従順な奴隷になります♡
「あの日って」
「冷えてきたわね。そろそろ戻りましょう」
「お、おう」
白波瀬は話しを流し、何も喋らずに旅館に戻り始めた。川の音と下駄の音だけが響く夜。チラッと白波瀬の顔を見ると、なにかを後悔しているよな悲しい表情をしていた。
旅館に着き、お土産コーナーにやってきた。
「あと15分で閉まるらしいぞ」
「閉まる前に見れてよかったわね」
「だな。あ、旅館とかのお土産コーナーって、絶対これあるよな」
俺が手に取ったのは、鉄でできた、厨二病心をくすぐる、抜き差しできる剣のストラップだ。
「男の子ってこういうのが好きなの?」
「まぁ、嫌いじゃないかな」
「買ってあげるわ」
「え、いいよ。600円もするぞ」
「欲しくない?」
「どうせなら、ご当地チューピーちゃんがいいな」
「この、さくらんぼかぶった裸の?」
「裸のとか言うな」
「だって裸じゃない」
「そうだけども。てか、生活厳しくないのか?」
「たまに本屋でアルバイトをしているから」
「んじゃ、お言葉に甘えて」
白波瀬は、さくらんぼのご当地チューピーちゃんを二つ取り、レジで会計を済ませた。
それより、足湯で言っていたこと‥‥‥
あれが本当なら、あの日の女の子は白波瀬なのか?全く分からない。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!自分のも買ったのか?」
「えぇ、携帯につけるわ」
「え。これつけるのかよ」
「る、流川くんはつけないの?」
「これはちょっとな」
「そう‥‥‥」
白波瀬は何故か悲しい顔をして、元気がなくなってしまい、俺は慌てて白波瀬の元気を取り戻そうとした。
「学校のカバンにつける」
「それじゃ私も」
「お、おう。部屋戻るか」
「そうね」
エレベーターに乗っている時や廊下を歩く時、頻繁にチラチラと俺を見てくる気配があった。
なんなの?殺すタイミングでも見計らってんの?
そして、部屋に戻ると電気がついていて、夢野と秋月は二人でトランプをしていた。
「あ!どこ行ってたの?」
秋月に聞かれ、クールに答えた。
「散歩」
「はい?ご主人様以外の女と散歩?」
「普通の散歩だよ」
「私以外にジッポ振るとか許さない」
「振ってねーよ。てか付いてないわ」
てかこいつら、白波瀬に気絶させられたの覚えてないっぽいな。
でも秋月は、白波瀬を一瞬、不機嫌そうな表情で見てたな‥‥‥いろいろ気遣わないとまずいかもな。
俺はベッドに潜り込み、近づいてくる三人の足音を聞いて、顔を出さずに言った。
「俺のベッドに触れた奴は嫌いになるからな」
ピタッと足音が止まると、三人は仲良く隣のベッドに入り始めた。
「凛、夢桜!一緒に寝よ!」
「も、もちろんよ」
「ささっ、三人で寝たかったんだよねー!」
美少女三人とお泊まりってだけ凄いのに、内二人は俺のこと好きかもって、人生って素晴らしいな。
その後は何事もなく眠りにつき、翌朝、1番早く目を覚ました俺は、美少女三人組が寄り添って寝ている光景を見て、ゴクリと唾を飲んだ。
こいつら、喋らなければ俺の知る誰よりも可愛いかもしれない。いや、可愛い。間違いない。
先に旅館を出る準備を済ませ、三人に声をかけた。
「起きろ。朝だぞ」
「ん〜っ」
三人が起き上がって体を伸ばすと、三人の胸が見えそうになり、冷静な振りをして景色を眺めた。
「じゅ、準備しろ」
「分かったよ〜」
それから俺達は軽く部屋を片付けて、天沢先生がいる駐車場にやってくると、天沢先生は車の外でコーヒーを飲んでいた。
「おはよう!」
「おはようございます」
「流川、誰とヤッた?」
「ヤッてねーよ‼︎朝からなに聞いてんの⁉︎」
「なんだ、つまんないの」
「アンタ本当に教師なの?割と頻繁に疑いたくなるんですけど」
「立派な教師さ!」
「立派かどうかは置いといて、一応教師なんですね。で、今日はなにするんですか?」
「今日は、仙台に帰ってバーベキューでもする予定だったんだが、急に仕事が入ってな」
「バーベキューしたかったー」
俺も夢野と同じ気持ちだ。白波瀬と秋月はもちろん、天沢先生もそうだろう。
「バーベキューはまたの機会だ!今日は帰るぞ」
「はーい」
