イッたのか⁉︎


翌朝学校に行くと、猪熊が慌てた様子で話しかけてきた。


「塁飛!早く来い!」

「なんだよ、そんなアフロ揺らして。じゃなくて慌てて」

「なんていうか、S組のあまり良くない写真が大量に張り出されてる」

「あー、なるほど。白波瀬と夢野はどうしてる?」

「剥がして回ってる」

「熊も手伝ってくれ、できれば杏中にも言っといてくれると助かる」

「分かった!」


天沢先生はなにしてんだ‥‥‥


廊下の壁中に、大きくプリントされた写真が大量に貼ってある。写真と一緒に文字の書かれた紙も貼られていて、読んでみると『流川塁飛の命令で、いやらしことをさせられるS組の女子生徒』と書かれていた‥‥‥


「ん?はー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


だからさっきから、みんなが俺を見てるのか。酷すぎるよ‼︎そんなのってないよ‼︎いやらしいことされてるのって、いつも俺の方じゃん‼︎


「るっくんるっくん‥‥‥」


振り返ると、琴葉が目を見開き、怒りに体を震わせている様子だった。


「私以外の女の子で興奮するなんて嘘だよね。この写真撮った奴が悪者だよね」

「そ、そうなんだよ!なんとかしてくれよ!会長だろ?」

「今は選挙活動中。会長は学園祭が終わるのと同時に終わったでしょ」

「そうだったな」

「悪者捕まえたら、るっくんは私と結婚してくれる?」

「しない。とりあえず探せ」

「どうして?るっくんには私が必要でしょ?結婚したいでしょ?」

「は、話はしてやるから、とにかく探してくれ」

「怪し人とか知らないの?」

「怪しい四人は知ってるけどー。あ、あの四人」


ちょうど四人が通りかかり、俺が指差すと琴葉は凄まじいスピードで四人のうちの一人を押し倒した。


「な、なんですか⁉︎」

「写真貼ったの君達だよね」

「違いますよ!」

「正直に言って」

「ひぃ!」


琴葉はポケットからカッターを取り出し、女子生徒の顔に刃を向けた。


やりすぎでしょー‼︎‼︎‼︎‼︎犯罪だよ⁉︎それ犯罪ですよ⁉︎


「次嘘ついたら分かるよね?」

「せ、先輩!私達は本当にやってないです!」

「私はこの子に聞いてるの」

「本当にしてません‥‥‥」

「そうなの⁉︎ごめんね?」

「はい‥‥‥」


四人の女子生徒は逃げるように走っていき、俺は琴葉のオデコに連続でデコピンをした。


「いたーい!」

「やりすぎだ‼︎」

「だってー」

「もういい。琴葉も写真を剥がしてくれ」

「分かった!」


さっきの反応、本当にあの四人はやってないのか?


「塁飛くん!」

「秋月か」

「大変だよ!」

「あぁ、大変だな」

「早く剥がさなきゃ!」

「秋月は白波瀬と夢野を連れてS組で待機してろ」

「塁飛くんは?」

「俺が剥がしとく」

「分かった。頼んだよ」 

「おう」


俺はわざとゆっくり写真を剥がした。犯人が犯人らしく見に来ることを考えたからだ。

だが、怪し人は見当たらないまま写真を全部捨ててS組に戻った。


「全部剥がしたぞー」

「お疲れー!」

「天沢先生、なに呑気に座ってるんですか。ぶっ飛ばしますよ」

「いやん♡」 

「は?」

「そんな怒らないでくれよ。私だって、相手のやり方は気に食わない。まぁ、とりあえず座れ。私から四人に話がある」


言われた通り席に着くと、天沢先生は立ち上がって話を始めた。


「誰かに敵意を向けられるのは、お前達が羨ましいからだ。確かにS組は生徒に甘いとこもある。でも、ちゃんと授業は受けてるし、テストも受けている。やるべきことはやっているんだ。自分達は間違っていないと自信を持て」


