学校のトップはヤンデレちゃん⁉︎


白波瀬にスカートを短くしろと言った後、教室に行っても目を合わせてくれなくなってしまった。

今までも、俺の方を見てきたことなんてなかったけど。


翌日


下を向いてS組に向かって階段を上っている時、階段の上の三階から、白波瀬の声が聞こえた。


「お、おはよう」

「おう、白波瀬っ‥‥‥」


上を見上げると、スカートを膝上まで短くし、俺の位置からだと純白のパンツが丸見えになっている白波瀬が立っていた。


「どうかしら‥‥‥」

「いい‥‥‥眺めです」

「限界まで短くしてみたの」


恥ずかしそうな表情!パンツ!生脚!これを見るために、俺はS組に来たんだ!


「ポチ。ご主人様がいるのに、堂々と浮気?」

「は?浮気ってなんのことだよって夢野⁉︎」

「おはよう」

「お、おはよう」


夢野は今までで1番不機嫌そうな顔をしていて、それに追い討ちをかけるように白波瀬は夢野を冷めた目つきで見下ろした。


「私と流川くんが話しているの。邪魔しないでくれる?」

「は?いきなりミニスカートなんかにして色気付いちゃってさ、さっきからパンツ丸見えなんだけど」


そう言われた白波瀬は、一瞬でスカートを押さえて顔を赤くした。

てか、白波瀬に初めて名前言われたな。


「わ、私は、流川くんにお願いされたからミニスカートにしただけよ」

「へー。情報提供ありがとう。行くよポチ」

「ど、どこに⁉︎」

「教室に決まってるでしょ!」



夢野に右腕を引っ張られ、白波瀬の真横を通ろうとした時、グッと白波瀬に左腕を掴まれた。


「待ちなさい。話の途中でしょ」

「それは夢野に言ってくれ!」

「ポチを離せ」

「夢野さんが離せば済む話よ?それとも、可愛いペットが私に取られちゃうのが嫌?」


二人は俺を挟んで睨み合い、どうしたらいいか分からずに硬直していると、一人の足音が階段を上がってきた。


「塁飛くんの取り合い?」

「あ、秋月!なんとかしてくれ!」

「秋華さんの出る幕じゃないわ」

「調子に乗らないで、ポチは私の」

「まぁまぁ二人とも。この勝負は学園祭までお預けにしない?」


お預けってなんだよ。今すぐ解決してくれよ。


「学園祭一日目、塁飛くんを1番楽しませた人が、ニ日目の学園祭は塁飛くんを独り占めできるってどう?」

「ちょ、ちょっと待て。俺になんのメリットがある」

「二人が塁飛くんのために頑張る!それだけじゃ不満?」


まさか‥‥‥白波瀬とご主人様プレイとかできちゃうの⁉︎いや待て、夢野ともある意味ご主人様プレイになりそうだな。


「のったわ」

「私も」

「え」

「それじゃ二人とも、塁飛くんを離してあげて?」

「夢野さんが先に離して」

「凛ちゃんが離しなよ」


秋月は二人の腕を掴み、少し大きな声を出した。


「せーの!」


その声と同時に二人は手を離し、秋月は笑顔で、同時に二人の頭を撫でた。


「偉いねー!」

「髪が崩れちゃう」

「わ、私の髪も」


二人とも、秋月には強く出ないんだな。ちゃんと言うこと聞くし。


「で、二人とも塁飛くんが好きなの?」


俺の目の前でそれ聞く⁉︎夢野は何て答えるんだろう。


「す、好き⁉︎んなわけないじゃん」

「夢野さんは怪しいわね。私は好きじゃないけれど」


あー、そうですかそうですか。白波瀬がドMってことバラしちゃおうかな〜。


「みんな揃ってなにしてるんだ。学園祭の話し合いするから教室入れ」


天沢先生も三階にやってきて、教室に入ることになり、俺は心底安心した。これ以上この話が広がらなくて済む。


それから丸一日、学園祭の出し物について話し合いが行われ、マジックショーや金魚すくいなど、様々な意見が出たが、最終的に俺が提案した駄菓子屋で決定した。


「それじゃ流川。生徒会に駄菓子屋で申請出してこい」

「申請?」

「学園祭は駄菓子屋をやりまーすって書いた紙に私がハンコを押して渡すから、それを生徒会室に持っていけば大丈夫だ」

「了解です」

「ポチが行くなら私も行く」

「助かる」


朝の流れ的に、白波瀬は『私も行く』とか言うかと思ったが、秋月と話していて、あまり俺に興味は無さそうだ。やっぱり、ただいじめてもらいたいだけの変態だ。

でも、気の無い相手にMな自分を見せるか?まさか!俺のこと好き⁉︎白波瀬なら、なんとなく直接聞ける気がする。後で、意地悪な雰囲気で聞いてやろ。いや、やっぱりやめておこう。

