孤独なヒーロー⁉︎


白波瀬は保健室にやってきて、俺にパンツを見られながら言い放った。


「私から流川くんを奪われて悔しい?」

「全部ポチから聞いたし!」

「凛、なんでこんなことしたの?」

「二人が嫌いだから」


白波瀬の作戦が読めない。このままじゃ、本当に白波瀬が嫌われて終わるぞ。


「凛ちゃん」

「なに?」 

「S組から出て行って」

「そうね。そのつもりよ?もう私をいじめる人はいないしね」


そう言い残して保健室を出て行こうとした瞬間、白波瀬はなにもないところで躓き、豪快に転んでパンツが丸見えになったと思えばすぐに立ち上がり、顔を真っ赤にして振り返った。


「もう‼︎このまま孤独なカッコイイヒーローになろうと思ったのに‼︎」

「し、白波瀬‥‥‥?」

「このまま私が去れば解決だったのにー‼︎」


白波瀬は柄にもなく、床に足をドンドンしながら悔しがっている。


「それじゃ意味ないだろ⁉︎」

「だってカッコイイじゃない!自分を犠牲にして友達を助けるとか、いい感じじゃない!」

「凛、塁飛くん?どういうこと?」

「秋月と夢野が喧嘩してたから、白波瀬と仲直りさせようとしたんだよ。白波瀬に脅されてたのも嘘で、それで、白波瀬?どういうことだ?」


白波瀬はまだ顔が赤かった。


「さっきの流れで私が立ち去って、カッコよく解決だと思ったのよ」

「ポチが脅されてたのも嘘ってことは、凛ちゃんは全然悪くなくて、ただ、私達に仲直りしてほしかっただけってこと?」

「そうよ」


脳内で【チャンチャン♪】と効果音が流れた気がした。


白波瀬は二人の手を握り、笑顔を見せた。


「さぁ、教室に戻ろ」


どこまでが作戦だったのか‥‥‥転んだのもわざとだったとしたら、白波瀬って怖い‥‥‥変態とか全部取っ払っても怖い。


そして三人が保健室を出て行く瞬間、白波瀬だけが一瞬振り返り、ニヤッと不気味な笑みを見せた。


なんなんだ白波瀬‥‥‥なにを考えてる‥‥‥ご褒美にいじめてほしいのか。そうか‥‥‥しょうがないな。


「白波瀬!」

「なに?」


白波瀬を呼び止め、白波瀬だけを保健室に残すことにした。


「ちょっと話があるから、白波瀬だけ残ってくれ」

「それじゃ、私達先に行くね」

「悪いな」


白波瀬は保健室に入り、扉を閉めた。


「どう?」

「どこまでが作戦通りだったんだ?」

「転ぶ前まで‥‥‥」

「あっ。あれガチで転んだのか」

「本当に残念だわ‥‥‥」

「でもな、あのまま白波瀬の予定通りにしてたら、白波瀬が傷つくだけで、俺が嫌だって言った展開だったろ」

「でも、裏切ったらお仕置きしてくれるかなって‥‥‥」

「お前の脳内それだけかよ‼︎」

「でも、最終的には成功しました♡ご褒美はなんですか?♡」


なにか、自分の欲を満たしてやろうとも思ったが、お礼も込めて、二人でどこかに行くことにした。


「明日って、先生達の会議で学校休みだったよな」

「はい!」

「一緒にどこか行くか?」


白波瀬は髪の毛で顔を隠し、小さな声を出した。


「デートの誘い‥‥‥」

「いや、今回のお礼」

「デートして、帰りにホテル‥‥‥」

「アホ」


オデコにデコピンしてみたが、体をビクッとさせるだけで、いつものような『あん♡』みたいな反応がない。


「どうした?」

「べ、別に?(流川くんから誘ってくれたのが嬉しすぎるよ‥‥‥)」

「まぁ、お仕置きでいいなら、明日は一人でゆっくりするけど」

「ダメ!」

「んじゃ、どこ行く?」

「どこでもいいの?」

「まぁ、遠すぎなければ」