たまにまとものこと言うよなー。天沢先生って、どんな人生歩んできたんだろ。


「話はそれだけだ。ポジティブにいこうな!」


そう言って、天沢先生は教室を出て行った。

それから数分後、調理室で会った黒髪の女子生徒がS組にやってきた。


「剥がし忘れがあったわよ」

「わざわざありがとう」

「貴方達、あまり気にしていなさそうね」

「冬華ちゃんがいいこと言ってくれたから!」


そう夢野が言うと、黒髪の女子は表情を変えず、相変わらず冷たい目で話を始めた。


「そう。まぁ、高校生にもなって、嫉妬で人を陥れようとする人間は、社会に出て気が狂うか、まず社会に出れないわ。世の中には自分より上の人間、自分より楽してるのに立場が上の人間なんて山ほどいるのだから。その点、貴方達はラッキーね」

「どうしてだ?」

「人の汚さを知っておけば、いろんな場面で役に立つわ。人の汚さを知った気になって、自分のことは棚にあげるメンヘラは例外だけれど」

「おい、メンヘラに喧嘩売るな。ヘラったらどうすんだよ。てか、名前教えてくれよ」

「なぜ?」

「これからも話すかもしれないだろ」

「私は話す気がないから遠慮するわ」


なにこの人‼︎感じ悪っ‼︎別いいし⁉︎美少女の友達なら三人で足りてるし⁉︎


「社会に出たらどうのこうのと、偉そうなこと言う割に、名前も名乗れないなんて論外ね」


白波瀬が黒髪の女子生徒に反抗し始め、二人とも感情が読めない冷たい目で見つめ合い、俺は、ぶつかってはいけない二人がぶつかったような気がして顔が引きつった。


「はじめましての人に、急に突っかかってくる貴方もね」

「そうやって私を煽った時点でお互い様よ?少し頭が弱いのかしら」


俺は夢野を見て『止めろ』と目と頭の動きで訴えた。


「ふ、二人ともストップ!喧嘩しないで!」


よく言った夢野!お前はやればできる子だ!


「そうね。悪かったわ」

「白波瀬も謝れ」

「悪かったわね」

「私は写真を届けに来ただけたから、戻るわね」


止めなきゃとは思ったが、同時に、白波瀬とこの謎の少女が言い合いになったら、どっちが勝つのか見たくもなった。


「なぁ白波瀬」 

「ん?」

「お座り」

「わん♡」


よし、白波瀬の機嫌も直ったし、座ってゆっくりしよ。


席に着くと、白波瀬は頬を赤らめて四つん這いで歩いてくるが、当たり前のように夢野に座られて動きが止まった。


「ちょっと夢野さん!」

「別にいいじゃん。それよりどうするの?犯人捕まえなきゃでしょ」

「三人とも、今回の件で傷付いたか?」

「私は大丈夫です!」

「私も特に。秋華ちゃんは?」

「全然平気。少しイラッとしたぐらい」

「だよねー」

「んじゃ、ほっとこうぜー」

「なんで⁉︎」

「反応すると喜ぶだろ。こんなことする人、思考がバブちゃんなんだから」

「それもそっか」


本当にバブちゃんだ。反応したら喜んで反応を返してくる。無視すれば泣き叫ぶように、激しくアピールしてくる。エスカレートするのはまのがれないだろうが、そうすれば犯人も見つけやすくなる。