そんなことを考えている間に、天沢先生は申請の紙を書き終わっていた。


「よし、これを持っていけ」 

「はーい」


生徒会室は、三階のS組の真逆にあり、夢野と二人で向かった。


「なんかさ」

「なに?」

「みんな見てくるんだけど」

「私が可愛いからかな」

「あー、なるほど」

「それか、ポチのベルトにリード付けてるから?」 

「は⁉︎いつの間に付けたんだよ!絶対それだろ!」


いつの間にかベルトの後ろにリードを付けられていて、俺は完全に散歩中の犬扱いされていた。


「だってさ、ポチが変な女に騙されないように、ご主人様の私がしつけるのは普通でしょ?」

「躾けじゃなくてはずかしめだろ!」

「それも躾けの一種♡可愛いよポチ♡みんなに見られて顔が赤くなってる♡」

「な、なってないわ!」

「なってる〜♡ハァ♡もっと顔見せて♡」

「廊下で興奮すんな!」

「ポチが興奮させたんだよ♡責任取って♡」


こいつマジでやべ〜‼︎‼︎恥じらいとかないのかよ‼︎


「夢桜さん!」


夢野が興奮して、俺が少し引いてる時、知らない男子生徒が夢野の名前を呼んだ。


「ん?なに?」

「最近あまり見なくて心配してたんだ。どこでなにしてるの?」

「教えない」


おい!すげーな‼︎さっき、あんな興奮してたくせに、よく急に冷めた表情できるな‼︎尊敬するわ‼︎


「ぼ、僕、次に夢桜さんに会ったら伝えたいと思ってたことがあって!」

「なに?」

「放課後、校舎裏に来てくれないかな」

「うん、いいよ。振るけど」

「え」


本当に『え』だよマジで。


「でも、話聞いてくれるならいいや。待ってるね!」

「はーい」


男子生徒は走り去り、夢野はつまらなそうな表情をした。


「なんかシラけちゃった」

「やっぱりモテるんだな」 

「嬉しくないけどね。早く行こ」

「おう」


リードはしっかり握ったままなのね‥‥‥


生徒会室の前に着き、二回ノックして扉を開けると、優しそうな、黒髪ロングボブの女子生徒が必死に書類をめくっていた。

にしても、この学校の顔面偏差値高すぎだろ。会長すら、そこそこ可愛いとか‥‥‥


「会長」

「‥‥‥」


夢野が話しかけても、会長は書類に目を通すのに必死で、俺達に気付かない。


「会長‼︎」

「うわ〜‼︎」


夢野の大きな声に驚き、会長は椅子から落ちてしまった。


「いてて‥‥‥」


なにこの人可愛い。


「学園祭の申請書持ってきましたよ」

「あぁ!ありがとう!」


申請書を差し出すと、会長はまた椅子に座り、申請書に目を通し始めた。


「ん?『駄菓子屋やりま〜す!2万円くださ〜い!』なにこの申請書」

「天沢先生が書いたんですけど」

「あ!もしかしてS組?」 


さすがに会長は、S組の存在知ってるんだな。


なぜか少し嬉しそうな表情をする会長を見て、S組だとバレても、夢野も平気そうにしている。


「S組知ってるんですね」

「一応、会長だからね!でも、S組の教室を店にしたらマズいんじゃない?」

「夢野、そこんとこどうなのよ」

「ちょっと冬華ちゃんに聞いてくる!」

「了解」


夢野は生徒会室を出て行き、気まずさを感じる間もなく、会長は話しかけてきた。