「遊園地‥‥‥」


めっちゃデートっぽいやつー‼︎‼︎‼︎


「わ、分かった。夢野と秋月には内緒な?めんどくさいから」

「分かってる」

「あと琴葉には絶対に言うな」

「約束する」

「じゃ、詳しいことは夜に電話する」

「うん」


次の瞬間、保健室に天沢先生が入ってきて、セクシーに体をくねらせた。


「流川〜♡私も連れてっうっぐはっ‼︎」

「白波瀬⁉︎」


白波瀬は天沢先生が言い終わる前に、天沢先生にボディーブローをくらわせた。


「先生?邪魔しないでもらえます?」


天沢先生は床に倒れ込み、弱々しい声を出した。


「私‥‥‥担任なんだけど」

「なら、尚更邪魔しないでください。消しますよ」

「ごめんなさい‥‥‥」

「流川くん、教室行こ♡」

「はい‥‥‥」


思わず敬語になってしまった。

ドMのくせに怒ったら怖い‼︎‼︎夢野ですら、こんな本気で人殴ったりしないのに‼︎‼︎


そして教室に戻ると、夢野が俺の席の横にしゃがみ、椅子になにかしていた。


「夢野!また接着剤か⁉︎」

「ち、違うし‼︎いろいろ反省したから、ズボン取ってあげようと思ったの」

「おっ。取れそうか?」

「少しずつ削ってる」

「俺も手伝うよ」

「いいよ。授業始まるし。私の席で授業受けてて」 

「多分、しばらく始まらないぞ?」

「なんで?」

「白波瀬が天沢先生を沈めた」

「下水道に⁉︎」

「なんで下水道なんだよ‼︎そういう意味じゃねぇわ‼︎」


白波瀬はもう他人事のように秋月と話してるしよ‼︎‼︎‼︎


‥‥‥それから約10分後。


「取れたー‼︎」

「よっしゃー‼︎」

「おめでとー!」

「めっちゃデカい穴空いたー‼︎」

「おい」


椅子からズボンを引き剥がすことはできたが、見事にズボンの尻の部分に大きな穴が空いた。


「どうせ捨てるなら、私もらうね?」

「別にいいけど、なにに使うんだよ」

「私も欲しい!」


秋月もズボンを欲しがり、白波瀬も立ち上がった。


「私も」

「私が剥がしたんだから私の!」

「私は二人を仲直りさせたのよ?」

「私はずっとズボンのこと心配してたし」


秋月〜、心配だけじゃ二人に敵わないんじゃないかな〜。そもそもなんでズボン欲しっ‥‥‥はっ‼︎呪いの儀式に使うんだー‼︎‼︎‼︎

それはないか。

こいつら、喧嘩して仲直りして、また喧嘩して、見てて退屈しないわ。


「大変‼︎」


教室の扉の方から杏中の声が聞こえて振り向くと、杏中は携帯を握りしめて青ざめていた。


「どうしたの?」

「これ」


秋月が心配して近づき、携帯を見せてもらうと、秋月の表情は一瞬で曇った。


「楽して学校生活送ってるS組をみんなで潰そう‥‥‥協力者募集」


本当に退屈しないわ&もうヤダ。


S組を潰されるかもしれない話は明後日まで保留になり、その日の夜、俺は白波瀬に電話をかけた。


「もしもーし。いま大丈夫か?」

「う、うん!服選んでたんじゃなくてボーッとしてた」

「お、おう。そうか。明日の話なんだけど」

「うん」

「朝9時に駅前集合でいいか?」

「問題ないわ」

「それじゃ、また明日」

「も、もう切るの?」

「服選ぶ時間無くなるぞー」

「‥‥‥」


うわー!絶対恥ずかしそうな顔してるんだろうなー!絶対可愛い!ガン見したい!


「き、切るね」 

「おう」


なんだかんだ、俺も明日が楽しみだった。

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