吊り橋効果?
今日は、あまりワクワクしない山登りの日。
一応首輪をカバンに入れて朝6時ピッタリに校門前に着いた。
すると天沢先生かバスから顔を出し、大きな声で俺を呼んだ。
「おい流川!ピッタリに来てどうする!バス出るぞ!」
「そもそも朝早すぎるよ!」
「いいから早く乗れ!」
「は、はーい!」
急いでバスに乗り込むと、白波瀬は一人で前の方に座りながら、相変わらず本を読んでいて、夢野は1番後ろに座り、俺に手招きをした。
移動中も隣か‥‥‥
「おはよう」
「おはよう。ポチ」
「そのポチってやめないか?」
「私は今、すっごく機嫌が悪い」
「えっ」
首元をギロっと睨まれ、すぐに察しがついた俺は、カバンから首輪を取り出して身に付けた。
「よく分かったねー」
「出発するぞー」
「はーい!」
山への移動中、夢野は先生に言うべき文句を、ボソボソと俺に話してきた。
「どうして山登りなわけ?」
「さぁな」
「虫除けスプレー持ってきたよね?」
「え、持ってきてないけど」
「は?使えな」
「頼まれてないし」
「ペットなら、ご主人様が求めてる物を理解して、用意するでしょ普通」
「普通の犬はそこまでしないだろ」
「やっと自分が犬だって自覚し始めた♡ほら、ワンって鳴いて♡」
そんな嬉しそうな顔されましても。心に抱えたもの以前に、この性癖を更生させなきゃ。
「おい」
「あ、ワン」
「ハァ♡いい♡」
早く‥‥‥早く山に着け〜‼︎‼︎‼︎
そして、夢野の性癖ダイレクトアタックを耐え抜き、やっと山に着いた。
山に登る前から疲れきったわ。
「どうした流川。もう疲れたのか?」
「あぁ、うん。ちょっと」
「とにかく、この山はそんなに高い山じゃない!行くぞ!」
天沢先生と白波瀬が歩いて行くと、急に夢野に首輪を掴まれた。
「よし、完璧!」
「‥‥‥」
首輪にリードを付けられ、夢野はニヤッと笑った。
「四つん這いで歩きな」
「無茶だろ!」
「どうして?ポチの大好きなお散歩だよ?」
「夢野。四つん這いで山に登るとか拷問だぞ?」
「おーい!お前ら!早く来い!」
「ほら、天沢先生に言われてるよ。もう普通に行こう」
「チッ。リードは付けたままね」
「はいはい」
夏休みが終わったとはいえ、まだまだ暑さが残り、セミが鳴く中で山を登り始め、夢野はドSがすぎるが、山登り中はわりと普通会話してくれている。
「そういえば、誰も座ってない席って」
「あー、秋華ちゃんの席?」
「不登校なのか?」
「いや?自由気ままに登校してくるよ」
「どんな人だ?」
「いい子だよ!凛ちゃんも気に入ってるみたいだし!」
あの白波瀬が気に入る人か。真面目ちゃんなのかな。
「その人も男嫌いで変態?」
「ん?なんの話?」
「い、いや!なんでもない」
「おーい!もう少しで中間地点だ!頑張れ!」
そしてやっとの思いで中間地点に着き、石で作られた椅子に座って勢いよく水分補給すると、夢野も隣で水分補給をし、幸せそうに口元を拭いた。
「可愛いんだけどな‥‥‥」
「ん?なんか言った?」
「なんでもない」
「そうだ!お菓子なに持ってきた?一つ交換しようよ!」
「いいね!俺は、せんべい、かりんとう、まんじゅう!安売りしてて、ピッタリ300円なんだぜ!」
すると、ニコニコしていた夢野が、急に冷め切った表情に変わった。
「あ、やっぱいいや。自分で食べな」
「えぇ〜‥‥‥」
「私はね!苺ミルク味の飴と、チョコ!」
「チョコ溶けてない?大丈夫か?」
「溶けてなっ、
「チョコが蛇なわけないだろ。なに言ってんだ」
「きゃー‼︎」
夢野の視線に目をやると、茶色い蛇がニョロニョロと目の前を横切っていた。
「落ち着け。大丈夫だから」
「いや〜‼︎‼︎‼︎」
わりと蛇が大丈夫な俺は、蛇を遠くに持って行こうとしたが、夢野が首輪のリードを引っ張って動けない。
「リード離せ!」
「無理無理‼︎なんとかしてー‼︎」
「天沢先生!なんとかしてくだっ‥‥‥」
天沢先生と白波瀬は、遠くで抱きつきながら蛇にガチビビリしていた。だが、蛇も素早く、ニョロニョロと草むらに逃げていった。
「夢野!蛇どっか行ったぞ!」
「ん?本当だ。ポチが追い払ってくれたの?」
‥‥‥ニッヒッヒ。嘘ついちゃお!
「おう!夢野のために!」
「ポチ‥‥‥」
え。なにこの雰囲気‥‥‥そんな乙女な目で俺を見ないで⁉︎嘘だから!もう嘘って言えないけど嘘だから!
