あの子は舐魔⁉︎
学園祭の分、1日振替休日となったが、特に何もすることがなかった俺は、玲奈へのお礼も込めて、コンビニでシュークリームを買ってきた。
「玲奈、シュークリーム買ってきたぞ」
「本当⁉︎」
嬉しそうに部屋のドアを開けた玲奈は、前髪にだけ台風直撃したのかと思うぐらい、ひどい寝癖がついていた。
「相変わらず寝癖すごいな」
「悩んでるんだけどねー」
「どう寝たらそうなるんだよ。てか、今日学校は?」
「あ、忘れてた」
「は?」
「だって、お兄ちゃんがずっと家に居るから!休日だと思っちゃった!」
「今すぐ行け」
「か、顔洗わなきゃ!」
「シュークリーム、冷蔵庫に入れとくぞー」
「はーい!ありがとう!」
玲奈の将来が心配だ‥‥‥
翌日、いつもよりスッキリした気分でS組へ行くと、今まで距離の離れていた机を一列に繋げ、三人は楽しそうに会話をしていた。
「あ!塁飛くんおはよう!」
「おはよう。朝から楽しそうだな」
「流川くんも、私の隣来る?」
「ポチは私の隣だし!」
「夢野さんは真ん中なんだから無理でしょ?」
「‥‥‥ふん‼︎」
こいつら、本当に仲直りしたのだろうか‥‥‥
「それより夢野」
「なに?」
「いい加減、椅子からズボン剥がせよ!」
「もうガッチガチなんだもん‼︎」
「お?流川のシモの話か?」
天沢先生は絶妙なタイミングで教室にやってきて、朝っぱらからド下ネタをぶっこんできた。
「くだらないこと言う前に、謝ることありますよね」
「ないぞ?」
「はーいー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎学園祭で俺の背下に吐きましたよね‼︎」
天沢先生は『なに言ってんだこいつ......』と言いたそうな顔で俺を見つめた。
「なんで私が吐くんだよ」
「あ、もういいです。帰ります」
「嘘だよ嘘‼︎すまなかった‼︎」
「覚えてたんかーい‼︎‼︎‼︎」
「はーい。今日は話がある」
「おいこら。話流すな」
「いいから座れ」
「はいはい」
自分の席に座ると、天沢先生は黒板にデカデカと【誕生日‼︎】と書いてすぐに俺達の顔を真剣な表情で見渡した。
「今日‼︎9月29日は私の誕生日だ‼︎」
「いや知るか‼︎」
「祝って?♡」
なに、きゃるん♡って顔してるんだ。仮にも先生だろうが。
すると三人は立ち上がり、拍手しながら言った。
「おめでとうございます!」
「ありがとーう!」
「ほら、流川くんも!」
「お、おめでとうございます」
「なんだ流川。そんなに私の誕生日を祝いたいのか!そうかそうか!朝のホームルームサボって来て正解だったわ!」
「サボるなよ!」
「だってさ〜、彼氏いないし『自分への誕生日プレゼント♡』とか一人で舞い上がって高いベッド買っちゃったし『やっぱりギシギシいわないベッドはいいね♡』とか一人で言っちゃうの。当たり前だよね、ギシギシいわせてくれる男が居ないんだもん」
なに?すごい早口。怖い。あと悲しい。
「ふ、冬華ちゃんならすぐ彼氏できるよ!」
「そうそう!美人だし!」
「先生なら大丈夫です!」
三人が励ますと、天沢先生は悔しそうに机を叩き、大きな声を出した。
「お前らはいいよな‼︎毎日、流川とイチャイチャしやがって‼︎」
「してねーよ‼︎」
「流川‼︎先生ともしてくれ‼︎」
「本当にセクハラで訴えますよ」
「バーカ‼︎訴える金もないくせに‼︎バーカ‼︎」
「塁飛くんは馬鹿じゃない!」
「秋月?ムキになるな、天沢先生は独身の悪魔に取り憑かれてるんだ。夢野、除霊してやれ」
「どうやって⁉︎」
「白波瀬に聞け」
「私⁉︎」
「彼氏ほしい彼氏ほしい彼氏ほしい彼氏ほしい」
狂った天沢先生を無視して、俺は静かに教室を出て、調理室から塩を持って教室に戻ってきた。
「悪霊退散‼︎」
「いや〜!」
天沢先生に塩をかけると、天沢先生は床に座り込み、唇に人差し指を当てた。
「流川のしょっぱい♡」
「変な言い方すんな‼︎」
すると冷静になったのか、普通に立ち上がった。
「私の体が流川に汚されたところで、授業始めるかー」
「わざと言ってるよな」
「私はそんな簡単にイかっ」
「黙れ」
朝からドッと疲れた‥‥‥でも誕生日か。コーヒーぐらい買ってあげてもいいかもな。
そして昼休みになると、三人と話し合い、一人一本のコーヒー、合計四本をプレゼントすることになった。
「ポチさ、朝から大変だったのにプレゼントするとか優しいよね」
「一応、唯一信用してる先生だし」
「流川くんは前から優しいわよ」
「し、知ってるし!」
秋月は自販機のボタンを押し、俺に聞いた。
「塁飛くんの誕生日っていつ?」
「10月31日。まだ先だ」
「覚えておくね!」
「ありがとう」
秋月の笑顔は何故だか、一際眩しく見える。優しさと可愛さを兼ね備えた、最強女子高生だからか。いや違う。夢野と白波瀬とは違い、普通だからだ。きっと。
「それじゃ、コーヒーは私の机に隠しておくわ」
「了解!頼んだよ!」
「凛ちゃん!一緒に弁当食べよ!」
