裸エプロン
白波瀬と買い物に行く約束の水曜日。
全ての授業が終わると、白波瀬はカバンを持って俺の席の目の前にやってきて、夢野と秋月に聞こえる声で話しかけてきた。
「行きましょ」
「お、おう」
二人は凄い早さで振り向き、教室を出ていく俺達を見つめていた。
そして、白波瀬は気付いていないようだが、夢野と秋月、そして、何故か琴葉の三人が俺達を尾行している。
普通に五人で買い物すればいいのに‥‥‥
「ご主人様♡」
「なんだ?」
「まずはどこに行きます?」
「ペットショップで首輪買って帰るぞ」
「嫌です!」
「は⁉︎」
「首輪を買って、ご主人様の家でお仕置きしてもらいます♡」
「なんのお仕置きだよ」
「悪いことしないとお仕置きしてくれないんですか?」
「お仕置きってそういうもんだろ」
「そんな‥‥‥それじゃ私、悪い子になります!」
「ご勝手にー」
なにする気だ‥‥‥ちゃんと見てないと、とんでもないことしそうだな。
「あそこの小学生泣かせてきていいですか?」
「やめろ!捕まるぞ!」
それから三人の尾行を気にしつつ、チェーン店のペットショップへやって来た。
「安いの選べよ」
「ご主人様が選んだものがいいです。これ付けろって、冷めた目で言ってください♡」
「んじゃ、この安売りコーナーのでいいか」
300円の赤い首輪を白波瀬に渡すと『買ってくれないんですか?』みたいな目で見つめられた。
「自分で買え」
「でも‥‥‥」
「お前みたいな変態は安売りの首輪で充分だ。自分で買って付けろ」
「んぁ♡」
「いいからさっさと買ってくれ」
「ンァ゛」
「だからー」
「今の私じゃないですよ?」
「んじゃ誰だ?」
「ンァ!」
声のした場所を見ると、そこには鳥籠に入った
「まさか、一瞬で真似したのか?」
「天才ね。ご主人様♡もっといじめてください♡」
「変な言葉覚えさせようとすんな!」
「ゴシュジン、サマー!モト、イジメテクダサイ。アンアン」
「おい‼︎今オリジナル入ってたぞ‼︎これ、誰かが遠隔で操作してるロボットじゃないのか?」
「本物に見えるわよ?」
真実を知るために、俺は九官鳥を馬鹿にしてみることにした。
「バーカ」
「ダマレ!ドウッ!ドウテイ!」
「絶対ロボットだろ‼︎」
「ご主人様はチェリーだったんですね♡」
「ソウダヨ。ダヨダヨ」
「お前が答えるなよ‼︎白波瀬、とにかく首輪買ってこい」
「はい♡」
白波瀬がレジに向かうのを見送って、俺は尾行してきた三人に近づいた。すると、三人は慌てて逃げようとし、俺はとっさに夢野のスカートを掴んでしまった。
「きゃ!」
「あ、ごめん。今日は黄色なんだな」
「ポーチー‼︎」
「待て待て!まず、なんで尾行してんだよ」
「二人の行動が怪しかったから」
「そうそう」
「んで、琴葉はなんでいるんだ」
琴葉は俺の手を握り、目を見開いた。
「あの子、消しちゃってもいいんだよね」
「ダメです」
「どうして?るっくんにあんな女必要ない‼あんなゴミ‼︎︎」
「バカ!声デカイわ!秋月、琴葉を外に連れて行ってくれ。秋月しか頼れない」
「う、うん!分かった!」
秋月は琴葉の手を引き、出口に向かって歩き出したが、レジに白波瀬がいるのを見つけ、琴葉はレジに向かって走り出してしまった。
「うわっ、白波瀬大丈夫かな」
「ねぇ、ポチ」
「ん?」
「最近、あまり構ってくれないね」
「そうか?普通だろ」
「秋華ちゃんは頼りになって、私は頼りにならないの?」
夢野には悲しい顔しないで、ドSでいてほしい。こういう時、なにを言ったらいいか分からないし。まぁ、ドSが過ぎるとシンドイけど。とにかく頼りになるって言っておくか。
「ゆ、夢野も頼りになるぞ?」
「頼ってくれたことないじゃん」
「んじゃ、琴葉を止めてきてくれ」
白波瀬と琴葉は、出口付近で頬を引っ張り合って喧嘩していた。
「嫌だ」
「なんでだよ!頼ってほしくないのか⁉︎」
「やっぱり、合宿の日から凛ちゃんとポチ怪しい」
「なんもないぞ?今日も買い物したら帰るし」
「じゃ、今から私と買い物して!これは命令」
「それはダメよ」
白波瀬は両頬を真っ赤にして戻ってきた。
「なんでダメなの?」
「これから流川くんの家で遊ぶからよ」
え、それいつ決まったの?ねぇ、いつ?
