04話.[違和感しかない]
12月に突入した。
なんなら中盤にある期末テストも乗り越えたから後はフリーだ。
冬休みに突入=クリスマスということになるから地味に楽しみだった。
「吉野さん、ちょっと右かな」
「分かった」
で、私達はいま掃除をしていた。
冬休みまでずっとこんな日程が続くから楽でいいけど、大して話したこともないクラスメイトとやるのは少し緊張する。
なにもかも平凡と分かってからこのようになってしまった、いままでがおかしかっただけなんだろうけどね。
掃除を終えたら教室に戻って、あとは担任の話を聞いて終わり。
いい点は他にもある、夕方頃の下校にならないからまだ温かいことだ。
「吉野さん」
「ん? あ、なんか久しぶりだね」
今日のこれまでずっと話しかけてきていなかったから意外だった。
それなのに話しかけてきた理由は? 待っていれば答えてくれるか。
「たまには一緒に帰ろうよ」
「あ、それなら幸ちゃんに会いに行きたいんだけど」
「あー、早いのは僕らだけだからね」
そっか、会えても多分14時頃になるか。
「それよりテストも終わったし、ファミレスにでも行こうよ」
「あんたの奢りで?」
「それでもいいよ」
自分で払うと説明して向かうことに。
最近分かったことはメンタルがそこそこ強いということだ。
あとはそう、恋愛脳でなくなったのもいい変化かもしれない。
だからなんにも起こらない梓とだっていてあげている、誘ったのは向こうの方なんだからこれぐらいの思考をしていても痛くはないはず。
「それじゃあ、お疲れ様ということで」
「うん」
温かい店内で飲む冷たい飲み物はなかなかにいい。
でも、今更なんだろう、もう愛想を尽かしたのかと思ったけど。
料理も注文して食べたり飲んだりしながら考えていたものの、これだという答えが出てくることはなかった。私は梓じゃないからね。
「あのさ」
「なに?」
「いや……」
ああもうはっきりしてくれよ。
こういう態度が1番引っかかる、仮に悪口であったとしても大丈夫だ。
「というかあんた、もしかして寝不足なの? クマができてるけど」
「あ……うん、ちょっと夜遅くまでやっててさ、不安で仕方がなくて」
「あんたらしいね」
テストが終わったのは昨日だからまだ疲れが残っているんだろうな、だからってなにかをしてあげられるわけではないけど。
「眠たいなら寝れば?」
「お店の人に迷惑かけちゃうし……」
「それならあんたの家に行こうよ、そうすれば幸ちゃんに会えるからさ」
「あ……それなら」
代わりに会計を済ませて外に出る。
外は相変わらず寒かった。
どことなくふらふらしているように見えたから腕を掴んでおく。
「ごめん、誘っておきながら……」
「別にいいよ、ほら開けて」
「うん」
部屋の中に入った私達ではあるが……。
「は? ソファで寝ればいいじゃん」
「いや、それだと吉野さんが座る場所ないし」
そういう気遣いはいらない。
ここにはカーペットが敷かれているから問題もない。
「そうだ、膝枕してあげようか?」
「流石にそこまでは申し訳ないよ」
真顔で拒否られると複雑ぅ。
結局、梓は床で寝始めてしまった。
幸ちゃんが帰ってくるまでの間、なにをしていればいいのか悩む。
寝顔を見るような趣味はないし、女がいようとすやすやと寝息を立てている梓を前に悲しいし、だからって転ぶこともできないしで大変だった。
救いだったのは割とすぐに幸ちゃんが帰ってきてくれたこと。
「ただいまー! おーっ、あやのー!」
「しー、お兄ちゃんが寝ているからね」
「あ、ほんとだ、あずさねてる」
幸ちゃんが足の上に座ってきたから抱きしめながら梓を眺めることに。
ちょっと前と違って髪が伸びたようだ、他には……なんか余計に白くなっている気がする。なんで男として生まれてきたのか分からない。
「あやのはなんで来てなかったの?」
「あー、忙しくてね」
「そうなんだ、わたしはさびしかった」
「ごめんね」
しょうがない、だって梓が避けてたんだから。
話しかけてこない相手に話して家に、なんて頑張れる人間ではない。
「あずさも相手をしてくれなくてさびしかった」
「しょうがないよ、テスト勉強をしなければならないからね」
大学に行くつもりだっていう話らしいからいまも努力しているんだ。
別に就職組が努力していないと言うつもりはないが、差があると思う。
「でも、今日からは遊んでくれるってっ」
「はは、良かったね」
「うんっ」
ああ、幸ちゃんの前でだけは綺麗な自分でいられる。
これが梓とか本田とか茉奈とか森川の場合は、ふふ、って感じで。
クリスマスに幸ちゃんと過ごせたら楽しそうだなあ。
「幸ちゃんはクリスマスどうするの?」
「24日は友達と約束してる!」
「おぉ、じゃあ25日は梓やお母さんお父さんと?」
「うんっ、大きいケーキを用意してくれるって!」
段々と声が大きくなっていく。
正直に言ってこの寝顔はむかつくから起こせばいいか。
私を女として認識してくれてない男になんで気を遣わなければならないのかという話だよなあ!
