白波瀬は知る


翌日の9月30日、天沢先生は合宿について説明を始めた。

 

「10月2日から一泊二日の合宿をすることになった」


二日前に話すとか、どうかしてるだろ‥‥‥まぁ、特に予定ないけど。


「場所は牧場‼︎」

「えー、臭そう」

「夢野‼︎お前の方が臭い‼︎」 

「はー⁉︎いきなりなんだし‼︎」

「色気づいたメスの匂いがする」

「はっ、は?気のせいじゃない?」


天沢先生は夢野の相談を乗ってあげる優しさはあるが、デリカシーはあまりないみたいだ。


「なぜ牧場なんですか?」

「白波瀬!いい質問だ!牧場にした理由はな‥‥‥」


なんだこの雰囲気。天沢先生が珍しく真面目なことを言う気配。


「可愛いからだ‼︎」 


俺の期待を返せ‼︎‼︎‼︎


「みんなで癒されに行くぞ‼︎持ち物はジャージ2着!着替えのパンツも忘れるな。それに流川も一緒だ‥‥‥勝負パンツを用意しておけ」


三人は恥ずかしいからか、小さく丸まってしまった。


「俺はなにもしませんよ」


三人は一斉に、悲しそうな顔で振り返った。


そんな顔で見ないでもらえます⁉︎期待されても困るんですけど⁉︎


「でもお前ら、同じ部屋だぞ」

「はい⁉︎」

「しょうがないだろ。旅館の部屋が空いてないんだから」

「旅館⁉︎」

「なんだ秋月。旅館じゃ不満か?」

「温泉もあるの⁉︎」

「露天風呂もあるぞ!混浴の」


三人共〜、いちいち振り返らないでね〜。って混浴⁉︎この三人が望めば、一緒に‥‥‥いやダメだ。絶対ダメだ‼︎でも‥‥‥あー‼︎‼︎誘惑がー‼︎‼︎なぜ神は、人類にエロを与えたのだろう。