「んじゃ私も行っていいじゃん」
「ダメ」
「別に三人で遊んでもいいだろ。な?白波瀬」
「まぁ......流川くんが言うなら」
本当は誰も来てほしくないんですけど。
「んで、秋月と琴葉は?」
「琴葉先輩が泣き出して、秋華さんに連れて行かれたわ」
「泣かすなよ......」
「先輩から手を出してきたのよ?」
「琴葉に恨まれたら怖いぞ」
「そしたら流川くんが守ってくださいね♡」
「私が守るからポチはいい‼︎」
「だってよ」
夢野と白波瀬は、お互いに邪魔者を見るような目つきで睨み合い、仲直りってなんだろうと、俺は疑問に思うしかなかった。
それから、結局三人で俺の家に向かい、玄関のドアを開けると、そこにはたまたま学校帰りの玲奈が立っていた。
「あ!凛先輩だ!」
「久しぶりね」
「あー!また新しい可愛い人だ!」
「は、はじめまして!夢野夢桜です!」
夢野は可愛い人と言われて、少し嬉しそうだ。
「玲奈です!夢桜先輩!よろしくお願いします!」
「よろしく!」
妹の丁寧な対応は、兄ながら誇らしい!
「お兄ちゃん、浮気しちゃダメだからね?」
「おい待て。俺は誰とも付き合ってないぞ」
「え?この前、秋華先輩と」
「うぁー‼︎‼︎‼︎」
慌てて、咄嗟に玲奈の口を押さえた。
「んん!んー!ん!」
「プリン買ってやったろ?忘れたのか?」
玲奈は大人しくなり、安心して二人を見ると、今にも俺を刺してきそうな恐ろしい目つきをしていた‥‥‥
「お、俺の部屋は二階だから‥‥‥」
「お邪魔します」
「お邪魔しまーす」
「どうぞどうぞ‥‥‥」
妹に強めのデコピンをし、俺も二階に上がった。
「いい部屋だね!」
「そうか?何にもないけどな。白波瀬、さっそくベッドの下を覗くな」
「ハレンチな本はないの?」
「ないわ!」
最近処分してよかった〜‼︎もしこいつらに見つかったら、ずっといじってきそうだしな。しかも、それを天沢先生なんかに言われでもしたら地獄だ。
「で、俺の家に来てなにするんだ?」
「私は決まってます♡」
「白波瀬、それ以上言わなくていいぞ」
「もう♡いじわる♡」
「‥‥‥」
「わ、私は、部屋に入れさせてくれたから、なんでもしてあげるけど?」
ほうほう。あの夢野がなんでもか。
「じゃ、この場で脱げ‼︎」
いつもいじめられてる仕返しに、なんでもするって言ったのに、脱がない夢野をいじめてやるんだ‼︎と思ったが、夢野は顔を真っ赤にして、俺を睨みながらスカートのチャックを下ろし始めた。
「ストップ!なにマジで脱ごうとしてんの⁉︎」
「ポチが脱げって言ったんじゃん‼︎」
「ご主人様♡私ならいつでも脱ぎますよ♡」
「脱がれても困る」
脱いでほしいよ?でもとんでもないことになりそうだから脱がせるわけにはいかない!
