学園祭でラッキースケベ?


なーんにも解決しないまま、学園祭当日になっちゃったよ〜。


今日は朝から生徒会室に行き、そのまま学園祭開始まで最終準備をしなければいけない。

学校に着いて、さっそく生徒会室に行くと、S組のみんなが生徒会室の前で唖然としていた。


「おはよう」 

「流川くん。大変」

「ん?」


中を見ると、看板は真っ二つに折られ、駄菓子は袋の上から踏まれた形跡があった。


「天沢先生には言った?」

「言ったわ。自腹で買えるだけ買ってくるって」

「そうか。夢野、ちょっと来い」

「うん‥‥‥」


夢野を少し離れた階段まで連れて行き、俺は全力で夢野を慰めた。


「大丈夫だ。夢野は悪くない」 

「私のせいだよ」 

「やった奴が100パーセント悪い」


その時、天沢先生から電話がかかってきた。


「もしもし」

「流川。大変なことになった」

「俺もさっき見ました」

「そうか。もう一つ悪い知らせだ」

「なんですか?」

「この前、2万円近く買ったせいで、駄菓子が全然売ってない」

「そうですか。それなら無理せずに中止にしましょう」

「ダメだ」

「どうしてですか」

「お前らの頑張りを無駄にしたくない。すぐ戻るから、粉々になった駄菓子を持って調理室で待機してろ」

「調理室はクッキング部が使ってます」

「クッキング部の先生に話は通しておく」

「分かりました」


電話を切り、今にも泣き出しそうな夢野の肩に優しく触れた。


「夢野!」

「んっ‥‥‥」

「学園祭、楽しくなりそうだぞ!」

「え?」

「行くぞ!」


生徒会室に戻り、事情を説明して全員で大量の駄菓子を、一階にある調理室に運ぶ途中、明らかに犯人の集団に笑われた。


「あははは!」

「てめぇー‥‥‥」

「秋月、落ち着け」 


白波瀬と夢野は俯いて怯えてしまった。いじめ集団か。


「でも、あいつらが」

「猿に何言っても通じないって!」

「塁飛くんが1番落ち着いて⁉︎」

「今なんて言った?」


俺だってイライラはしている。でも、挑発しても絶対大丈夫な自信があった。


「猿って言ったんですよ。伝わります?ウキウキー」


男の先輩に胸ぐらを掴まれたが、抵抗せずに冷静を装って言った。


「いいんですか?手出したら俺達、家に返されますよ?先輩も学園祭は楽しみたいでしょ」

「あんまり調子に乗るなよ」

「二日間の学園祭が終わったら、S組に来てください」

「行ってなにするんだよ」

「相手になってやりますよ」

「ほー」

「天沢先生が」

「先生かよ‼︎」

「じゃ、急ぐので‥‥‥お前ら逃げろー‼︎‼︎」


俺達は全力で調理室の前まで走ってくると、思わず笑いが溢れた。


「ポチ!さすがじゃん!」

「流川くんのおかげでスカッとしたわ!」

「塁飛くんいいよ!いい根性してる!」

「それほどでも〜!とりあえず入ろうぜ」

「うん!」


調理室の扉を開けると、黄色いエプロンとバンダナをした、低身長の可愛らしい女子生徒と、ピンクのエプロンとバンダナをして、バンダナからクルクルの天然パーマがはみ出した、ポッチャリな男子生徒がいた。


