揉める時に揉んでおけ‼︎


「制服着たから、もう見て大丈夫よ」

「ありがとう」


安心して謎の少女を見ると、パンツとスカートだけを履き、上半身はワイシャツ一枚で、ボリューミーな胸にワイシャツが引っかかり、絶妙に見えないエロさを出していた。


「はい‼︎アウト‼︎」

「見たわね」

「見せたんだろうが‼︎」

「そうね」


そう言って、また俺に背を向けてブラを着け、ちゃんと制服を着始めた。


「見たことを言いふらされたくないなら、貴方が隠していること。貴方の1番痛い部分を教えてちょうだい」

「それを知ってどうなる」

「知りたいのよ。平然とした態度で振る舞い、一見元気に見える貴方の瞳が、どうしてそんなにも曇っているのか。とても興味があるわ」

「そう言うお前は、なにを抱えてるんだ」

「そうやって、人の質問に質問で返すのやめた方がいいわよ」

「俺にだって話したくないことがあるんだよ」

「だから聞きたいのよ。人の不幸は蜜の味でしょ?」


俺は、謎の少女の発言と行動の矛盾に気づき、そこを突くことにした。


「人の不幸は蜜の味とか言って、張り出された写真を集めて持ってきてくれたじゃんか」

「貴方、人間観察とか好き?よく性格悪いって言われないかしら」

「多分、お前よりは言われてない」

「ふふっ。貴方面白いのね」


謎の少女は俺に近づき、俺の体を押して椅子に座らせると、力強く俺の顎を掴んだ。


「ますます壊したくなったわ」


嫌だこの子。怖い。


謎の少女は顎を掴んだまま話を続けた。


「なにを隠しているの?友達のこと?家族のこと?自分のコンプレックス?過去になにかあったの?ねぇ、教えてちょうだい」

「家族‥‥‥」


今まで感じたことのない、圧倒的な威圧感のようなものを感じ、思わず教えてしまった。


「家族?家庭環境が悪いの?家族と喧嘩?お父さんの不倫とかかしら」

「これ以上は言わない」


謎の少女は俺の顎から手を離し、ニヤッと微かに笑った。


「今日はここまでにしてあげる。お礼に下の名前だけ教えてあげるわ」

「おう‥‥‥」

「私の名前は愛莉あいり

「愛莉か。了解」

「それじゃ、また明日ここで待っているわね」


愛莉あいりは調理室を出て行ってしまった。

その直後、俺は呼吸が荒くなり、激しい目眩に襲われ、誰かに体を支えられたと思えば、天沢先生の声が聞こえてきた。


「流川、しっかりしろ。悪かったよ」

「無い胸が当たってます」

「おらぁ‼︎」

「うっ!」


天沢先生は心配しといて、平気で俺の腹を殴った。


「大丈夫か?」


殴っといて『大丈夫か?』はおかしいだろ‼︎


「水‥‥‥ください」

「待ってろ」


天沢先生は調理室にあったコップに水道水を入れて渡してくれた。


「ほら、飲め」


コップの水を一気に飲み干して、俺は落ち着きを取り戻した。


「はぁー」


口についた水を制服で拭き、S組に戻ろうと立ち上がると、天沢先生は俺の体を掴んで座らせた。


「まだ座ってろ」

「もう大丈夫ですよ。むしろ、なんかあの三人に会いたくなりました」

「珍しいな」

「いつもと変わらない日って感じを味わいたいんですよ」

「そうか。なら行け」

「はい」


S組に戻ると、白波瀬と夢野は秋月の携帯を覗き込んでいて、ゲームのBGMが聞こえていた。


「なんのゲームだ?」

「あ、流川くん!見て!秋華さんね、プロゲーマー目指すんですって!」

「そうなのか⁉︎」


俺も秋月の携帯を覗き込むと、ただただ犬を愛でるゲームに夢中になっていた。


「なぁ、夢野」

「ん?」

「友達ならちゃんと言ってやれよ」

「なにが?」

「いや、見ればわかるだろ」

「あぁ!うん!秋華ちゃん!プロゲーマーになってね!応援する!」

「ありがとう!」


そうじゃねーよ‼︎‼︎‼︎この教室は馬鹿しか居ないのか‼︎‼︎‼︎犬愛でてプロゲーマーになれるわけねぇだろ‼︎‼︎‼︎‼︎でも、この感じが安心する。愛莉と話してると、本当に心が壊れそうだ。