「なんでズボンに紐付いてるの?」

「夢野の趣味です」

「変な趣味だね」

「おっしゃる通りです」

「とにかく、駄菓子屋はいいけど、なにに二万円使うの?」

「駄菓子買います」

「二万円分も⁉︎駄菓子だよ⁉︎」

「多分、店の外見作ったり、看板作る材料費も入ってるんだと思います」

「なるほど!それならハンコ押しちゃうね!」

「ありがとうございます」


会長は申請書にハンコを押し、困り顔をして俺を見つめた。


「な、なんですか?」

「さっきから気付いてないみたいだけど、私のこと忘れたわけじゃないよね?」


え、誰だ。俺の知る人にこんな人は居ない。はず。


「妹ちゃん元気?私よく、るっくんの家に遊びに行ってたんだけど」

「ごめんなさい誰ですか?」

「中学の時の先輩ですけど⁉︎琴葉ことはですけどー⁉︎」

「琴葉⁉︎マジ⁉︎この高校だったの⁉︎しかも会長⁉︎」

「気づかなかったとか酷い‼︎」

「ごめんごめん」


気づかないのも無理はない。琴葉は中学の時からの一個上の先輩で、中学時代は茶髪のロングだったし、見た目もこんなに清楚じゃなかった。

名前は桃瀬琴葉ももせことは。妹の大親友だ。


「で?玲奈れなちゃん元気?」

「元気だよ!来年はこの高校に入るらしいし」

「そうなの⁉︎また中学の頃みたいに楽しくなるね!」

「面倒みてやってくれ」

「任せて!それより、昔から言ってるでしょ?先輩には敬語!」

「ほーい」


琴葉との再会を喜んでいる時、夢野が天沢先生からの伝言を伝えに戻ってきた。


「聞いてきた!」

「なんて言ってた?」


夢野は天沢先生のクールな喋り方を真似しながら教えてくれた。


「あぁ、なにも考えてなかったわ」

「おい」

「んじゃ、生徒会室を使えば?」

「いいのか?」

「そこそこ広いし、当日は扉を開けっぱなしにすればいいでしょ?」

「助かる」

「私とるっくんの仲じゃん!困ったことがあはれば、なんでも言って!」

「るっくん?」

「あぁ、琴葉とは、中学からの知り合いなんだ」

「琴葉‥‥‥」

「夢野?」


夢野はなぜか、急に笑顔になった。


「ううん!会長と友達とかラッキーだね!」

「だろ?それじゃ、駄菓子屋は生徒会室でやるってことで、教室に戻って伝えるか」

「うん!」

「んじゃ、また来るわ」

「了解!」


生徒会室を出る寸前「んふっ♡」と笑う声がして、思わず振り向いた。


「なんか言ったか?」

「別に?」

「そうか」


教室に戻り、生徒会室を使うことになったとみんなに伝えると、天沢先生はテンションが上がり、ニコニコしだした。


「二万えーん‼︎ふー‼︎」

「酒とか買わないでくださいね」

「分かってるって。予算が余ったら、ちゃんと返さなきゃいけないんだから」

「分かってるならいいです」

「とりあえず、夢野と白波瀬はダンボールを貰ってきて、二人で看板を作れ」

「了解です」

「ま、まぁいいけど」


二人を一緒にするとか大丈夫か?喧嘩しないといいけどな。


「私はなにすればいいの?」

「秋月と流川はー‥‥‥なんかしてろ」


なんかってなんだよ。あ、これは話すチャンスなんじゃないか?