「あ!来た!」

「お前らがS組か!」

「は、はい」

「話は聞いているぞ。大変だったな。でも、もう大丈夫だ!俺達と協力しよーう!俺の名前は猪熊仁いのくまじん。よろしく」


なんだこのぽっちゃり‥‥‥いい人じゃん。


「流川塁飛です。よろしくお願いします」

「敬語は必要な〜いでござる!」


あ、なんかこの人めんどくさそう。


「そうそう!私達も一年生だし!ちなみに私の名前は、杏中夏樹あんなかなつき!」

「そうだったのか。よろしく」

「んじゃ、白のエプロンとバンダナしかないけど、それ使って!」

「お、おう」


まだ、なにをするか聞かされてないんだよなー。と思った時、息を切らした天沢先生がやってきた。


「待たせた!」

「汗すごっ!」

「これを買ってきた」


渡されたのは、一冊の本だった。


「駄菓子で作る料理?」

「駄菓子屋じゃなく、駄菓子料理店をやるぞ!駄菓子を使った料理のレシピが大量に載ってるから、なんとかやってみろ!」

「了解です」


すると、白波瀬は不安そうな表情をして首を傾げた。


「でも、クッキング部の二人の出し物は?大丈夫なの?」

「俺達は、ここでクレープを作るんだ。だから、そのメニューにS組のメニューも加えるだけだし、むしろメニューが増えて助かる」

「そう」

「君の名前はなんだい?」

「貴方に教える必要はないわ」

「す、すまぬ」


うっわ!冷たいな。いつも『んっ♡あっ♡ご主人様〜♡』とか言ってるとは思えないわ。まぁ、俺にも最初は冷たかったけど。


「白波瀬達を知らないのか?有名人だぞ」 「あいにく俺は、二次元にしか興味がない」 「なるほど。幸せだな」

「それじゃ、私に名前教えて!」


杏中が白波瀬達に笑顔で聞くと、三人は優しい表情で答えた。


「白波瀬凛」

「夢野夢桜」 

「秋月秋華」

「三人合わせて〜」

「ポチ、シャラップ」

「はい」


三人とも、女には優しいのにな。


「お前ら、喋ってる暇はないぞ」

「そうだった!急ぐぞ」

「うん!」


クッキング部の二人も、自分達の作業を始め、俺達は俺達で、手元にある駄菓子で作れるレシピを探しながら、白波瀬と秋月が実際に作っていった。


「スナック菓子の天ぷら、どんな感じだ?」

「問題ないわ」 

「夢桜、メニューに書き足して」

「了解!値段は?」

「40円」


慌ただしい中、俺は思った。俺を喜ばせた方が、明日俺を独り占めって勝負、このまま忘れてくれないかなと。二人になんかしてもらえるのはいいけど、絶対めんどくさいことになるし。


最終的に無駄になってしまった駄菓子もあったが、軽く塩を振ったスナック菓子の天ぷら、スナック菓子とチーズを包んだ天ぷら、割れたチョコを溶かして星形に固め直したチョコ、焼きマシュマロなど、ある程度売れる物が作れた。


「白米があれば、もっといろんなの作れたねー」

「そうだな。でも、夢野がメニュー書いてくれたから助かったぞ」

「ありがとう!」


その時『これより!花苗坂高校の学園祭!花苗祭のスタートでーす!』という声が校内中に響き渡り、音だけの花火が数発上がった。


「じゃ、今から凛と夢桜の勝負もスタートだね!」


うわ〜。秋月言っちゃったよ。


「別に言わなくてよかったのに」

「でも、予定より忙しくなりそうだから、現実的に無理じゃないかしら」

「私もそう思う」

「あら、私と同じ意見なんて珍しいわね」

「は?たまたまだし」

「まぁまぁ、喧嘩するな」


若干ピリついた空気になった時、早速、最初のお客さんがやってきた。いざお客さんが来ると、なんとも言えない不安に襲われる。


「いらっしゃいませー!」


杏中はバイト経験があるのか、元気よく声をだし、かなり好印象だ。


「チョコバナナクレープ1つ!」

「私も!」

「かしこまりましたー!」


‥‥‥それ以降、一人もお客さんが来なくなってしまった。


「暇だな」

「俺は呼び込みに行く!」

「熊一人で大丈夫か」

「おっ、いいアダ名だな!」

「気に入ってくれて良かった」

「このままじゃ、悲しい学園祭になってしまう!俺は行くぞ!」

「白波瀬も行ってこい」

「な、なぜ私?」

「命令」 

「は、はい♡」


猪熊と白波瀬が調理室を出て行くと、夢野はニコニコしながら話しかけてきた。


「お昼まで休憩行ってきたら?」

「夢野と秋月が行っていいぞ。遊んでこいよ」

「わ、私はいいの!ポチに‥‥‥喜んでほしいし‥‥‥」


たまに見せる、その恥じらう顔はなんなんだよ。本当、ギャップっていいわ。


「んじゃ、遠慮なく」

「お昼には帰ってくるんだよー」

「秋月もありがとう」


さて、S組に通い始めるまで一人だった俺は何をすればいいのだろう。

どの教室に入るのも気まずく、廊下をウロウロしていると【クレープ&駄菓子料理屋】と書いた看板を持って、クマの着ぐるみが歩いていた。


「熊がクマの着ぐるみ着てる」

「‥‥‥」

「どうした。クマの設定守って喋らないのか?ほれほれ〜」


脇腹をツンツンすると、クマは体をくねらせて嫌がった。


「喋れよー。お、ふわふわもふもふ」


猪熊はぽっちゃりで胸があり、喋らない猪熊をなんとか喋らそうと、調子に乗って胸を鷲掴みにしてやった。


「思ったよりデカいな。いや、デカすぎるわ。痩せろよ」

「‥‥‥んっ♡」

「なっ⁉︎白波瀬⁉︎」

「こんな人前でなにするんですか♡」

「違う!猪熊だと思って!」

「もっと触っていいんですよ♡」 


白波瀬は俺の手を無理矢理胸に当てた。


「やめろやめろ!」


力尽くで手を離し、一歩下がって聞いた。


「い、猪熊はどこだ?」

「興味がない人間の行き先なんて知らないわよ」

「そ、そうか。なんかごめん。あ、いた」


もう1匹のクマが歩いてきて、白波瀬の胸を揉んでしまったことを忘れようと、勢いよく猪熊の胸を鷲掴みにしてやった。


「猪熊、なにか見に行かないか?」

「いやん♡」

「はー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「プププー‼︎男だと思って触ったら、美人な先生でした〜!」

