謎の少女


遊園地の翌日、S組では天沢先生が来る前の朝から、S組が潰されるかもしれない件で話し合いになった。


「SNSで拡散され続けてるんだっけ?」

「そう。見て」


秋月の携帯で、その投稿を見せてもらった。


「え⁉︎73人も賛同者がいるの⁉︎」

「大変なことになったわね」

「でもまぁ、そん時はそん時だろ。こいつらだって言ってるだけで、まだなにもしてこないじゃんか」

「ポチは適当だなー。いきなりなにかしてきたらどうするの?」

「適当とは失礼な。誰がいじめ問題を解決したと思ってるんだよ」

「そうだよ夢桜?感謝しなきゃ」

「それは感謝してるけど。今回のことも、何か解決策があるの?」

「ない」

「即答⁉︎」

「S組の問題だし、天沢先生がなんとかするだろ」

「それもそうか〜」


自分で言っといてなんだが、それは絶対にない‼︎あの人はS組を大切には思っているだろうが、基本は生徒に任せっきりだ。いじめ問題だって、先生ならなんとかできたはずなのに。


それからいつも通り授業を受け、昼休みになると、俺は白波瀬と夢野に声をかけた。


「俺はしばらく秋月と昼飯食うけど、理由は秋月の味覚が無いことにある」

「塁飛くん?あまり言わないでほしかったかも」

「変なことじゃないから大丈夫だ」


白波瀬と夢野は、なにも言わずに素直に驚いている様子だ。


「いじめられてたストレスで味覚がないらしんだ。だからストレス発散も含めて、一緒に食べることにした。分かってくれるか?」

「そういうことなら早く言ってよ!」

「ごめんね夢桜」

「いいよ!二人で食べてきて!」

「白波瀬もいいな?」

「もちろん」


よし、これで安心して秋月と昼飯が食える。


「秋月、行くぞ」

「うん!」


いつも通り調理室にやってきて、手作りの弁当を渡した。


「もう二人で食べてくれないかと思った」

「味覚が戻るまで付き合うよ」

「ありがとう!」


俺は売店のパン、秋月は俺の手作り弁当を食べている時、調理室の扉が開き、そこには四人の女子生徒がいて、俺達を見つめていた。


「あっ、調理室使います?今出ますね」


すると一人の女子生徒が俺を睨んで口を開いた。


「私達、S組を潰そうと思うの」

「へー」

「なんだよその反応!」

「楽して学校生活送って何が悪い。俺は普通の教室にいた時から、わりと楽だったぞ」

「喧嘩売ってんのか!」

「こっちのセリフなんですけど⁉︎」

「くだらないわね」


調理室の奥の方から、白波瀬の冷たい時の喋り方の様な声が聞こえて振り向くと、そこには白波瀬に雰囲気の似た、黒髪ロングで一部に編み込みを入れた女子生徒が弁当を食べていた。

待って?この人、いつからそこにいた?美人だし美人だし美人だし。


その女子生徒は立ち上がり、四人の前に立って、長くて艶のある髪を左手でフワッとさせた。


「SNSで人を集めて、今こうやって文句を言いに来るにも一人じゃ来れない。弱者そのものね」


黒髪の女子生徒は『弱者』に力を入れ、壮大に煽り始めた。


「私達に喧嘩売ってんの?」

「いいえ?」


黒髪の女子生徒は、一人の女子生徒の顎をグイッと上げて顔を近づけた。


「貴方一人によ。どうせ、S組を潰すっていうのも、貴方の自分勝手で、楽しててムカつかない?とか、そんな一言から始まったのでしょ?」


女子生徒は手を払い、後ろに一歩下がった。


「今日は帰る」

「さよなら」


つえー‼︎‼︎‼︎カッケェー‼︎‼︎‼︎


「ありがとうな!」

「マネー」 

「え、金取るの?」

「わ、私が払うよ!」

「いいえ、貴方に貰いたいわ」

「なんで⁉︎カツアゲじゃん!」

「120円でいいわ」

「消費税20パーセントですか⁉︎」

「私も食事が残っているの。早くしなさい」

「はい」


クソ‼︎120円ぐらいくれてやる‼︎クソ‼︎


黒髪の女子生徒は120円を受け取ると、弁当を置いて調理室を出ていった。


「なんだったんだろうな」

「でも、120円で助けてくれるなら安いね!」

「安くねぇよ!売店のカレーパン買えるわ!」


その後、すぐに黒髪の女子生徒は戻ってきて、秋月にペットボトルの水を渡した。


「はい」

「あ、ありがとう」

「いつも一緒に食事しているけれど、なぜ飲み物を買ってあげないの?この子が可哀想よ」

「あ、忘れてた。って、なんでお前が知ってるんだよ」

「毎回見てたもの。いつもあの席でご飯を食べているわ」

「嘘つくな」 

「本当よ。私がいるのに、まるで私を空気みたいにして二人で楽しそうに」

「え、マジ?」

「ええ」

「だとしたら影薄すぎだろ‼︎」

「そうね、自覚しているわ。それじゃご飯が残っているから」

「お、おう‥‥‥」


名前ぐらい聞いておくか?でも、いつもここに居るなら、また今度でいいか。と黒髪の女子生徒を見ながら考えていると、右手の人差し指に、ヌルッとした感触を感じ、嫌な予感がして見ると、秋月が俺の右手を握って人差し指を咥えていた。


