作戦...興奮♡激痛‼︎


日曜日の夜、白波瀬から明日からの二人への振る舞い方を電話で教えてもらうことになった。


「もしもし。聞こえるかしら」

「おう。大丈夫だ」

「作戦なのだけれど、話しかけられても、必ず冷たく対応するのよ?」

「分かってる」

「あと、夢野さんは流川くんをポチと呼ぶけれど、それに対して、堂々と文句を言っていいわ」

「んー」

「中途半端はダメよ」

「了解。なんかさ‥‥‥」

「なに?」

「みんな仲良かったのに、なんか嫌だな」

「流川くんが招いた結果よ?自分の判断でこの結果を招いたの」

「白波瀬、なんか別人みたいだな」

「私、これでも怒ってるの」

「え、そうなのか?」

「流川くん、全く相談してくれなかったじゃない。天沢先生も天沢先生よ。全部流川くんに任せて」

「それはごもっとも」

「でしょ?」

「まぁとにかく、明日から頑張ってみる」

「しっかりね」 

「おう」


翌朝、自ら二人を傷つける罪悪感で、朝ごはんが喉を通らず、食パンを二口だけ食べて学校に向かった。


「塁飛くーん!」


学校の校門が見えた頃、後ろの方から駆け寄って来る足音と共に、秋月の声がした。


「な、なんだ?」

「弁当箱洗ってきた!」


こんないい子を傷つけんの⁉︎無理なんですけど‼︎‼︎‼︎


「どうしたの?」

「いや、返せ」

「う、うん」


秋月から弁当箱を受け取り、カバンに入れると、秋月はワクワクした表情で聞いてきた。


「今日のお昼はどうする?」

「‥‥‥」

「塁飛くん?」


やるしかないか‥‥‥


「勝手に食べてろよ」

「え?」

「つか、一緒に食べるのめんどくさかったし。だるいわ」

「‥‥‥そ、そうだよね!なんかごめんね?んじゃお先〜!」


秋月は悲しいそぶりを見せずに走って行き、俺はその場にしゃがみこんだ。


言っちまった‥‥‥


「なにしてんだ?」

「あぁ、熊か」


猪熊の声がして顔をあげると、そこには立派なアフロヘアーの学生が立っていた。


「誰だお前‼︎」

「猪熊だよ‼︎」

「嘘つくな‼︎」

「嘘じゃない‼︎」

「黙れ‼︎」

「なんでだよ‼︎」

「悪い。最後のは八つ当たりだ」

「ビックリしたわ」

「こっちの台詞だわ。お前、アフロだったのかよ」

「そうだ。いいだろ?男らしいだろ?」


自分のしたい見た目にするってとこは、確かに男らしいかもな。


「まぁまぁだな」

「失礼だな」

「んで?何の用だよ」

「何の用って、塁飛が辛そうにしてたからよ」

「あぁ、俺はついさっき、美少女を傷つけてしまったんだ」

「そんなことか」

「そんなことってなんだよ」

「安心しろ塁飛。二次元なら、女を傷つけずに済む。ひたすら愛を捧げるだけさ!」

「本当、熊は幸せ者だな」

「頭がってことか?」

「いや、本当に。好きなキャラのために財布から愛を捧げて幸せな気分になれるんだろ?」 

「おぉ!分かってくれるか!」

「どう考えても幸せ者じゃんか」

「ありがたき理解者。塁飛はいい友だ!ってことで急なんだが、遅刻するぞ」

「俺は遅刻しても怒られないからな。一人で頑張って走れ」

「いやでも、門閉まるぞ」

「やべっ」


校門を見ると、すでに男の先生が門に手をかけていて、俺達は全力で走った。


「あと11秒で閉めるぞー!」


その1秒はなんだよ‼︎10秒でいいだろ‼︎あと15秒はほしいところだけど‼︎


「3!2!」


おい‼︎8秒どこいった⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎


「はーい。お前らグラウンド10周」


目の前で門を閉められ、裏口から入り、朝からグラウンドを走らされてしまった。


「ぬあー‼︎」

「なんだ熊。仲間でも呼んだか」

「汗で俺の最高のヘアスタイルがー‼︎」

「いつもバンダナで崩れてるだろ。走り終わったから、俺は行くぞ」


校内に向かって歩き始めたとき、猪熊は無駄にイケボで俺を呼び止めた。


「待て」

「なんだ?」

「誰かを傷つけた時、謝ればいいのにとか簡単に言う人間がいる。でもそれは、無責任な第三者の考えだ。謝ることによって、逆に相手をイラつかせることだってある」

「要するに?」

「忘れちまえ!」

「は?アホか」

「そうだ!その人は塁飛にとって、傷つけてしまったことを忘れられない相手なんだ!和解する気持ちを捨てるな。逃げたら、弁解するチャンスは二度とこないぞ」

「ありがとうな」

「また何か作ってやるから、いつでも調理室に来いよ!」

「おう」


やっぱり猪熊は優しい。いい友達を持ったのは確かだが、今回の件は、きっと白波瀬が解決してくれるはずだ。そういう話になっているのだから。


そして、靴を履き替えている時、小馬鹿にしたような表情の天沢先生が近づいてきた。


「流川〜。お疲れさーん!ププー‼︎」

「この前はいきなり謝ってきたくせに、次は馬鹿にするんですか」

「それなー」

「他人事かよ‼︎」

「とにかく教室行ってろ。ホームルーム終わったら私も行くから」

「はいはい」


秋月と会う気まずさを感じながらS組に入ると、先に行ったはずの秋月が居なかった。


「ポチ!おっはよう!」

「おはよう」


夢野が元気に近づいてきて、普通に返事をすると、白波瀬は読んでいた本をパンッと音がするほど強めに閉じた。白波瀬の言いたいことは分かる。分かるけども‼︎ ‥‥‥しょうがないか。


