02作品目

09話.[あったのだった]

　あれからというもの、出会う度にお互いに謝っていた。

「は……あ、梓と付き合い始めたぁあ！？」

「う、うん」

　で、いまは報告タイム。

　いつも通りやかましい真人さんが正直怖い。

「綾野ちゃんおめでとー！」

「おめでとう、私も少しは役に立てたかしら」

「うん、茉奈がいてくれて良かった――」

「良くない！　こんな結果受け入れられないぞお！」

　ま、まあ、分からなくもないけど。

　私も中途半端な態度を取っちゃったからな。

　恋に縁がないとか言っておきながら付き合うことを選んだし。

「真人さん、すみませんでした」

「謝るんじゃねえ！　俺と付き合えっ」

「悪いですけどそれは流石に……」

「じゃあ謝るなっ、謝るなよー！」

　あ、行ってしまった。

　ふたりとも不器用すぎる。

　少なくともあんなことをしてくれてなければとっくだったよ。

「吉野さん、おめでとうございます」

「うん、ありがと」

　結局、最後までこの森川の粗は見つからなかった。

　でもいい、少しでもこういう風になれたらって思う。

「それでなんですけど、あのっ、私もそろそろって考えているんです」

「おぉ、それならこの後？」

「はいっ、私のこの想いは本物です！」

　それなら私は本田を連れてどこかに行こう。

　それだけだとあれだからご飯を奢っておくことにする。

「急にどうしたの？」

「ほら、あんたが最初友達になってくれたからさ」

「そのお礼ってこと？　わざわざ良かったのに」

「いやほら、茉奈が森川さんとさ」

「ああ、良かったよ、香子ちゃんはやっと動くんでしょ？」

　余計なお世話だったか。

　ま、それでもお世話になったのは本当のことだからいいよな。

「でも、ありがと」

「うん」

　それからの本田は黙々とご飯を食べていた。

　食べ終わったら会計を済まして外に出て、また静かな帰路だった。

「あれで良かったのかな」

「綾野は本田さんのために考えてしたんだから大丈夫だよ」

「そうだけど、なんかご飯を食べさせればいいなんて考えているようで嫌だというか」

　本田と別れたら約束通り梓と行動開始。

　くそ、自分がこういうとき森川や茉奈だったらもっと励ましてあげられたんじゃないかってそう思うんだ。

　でも、私は所詮私で、もう過ぎたことだからどうしようもない。

「それより綾野、これを受け取ってよ」

「ああ、なんか懐かしいね」

　クリスマス仕様のスノードーム。

　紙ごと返したものがまた紙に包まれて返ってきた。

　それなのになんでスノードームと分かるのかは、外側からでも文字が透けて見えるからだ。

「とりあえず、大学合格おめでとう」

「振られた後だったから厳しかったけどね」

「嘘つき」

「嘘だけどねっ」

　散々不器用さを見せてくれたからちょっと不安だったけど、無事合格できたようでなによりだった。

「ねえ、綾野からはなにかくれないの？」

「お金あげるよ、それで好きな物を買って」

「ええ……そんなの嫌だよ、せめてこれだって物を買ってくれないかな」

　それならと見に行くことに。

「あんたは可愛いからこのリボンでもいい？」

「あの、僕も男なので……」

「ん、あ、じゃあこのリボンは幸ちゃんに買お」

　んー？　改めて梓にプレゼントってなってもなあ。

　結局のところ、好みもなにも知らないままだ。

「あんたどんなのが好きなの？」

「僕は綾野がくれたのならなんでもいいよ」

「じゃあ幸ちゃんとお揃いで」

「そ、そっち路線なんだ……」

　色違いのリボンを買って退店。

　ついでに家まで連れて行って私の服も着させた。

「うぅ……」

「可愛いっ、写真撮っていい！？」

「う、うん、もういいよ、なんでもいいよ」

　これぐらいはしてもいいだろう。

　私は散々振り回されたんだからちょっとぐらいはね。

　涙目になっていじけている梓の頭を撫でてから横に座る。

「そ、そんな顔しないでよ」

「だってさ、僕は男なのに……」

「大丈夫っ、大学では女装して行こう！」

「で、できるわけないでしょ……」

　どうせ知っているのは先生ぐらいなんだから無問題。

　なんてね、これ以上暴走したら同類になってしまうからやめよう。

「ごめんね」

「いや、なかなか新鮮な体験だったよ」

「そっか」

「綾野、こっち向いて」

　またこれ……そもそもいまは顔を見て話していたというのに。

「これから僕のことを好きなってね」

「ありゃ、バレてた？」

「うん、しつこいから受け入れてくれたんでしょ？　好きになってもらえるように頑張るからさ」

「うん、分かった」

　それならこちらは好きになれるように努力しよう。

　あとは、浮気しないようにしっかり見ておかなければならない。

　でもまあ、梓に限ってそれはないなと変な信頼があったのだった。