第2話 クリオネ人間

 人間ってとても難しい。多様性の社会をなんて言ってるけれどきっと誰一人恋人ですら完璧にわかりあえる人はいないと思う。でも一人で死ぬのは怖いからひたすらに愛してくれる人を探して人生の墓場へと歩んでいく。結婚すると人間はそれ以外の愛は全て毒になる。浮気なんてできないし不倫なんてもってのほか。法律ですら禁止している。横に座っている友達だって彼氏に浮気されて泣いている。

 私は、そんな友達が理解できなかった。私は、彼女をクリオネの様だと感じた。ある餌でしか生きていけない可哀想な生物。肉食のくせにその餌でしか生きていけない。でも、食べなくても生きていける。よくわからない。私もわからない。

 私には彼氏がいる。彼はとても良い人だ。私が嫌だと言ったら絶対にしない。私が連絡をしなかったら電話も来ない。都合がいい彼が大好きだ。少し不満があるとしたら、たまに暴力的なところ。電話越しに聞こえる物を投げる音や激しいタイピングの音で「ああ、今日は機嫌が悪いんだな」と察する。そして、とてもめんどくさくてすぐに電話を切るための理由を探す。

「なんだか眠たくなってきた」

「今日は少し頭が痛いから」

「生理前かな」

この三つは応用が利くのでとても便利だ。彼は少し悲しそうに「そっか。仕方ない」と電話を切ってくれる。友達にいつかストレスが積もった彼に刺されないようにねと冗談とは思えないことを言われた。私は彼になら刺されていいと思っているし、死ぬなら彼と一緒がいいとも思っているから是非刺してほしいのだが流石に犯罪には手を染められないらしい。つまらないなあ、と少し痛い発言をしてみる。

 たまに私はこの彼氏と別れたら、彼氏に裏切られたらどうなるんだろうと考えることがあるが全く未来が見えてこない。誰からも必要とされなくなったら死んでしまうのだろうか。両親も兄妹ともあまり仲が良くないから彼氏がいなくなると本当に何も無くなってしまいそうで眠れなくなる時がある。

 私はどうなるだろうか。餌が無くなったらどうなるのだろう。

 

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春のクリオネ 春野梓桜 @Shironiwa_Rui

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