「いい加減、ポチって呼ぶのやめろよ」 

「あぁ?」


夢野は俺のネクタイを掴み、これでもかと俺を睨みつけた。

そうだった‥‥‥夢野の場合は先に怒りがくるんだったな。


「そういうのもウザいから。てか、前から夢野のこと嫌いだったし」

「嫌い‥‥‥だった?」

「お、おう」


夢野はネクタイから手を離し、静かに教室を出て行った。


「秋華さんは?」

「登校中に話した」

「やったの?」

「おう‥‥‥」

「ゴムはつけた?」

「なんの話だよ‼︎」

「それにしても仕事が早いわね」

「でもさ、嫌われるってより、ただ傷つけただけみたいになっちまった」

「それでいいのよ。今頃二人は、早くもショックで立ち直れなくなっているわ」

「次にすることはなんだ?」

「二人を探して、私に脅されたと言うの。誤解を解けばいいのよ」

「その後の考えもちゃんとあるって言ってだけど、大丈夫だよな?」


白波瀬は淑やかに笑みを浮かべ、俺の左頬に触れた。


「信じて」

「‥‥‥分かった」


それから数分後、天沢先生がS組にやってきて、ため息混じりに言った。


「夢野と秋月は保健室待機だ。気分が優れないらしい」

「俺、行ってきますね」

「頼む。流川が行けば元気になるだろ」


小走りで保健室に向かう途中、俺は少しホッとしていた。こんなのを何日も続けなくて済む。こんなにすぐに誤解を解けるのはありがたい。


目の前で、保健室から保健室の先生が出て行き、俺は謝罪の言葉を頭に浮かべて保健室に入った。

すると、二人は並んでソファーに座って、静かに俯いていた。


「あ、あの」


二人は悲しそうに俺を見つめて、今にも泣き出しそうな表情に胸が締め付けられる。


「悪かった‼︎」


白波瀬‥‥‥本当にいいのか‥‥‥

白波瀬の『信じて』が頭をよぎる。


「ぜ‥‥‥全部、白波瀬に脅されて言ったことだったんだ」

「‥‥‥塁飛くんの本心じゃないの?

「あぁ、全部嘘だ」

「ポチに嫌われたと思ったー‼︎」


夢野は安心からか、派手に号泣し、秋月は優しく背中を撫でてあげた。


「凛が私達を陥れようとしたってわけね」

「あ、あぁ‥‥‥」

「秋華ちゃん、私達どころか、ポチを困らせたんだよ!私達、もう仲直りしよ?そして凛ちゃんを倒そう!」


倒すって、白波瀬は怪獣かなんかか。あ、性の怪獣か。


「そうだね。この前はごめん」

「私もごめん」

「仲直りしたなら、教室戻ろうぜ」

「それはそれ、ポチは正座だ、早くしろ」

「五七五で命令すんな。まぁ、傷つけたのは確かだからするけども」


俺が二人の目の前に正座すると、夢野は息遣いを荒くして目の前に立ち、俺の顔をスカートの中に入れた。


「素直に話してくれたご褒美♡たまにはペットにもご褒美が必要でしょ?♡ほら、嬉しそうにワンって鳴いてごらん?♡」

「ワン‼︎」


今までで、1番力強いワンが出た。

夢野の薄ピンクのパンツが目の前にあるんだ。何回でもワンと言える。


徐々に自分のプライドが薄れてきていることに気づき始めた、悲しくも最高なスカートの中だった。


「塁飛くん!スカートから出て!」


秋月に腕を引っ張られ、床に押し倒された。


「な、なんだよ!」


秋月は目を閉じ、俺に抱きつくようにして首をいやらしく舐め始めた‥‥‥やばい、変な声出そう。


「あうっ‼︎」

「どうしたの?素直に言って?」

「痛い‥‥‥」

「嘘つき♡」

「マジでー‼︎」


夢野は鬼の形相で俺を睨み、大事な場所をグリグリと踏みつけてきたのだ。


「夢野‼︎やめてくれー‼︎」

「ご主人様、やめてくださいでしょ?」

「塁飛くんになにするの!」

「あっ、ごめんね?私のペットが他の女とイチャイチャしてたからさ」


俺は床でプルプル震えながら思った。夢野のドSがレベルアップしたような気がする‥‥‥


そして、プルプル震えていると、白波瀬から『どう?』とメッセージが届き『成功』とメッセージを送ると、数分後、白波瀬の方から保健室にやって来て、白波瀬を睨む二人を鼻で笑った。


白波瀬‥‥‥ごめんな‥‥‥格好良く登場してくれたのに、倒れてる俺の位置から、花柄の白いパンツが丸見えなんだわ。

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