「一応財布も持ってこい。喉が渇いた時とか、無いと困るからな。集合時間は朝五時!学校の駐車場に来ること。てことで、合宿の話は終わりだ」


ザックリしてるな‥‥‥しかも朝五時って拷問だろ。


そして当日、学校のジャージを着て、まだ眠たさが残るうちに学校に着くと、三人も学校のジャージを着て、すでに集まっていた。


「おはよう!」

「おはよう。この時間寒すぎじゃね?」

「暖めてあげるわ」


白波瀬は堂々と抱きついてきたが、二人のムッとした表情を見て、俺はすぐに離れた。


「いきなり抱きつくな」

「そうだよ。ポチが嫌がってる」

「そうかしら、すぐに離れなかったけれど」

「さ、寒くてすぐに動けなかっただけだ」


朝から気まずっ‥‥‥


しばらく駐車場で話していると、軽の赤色の車が入ってきた。


「おっ!時間通りに来たか!」

「それ、天沢先生の車ですか?」 

「そうだ!乗れ!」

「あ、秋華ちゃん前乗りなよ!」

「いやいや、夢桜が乗りな?」

「んじゃ、凛ちゃん乗ったら?」

「嫌よ」

「んじゃ俺が前に乗るよ」


助手席に乗ろうとした瞬間、三人は「それはダメ‼︎」と大きな声を出したが、天沢先生は俺の腕をグイッと引っ張って助手席に乗せた。


「はいはい!流川は私の隣でいいだろ。ね♡流川きゅん♡」

「え、キモ」

「あ?」

「え、怖い」


天沢先生は三人をチラッと見て、体をビクッとさせた。


「流川、絶対三人を見るな」

「な、なんでです?」

「美少女らしからぬ、恐ろしい顔をしている」

「なるほど‥‥‥」


三人は渋々後部座席に乗り、牧場に向かって車が動き出した。


「牧場ってどこにあるんですか?」

「山だ」

「どこの?」

「山形だ」

「ここ仙台ですけど」

「二時間のドライブだ。たまにはいいだろ」

「そうっすね」

「おい!誰だ背中蹴ってるの!」


白波瀬は真顔で天沢先生の座席をドンドンっと蹴っていた。


「白波瀬、事故ったら大変だ。やめろ」

「流川くんが言うなら分かったわ」


白波瀬、なにイライラしてるんだか。


それから約二時間、たわいもない会話をしながら車に乗り続け、山形の山の中にある牧場に着いた。


「荷物は車に置いておけ」

「はーい」


みんなで牧場の奥に進むと、ニコニコして優しそうな、作業着姿のお爺さんが出てきた。


「おはようございます!花苗坂高校から来ました!」


天沢先生が元気よく挨拶すると、お爺さんはペコッとお辞儀をした。


「待ってましたよ。どうぞこちらへ」


暖かい室内に案内され、人数分の灰色の作業着を渡された。なんで作業着‥‥‥


「着替えたら、また外に来てください」

「分かりました」


男女に分かれて更衣室に入り、外に出ると、三人は作業着を着て俺を待っていた。


「塁飛くん似合うね!」


秋月、お前が1番似合ってる。


「三人も似合ってるぞ」

「さて、最初は鶏小屋の掃除をしてもらおうかな」

「え」


なぜか仕事が始まった。天沢先生は居ないし、これ、ハメられたな。


「散らかった餌とフンを集めて袋に入れてね」

「はい」


三人は露骨に嫌な顔してるけど、さすがにお爺さんには文句も言えないようだ。


それから牛小屋の掃除、牛の餌やりなどをして、お爺さんに牛小屋で待つように言われて俺達四人だけになった時、夢野はついに口を開いた。


「なにこれ、なんで休みの日に牧場の仕事してるの?」

「単位稼ぎだろ」

「さすがに疲れたわね」

「私も体が限界」 

「疲れるの早すぎだろ。俺も疲れたけど」


お爺さんが戻って来て、次の説明をされた。


「次は牛の乳搾りを体験してもらおうかな!」

「難しくないの?」

「大丈夫だよ。お嬢ちゃん達は可愛から、牛も喜ぶよ」


お爺さん。可愛くない俺の場合は大丈夫ですか。俺、不安です。


最初に秋月が牛の横にしゃがみ、お爺さんの指示通りに乳搾りを始めた。


「もっと、根本から順番に力を入れていく感じにしてごらん」

「あ!出た!」

「そう、上手だねー!次はツインテールのお嬢ちゃん!」

「は、はい!」


夢野も乳搾りが上手くいき、二人ともなんだかんだ楽しそうだった。