その日は地元の駅で解散し、各自、自分の家に帰っていった。
「んで、秋月はなんで尾行してるんだ?」
「ふぇ⁉︎バ、バレてた?」
秋月は苦笑いを浮かべ、電柱の後ろから出てきた。
駅から帰る途中、ずっと誰かの視線を感じていて、途中で道路に設置してあるミラーにバッチリ映ってたし。
「何の用だ?」
「塁飛くんの家に行ってみたいなーって」
「あぁ、いいよ」
「いいの⁉︎」
「おう。行くぞ」
「う、うん!」
なんなんなんなーんで⁉︎なんで俺の家⁉︎二人きりになって、じっくり舐め回すのか⁉︎てか、なんで許可しちゃったんだよ‼︎俺の馬鹿‼︎
秋月は嬉しそうに俺の隣にやって来て、二人で歩き始めた。
「合宿楽しかったね!」
「そ、そうだな。バーベキューも、またいつかできるみたいだし」
「だね!そういえば、凛と付き合ってるの?」
「は⁉︎なんで?」
「昨日の夜、部屋に戻ってきた時、なんかいい雰囲気だったから」
「付き合ってないけど」
「けど?」
「白波瀬もいろいろ大変なんだなって思った」
「一人暮らしのこと?」
「なんだ、知ってたのか」
「友達だもん」
「そりゃそうか」
白波瀬や夢野のこと、秋月の方が知っていて当然だ。なんかいろいろ聞いてみたいな。
そうこうしているうちに、家の前に着いた。
「ここが俺の家」
「へー!普通の家だ!」
「普通ならわざわざ言わなくていいわ。入るぞ」
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔されまーす」
玲奈、家にいるのか。まぁ、特に問題ないか、いつも部屋で雑誌か漫画読んでるしな。
二階の自分部屋に秋月を案内し、部屋のドアを開けると、秋月は嬉しそうに部屋を見渡し、ニコッとして俺の方を振り返った。
「男の子の匂いしないね!」
「男の子の匂い?」
「先生から『男の部屋はイカ臭いものだ』って教えてもらった」
生徒に何教えてんのあの人‥‥‥
「とりあえず適当に座っていいぞ。お茶かなんか持ってくるわ」
「ありがとう!」
秋月を部屋に残して、リビングで冷たいお茶を入れて持っていった。
「お待たせーって‼︎なにしてんだよ‼︎」
秋月は、脱ぎ捨てた俺のワイシャツを咥えながら床に座っていた。
「るいふぉふんのえふぃふぅ」
「なに言ってるか分からないぞ」
ワイシャツを口から離し、平然とした表情で答えた。
「塁飛くんのエキスを吸ってた」
「大丈夫か?救急車呼ぶか?」
「え?塁飛くんのエキスって毒入り⁉︎」
「そこじゃねーよ‼︎」
「お兄ちゃーん。うるさいー」
玲奈が隣の部屋から、スイカ柄の悪趣味なパジャマを着て、髪をを爆発させた状態で目を擦りながら出てきた。
「寝てたのか。悪いな」
「えぇ⁉︎お兄ちゃんが部屋に女連れ込んでる‼︎この可愛い人誰⁉︎」
秋月は笑顔で立ち上がり、玲奈に近づいた。
「はじめまして!クラスメイトの秋月秋華です!」
「玲奈です!お、お兄ちゃんとはどんな関係ですか⁉︎」
「んー、こういう関係かな」
秋月はいきなり俺に抱きつき、左耳を舐めはじめた。
「秋月〜⁉︎」
「ふぇ〜⁉︎何してるんですか⁉︎」
「こういうことする関係だよ♡」
「えー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
生々しく耳に響く舐める音と、経験したことのない感覚。離れようにも秋月の力強すぎ‼︎
「妹の前でなにしてんだよ!」
「ダメ?」
「当たり前だろ‼︎」
「そっか、残念」
秋月は俺を離してくれ、俺は玲奈の両肩を掴んだ。
「玲奈!」
「‥‥‥」
「今見たことは忘れてくれ。誰にも言うな」
「プリン」
「買ってやる。部屋に戻ってろ」
「プリン‥‥‥プリン‥‥‥」
玲奈は放心状態のままで部屋に戻っていった。
「玲奈がおかしくなったじゃないか!」
「妹ちゃんにはまだ早かったかな♡」
「そういう問題じゃないわ」
秋月は俺の両手を自分の腰に持っていき、俺の両頬に触れた。
「舐められてる時、どうして逃げなかったの?」
「秋月の力が強すぎたんだよ」
「力なんて入れてないのに。気持ちよくて、力が抜けてただけでしょ?」
「‥‥‥」
