露出少女


誕生日の翌日、学校の下駄箱を開けると、大量の紙が雪崩のように落ちてきて、それを見た瞬間、俺の体は小刻みに震えた。

紙には赤い字で【愛してる】と書かれていて、下駄の中に残った紙を全て出すと、中には小さな箱があり、箱の中には指輪と【誕生日おめでとう♡】と書いた紙が入っていた。


こんなことするの琴葉しかいない‥‥‥


指輪の入った箱を手に取った時、背後に嫌な気配を感じた。


「愛してる。愛してる。愛してる‥‥‥」

「ひぃ!」


琴葉はいつの間には真後ろにいて、俺を下駄箱に追いやった。


「最近、るっくんが相手してくれなくて不安だったんだ。でもよかった。指輪受け取ってくれたんだね」

「え、とりゃ‼︎」

「あー‼︎‼︎‼︎‼︎」


俺は手に持っていた指輪を箱ごと外に投げ、全力でS組に走った。


「おはよう!」

「ポチ、やっと来た。なんで電話に出なかったか説明してもらおうか」

「夢野!そんなことより、時期に琴葉が来る!俺は掃除用具入れに隠れるから、教室には来てないって言ってくれ!」

「え?」

「頼りにしてるぞ!」

「え、う、うん!」


急いで掃除用具入れの中に隠れ、空気穴のような、ちょうど目線の高さにある横長の五本線の隙間から様子を伺った。

するとすぐに白波瀬と秋月が教室にやってきて、俺の下駄箱の前が大変なことになっていたと会話をし始めた。


「全部の紙に愛してって書いてたよー」

「あれはさすがにゾッとするわね。一種の呪いよ」

「私も見たかったー」

「あんなの見ない方がいいわよ」


そして、予想通り琴葉はやってきた。


「ねぇ、るっくんは?」

「教室には来てないですよ?」

「本当に?」

「は、はい」


心臓の音でバレてしまうんじゃないかってぐらい心臓がバクバクしていてるが、夢野の演技を信じるしかなかった。


「そうかー。るっくん来てないんだー」


なんで近づいてくんの⁉︎バレてんの⁉︎


そして琴葉は、掃除用具入れの前で立ち止まり、横長の空気穴越しに俺と目が合った。

外側から中は見えないはずだ‥‥‥落ち着け‥‥‥


「るっくんが居ないなら仕方ないね」

「そ、そうですよ。他を探してみたらどうですか?」

「この掃除用具入れからはみ出してる黒いのはなに?」

「え?」


ひゃー‼︎‼︎‼︎制服挟まってるー‼︎‼︎‼︎


「ゴミですよゴミ」

「そうなんだ」


琴葉の目が怖い。完全に俺が見えてるみたいな目力だ。


「るっくんが来たら伝えておいて。私を騙せると思わないでねって」

「は、はい‥‥‥」


絶対バレてる〜‼︎‼︎‼︎


琴葉はS組を出ていき、俺が掃除用具入れから出ようとした時、秋月が深刻そうな顔で二人に話しかけ始めた。


「二人に相談があるの」

「なにかしら」

「なに?」

「私、味覚が戻ったの」


は?今なんて‥‥‥?マジなの⁉︎すげー‼︎


「凄いじゃん!」

「おめでとう!」

「違うの!戻ったんだけどね、私、塁飛くんとお昼を食べれるのが嬉しくて、弁当を作ってくれることが嬉しくて‥‥‥治ってないって嘘ついちゃった」

「そう‥‥‥でもきっと、私でも同じことをしたわ」

「わ、私もだよ!‥‥‥」


夢野は不安そうな表情で俺の方を見つめ、俺は夢野のためにも、秋月のためにも、今掃除用具入れから出ることにした。


「や、やっほー‥‥‥」

「塁飛くん⁉︎き、聞いてた?」

「おう!治ってよかったな!てことで、今日も一緒に食おうな!」

「どうして?私は塁飛くんを騙したんだよ?」


秋月は今にも泣きそうな表情で、声を震わせた。


泣くな秋月。胸が苦しくなる。今は涙を堪えてくれ。


「でもな秋月、お前はそれに罪悪感を感じて、なんとかしようとしたんだろ?」

「そうだけど‥‥‥」

「ならそれでいいじゃんか!な?夢野?白波瀬?そう思うだろ?」

「思う思う‼︎」

「思うわ!当然よ!」


秋月は涙ぐんで俺の胸に飛び込んできた。


「秋月⁉︎」

「ごめんなさい‥‥‥」


その時、俺の目に飛び込んできたのは、教室の扉の隙間からこちらを見る琴葉だった。

恐ろしい目つきで『みーつけた』と口を動かし、俺の体は完全に固まってしまった。


「あ、あっ、あああ秋月」

「ごめんなさい、ごめんなさい‥‥‥」

「ゆ、許してやるから離れてくれないか?今、グングン生命線が縮んでる気がするんだ」

「よ、よく分からないけどごめん」

「もう大丈夫だから」


秋月が俺から離れると、琴葉もその場を離れていった。