「次は黒髪の子!」

「はい」


白波瀬が牛の乳搾りをしている時、夢野はニヤニヤしながら顔を近づけてきた。


「な、なんだよ」

「ポチのもいっぱい出るかな」

「それアウトだろ」

「塁飛くんのもあんな感じ?」

「お前ら、牛と俺に謝れ」

「次、そこの男の子の番!」

「あ、はい」

「流川くん、頑張っていっぱい出してね」

「お、おう」


白波瀬の言葉に深い意味はない。そう思いたい。


「こんな感じですか?」

「君!1番上手いよ!やったことあるのかい?」

「ポチは毎晩してるから!」

「しないわ!中学の時に一度」

「え⁉︎男の子ってそんなもんなの⁉︎」

「夢野、もう黙れよ」


そんなこんなで乳搾りが終わり、次に案内されたのはウサギやヒヨコ、モルモットがいるお触りコーナーだった。そしてそこに天沢先生が居た。


「お前ら頑張ってるか?それより見てくれ!」


天沢先生はノリノリで、携帯で撮った自撮りを見せてきた。


「全部の動物と撮ったんだ」

「可愛いっすね」

「流川〜。そんなに私が可愛いのか〜?」

「先生は普通に美人ですよ」

「あっ、いや、そうだ!まだウサギ触ってなかったんだった」


天沢先生はウザいけど、褒めると急に乙女になるところは好きだ。男心をくすぐられる。てか、写真でウサギ抱っこしてたじゃん。


「流川くん、私は可愛いかしら」

「普通」 

「え」 

「ポチ♡私は?♡」

「普通」

「は?」

「私はどうかな?」

「普通」

「え」


こいつらは適当に対応しないとめんどくさい。俺も随分と対応に慣れてきたもんだ。


それから、みんなで生き物と触れ合い、白波瀬がヒヨコを怖がっているのを見て声をかけた。


「触ってみろよ。なにもしてこないぞ?」

「噛み付いてきたりしないかしら」

「しないしない、ほら」


俺はヒヨコを優しく手に乗せ、白波瀬の手に乗せてあげた。


「小さいのに暖かいだろ」

「命って感じがするわね」

「触れてよかったな」 

「うん。ありがとう」


次は秋月だ。怖いものが無さそうに見えるが、ウサギが怖いのか、なかなか餌をあげれないでいる。


「秋月」

「あ、塁飛くん。なんかウサギが逃げる」

「しゃがんで、ウサギの顔より低い位置であげてみ?」


秋月は俺が言った通り、しゃがんで手を伸ばすと、ウサギの方が寄ってきた。


「あ!食べてくれた!すごい!なんで⁉︎」

「野生のウサギは鳥とかも敵だからな。上からは警戒するんだ」

「物知りだね!」

「まぁな!」

「ポチ〜」


夢野の困ったような声がして振り返ると、モルモットコーナーで可愛い困り顔をしていた。


「モルモット怖いよ〜」

「さっき、抱っこしてるの見たぞ」

「チッ」

「舌打ちするな。モルモットに悪影響でしょうが」

「流川」

「はい」


天沢先生に声をかけられ、急に髪をグシャグシャにするように頭を撫でらた。


「なんすか」

「流川は面倒見がいいな」

「ほっとくと、めんどうなことになりそうなんで」

「本当にそうか?学園祭の時も三人のために頑張ってくれただろ」

「‥‥‥まぁ、たまたま」

「そうか。これからも頼むぞ」

「うい」


それから、みんなでバニラアイスとお昼ご飯をご馳走になり、夕方まで仕事が続き、やっと作業が終わった。


「お世話になりました」

「みんな、また来てね!」

「はい」


もう仕事では来たくない‥‥‥


また天沢先生の車に乗り、そのまま山形の旅館に向かった。着いた旅館は想像よりデカく、全員のテンションが露骨に高くなった。


「今日はここに泊まるぞ!」

「やったー!」

「どんな部屋かな!」

「温泉も楽しみね」

「天沢冬華で予約して、前もって金は払ってある。行ってこい」

「天沢先生は?」

「私は飲み歩くっていう仕事があるからな‼︎」

「ほどほどにお願いしますね」

「分かってるよ」


天沢先生と別れ、四人で旅館に入り、部屋の鍵を貰った。


「急ご急ご!」

「夢野、他のお客さんに迷惑だから走るな」


てか、本当に同じ部屋かよ。


ワクワクする気持ちと不安が入り混じりながら部屋に入ると、和風の畳の部屋で、部屋からは綺麗な川が見えた。