「幸ちゃんっ、もっと話そう!」
「うんっ、もっとあやのと話す!」
数十分わーわーきゃーきゃーやった結果、
「……あ、おかえり幸」
なんで男として生まれてきたのか分からない梓が起きた。
「今日は給食あったよね?」
「うんっ、すっごく美味しかった!」
帰るとするか、やっぱり梓といるのは虚しいし。
幸ちゃんの頭を撫でたり、抱きしめたりしてから外に出る。
「吉野さんっ」
「うん? なによ、そんな必死な顔をして」
この喋り方は外面モード。
主にツッコむときや年上を相手するとき専門のそれ。
いきなり怒鳴られたり、叫ばれたりして困惑したときにも使うかも。
「あ……」
「またそれ? 悪口でもなんでも言えばいいじゃん」
「いや、悪口なんか言わないよ」
だったらそんなに毎回引っかかる必要はないでしょうが。
なにを今更気にしているんだ、謎に女子力が高かったり、細身なくせにガチンコチンだったり、分からないことばかりだよまったく。
「イブなんだけどさ、あ、空いてる?」
「クリスマスイブ? うん、別に暇だけど」
メインはやっぱり25日だからなんにも予定はない。
いやでもまさか梓からこんなことを言われるなんてと困惑はあるけど。
「じゃあ24日の夜にさ、ちょっと歩いて夜景でも見に行かない?」
「って、それはふたりきりで?」
「うん、僕はその方がいいかな」
「まあいいよ、じゃあそういうことで」
どうせなら幸ちゃんも連れて行きたかったけど友達と約束があると言っていたから仕方がない。仕方がないから付き合ってやるか。
それならママとパパには24日の夜にふたりで食事にでも行ってもらえばいいか、たまにはふたりきりでいたいだろうから。
プレゼントを用意しなければならないのか? そうだとしたらかなり面倒くさいぞ。私、梓の好みとかなんも知らんし。
いいや、当日になったらお金を渡そう、なんでも現金が1番!
「綾野っ、付き合えっ」
「は、きゃあ!? ま、またこれなのっ?」
梓の家から出ると必ずこの人がいて巻き込まれる。
追ってきている女の人は「真人この野郎!」といつも通りのセリフを吐きながら走ってきている。怖い、捕まったら私まで殺されるっ。
「はぁ……はぁ……」
「やったかっ?」
あからさまなフラグを建てるな。
「で? 今日はなにしたの?」
「スカートが捲れてパンツが見えていたから指摘したらこれだ!」
多分大声で言ったんだろうなあ、そういうところ考えなしだから。
教えてくれるのはありがたいけどさり気なく教えるとかって方法を選んでくれないとああして暴走したくなる気持ちも分かる。
「お前、25日暇か?」
「あんた嫌い、悪口言うし」
「おいおい、梓には悪口でもなんでも言えって言ってただろ?」
もうやだこの人……。
そもそも茉奈の兄って時点で問題があるんだ。
「で、なんで25日?」
「一緒に飯でも食いに行かないか?」
「流石に25日はちょっと、ママ――お母さんやお父さんと過ごしたいからね」
他ばかりを優先してられない。
24日はともかく、25日は家族で仲良く楽しく過ごしたかった。
「それに私、あんた嫌いだし」
「もういい、24日は邪魔するからな! 覚悟してろよ面倒くさい女!」
「え、あー、梓がいいって言うならいいんじゃない?」
「は……」
「別にふたりきりになりたいとか考えてないでしょ梓は」
私が前にあんな言い方したから表面上だけはそれっぽく言ってくれただけなんだと思う。それかあれかも、自分から誘うというのは初めてで緊張していたみたいな? 私より可愛いよあの人、もう女になろう。
「それよりあんた、梓の好みとか知らないの?」
「し、知らんっ、知っていても教えんぞ!」
「そっか。ま、梓に聞いてよ、誘ってきたのは向こうなんだから」
こちらに言われても困るだけ。
うーん、真人が好きなのは梓だったり? 梓って受けみたいな顔しているから違和感ないな。まあそうだったら応援してやろ。
