第173話 結婚式~後編~

 綾と博が戻ってきた後……。


 俺の元に、善二さんがやってくる。



「冬馬、よく来てくれた」

「善二さん、この度はおめでとうございます」

「おめでとうございます!」

「ああ、ありがとう……弥生が結婚か……あいつには悪いことをした。俺みたいな無愛想な親で苦労したろうに……それでも、妻を亡くした俺を今日まで支えてくれた……幸せになってもらわないとな」

「真兄なら大丈夫ですよ。人の痛みを知ってる男ですから」

「ああ……本人には言わないが、なかなか良い男だ——少なくとも俺よりはな」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。俺みたいなガキが言うのもあれですけど、弥生さんは素敵な方ですから。それは、善二さんがきちんと育てたからだと思います」


(良く良く考えてみると……なんだか、不思議な気分だよな……自分の知り合い同士が結婚して……家族になっていくって)


「クク……相変わらず生意気な小僧だ。まあ、血は繋がってないとはいえ……これからもよろしく頼む」

「はい、もちろんです」

「うむ……ところで、嬢ちゃん」

「は、はい?」

「バイトに入ってくれて感謝してる。あいつも、相談相手がいて助かったと。やはり、男ではわからないことはある」

「い、いえ……私なんて、大したこともできなくて……バイトも中途半端で辞めてしまい……ようやく、仕事がまともに出来るようになったのに……」


(……このことを、綾はずっと気にしているな。俺が紹介した手前、どうにか払拭させたいが……ん?)


 俺が動き出そうとすると、善二さんが首を振る。

 どうやら、任せろと言うことらしい。


「嬢ちゃん、顔を上げてくれ」

「は、はい」

「あぁ……まあ、その、あれだ……来年には帰ってくるんだろう?」

「え、ええ、そうです」

「じゃあ……もし良かったら、またバイトしてくれると助かる」

「……へっ?」

「まあ、うちみたいな時給の安いところじゃ」

「や、やります! やらせてください!」

「そうか……じゃあ、待っている」

「あ、ありがとうございます!」


 綾は深々と頭を下げる。

 すると善二さんは、俺に目線を送った後……照れ臭そうにして去っていく。

 その姿に、俺も深々と頭を下げるのだった。


(最近の大人はろくでもないのが増えたと聞くが……俺の周りは、カッコいい大人ばかりだな……きっと、幸せなことなんだと思う)






 その後、準備が整い……結婚式が行われる。


「わぁ……綺麗」

「ああ、そうだな」


 真っ白いドレスをきた弥生さんと、白いタキシードを着た善二さんが歩いてくる。

 そして、真兄に変わり……前にて、誓いの言葉と口づけをかわす。

 その後、外に出て……みんなで祝福の言葉をかける。


「新兄! おめでとう!」

「真司! 綺麗な嫁さんもらったな!」

「先輩! 良かったですね!」

「おう! お前ら! あんがとよ!」


 俺たち男子陣は、真兄の脇を小突いたり、肩を組んだりする。


「弥生さん! 綺麗です!」

「あら〜綾ちゃん、ありがとなぁ」

「うぅ……真司に、こんなに素敵なお嬢さんが……」

「お義母さん、これからよろしく頼みます。仲ようやっていきましょう」

「あ、ありがとうございます……!」

「もう! お母さんったら……お、お義姉さん、兄をよろしくお願いします」

「ふふ、任せといて。しっかり、尻に敷きますから」


 女子陣の方も、楽しくやっているようだ。

 そして……恒例の行事があったが……。

 それを投げることなく、弥生さんは綾に手渡す。


「はい、綾ちゃん」

「わ、私ですか?」

「ふふ、次は綾ちゃんかもしれないから」

「ふえっ!?」


 綾はブーケを前にして、オロエロしている。


「ほら、隣にいる彼に聞いてみたら?」

「は、はぃ……」


 そして、チラチラと俺を見てくる。


(なんだ、この可愛い生き物は……ずっと見ていたいが、それでは可哀想だな)


「ああ、貰うといい。いつかとは言えないが、俺はそのつもりだしな」

「と、冬馬君……うんっ!」


 綾は満面の笑みを浮かべ、ブーケを受け取る。


 これにて、結婚式は終わりを迎えた。









 その後時間を置き……細やかな食事会の時間となる。


 場所は小さなレストランを貸し切って行われる。


「えー本日はお集まりいただき……あぁー」

「こらー! 真司!」

「先輩! 泣くの早いですよ!」

「真兄! しっかり!」

「だァァァ! うるせえ! ったく……コホン! ええ……本日は……」


 緊張がほぐれたのか、その後しっかりと挨拶をして……それぞれ自由に談笑する。

 バイキング式なので、みんなが自由に動けるってわけだ。





 そんな中、俺が外の風を浴びていると……。


「おう、冬馬」

「真兄、改めておめでとう」

「サンキュー……お前のおかげだよ。ありがとな、冬馬。弥生さんのことも、加奈のことも、お袋のことも……全部、お前が導いてくれたな」

「俺は……真兄に救われたから。これで、少しは返せたかな?」

「ばかやろーが、お釣りがくるぜ」


 そう言って、肩を組んでくる。


「そう……なら良かった。俺、アンタに会えて良かったよ」

「へっ……お互い様だっての」


 俺と真兄は顔を見合わせて……笑いあうのだった。


 すると、後ろから二人がのしかかってくる。


「おいおい! 俺らも混ぜろよ!」

「そうですよ! 先輩!」


 その後懐かしい四人で集まり、バカ話をするのだった……。



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