「ありがとう‥‥‥」
「お、おう」
「リード外してあげる」
「いいのか?」
「だって蛇触ったんでしょ?キモいじゃん。近づかないで」
「えー⁉︎嘘だよ!蛇追い払ったの嘘!」
「‥‥‥嘘?私に嘘をついたの?」
ヤバイ‥‥‥なにその目。
「流川は蛇を追い払ってたぞ」
「冬華ちゃん。それ本当?」
天沢先生!ナイス!女神!
「本当だ。だが触れてはいない。木の棒で追い払っていた」
「なーんだ!まったくー。ポチが嘘とか言うからビックリして殺しちゃうところだった!」
「今殺しちゃうって言ったよね⁉︎」
「ん?なんのこと?」
「記憶喪失かよ。今すぐ下山して病院行け」
「でも!ポチは優しい!」
「なっ⁉︎」
夢野は俺に抱きつき、その瞬間に俺を突き飛ばした。
「ぐはっ‼︎」
「ななななななーに抱きついてるわけ⁉︎変態‼︎」
「夢野が抱きついたんじゃん‥‥‥」
「うるさい‼︎」
たまたま、突き飛ばされた先に居た白波瀬に、倒れたまま聞いてみた。
「白波瀬‥‥‥今の俺が悪いのかな」
「やっぱり変態ね。汚らわしい」
「酷いな。蛇にビビってたくせに。ぬぐっ‼︎」
白波瀬は無表情で俺を見下ろし、平然と俺の顔を踏んで歩いて行った。
「流川?大丈夫か?」
天沢先生が手を差し伸べてくれ、やっぱり信用できる女の人は天沢先生だけだと強く感じた。
「天沢せんせ〜い」
「ほら、掴まれ。変態」
「おいこら‼︎」
このS組に俺の味方はいない。そう確信してしまった。
それから10分ほど休憩し、山登りが再開すると、さっきまで隣で一緒に登っていた夢野は俺の10歩後ろを歩いていた。
なんか、顔赤くして睨んでくるし。これは振り向かないほうがいいな。
「なぁ、白波瀬」
「馴れ馴れしく話しかけないでくれるかしら」
「はい」
誰とも喋らないで山を登るって意外と辛い。疲れを誤魔化すことができないし‥‥‥
「頂上まで、後20分ぐらいだ!みんな水分はこまめに取れよー」
天沢先生は元気だなー。
誰とも喋ることができずに、無心で登り続けていると、いつのまにか頂上に辿り着いていた。
「みんなお疲れ!自由に弁当食べて、しばらく休憩だ!」
夢野と白波瀬は、バラバラに一人で弁当を食べ始め、俺は天沢先生の隣に座った。
「どうした。私と一緒に食べたいのか?」
「なんとなく」
「夢野はどうだ?仲良くやれそうか?」
「んー。普通に話してくれる時の夢野はいいけど、ドSモードに入るとな‥‥‥」
「夢野と相性が悪いってことは、流川もSなのか?」
「そういうことじゃなくて」
「でも、普通の時はいいんだろ?」
「はい」
「なら問題ない」
「なにが?」
「結局は女の子だ。流川に好意を寄せれば、ドSな面とか、あまりに見せなくなると思うぞ?」
「好意寄せられても困りますけど」
「美少女なんだぞ?抱ける時に抱いとけ」
「最低だな‼︎」
天沢先生は体育座りをし、横に落ちていた握り拳ほどの石を二つ拾った。
「なぁ流川。この石が何度もぶつかったら、最終的に石はどうなる」
「削れて無くなるんじゃないですか?」
「この石は夢野と白波瀬だ」
「疲れてますね。少し昼寝してください」
「そうじゃない。二人が男嫌いだからって、仲がいいって勘違いしてないか?」
「違うんですか?」
「あの二人が同じ教室に通ってる時点で、爆破スイッチは既に押されてる。タイマーが0になる前に頼むぞ」
「だったら、もっと分かりやすく説明してください」
「いつか二人とも、我慢の限界がくる。でも
、今はまだ大丈夫だ!」
「いや、全然分からないんですけど」
「まぁまぁ!まずは弁当食べて、体を休めろ!山登りは下りの方が大変だからな」
「はーい」
それから弁当を食べ終え、天沢先生のカメラで、全員絶妙な距離感で集合写真を撮って下山した。
学校に着いて、今日は帰りかと思ったが、まさかの普通に授業が始まった。
「さてさて、授業始めるぞー。と言いたいが、みんなお疲れみたいだな。今日は自習!」
そう言って天沢先生は椅子に座ると、すぐに眠ってしまった。天沢先生も疲れていたんだ。
「ポチ」
「ん?」
「あれじゃん?やっぱり、ご主人様がペットの連絡先知らないとかおかしいよね」
「んー」
「おかしいよね?」
「う、うん。そうだな」
「だから、教えてくださいってお願いして」
「なんで俺が⁉︎」
「しろ」
「お、教えてください」
夢野は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに少し不機嫌そうな顔をして携帯を取り出した。
「そんなに交換したいなら教えてあげる」
「どうも」
自分が交換したかっただけだよね⁉︎いつでも呼び出して、四六時中俺をいじめる気なんだ‼︎絶対そうだ‼︎
「なにかスタンプでいいから送って」
「これでいいか?」
夢野が喜びそうな犬のスタンプを送ると、夢野は満足そうに携帯をポケットに入れた。
ヤバイ女に個人情報を教えてしまった後悔を抱えたまま、その日は帰宅した。
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