「いいわよ」
白波瀬にコーヒーを預けて、白波瀬と夢野は教室に戻って行った。
「ね、ねぇ」
「ん?」
「私達も一緒に食べない?」
「いいけど、俺、弁当持ってきてないぞ?」
「いつも売店?」
「だいたいそうだな」
「それじゃ今日は、私も売店で買う!」
「そうか。んじゃ買いに行くか」
「うん!」
秋月と売店でメロンパンを買い、誰もいない屋上にやってきて、前は暑くて座れなかったベンチも座れる季節になり、二人で同じベンチに座った。
「最近、少し寒いよな」
「冬服になるの来月だよね?」
「そうそう」
三人の冬服も可愛いに違いない。そして来年の夏、夏服最高と思うに違いない。
「肌寒いなーって日と、まだまだ夏の暑さが残ってるなーって日があって困っちゃうよね」
「それな。寝る時暑くて、朝方寒くて起きるし」
「分かる!」
この、たわいもない会話ができる関係っていいな。秋月とは、こういう風に、いい友達でいるのが1番いいんだ‥‥‥にしても、このメロンパン美味いな。そんなことを考えながらメロンパンの袋を見ている時、首筋にヒヤッとした感覚と、ヌルッとした感覚を同時に感じた。
「なんだ⁉︎」
「えへへ♡我慢できなかった♡」
「な、なにした?」
「少し舐めただけだよ?」
「少しとかの問題じゃねーよ!」
終わった‥‥‥秋月も普通じゃないかもしれない‥‥‥そんなことって‥‥‥
「キス魔っているでしょ?それの舐める版」
「‥‥‥」
「でも勘違いしないで?今までは想像だけで、舐めたのは塁飛くんが初めてだから♡」
「秋月、お前は普通じゃなかったのか⁉︎」
「本当は舐めるだけじゃなくて、食べちゃいたいなって思う」
「うん。普通じゃないな」
「もっと舐めていい?♡痛くとかしないから♡」
「ダ、ダメに決まってんだろ!」
本当は秋月なら、全然お好きにどうぞって感じだけど!恥ずかしいし!学校だし!
「どうして?私、塁飛くんがす」
「あー!メロンパン二個目買ってくるわー!」
秋月が言おうとしたことはすぐに分かった。
ここでそれを言われたら、答えを出さなくちゃいけなくなる。ここは逃げるが勝ち。
俺はメロンパンを買わず、教室に戻って机に顔を伏せた。
「ポチー?」
「流川くん?どうしたの?」
「別にー」
「あ!そっか!最近私がいじめてくれないから、いじけてるんだ!」
「違うわ」
つか、いじめられてるわ。
夢野は俺のワイシャツを掴んで体を起こし、いつもの、人を見下すような目つきで顔を近づけてきた。
「なにしてほしいか言ってごらん?」
「メロンパン買ってきて」
「は?誰に命令してるの?」
「夢野」
夢野は目を見開いて黙って教室を出て行き、すぐに白波瀬が駆け寄ってきた。
「ご主人様、大丈夫ですか?どうか私でストレス発散してください♡」
「三回まわってお手からワン」
白波瀬はその場でくるくる回り、お手をした。
「ワン♡」
なにしてるんだか‥‥‥俺も白波瀬も。
しばらくの間、白波瀬に犬語で喋らせて遊んでいると、夢野が笑顔で戻ってきて、いきなり俺の口にメロンパンを突っ込んできた。
「ほら♡餌でちゅよー♡」
「んー‼︎」
「いっぱいモグモグしましょうねー♡」
やばい、死ぬ。
俺は喉の下を叩きながら白波瀬の机を指差し、白波瀬はメロンパンが詰まったことを察してコーヒーをくれた。
「死ぬかと思った‥‥‥」
「ポチ!なに二本も飲んでるの⁉︎」
「夢野のせいだろ!」
「ポチが調子に乗るから悪いんだよ?」
「はい、すみません」
「いい子いい子♡」
「夢野さん、流川くんをいじめないでくれる?」
「ポチは私にいじめられて喜ぶんだよ?変態だから」
「流川くんは、いじめる方が好きなの」
「そんなわけないよ。ね?ポチ」
「舐められるのが1番嬉しいわ」
「え‥‥‥あぁ、ほら!なめた目つきでいじめられたいってこと!」
「夢野さんは可哀想に。本当の流川くんを知らないのね。さっきのはご奉仕してほしいって意味よ」
「はい!ストーップ‼︎お前ら、少しは恥じらい持とうな」
それから秋月も戻って来たが、さっき俺の首を舐めたことなんて無かったことのようにいつも通りだ。
放課後
天沢先生が教室を出て行く時、白波瀬がそれを呼び止めた。
「先生」
「どうした?」
「みんなから誕生日プレゼントです!」
「お⁉︎」
結局、俺のせいで二本だけ渡すと、天沢先生は子供のような笑顔で喜んでくれた。
「ありがとうな!」
俺達もホッと一安心した時、天沢先生はなにかを思い出したような表情で、黒いクリアファイルを開いた。
「危ない危ない。これ見とけよ」
渡されたプリントには【S組合宿‼︎始まるよ〜‼︎不純なことはらめだぞぉ♡10月2日♡一泊二日♡】とだけ書いていた。
「これを見てどうしろと」
「詳しくは明日話す!お前らもさっさと帰れよー」
合宿‥‥‥嫌な予感しかしね〜‼︎‼︎‼︎待て。案外、ご褒美展開とかあるんじゃね⁉︎
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