それから自分の席で、ゲームに夢中な秋月を見ていると、目の前に居る白波瀬から『なにかあった?』とメッセージが届き『屋上に来てくれ』とメッセージを送って教室を出た。


屋上のベンチに座って白波瀬を待っていると、白波瀬はすぐに屋上にやってきて隣に座った。


「どうしたの?」

「この前、白波瀬が言い合いになった黒髪の生徒いるだろ?」

「う、うん」

「さっき、あいつと話したんだよ」


話を続けようとした時、白波瀬は俺の肩を寄せ、自然と膝枕をしてくれた。


「し、白波瀬?」

「何も言わなくていいわ。少し休憩しましょう」

「白波瀬は、あいつのこと何か知ってるのか?」

「‥‥‥きっと、誰よりも知っているわ」

「どういうことだ?」

「あの人とまともに話した人は、心が壊れてしまうの。だから今は何も考えずに休んで。それともおっぱい揉む?」

「うん、揉む。間違えた。いきなりなんだよ」

「ご主人様に元気になってもらいたくて。もちろん、違うところが元気になっても、私は全力を出します。なので、ご主人様も全力で出してください」

「元気をだよな⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


俺が素早く飛び起きると、白波瀬は嬉しそうに「ふふっ」と笑った。


「なんだよ」

「元気になりましたね♡」


白波瀬の下ネタは計算だったってことか⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎


「白波瀬」

「はい♡」

「優しいな」


白波瀬をシンプルに褒めると、頬を赤くして俯いてしまった。


「ご、ご主人様が元気になればそれでいいんです」

「そうか。ありがとう」


その時、屋上の扉が開き、一瞬で嫌な気配を感じた。やっぱり、やって来たのは愛莉だった。


「あら、お二人でなにをしているの?」

「愛莉こそなにしに来た」

「ちょっと屋上の風を直に浴びようと思って」


屋上で脱ぐんですか⁉︎そうなんですね⁉︎


白波瀬は愛莉に近づき、静かな声で言った。


「流川くんになにをしたの。もう流川くんに近づかないでちょうだい」


すると愛莉は人を見下すような目でニヤッと笑い、白波瀬の左頬に優しく触れた。


「あの人が好きなのね。やめておきなさい?また、いらない子だって、捨てられてるわよ」

「‥‥‥」


白波瀬は脚を震わせ、走って校内に戻ってしまった。


「白波瀬⁉︎愛莉、なんで白波瀬の過去を知ってるんだ」

「やっぱり、私のことは何も聞いてないのね」

「‥‥‥」

「教えてあげるわ。私の苗字は‥‥‥白波瀬よ」

「‥‥‥は?」

「私達は双子の姉妹なの。二人で一緒に暮らしているのよ?なのに家では一言も喋らない。お互いに空気以下の存在」

「ちょ、ちょっと待て!双子⁉︎」

「そうよ」


どうりで雰囲気とか似てるわけだ‼︎二人とも変態だし‼︎‼︎おっぱい大きいし‼︎変態だしー‼︎‼︎‼︎


「それに、私は貴方を前から知っている」

「前から?」

「凛にストラップをあげたでしょ」

「見てたのか?」

「えぇ」


んじゃやっぱり、俺が白波瀬にストラップをあげてたのか‥‥‥なにこれ運命じゃね⁉︎

今更自覚した。


「とにかく、俺は白波瀬のとこに行ってくる」


扉に向かって歩き出すと、愛莉は俺に抱きつき、右頬にキスをした。


「なーにー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「凛じゃなく、私にしない?」

「い、いきなりなんだ⁉︎」

「私と付き合ってと言っているの」

「言ってなかったよね‼︎」

「凛と付き合うなんて許さないわよ」

「なんでだよ」

「ほら、私の体好きにしていいわよ」


愛莉は俺の手を掴み、手を胸に押し当てた。


「なっ⁉︎」

「貴方は私を好きになる」


経験上、こういつ奴の言葉には裏がある。でもなぜだか、感じた威圧感ほど悪い奴じゃない気もしてならない。


「好きになる。好きになる。好きなる」


愛莉の目を見ていると、不思議と吸い込まれていく感覚になり。このまま身を委ねたくなる。その方が楽だと感じるからだ。


「貴方は私なしじゃ生きられない。全てを私に頼り、凛なんて興味も無くなる」

「いや、それは」

「そうなることは決まっているの。私がそう決めたから」


愛莉の考えを読み取れ‼︎じゃないと、本当に吸い込まれる‥‥‥てか、さっきから胸触ってるけど大丈夫かこれ。自然とモミモミしちゃってるけど‼︎‼︎‼︎いや、揉みながらでも考えろ‼︎揉める時に揉んでおけ‼︎


「明日も必ず会いに来て。いいことしてあげるから」


そう言って、愛莉は校内に戻って行き、俺は手に胸の感触を残しながら白波瀬の元に行き、何も話したがらない白波瀬と一緒に、昼休みが終わるまで本を読み続けた。

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