「ただいまー」
とりあえずいまは冬休みまでゆったりと過ごそう。
何故か先程から本田に睨まれていた。
横を見れば仲良さそうに茉奈と森川が会話をしている。
あれから積極的にいくことを決めたようで、スキンシップなんかもしているようだった。茉奈からする場合はなんか顔がやばい。
「余計なこと言ったの綾野ちゃんだよね?」
「余計なことって……」
そんなのは頑張った方が勝つ。
私を睨んだって茉奈と仲良くできるわけでも、ましてや付き合えるというわけでもないのだ、それが分からない娘じゃないでしょ。
「責任、取ってよね」
「なにすればいいの?」
「今日一緒に遊ぼっ」
しょうがないから付き合うことに。
こちらの手をぎゅっと握って嬉しそうにしている本田。
「いいもんね、私はクリスマスに綾野ちゃんと過ごすから!」
「え、24日は梓と過ごすんだけど」
「なんでぇえ!?」
あと、梓が拒否ったせいで真人が不機嫌だった。
どれだけ梓といたいねん、敢えてクリスマスにとか乙女か!
乙女と乙女でよく分からなくなっちゃうだろ!
「頑張ってアタックしてみたら?」
「どーんっ」
「私にじゃなくて橋口に、イブだけは時間を貰うとかさ」
イブをメインに考える人達もいるからどうなるか分からないけど。
「あんなこと言ったけど、あのふたりを見ていると邪魔したくないって思ってさ――いや……怖いんだよ、ほぼ無意味なことだし」
「弱気になるなっ」
「綾野ちゃんだって……結局動いてないのに」
「あんたと私は違うの」
なにも行動しないで文句を言っているわけではない。
行動した結果、この無力さ、平凡さをしっかり把握できたわけだ。
関係のない他人を睨むなんてしない、その点では私が勝っている。
「もういい! 24日は邪魔するから!」
「それなら梓に言ってみて」
ふたりきりで夜景を見に行くってなんかそれっぽいな。
頑なにふたりきりを望むのは何故か、そういうのに興味ないって言っていたのにどうしてだよ。
途中で呆けたままの本田と別れて帰路に就く。
最近はなってなかった脳内ごちゃごちゃ問題が再発した。
寧ろ来てほしいぐらいだ、真人や本田に。
しかも夜景を見に行くだけならわざわざイブを選ぶ必要はない。
それを敢えて選んだということはつまりそういうことなのか?
分からないから聞いたよ本人に、ちなみに初めて電話をかけた。
「え? あ、別にそういうつもりはないけどね」
「は」
「今回は幸は関係なくて、僕が自分の意思で吉野さんといたいと思ったから誘ったんだよ」
「私といたって時間の無駄でしょ」
「そうかな? 僕、吉野さんといるの楽しくて好きだけど」
すごいね、その名字や名前の部分を変えれば誰にでも使えるね。
ちょろい女子だったらいまのでトゥンクってなってたと思う。
「あ、橋口兄と本田が行きたいって言ってたけど」
「吉野さんがいいなら一緒でもいいけどね」
「ならみんなで行こうよ」
「分かった、真人には僕から言っておくよ」
なんで私が梓とふたりきりでいたがったみたいになってんだよ。
恋愛脳ではなくなった私だけどふたりきりだとやっぱり引っかかる。
いちいち損得を考えて行動するようになったら終わりだ、だからそうならないように気をつけているのに駄目だった。
これなら私は行かなくてもいいのでは? また他3人だけが盛り上がってひとりだけ後ろを歩いている、みたいな展開になりそうだ。
「梓、私は行かなくてもいい?」
「え、駄目だよそれは」
「なんで? じゃあイブに行くのやめようよ、その前日にしよう」
「駄目、悪いけどそれは聞けない」
なかなかに強情のようだった。
私的にはそれが1番意外で、違和感しかなかったのだった。
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