10話.[変わらないんだ]

「くそう、綾野めえ」

「そ、そう言わないでよ」


 こうして付き合ってあげているじゃないか。

 梓にはきちんと言ってあるから浮気行為にも該当しない。


「というかさ、もうちょっとしたら行っちゃうの?」

「まあ、そういうことになるな」

「なんか寂しいね」


 普段はやかましくて来てほしくないと考えるぐらいの人であっても、会いたいときに会えなくなるというのは普通に寂しい。

 散々振り回されてきたけどっ、なんだかんだ言って真人さんが来てくれていたのはいまとなってはありがたかったとしか言えないんだし。


「だったら連絡してくれればいい」

「うん、ちゃんとするよ」

「だから、行く前にキスしようぜ!」

「頬にぐらいならしてあげてもいいよ?」

「は」


 自分のことを棚に上げて責めてしまったことがあった。

 こちらを言葉で刺しながらも、それでも来るのをやめることはしなかった。

 多分、そういう憎い相手がいたからこそ潰れずに済んだから。


「するよ?」

「ば、馬鹿っ、梓がいるんだからそういうことをしようとするんじゃねえ!」

「いいから」


 彼の両頬を両手で挟んで止める。

 右頬か左頬かで少し迷ったものの、右頬に軽く触れさせておいた。

 ちなみにまだ梓としたことはないから、これが初めてということになる。

 ま、それでも振り回してくれたからね、しょうがないで終わらせよう。


「ありがと、真人さんがいてくれて良かったよ」

「綾野の馬鹿やろ~!」

「あ、行っちゃった」


 それならしょうがないから家に帰ろう。


「はは、可愛かったな」

「全然可愛くないよ?」

「盗み見しちゃう梓の方が可愛くないよ」


 足を止めて後ろを向く。

 そうしたら笑っているけどかなり怒っているような感じの梓がいた。


「なにしてるのっ」

「帰ろ」

「うん――じゃなくて! 僕が聞きたいのは――」


 ああもううるさいうるさい。

 こんなこともうしないから許してほしい。

 それに、


「ここにしたのは梓が初めてだから」


 そういうことには変わらないんだから。

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02作品目 Rinora @rianora_

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