性の悪魔


白波瀬と夢野は、意地になって服を着ず、下着エプロンで夜食のカレーを食べ始めた。


「お兄ちゃん、目が泳いでる」

「しょ、しょうがないだろ」  


男なら普通の反応だ。目の前に下着エプロンの美少女が居て、見ない男なんていない!むしろ見ないと失礼だろ‼︎


「ふ、二人とも、食ったら服着ろよ」

「食事の後は、ご主人様のお背中お流します♡」

「は?それは私がやる」


そんなことで争わないで!

玲奈の前で、俺はどんな顔すればいいか分からなくなっていた。玲奈は冷たい視線を送ってくるし。


「風呂は一人で入るから、変なことするなよ?」


白波瀬は何も言わずにニコッと笑い。夢野はプイッと目を逸らした。白波瀬の笑みの意味は、深く考えないことにする。


カレーを食べ終わり、お風呂に向かっても二人はついてこなく、安心して湯船に浸かると、パチっとお風呂の電気が消え、夢野が脱衣所から話しかけてきた。


「せ、背中流してあげてもいいよ」

「さっきの話聞いてたか?部屋で大人しくしてろ」


シルエット的に服は着てるみたいだけど、俺は全裸だからね⁉︎


「んじゃ、開けるね」

「あの、聞いてます?」


夢野が風呂の扉を開けた瞬間、夢野の背後から白波瀬が現れ、夢野の腕を後ろに拘束した。


「なに⁉︎」

「いつも拘束グッズなんて持ち歩いてるの?」

「ちょっと!外してよ!」

「さぁ♡ご主人様♡湯船から出てください♡」

「出れるか‼︎」

「それじゃ仕方ないですね」


白波瀬は目の前で服を脱ぎ始め、俺は咄嗟に白波瀬に背を向けた。


「なにやってんの⁉︎」

「一緒に入ります♡」

「ポチ‼︎今すぐお風呂から出て‼︎」

「振り返ったらアウトだろうが‼︎」


次の瞬間、背中にプニッとした感触を感じ、すべてを察した。


「ひゃ〜‼︎‼︎‼︎」

「ポチの浮気者‼︎」


一線を超えてしまった気がする‥‥‥いや、確実に超えた。白波瀬がここまでネジの外れた奴だと思わなかったわ。


「ご主人様♡こっち向いていいんですよ?♡」

「あは、あはは‥‥‥」


それから、白波瀬は一度湯船から出て、何故か俺にタオルを渡してきた。


「下に巻いてください。泥棒猫に見られたら困るので」

「誰が泥棒猫だ!」


湯船の中でタオルを巻き、俺は全力で自分の部屋に逃げ込んだ。


このままじゃいつか、俺のチェリーが奪われる‼︎童貞も守れない男に、なにが守れるっていうんだ‼︎俺は守り抜くぞ‼︎絶対に‼︎『流れに身を任せちゃいなよ』と、悪魔のささやきが聞こえた気がする。


それから数十分後、玲奈の部屋から、三人の楽しそうな話し声が聞こえ、さすがに玲奈の部屋で寝てくれるんだと安心して眠りについた。

翌朝目を覚ますと、両手に温もりを感じ、目の前にはスヤスヤと気持ち良さそうに眠る夢野の顔があり、嫌な予感がして逆の方を見ると、予想通り、白波瀬が幸せそうに眠っていた。

そして、この手に伝わる暖かさとモチモチ感‥‥‥俺の両手は、二人の太ももに挟まれていた。


「あのー‥‥‥お二人さん?」


二人からの返事はなく、一回だけ太ももをモミモミして、勢いよく手を抜き、二人が起きる前に学校へ行く準備を済ませ、朝早くに家を出た。


もう限界だ‼︎俺の理性が持たない‼︎


S組に着くと、天沢先生は外を眺めながらコーヒーを飲んでいた。


「お、早いな」

「ちょっと色々ありまして」

「顔も疲れてるぞ?一人でするのは一日二回までにしておけ」

「一回もしてないわ‼︎」

「それより」

「はい?」

「最近の三人の様子はどうだ?」

「普通だと思いますけど」


強いて言えば、性癖の暴走が多くなったぐらいだろうか。


「そうか。私は少し心配だ」

「なにがですか?」

「覚えておけ流川。恋する女は、時に残酷にもなれる」


そう言って、天沢先生は教室を出て行く時、ポケットから二百円を出して俺に渡した。


「好きなものでも飲め」

「珍しいですね」

「たまにはカッコいいところ見せなきゃな」

「ありがとうございます」

「うん」


絶対なにか企んでるよ‼︎‼︎天沢先生が普通にジュース奢ってくれるわけないじゃん‼︎まぁいいや‥‥‥イチゴミルク買いに行こ。


荷物を置いて一階の自販機にやってくると、険しい顔をした秋月が自販機を見つめていた。


「自販機と睨めっこか?」

「あ!もう来てたんだ!」

「おう」

「このね、あんこミルクセーキってなんだと思う?」

「あー、俺も気になってるんだけど、さすがに買う勇気がなくてな」

「ちょっと飲んでみてよ」

「嫌だよ」

「レビューして!」


味覚が無い秋月は、人の感想で味を楽しみたいのかもしれないな。


「不味かったら捨てる。それでも、勿体なーい!とか言うなよ?」

「言わないよ!私もよく捨てるし!」

「食べ物を粗末にしちゃいけません!」

「冗談だよ〜。ほら、飲んでみてよ!」

「しょうがないな」


あんこミルクセーキって160円もすんの⁉︎ボッタクリだろ!でも、天沢先生のお金だからいいか。


「じゃ、飲んでみるわ」

「うん!」

「んー、あんことミルクの味」

「そのままじゃん!」

「だって、本当にそのままの味するぞ?」

「ふーん」

「リアクションうっす」

「あ、凛と夢桜だ」


登校してきたか!性の悪魔め‼︎


「ポチ!なんで先に行っちゃうの!」

「一緒に来てたの?」

「あぁ、二人とも、俺の家に泊まったんだよ」

「そ、そうなんだ‥‥‥」

「流川くんのために、お弁当作ってきました!」

「それはありがたい。って!学校に首輪してくんな‼︎」

「うふ♡」


やっぱり、みんないつも通りだよな。天沢先生が言っていたことも気になるけど、さすがになにも起きないだろう。

‥‥‥起きないといいな。


「なぁ秋月」

「なに?」

「今日は弁当作ってもらっちゃったからあれだけど、明日、一緒に食べないか?」

「え!う、うん!」


念には念をで、解決できそうなものは解決しておくことにした。

まずは秋月のストレスをできるだけ無くして、味覚を取り戻す。たまには白波瀬とご飯を食べてあげる。夢野はー、よく分かんないけど多分大丈夫だ。

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