殺されると思ったー‼︎‼︎‼︎‼︎


そしてお昼、約束通り秋月と調理室にやってくると、謎の少女はサンドイッチを食べていた。


今日は話しかけてきませんよーに。


「ねぇ」


話しかけられたー‼︎‼︎‼︎


「私、人の闇に興味があるの。貴方の闇を教えて」

「だから、俺はなにもないって」

「私の目は誤魔化せないわよ。天沢先生も、貴方の闇には気付いているはずよ?」

「天沢先生が?」

「じゃないとS組に入れたりしないはずだもの」

「いや、天沢先生が俺をS組に入れた理由は他にある。知ったようなこと言うな」

「それは、貴方が天沢先生を知った気になっているだけじゃなくて?」

「それは‥‥‥」

「塁飛くん。本当は何か隠してるの?」

「そ、そんなわけないだろ⁉︎ほら、食べようぜ!」


天沢先生が俺の隠していることを知っているわけがない。とにかく、昼休みに調理室に来るのは今日で最後だ。


「塁飛くん?ボーっとしてるよ?」

「あぁ、大丈夫だ。美味いか?」

「うん!美味しいよ!」

「今度は秋月が弁当作ってくれよな!」

「うん!任せて!絶対作る!」

「おう!楽しみにしてる!」


昼ごはんを食べ終わり、S組に戻る途中、俺は缶コーヒーを持つ天沢先生に声をかけられた。


「流川、ちょっと来い」

「え、はい。悪いな秋月、先行っててくれ」

「了解!」


天沢先生は俺を生徒指導室へ連れて行き、ソファーに座らせた。


「俺、なにか怒られることしましたっけ」

「あぁ、お前は悪だ‼︎流川‼︎」

「えぇ⁉︎」

「冗談だ‼︎」

「ですよね⁉︎」

「あいつと何度か話したか?」

「あの黒髪の?」

「そうだ」

「話しましたよー」

「どうだ。怖いだろ」

「怖いってか、危険だと思いました」

「あいつは口が達者なだけじゃなく、人の闇に躊躇なく足を踏み入れてくる。流川」

「はい」

「壊されるなよ」

「‥‥‥天沢先生は、俺のなにをしているんですか?」

「担任だったら知ってるだろうってことぐらいだ」

「三人を救うために俺をS組に入れたのは嘘なんですか?」

「私は嘘をついても、すぐに嘘と言う女だ。だから嘘じゃない」

「頭こんがらがる言い方しないでくださいよ」

「まっ!あいつのことも頼むわ!」

「は⁉︎」

「三人を手懐けたんだからいけるだろ」

「無理ですよ‼︎三人は運がよかっただけですから‼︎」

「ドンマイ!」

「なんでいつも他人事なんだよ‼︎」

「だってお前ら、全員他人じゃんか」

「そういうことじゃないですよ」

「あははははははは!」

「いや、笑うとこおかしいだろ‼︎」


でもこの人、高校の教師なのに、全教科一人で教えてる、スーパー教師なんだよな。本当、謎な先生だ。


「とにかく、気をつけながら話してみろ」

「気をつけながらねー」

「話は終わり!消えろ‼︎」

「消えろってなんだよ‼︎‼︎‼︎」

「あははははははは!」 

「はぁ‥‥‥」


天沢先生との話も終わり、俺は廊下で考え事をしていた。

あの人もS組に誘われてるってことは、何かあるんだよな。話だけでもしてみるか。


まだ調理室にいるかと思い、一人で調理室にやってくると、調理室のテーブルの上に制服と黒い下着が脱ぎ捨ててあり、謎の少女は俺に背を向け、ワイシャツを広げていた。


「‥‥‥は⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「あら、戻って来たの?」

「馬鹿!振り向くな!」


謎の少女は平然と振り向き、俺はとっさに顔を伏せた。


「馬鹿だなんて失礼ね」

「なななななーんで脱いでんの⁉︎」

「気持ちがいいからよ?」


露出狂だ〜‼︎‼︎‼︎‼︎どうしてこの学校の美少女は、どいつもこいつもこうなんだよ‼︎‼︎‼︎


「顔を伏せるなんて、意外と紳士な面もあるのね」

「い、いいから服着てくれ!」

「なぜ貴方に命令されなければいけないのかしら、私が裸のタイミングで、勝手に入ってきた身で」

「ここ学校だぞ⁉︎」

「だから?」


こうやって、このまま大人になった人間が捕まってるのか‥‥‥はぁ‥‥‥とにかくあれだ、ガッツリ見たい。


「頼む、着てくれ」

「私の裸を見たのだから、私と話していきなさい」

「見てねーよ⁉︎⁉︎⁉︎」


ちょっと尻が見えただけだよ⁉︎ちょっとだよ?本当だよ?

まぁ、話せるなら好都合だな!

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