「お兄ちゃーん」
玲奈が部屋のドアを開けた。
「どうした?」
「パパとママ、今日は友達の家で泊まり込みの飲み会だって」
「そうなのか」
「ご飯どうしよう」
「んー」
すると夢野は、目をキラキラさせて言った。
「私が作ってあげる!だから今日は泊まるね!」
「いや泊まらなくていいだろ!」
「私も泊まるわ」
「ダメだ!」
「え!いいじゃん!みんなで食べた方が美味しいよ!」
玲奈のその言葉で、白波瀬の生活を思い出してしまった。
「‥‥‥夜は玲奈の部屋で寝ろよ」
「はい!」
「了解!」
なんて俺は優しいんだ。天使のようだ。
それからしばらく、四人でリビングでテレビゲームをして過ごし、夕方になると、白波瀬と夢野は夜食の買い出しに向かった。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!」
「ん?」
「凛先輩と夢桜先輩、いい人だね!」
「あいつらに騙されるな!いいか?あの二人から変な影響受けるなよ?もしそうなったら、お兄ちゃん悲しいぞ」
「よ、よく分からないけど分かった‥‥‥」
しばらくして二人は帰ってきて、俺はご飯ができるまで、自分の部屋でゆっくりすることにしたが、そのリラックスタイムはすぐに終わってしまった。一階から白波瀬と夢野が揉める声が聞こえてきたのだ。
「いいよ!私だって脱ぐもん!」
「あらあら、可愛わね」
「凛ちゃんだって、胸が大きいだけじゃん!」
「夢野さんはあれね、お尻の方が大きいわね」
「うるさい‼︎」
なにしてんのー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎脱ぐってなに⁉︎⁉︎⁉︎お尻⁉︎
部屋を出ると、顔を真っ赤にした玲奈が立っていて、俺の制服にしがみついてきた。
「やばい!あの先輩達やばい!」
「なにがあった⁉︎」
「いきなり制服と下着脱いで、裸エプロンで料理始めた!」
「そうか。お兄ちゃん、注意しなくちゃいけないから行ってくる」
「お兄ちゃん、見たいだけでしょ」
「そんなこと一ミリも思ってませんけどー⁉︎」
「あーはいはい、行ってらっしゃい」
妹に冷たく見送られ、俺はリビングの、磨りガラスでできたドアの前に立ち、深く深呼吸をした。すると中から、また揉めてる声が聞こえてきた。
「そんな汚い体をポチに見せる気⁉︎」
「この体のどこが汚いのかしら。夢野さんの方がよっぽど汚いわよ。いろんな男に抱かれてきたのでしょ?」
「は⁉︎したことないし‼︎このー‼︎」
なに⁉︎すごい物音してますけど⁉︎
次の瞬間、磨りガラスにお尻が密着し、俺は声を出さないように、手で口を押さえた。
奥に見えるシルエットは黒髪‼︎てことは、これは夢野の尻‼︎ごちそうさまです‼︎
「ちょっと‼︎力強すぎ‼︎」
「夢野さんから手を出してきたくせに!」
「んー‼︎」
「んー‼︎」
ドアの前で二人は取っ組み合いになっていて、息を殺して擦りガラス越しに見ていると、勢いよくドアが開き、二人は俺にぶつかった。
俺は床に倒れ、目の前には大きな谷間、そして下半身に人の重みを感じた。
「あら♡ご主人様♡どうですか?首輪付けて、裸エプロンにしてみました♡」
言葉が出なかった‥‥‥
「ご主人様?」
白波瀬が体を起こして視界がひらけると、裸エプロンの夢野が背を向け、俺に跨っていた。裸エプロンは後ろから見るとほぼ全裸‼︎まさに絶景‼︎
「み、見ないで‥‥‥見ないでー‼︎‼︎‼︎」
「きじょうっ」
「違う‼︎」
「夢野、とりあえず退いてくれ」
「退いたら見えちゃでしょ‼︎」
「んじゃどうすんだよ‼︎まず脱ぐなよ‼︎」
「凛ちゃんが全部悪い〜‼︎‼︎‼︎」
結局、玲奈が慌ててバスタオルを持ってきて、その場はおさまったが、お泊まりの出だしからこんなのって‥‥‥夜が楽しみだぜ‼︎そう、現実逃避するしかなかった。
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