「なにしてんの⁉︎」

「愛情表現♡」

「急に⁉︎」

「うん♡」


舐められるのに慣れてきてしまった自分が許せない‼︎あと素直にいい感じです‼︎


「とにかく弁当食え」

「分かった!」


それから弁当を食べ終わり、S組に向かって二人で歩いている時、階段で天沢先生と会って話しかけられた。


「二人とも、最近は調理室で昼ごはん食べてるんだって?」

「はい」

「あの黒髪の生徒には会ったか?」 

「あー、はい」

「あの生徒はな、ずっとS組に来いって誘ってるんだが、なかなか私にも心を開かない。優しい奴なんだけどな。時々めちゃくちゃ怖い、論破マシーンみたいな奴なんだ」

「さっき、S組潰すって言いにきた女子生徒に対して、そんな感じだったよね!」

「確かに」

「なんだ?S組潰されるのか?」

「みたいですよー。天沢先生、なんとかしてくださいね」

「えー。めんどくさいー」

「おい!あんたのクラスだろ!」

「いつも通り、流川に任せるわ!」


やっぱりこうなったか。


「報酬は?」

「ほっぺにチューしてあげる♡」

「マ、マジ?」

「塁飛くん‼︎なにちょっと期待してるの⁉︎」

「してない‼︎」

「プププー!私のファーストキスはそんな安くありませーん!」

「したことないのかよ。可哀想に」


すると天沢先生は真剣な表情をした。


「流川」

「はい」

「殺すぞ」

「生徒に向かって殺すぞ⁉︎いつかクビになるぞ‼︎」

「そしたら養ってね♡」

「秋月、行くぞー」


天沢先生を無視して、階段を上り、チラッと後ろを振り返ると、天沢先生はなにか考え込んでいるような表情で歩いていった。


S組では、白波瀬と夢野が仲良さげに話をしていて、俺を見るや否や、夢野は白波瀬との会話をやめて近づいてきた。


「ねぇ、ポチ!」

「なんだ?」

「さっき杏中ちゃんが来てね!みんなにクッキー焼いてくれたんだって!」

「お!マジ⁉︎」

「全部食べちゃった!」

「人でなし‼︎デブ‼︎」


デブじゃなくても、こういう時はデブと言いたくなるものである。


「ポチ♡女の子にデブとか言っちゃダメだよ?♡」

「え、なに。優しいキモい」

「こら♡キモいは余計だよ♡」

「お、おう」


ニコニコしていた夢野は急に目を見開き、俺の靴を踏み始めた。


「ご主人様に向かって二回も悪口。覚悟はできてるよね?」

「あ、秋月〜?ヘルプ〜」

「秋華ちゃん、お腹いっぱいで寝ちゃったよ?」


こういう時のために秋月は存在してるんだろうが‼‼︎︎‼︎なに寝てんだよ‼︎‼︎‼︎


「白波瀬!ヘルプ!」

「はい!」


すると夢野は白波瀬に抱きつき、白波瀬の尻をいやらしく撫で始めた。


「凛ちゃーん。これからは私が可愛がってあげるよー。毎日満足させてあげる」

「し、白波瀬!夢野に手懐けられるな!目を覚ませ!」

「凛ちゃーん?どうしたの?こんなに体ビクビクさせて」

「そ、それは♡」

「白波瀬!」


その時、カメラのシャッター音が連続で鳴り、逃げていく二人の足音が聞こえた。


「ポチ‼︎捕まえって‼︎」


慌てて教室を出たが、人の姿はどこにもなかった。


「誰もいなかったぞ」

「なにかしらね」


S組を潰したい連中の仕業なら、ヤバイシーン撮られたんじゃないか?

にしても白波瀬、夢野をご主人様認定したら俺の居場所がなくなる。調教の余地ありだな。


「白波瀬、お座り」

「わん♡」

「お手」

「わん♡」

「ちんちん」


白波瀬は俺のベルトに手をかけた。


「今ご奉仕しますね♡」

「やーめーろー‼︎‼︎‼︎‼︎」

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