。


「早かったですね」

「適当な言い訳並べたら許してくれた!」

「さすが冬華ちゃん!」

「まぁな!」


夢野、こんな人を見習っちゃダメだぞ。でも、クビにならなくてよかった。

それに愛莉‥‥‥あいつは今までの奴らとは違う。ジワジワと計画的にS組を潰そうとしてる。俺と付き合おうとしたり、全然考えが読めない。


「天沢先生」

「なんだ流川」

「ちょっと話したいことがあるんですけど」

「えー、教頭と話したばっかりなのにー。ダル〜」

「生徒と話すのにダルってなんだよ‼︎」

「はいはい、屋上行くぞー」

「はい」


天沢先生と屋上にやってくると、天沢先生はダルがっていたとは思えない、真剣な表情をした。


「どうした」

「愛莉のことです」

「なんだ?」

「愛莉の抱えているものを教えてください。早くなんとかしないと、大変なことになる気がします」

「愛莉のこと、どこまで知ってるんだ?」

「白波瀬と双子ってことぐらいです」

「よくそこまで聞き出せたな。でも私は答えを出さない」 

「またですか!このままじゃ、本当にヤバイですよ⁉︎」

「人はな、優しさが空回りしたり、目的のためなら、時に悪にもなれるんだぞ」

「天沢先生のことですか?愛莉のことですか?」

「私は優しくて天使だろうが!」

「天使ではないです」

「んじゃなんだ」

「握力ゴリラ。ゴリラだから胸叩いて小さくなっちゃったんですよね」

「私も、傷つくことだってあるんだぞ」


天沢先生はいつもとは違い、切ない表情で屋上からの景色を眺めた。


「な、なにかありました?失恋とか」

「バーカ。私がその気になれば、どんな男もイチコロだっつうの。だから失恋はない」

「んじゃどうしたんです?なんか今日の天沢先生、気持ち悪いですよ」

「あれだなー」

「なんだな?」

「ぜーんぶ解決したら、流川のお願い、なんでも一つ叶えてやるからな」

「なんでもって、なんでもですか?」

「エッチなお願いは高校卒業してからにしてくれ」 

「はい⁉︎」


いや、エッチなお願いでもいいのかよ‼︎狂ってるよこの教師‼︎‼︎‼︎


「ちなみに、そういうお願いをする予定なら、初めての女を抱くんだから、将来の責任もセットで付いてくるからな」

「重いわ‼︎」

「ハッピーセットだろ」

「ハッピーなのは天沢先生の頭だけだよ‼︎」

「とにかく、私が言ったことを忘れるな。悪にもなれるってことは、元はなんなんなのか、考えれば簡単だろ?じゃ、教室戻るぞー」

「は、はい」


明日は祝日だし、いろいろ考えてみるか。

本当夢野はいいよなー。隠し事がサワガニと俺を好きってことだけで。白波瀬とは、たまに一緒にご飯食べてあげれば問題ないぐらいに思ってたのに‥‥‥こういう時こそ秋月や夢野、猪熊や杏中に頼るべきなのかな。

頼るのも簡単じゃないけど。

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