「塁飛くん、なにする?」

「ちょっと話でもするか」

「いいよ!」


夢野と白波瀬が教室を出て行き、天沢先生も空気を読んで出て行ってくれた。


「率直に聞くけど、いじめについて教えてくれ」

「てかさ、塁飛くんってなんでS組に来たの?」

「ん?天沢先生に無理矢理連れてこられたんだ」

「え!大変だね!でもこの教室、楽でしょ!」 

「だな。それで」

「そうそう!聞いて!この前買い物に行ったんだけどね」


......露骨に話を逸らされた。これは時間かかりそうだな。


......結局その日はなにも聞き出せず、放課後になってしまった。


そういえば、夢野が告白されるんだったな。こっそり見に行くか。どんな酷い振り方するか見たいし。


校舎裏が見える、二階の廊下に身を潜め、静かに窓を開けた。


「なんだ‥‥‥?」


夢野を囲むように、大勢の男女が居て、少なくても告白って雰囲気じゃないのは伝わる。

その光景を見て不思議に思っていると、いきなり後ろから誰かに抱きつかれ、体がビクッと反応してしまった。


「るっくん♡るっくん♡」

「琴葉?なにしてんだよ。今大事なところだから離してくれ」

「なに見てるの?」

「夢野が囲まれてるんだ」


琴葉も窓から少しだけ顔を出して、すぐに顔を引っ込めた。


「いじめっ子じゃん」

「は?」

「夢野さんを囲んでる集団、この学校じゃ有名ないじめっ子達だよ」

「有名なの⁉︎」


よく見ると、ショッピングセンターで会った、男の先輩も一緒に居る。


「ちょっと行ってくるわ」

「だーめ♡」

「は、離せって」


琴葉は後ろから抱きついたまま離さず。小さな声で話を続けた。


「るっくんが入学してきた時から、ずっと私に会いに来るのを待ってたの♡同じ高校なんて運命だよね♡」

「な、なに言ってんだ?」

「玲奈ちゃんと仲良くなったのも、全部るっくんに近づくため♡夢野さん、るっくんのこと好きみたいだけど、ダメだよ?るっくんは私のだから」


俺は思い出した。琴葉が家に遊びにくるたびに、なぜか俺のパンツが一枚ずつなくなっていたことを‼︎‼︎‼︎


「なに?俺のこと好きなの?」

「大好き♡これからは私だけ見て?夢野ちゃんなんかどうなってもいいでしょ?私だけ見てくれたら、るっくんも幸せになれるし、私、るっくんのお願いならなんでも聞くよ?」


琴葉の腕を払うと、力強く両腕を掴まれて、琴葉は大きく目を見開いた。


「まさか、夢野さんが好きなの?」

「違うけど、助けるのが普通だろ」

「そっか。るっくんは夢野さんに毒されちゃったんだ。私が綺麗にしなきゃ」

「お、おい。どうしちゃったんだよ」

「大丈夫。私がるっくんを助けてあげる」

「いや、会長として夢野を助けてやってくれ」

「まだ夢野夢野って、ダメだよ」


無理矢理腕を払い、窓から校舎裏を見ると、もう夢野達の姿は無かった。


「マジか‥‥‥」

「るっくん?」

「とにかく、琴葉がヤバイ奴だってことは分かった。じゃあな!」


俺は冷静を装って全力で走って逃げた。


ヤバイヤバイヤバイ‼︎嘘だろ⁉︎俺に近づくために玲奈と仲良くなった⁉︎それになんだあの独占欲‼︎ヤンデレちゃん怖い‼︎やだ‼︎


「きゃ!」

「あ、ごめん!」


夢中で走っていると、廊下の曲がり角で白波瀬にぶつかってしまった。


「大丈夫か?」

「大丈夫よ。なにを急いでいたの?」

「ヤバイ奴に追われてるんだよ!」

「なにを言っているの?」

「るっくーん?」


琴葉の声が近づいてきて、俺は苦渋の決断をした。


「白波瀬、今だけ俺の彼女になってくれ」

「え⁉︎」


白波瀬は顔を真っ赤にして、困ってしまった。


「ど、どういうこと?」

「頼む!いっぱいいじめてやるから!な?」

「そ、それは‥‥‥」

「ご主人様の命令だ。付き合え」


あー‼︎‼︎‼︎恥ずかし恥ずかし恥ずかし〜‼︎‼︎‼︎


「は、はい♡」

「るっくん?なにしてるの?」


俺は白波瀬の肩を抱き寄せ、苦笑いで答えた。


「お、俺の彼女。だから琴葉の気持ちには答えられない」

「彼女‥‥‥」

 

琴葉は、機嫌が良さそうにニッコリ笑った。


「なら、消さなきゃ!」

「白波瀬!逃げるぞ!」


白波瀬の腕を掴み、全力で階段を駆け下りた。


「このまま下校するぞ!」

「はい、ご主人様♡」

「馬鹿!変な呼び方すんな!」

「んっ♡」

「馬鹿って言われて興奮すんな!変態!」

「あっ♡」

「おい‼︎」

「廊下は走っちゃいけませーん」

「馬鹿!秋月、どけ!」

「え?」


勢いよく秋月にぶつかり、三人揃って廊下に倒れてしまった。


「るっく〜ん」

「いてて‥‥‥あ、会長さんだ」

「こ、こいつも俺の彼女!」

「えぇ⁉︎塁飛くん⁉︎なに言ってるの⁉︎」

「頼む、話合わせてくれ」


優しい秋月なら、なんとかしてくれるはずだ。


秋月は起き上がり、堂々とした立ち姿で言った。


「私の彼氏になんの用?」


なにこれ、なんか気分いい。癖になりそう。


「るっくんは私の彼氏になる人だよ?どうせアンタ達、るっくんをもてあそんでるんでしょ?」

「私は本気!」

「そうだそうだー!本気だー!」

「塁飛くん、調子に乗らないで」

「はい、すみません」


その時、天沢先生が現れ、琴葉の肩に触れた。


「会長」

「天沢先生!」

「二万円くれ」

「あ、まだ渡してませんでしたね。今取りに行きます!」

「ありがとう」


ナイスタイミングで天沢先生が現れ、俺達は助かった。


「さっさと帰れよー」

「うっす!姉貴!」


天沢先生‥‥‥カッコいいよ‼︎‼︎にしても、夢野はどこに行ったんだ。


「塁飛くん。私、もっと男らしい人が好きだから」

「あ、はい」


なんか、秋月に振られた‥‥‥


「ご主人様♡お家まで送ります♡」

「お、おう‥‥‥」


なんか、白波瀬に懐かれた‥‥‥


ドS、ドM、ヤンデレ‥‥‥秋月だけは普通であってくれと、強く願った放課後だった。

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