認めない‼︎俺は認めないぞ‼︎妹の前で気持ちよくなるお兄ちゃんとかヤバすぎるだろ‼︎
「と、とにかく、話でもしないか?」
「なんの?」
「白波瀬と夢野のこととか」
「まぁ‥‥‥いいけど」
秋月はベッドを背もたれにして床に座り、俺は秋月の目の前に座った。
「なにが聞きたいの?」
「白波瀬の過去を聞いてさ、夢野にもなにかあったりするのかなって、気になった」
「夢桜はね、カニ飼ってる」
「カニ?」
「食用のサワガニが安かったから飼い始めたらしいよ?」
「いや、どうでもいい話だな。もっとすごい話ないのか?」
「ある‥‥‥」
「な、なんだ?」
「私も驚いたんだけどね‥‥‥」
「おう‥‥‥」
「カニにエビちゃんって名前つけたんだって‼︎」
「知らねえよ‼︎」
「しかも結局食べたんだって‼︎」
「ペット食ったのかよ‼︎」
「素揚げで‥‥‥」
「素揚げか‥‥‥カニにもドSなんだな。って、そうじゃなくて」
「私は人の秘密を勝手に話したりしないよ」
「そう言うってことは、なにかあるんだな」
「どうだろうね。それに、凛と夢桜のことは聞くのに、私のことは聞かないんだね‥‥‥」
嫉妬‥‥‥なのか?未熟な俺には、女心がいまいち分からない。
「秋月は、過去になにかあったのか?」
「知りたい?」
「教えてくれ」
秋月は体育座りをし、体を小さくして床を見つめた。
「私、味覚がないんだよね」
「え?んじゃ、ご飯食べてる時とか」
「美味しいって言ってるのは、周りにバレたくないから」
「いつから味覚が無いんだ?」
「いじめられてたストレスでだから、一年経ってないけど。でもね!塁飛くんの首とか耳を舐めると、味はしないけど、なんか体が熱くなっていい感じなの!」
ツッコミたい。すごくツッコミたいけど、ツッコんでいいのか分からなすぎる。
「舐めていいぞとは言わないけど、ストレス発散しまくろうぜ。ラフに生きようぜ!」
「ラフ?」
「自分らしく飾らないってことだ」
「んじゃ舐めていいってこと⁉︎」
「お前はアホか」
「アホじゃないもん!」
「とりあえず夢野に電話するわ」
「なんで?今私と遊んでるのに」
「そんなハムスターみたいに頬膨らますな。可愛いだろうが」
「え‥‥‥♡まぁ、味覚ないの嘘なんだけどね」
「嘘かーい‼︎これ怒っていいやつだよな」
「えへへ♡」
俺には分かる。表情を見れば一発だ。秋月は人一倍優しいから、空気を悪くしたくなくて嘘をついたんだ。秋月はきっと、本当に味覚がない。
白波瀬には悲しい過去。秋月には現在進行形での悩み、夢野にもなにかある。明日、天沢先生をつめる必要があるな。とにかく今は電話だ。
顔を真っ赤にしてモジモジする秋月の前で、夢野に電話をかけた。
「夢野!」
「な、なに⁉︎」
「今、お前のペットがご主人様を心配してる!」
夢野にはこれくらいの勢いでいった方がいい。
「ポチが⁉︎どうしたの⁉︎」
「俺はお前の悩みを知ってしまった」
「ま、まさか秋華ちゃんに聞いたの⁉︎」
「そうだ。なんで言わなかった‼︎」
「だ、だって言えるわけないじゃん!」
「俺がなんとかしてやる!自分の口で正直に言ってみろ!」
「‥‥‥ポチが!じゃなくて、塁飛くんが好き‥‥‥です」
俺はすぐに電話を切り、頭を抱えた。
「悩みってそれかよー‼︎‼︎‼︎」
「どうしたの?」
俺は秋月の両肩を掴んで、助けを求めた。
「どうしよう!夢野に告白されちゃったよ‼︎」
「‥‥‥」
あ、まずい。非常にまずい。秋月も俺のこと好きな可能性あったんだった。
「あ、そうだ。ちょっとかけ直すわ」
「う、うん」
呼吸を整えて夢野に電話をかけなおした。
「もしもし?どうして切っちゃったの‥‥‥?」
ヤバイな、完全に不安そうな声だ。
「い、いきなり切れてさ、電波かな」
「そっか。それで、なにか言うことないの?」
「なんの話だ?さっき、途中から全く聞こえなくてさ」
「そ、そうなんだ!なんにも言ってないけどね!」
「ちなみに秋月から聞いたのは、ペットのカニを食べた話な」
「危なっ‥‥‥」
「ん?なんだ?」
「ううん!なんでもない!話はそれだけ?」
「それだけ」
「そっか!バ、バイバイ!」
「おう」
電話を切り、思わずガッツポーズをした。
「俺、天才」