「ねぇ!これって食べていいのかな!」


秋月はテーブルに置かれたお菓子を嬉しそうに、指差し、ワクワクがこっちにまで伝わってくる。


「食べて大丈夫だろ」


そんなことより問題は他にある。ベッドが二つしかないじゃねーかー‼︎‼︎‼︎ありがとうございます‼︎問題は誰と寝ることになるかだ。

秋月と寝れば、きっと体中がヌルヌルになる。夢野と寝れば、きっと寝かせてくれない。白波瀬と寝れば、夢野と同じく寝かせてくれる気がしない。一人で寝るのが1番か。


「三人は同じベッドで寝ろよ」

「別にいいよ?ね?」

「OK」

「私も問題ないわ」

「そ、そうか」


ありえない‼︎こいつらがその点で揉めないとかあるのか⁉︎怪しい‼︎怪しすぎる‼︎


その時、部屋がノックされ、女性の声がした。


「お食事の準備が整いました」

「そういえば、もうそんな時間か」

「牧場から旅館までも、結構時間かかったものね」


扉を開けると、次々と豪華な食事が運び込まれ、唖然とした。

これ、俺の親はいったい幾ら払ったんだよ。


白波瀬は誰よりも目を輝かせて刺身などを見ていている。こんな白波瀬は珍しい。


「白波瀬、嬉しそうだな」

「私、こんな料理食べたことないわ」

「なんか、いいものばっかり食べてそうだけどな」

「いつもカップ麺ばかりよ?」

「もう少しいいもの食えよ」

「でも今日は、みんなと食事ができるわ!」

「そうだな」


さっそくみんなでテーブルを囲み、夜ご飯を食べ始め、約40分経った頃、全員床に倒れ込んでいた。


「食べすぎた‥‥‥」

「だな‥‥‥俺、温泉入ってくるわ」


そう言うと、さっきまでダウンしていた三人はスッと立ち上がり、声を合わせて「行きましょう!」とテンションが上がった。


「混浴は入らないからな」


なんだよ。そんなガッカリした顔しても入らないぞ。いや、入りたいよ?俺だって美少女三人とお風呂入りたいよ?でも理性が持たないよ?いいの?ダメだよね?だから入りません‼︎


俺は三人に捕まらないように早歩きで露天風呂に向かい、なんとか普通に入ることができた。誰もいないし最高だ。

それから数分後、隣の女湯から三人の声が聞こえてきた。


「凛、1番大きいんじゃない?」

「そうかしら。それにしても、夢野さんの胸は意外と」

「なに‼︎」

「なに?言ってほしいの?」

「言ってみろし‼︎」

「可愛いわね」

「ふざけるなー‼︎」

「きゃ!なに触ってるのよ!」

「よこせ!この乳よこせー!」

「私にもよこせ!」

「ちょっと二人とも!触らないで!そ、そこはダメよ!」


そこってどこですかー⁉︎⁉︎︎⁉︎⁉︎胸だけじゃないんですかー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎


気づけば俺は、女湯と男湯の間にある壁に耳をピッタリつけていた。


「凛ちゃん、そんなに顔赤くしちゃって〜」

「ほれほれ〜、ここがいいんじゃろ?」

「や、やめてって言ってるじゃない!」

「やめないよ〜!」

「いやぁ〜!」


ダ、ダメだ、もう部屋に戻ろう‼︎


鏡を見ると、のぼせたわけじゃないのに俺の顔は真っ赤になっていた。急いで浴衣に着替えて部屋で三人を待っているうちに、俺は疲れていたから、いつの間にか寝てしまった‥‥‥


‥‥‥夜中、悪寒がしてハッと目を覚ます。

すると、部屋の電気は消えていて、目の前には白波瀬の顔があり、体がビクともしなかった。


「おはようございます♡」

「こ、これ、どうなってんの?」 

「隣のベッドを見て」


右隣のベッドを見ると、夢野と秋月が、浴衣がはだけた状態で倒れていた。

見ちゃいけないものが見えそうで視線を逸らすと、白波瀬はトロけた目で更に顔を近づけてきた。


「ご無礼をお許しください♡体縛っちゃいました♡」

「ま、待て、どうしてこうなった」

「温泉から帰ってきたら、ご主人様が寝ていたのを良いことに、二人が暴走し始めたので、軽く気を失ってもらってます♡今ご主人様を縛り付けているロープは、夢野さんのカバンに入っていたものです♡」