「さらば」


俺は全力で調理室に戻った。


「ポチ⁉︎そんなに慌ててどうしたの⁉︎」

「いや‥‥‥望まないタイミングで四個の高級プリンがな‥‥‥」

「プリン食べたの?楽しめてるみたいでよかった!」

「お、おう。夢野と秋月、休憩行っていいぞ」

「早くない?」

「いいからいいから」


夢野と秋月を休憩に行かせてから気づいた。

杏中と二人は気まずい‼︎


そして数分の沈黙の後、杏中が口を開いた。


「流川くん」

「な、なんだ?」

「あんな可愛い子達に囲まれて大変だね」

「あの三人と居るのは慣れた」

「流川くん」

「なんだ?って、白波瀬⁉︎」


白波瀬はクマの着ぐるみを脱いで、大きなレインボー綿飴を持って戻ってきた。


「こ、これ、よかったら食べて」

「あ、ありがとう。白波瀬は食べなくていいのか?」

「流川くんのために買ったから」

「いいよ。デカいし一緒に食べようぜ」

「う、うん」


白波瀬と綿飴をちぎりながら食べている時、白波瀬は俺の耳元で囁いた。


「ふわふわですね♡それとも、プルンっとした物の方がよかったですか?♡」

「あああ杏中!」

「ん⁉︎」

「綿飴食べていいぞ!」

「いいの⁉︎」

「おう!食え!」

「やったー!」


気まずすぎて調理室を出ようとした時、聞き慣れた声が近づいてきた。


「お兄ちゃーん!」

「お!玲奈!来てたのか?」

「うん!」


俺の妹、流川玲奈るかわれなだ。

毎朝寝癖が酷く、前髪をちょんまげのようにヘアゴムで止めていて、元気で明るく、俺とは真逆の性格だ。


「二組に行ったのに居ないからビックリしたよ」

「あぁ、いろいろあってな。琴葉とは会ったか?」

「うん!でも忙しそうで、あまり話せなかったー」

「生徒会長だからな」

「あら、流川くんの妹さん?」


白波瀬が淑やかな表情で調理室を出てきた。


「‥‥‥綺麗‥‥‥」


我が妹よ、騙されるな。顔とスタイルは神級だが、中身はヤバいぞ。


「はじめまして、白波瀬凛です。流川くんの元カノです」

「‥‥‥えー⁉︎お兄ちゃん‼︎こんな綺麗な人と付き合ってたの⁉︎」

「違うわ‼︎話をややこしくするな!」

「はい♡」

「ん?あ、はじめまして、流川玲奈です!お兄ちゃんがお世話になってます!」

「私がお世話してもらってるのよ♡いつかはお世話したいとも思ってます♡」


どこのお世話ですかー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎


「お兄ちゃーん?こんないい人となんで別れたの?どうせ変なことしたんでしょ!」


ダメだ。玲奈はお世話をいい意味でとらえてしまった。


「してねーよ」

「にしても、お客さんいないね」

「あぁ、俺達はいいけど、このままじゃクッキング部が可哀想かもな」

「あの嬉しそうに綿飴食べてる人?」

「あの人はあんま気にしてなさそうだけど」

「ふーん。そうだ!私に任せて!」

「なにするんだ?」

「いいからいいから!メニューの写真撮らせてね!」

「おう」

「あと、このスナック菓子とチーズを包んだやつ、一つ買う!」

「タダで持っていけ。白波瀬もいいよな」

「問題ないわ」

「ありがとう!」


玲奈はその後、苺クレープも買い、写真を撮って調理室を出た。


「んじゃ、私遊んでくるー!」

「気を付けろよー」

「うん!凛先輩、またねー!」

「またね」

「敬語使えよー」

「はいはーい!」

「悪いな白波瀬」

「大丈夫よ。元気でいい子じゃない」


玲奈が何をしたか知らないが、結果その日はどうにもならなかった。


そして夢野と秋月は、1日目の学園祭が終わってから、両手に食べのを持ち、ずいぶんと楽しめた様子で戻ってきた。


「えへへ‥‥‥時間忘れて遊んじゃった」

「ごめんポチ」

「問題ない。あれから誰も来なかったし」

「流川くんの妹さんが来たけれどね」

「ポチの妹⁉︎私も会いたかった‼︎」

「可愛くていい子だったわ。私のことを凛先輩って呼んで、もう懐いてくれたみたいだし」


夢野は白波瀬に煽られ、俺をムッとした表情で見つめた。


「お、俺は悪くないだろ」

「ふん!」

「えぇ〜‥‥‥」


そして猪熊もずいぶんと楽しんだ様子で戻ってきた。


「夏樹!売れ行きはどうだった!」

「おーらぁ‼︎‼︎‼︎」

「ぐはっ‼︎」


杏中は猪熊を見るや否や、勢いよくドロップキックを猪熊の腹に入れた。


「呼び込みには⁉︎しかも一回も休憩変わらないで‼︎明日は1日中私が遊ぶ番ね‼︎」

「は、はい‥‥‥」


猪熊も大変なんだな。


今日はしょうがないとして、明日はなんとか売るぞ‼︎お菓子を踏みつけた奴らを見返す意味でも。

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