でも、本当にS組を潰すことが目的だろうか。あの写真とあの文章だと、俺を陥れようとしてるとしか思えない。


その時廊下から、いじめをしていた先輩の怒った声が聞こえてきた。


「おらぁ‼︎来いよ‼︎」


先輩は、一人の男子生徒の後ろ首を掴んでS組に入ってきた。


「流川!こいつが犯人だ!」

「え」

「携帯見ながらニヤニヤしてたから、携帯覗いたら、張り出されてた写真と同じ写真が携帯に入ってやがった」

「先輩ナイス!」

「こ、これくらい余裕だ」


先輩は夢野にナイスと言われて本気で照れている。それによく見たら、この男子生徒、元同じクラスだ。


「なんでこんなことしたか言ってみろ‼︎」

「す‥‥‥だったんです」

「あ?」

「好きだったんです‼︎」

「流川のことが⁉︎」

「なんでだよ‼︎先輩だけどもう一回言わせてくれ、なんでだよ‼︎」

「秋月さんのことが好きだったから!なのに、この男は秋月さんとずっと一緒に居て!ムカついて‥‥‥」


秋月‼︎そんな汚物を見るような目で見ないであげて⁉︎彼も人間だよ⁉︎


「それで、この男が学校から居なくなるか、S組が無くなれば秋月さんと男を引き剥がせると思って‥‥‥」


その瞬間、三人の目つきが鋭くなり、怒りのオーラに包まれた。


「塁飛くんを学校から追い出す?」

「ポチにいじわるしたってわけか」

「流川くんを‥‥‥」


あ、この生徒殺される‼︎‼︎


「先輩!その人を連れて屋上に!」

「お、おう!ほら、来い‼︎」

「ひぃ〜!」

「ポチ!どうして逃すの!」

「三人から殺気を感じたからだよ‼︎とにかく、俺が話してくるから、三人は教室に居ろ」

「塁飛くん、なにかあればすぐに呼んで」

「分かった」


三人を教室に残して屋上に行くと、男子生徒は先輩に制服を掴まれて、逃げる気力も失っている様子だった。


「とりあえず、撮った写真は全部消してほしい」

「分かったよ‥‥‥」

「それと、昨日二人で来なかったか?」

「協力してもらってただけ」

「そっか。でもなー、秋月って可愛いけど、意外とあれだぞ」

「秋月さんを悪く言うな‼︎」

「犯罪者に言われましても。とにかく、職員室に連れて行かれるか、誠意を込めて三人に謝るか、どっちがいい?」

「‥‥‥謝る」

「てか、まずは俺に謝ってもらえます⁉︎校内で変態扱いなんですけど⁉︎」

「へっ」

「先輩、こいつ殴っていいっすよ」 

「よし、やるか」

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

「謝っても反省しなそうなので、職員室に連れて行ってもらってもいいですか?」

「分かった」

「しょ、職員室だけは〜!」


まったく‥‥‥まだ一限目も始まってないのに疲れたよ‥‥‥


それからS組に戻り、状況を説明して、三人は安心してくれた。

疲れ切って席に着くと、夢野が肩を揉んでくれ、白波瀬はふくらはぎ、秋月は手をマッサージしてくれ、状況が理解できなかったが嫌な気分ではない。


「いつも私達のためにありがとう」

「今回狙われたのは俺なんだから、俺のためだ」

「ありがとう」


いつもこんなに優しければな‥‥‥


「‥‥‥秋月、なに舌だしてんだ。白波瀬もだ、ベルト触る必要ないだろ。夢野は首絞めんなー‼︎」


ヤバイ、苦しくなってきた。

秋月は堂々と手を舐め始め、白波瀬はベルトを外してズボンを脱がせようとしてくる。

三人は興奮して息遣いが荒く、俺は首と腕と足を掴まれて動けない。


「凛ちゃん早く!」

「今しているわ♡」


なんだよこいつら、ついに協力プレイかよ‼︎‼︎‼︎


「流川⁉︎」

「天沢先生‥‥‥助けて‥‥‥」

「4Pはやばいでしょー‼︎‼︎‼︎」


殺す。あの先生、いつか殺す。


「できたわ!」

「はい、ポチお疲れ!」

「流川‥‥‥イッたのか⁉︎」

「助けろよ‼︎」


天沢先生は俺の目の前に来て、優しい表情で俺の左頬に触れた。


「早漏は悪いことではないよ」

「違うわ」

「遅いのか⁉︎それはそれで‥‥‥いっぱい楽しめるな!」

「もういいです。てか、いきなりなんなんだよ!」

「ポチのためだよ!楽しみにしてて!」

「はい?」

「流川くん、気にしちゃダメ!」 

「いやいや」


マジでなんなんだよ。


その後、あの男子生徒は二週間の停学になったと知った。モテる女と仲良くするにも、気をつけないといけないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る