「とにかく解いてくれ。頼む」

「嫌です♡」


白波瀬が俺の上に乗ってるだけでヤバイのに⁉︎これどうなっちゃうの⁉︎


「し、白波瀬はなにしてほしい?解いてくれたらなんでもしてやる」


すると白波瀬は急に目を見開き、威圧的な表情に変わった。


「嘘。嘘ですよね。いつも適当に私をあしらっていること、知ってますよ?」


なにこれ怖い。こんなの白波瀬じゃない。


「謝るからさ、な?」

「ごめんなさいで済んだら戦争は起きないんです」

「ご、ごめんなさいって言わないから戦争が起きるんだと思うんだが‥‥‥てか、戦争ってなんだよ」

「さぁ?」

「そ、そうだ!俺達は友達だろ?こんなことしたらまずいって」


すると白波瀬は体を起こし、俺を縛り付けるロープを解き始めた。


「分かってくれたみたいでよかった」

「友達ってワードで冷めたわ。ご主人様とメイド、いや、奴隷という関係を楽しみたかったのに」

「奴隷って‥‥‥」

「取れたわよ」

「ありがとう。なんか完全に目が覚めちゃったな」

「散歩で行く?」

「お、いいな」


俺達は二人で浴衣姿のまま旅館を出て、散歩を始めた。

駐車場の横を通る時、天沢先生の車の中に人影が見え、近づいてみると、車の中には缶ビールと食べかけのスルメがあり、丸まって眠る天沢先生がいた。


「部屋取ってなかったのかしら」 

「飲んでたら寝ちゃっただけだろ」

「そうね。起こす?」

「そっとしとけ」

「分かったわ」


それから夜の街を散歩していると、飲み屋が多く、大人達が盛り上がっていた。しばらく適当に歩いて、旅館の裏にやってくると、そこには人が居なく、暗い場所にポツンと灯りがあり、そこで足湯を見つけた。


「旅館の入り口付近にもあったけれど、裏にもあるのね」

「よく見てるな。入り口にあるの気づかなかったわ」

「足湯って気持ちいいの?」

「多分。せっかくだし足入れてみようぜ」

「そうね」


二人で足湯に足を入れると、思わず「おー」と声が出た。


「結構いいな」

「しばらくこうしていたいわ」

「俺も」

「今日、楽しかったわね」

「楽しいとかって感情あるんだな」

「あるに決まってるじゃない。学園祭も楽しかったし」

「意外だな」

「そう?私ね、小さい頃に両親が離婚して、それから親戚のおばさんが大家さんをしているアパートに住まわせてもらってるの」

「いきなり重いな」

「ごめんなさい」

「別にいいけど」

「どちらも私を要らない子だと言ったわ。でも、大家さんが預かってくれて救われた。無料で部屋を貸してくれたのは高校生になってからで、それからは毎日一人でカップ麺を食べる生活」

「そういうことか」

「だから、今日はみんなとご飯が食べれて嬉しかった」

「ま、要らない子って言われたの気にしてんのかもしれないけど、俺達が友達でいる以上一人じゃない。たまにみんなでご飯食べよう」

「本当優しいのね。でも私は流川くんを本気で好きになることはないわ。気に入ってはいるけれど」

「おい。告白してない相手を振るなよ。なんか傷つくだろうが」


白波瀬は浴衣の内ポケットから携帯を取り出した。


「私の好きな人は、このストラップを」

「そのストラップ‼︎白波瀬、あのゲーム好きなのか⁉︎」

「え?」

「面白いよな!中学の時にドハマりしてさ、ゲーセンでそのストラップ取ったんだよ!」

「そ、そうなのね」


白波瀬が携帯に付けていたストラップは、とあるRPGゲームのゆるキャラ的見た目をしているが、実はめちゃくちゃ強い、マシュマロみたいな妖精のストラップだった。それを見てテンションが上がった俺は、白波瀬が話し終わる前に話してしまった。


「でも、そのストラップをゲットした帰り、どっかのアパートの前で、しゃがみ込んで泣いてる女子学生が居てさ、見た目そんなキャラだろ?女の人も喜ぶかもなって思ってプレゼントしちゃったんだよな。今考えればマジでもったいない。それ、プレミア付いてるし」

「‥‥‥」


白波瀬は何も言わずに俺を見つめていた。


「白波瀬?」

「‥‥‥」

「そ、それ、今は高値ついてるから大事にしろよ?」

「‥‥‥あの日、私を元気付けてくれてありがとう」

「え‥‥‥」


白波瀬は涙は流していなかったが、泣いているような切ない笑顔をしていた。

そして、白波瀬はそれ以上、なにも言わなかった。

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