「女の子を適当に扱ってると、いつか刺されるよ?」
「あ、秋月は刺さないよな?」
「私は塁飛くんの味方だもん!」
「そうか!俺は今、誰とも付き合う気ないからさ!」
「そうなの⁉︎」
「おう!」
さらっとそれを伝えることで、秋月からの告白を阻止する。でも、冷静に考えればもったいない。絶対バチ当たるわ。
「今告白されても絶対に振る自信がある」
「じゃ、なんで夢桜を振らなかったの?」
「あ、俺、これから行くところあるんだった」
「‥‥‥そうなんだ。それじゃ私は帰るね」
秋月は数秒無言で俺を見つめた後カバンを持ち、ドアノブに手をかけた時、こちらを見ずに低い声で言った。
「本当、刺されないようにね」
全身に鳥肌が立ち、微かに体が震えた。
そして翌日、学校に着いてすぐ、俺は職員室にやって来た。
「天沢先生」
「どうしたんだい?流川くん」
「く、くん?」
「なにか先生に相談かい?」
職員室だと猫被るのね。ヤバイはこの先生。
「学園祭の時、もう解決したみたいなもんだからって、俺に普通の教室に戻るか聞きましたよね」
「言いましたね」
「あいつら、悩みだらけじゃないですか。本当は気付いてますよね」
「そうですね。流川くんがあの教室に残るって分かっていたから聞きました」
「俺はどうしたらいいんですか?」
「全員を救いましょう!流川くんならできます!」
なんか、職員室に居る時の天沢先生って気持ち悪いな。
「独身先生がなんとかしてください」
バキッと音がして、天沢先生の手元を見ると、鉛筆ではなくボールペンを片手でへし折っていた。
「握力ゴリラっすね。だから独身なんですよ」
「る、流川くん?ちょっと生徒指導室行こうか」
「嫌です。身の危険を感じます」
「来い」
「はい」
不安の中で生徒指導室に入ってすぐ、天沢先生は俺をソファーに向かって背負い投げた。
「おらぁ‼︎」
「ぐはっ‼︎」
「覚悟はできてるんだろうな‼︎この童貞が‼︎」
「は⁉︎うるせぇよ‼︎」
「私もしたことないけどな‼︎」
「そんなカミングアウト要らないわ‼︎」
「謝れ‼︎」
「ごめん‼︎」
「許すかー‼︎‼︎‼︎」
「なんでー‼︎‼︎‼︎」
天沢先生が俺に掴みかかろうとした時、俺はとっさに天沢先生を褒めちぎった。
「せ、先生は超美人‼︎結婚できないのは男が悪い‼︎」
「‥‥‥分かってくれるのか‥‥‥」
「天沢先生みたいな素敵な人が彼氏できない方がおかしいです」
「流川〜!結婚してくれ〜!」
「やめっ!離せよ!」
掴みかかられなかったが、思いっきり抱きつかれた‥‥‥そして俺は気づいたんだ。S組で悩みを抱えてるのは三人だけじゃない。天沢先生もだ。ちなみに天沢先生は重症。
‥‥‥チャイムが鳴り、天沢先生はやっと俺から離れてくれた。
「教室行くぞ」
「はーい‥‥‥」
生徒指導室を出ると、扉の前に白波瀬が居て、天沢先生は露骨に動揺を見せた。
「し、白波瀬、聞いてた?」
「いえ、流川くんの声が聞こえたので来てみたんですが」
「そ、そうか!二人とも、早く教室来いよー」
天沢先生は逃げるように早歩きでS組に行ってしまった。
「流川くん、おはよう」
「おはよう」
「あの話だけど、ご主っ、流川くんは、中学の頃の私を覚えてる?」
今絶対、ご主人様って言いかけたよね。
「ストラップあげたのは覚えてるけど、顔はいまいち思い出せないんだ」
「そうなのね。でもきっと、あの日の人は流川くんで間違いないわよね」
「多分。てか、あげたのが白波瀬なら、ストラップ返してほしんだけど」
「嫌」
「えぇ〜」
「これは私のお守りだもの」
「なんか違うの買ってやるからさ」
「嫌」
「んじゃ首輪買ってやる」
「‥‥‥嫌」
「おい、今悩んだろ」
「首輪は買ってほしいから、今度二人で買い物行かない?」
「いいけど」
「今週の水曜日はバイトがないから、放課後にでも」
「了解。ん?ストラップは返してくれないけど、首輪は買わなきゃいけないのか?」
「はい♡」
「‥‥‥」
「これからは、今まで以上に従順な奴隷になります♡」
「んじゃストラップ返せ」
「嫌」
どうかしてるぜ‼︎‼︎‼︎
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