第170話 バレンタイン~後編~

 学校に到着すると……。


 男子から、とてつもない空気感が伝わってる。


 ソワソワだったり、ギラギラだったり……。


 みんな、なんでもない顔しているが……そういうことなんだろうな。





(ふっ、俺は綾から貰えたから余裕だな。これが勝者の余裕というやつか)


 俺はいつも通りに窓際の席に着き……違和感に気づく。


「あん?」

「どうしたの?」


 一月の席替えによって、隣になった綾が話しかけてくる。

 最後の学期ということで、真兄が俺と綾を隣にしてくれたってわけだ。

 他のみんなも、快く了承してくれたしな。


「いや……な、何でもない」


(机の中に何か入って……いや、これはまさか……だとしたら)


「……えいっ!」

「や、やめなさい!」


 俺は抵抗しようとするが、万が一綾に怪我でもさせたらと思い……。

 それを、呆気なく奪われてしまう。


「あ〜! チョコレートだっ!」

「いや、それは……」


(ん? 俺は何故悪いことをした気になってる? 別に俺が頼んだわけじゃないし、なにも問題はないはず)


「やっぱり、冬馬君モテるんだね……」

「まあ、関係ないがな——俺は綾以外に興味はない」

「はぅ……!?」


 綾が机に突っ伏して悶えている……おい、可愛いじゃねえか。


「なになに!? どうしたの!?」

「綾を泣かせたら……」


 黒野と森川がすぐにやってくる。

 時間がないからか、最近はいつでも一緒にいるな。


「待て待て、俺は無罪だ」

「なるほど……チョコレートね」

「うわぁ……五個もあるし」

「おそらく、綾が居なくなることを狙ってのことね」

「ウンウン、しかも本気度が高そうだし」

「うぅー……」

「おい、俺の可愛い彼女を不安にさせるなよ」


(……しかし、手紙がないのは助かったな。あるのはただのチョコレートだけで、名前も書いてないし。これなら、返事をする必要もない)


「ふふ、そうね。綾、平気よ——それにいいじゃない」

「ふえっ?」

「付き合ってる男がまるでモテないなんて嫌よ」

「あぁーわかるかも。私だけが知ってるのもありだけど、あんまりなのもねぇ」

「そ、そうなのかな?」

「というか、モテても関係ないのだが? 俺は綾に惚れてるわけだし」

「あぅぅ……」

「それもそうね」

「私たちが見張ってるしね」







 その後、昼休みの時間になると……。


「冬馬〜!!」

「飛鳥、うるさいわ」

「おっ、どうした?」


 俺は席を立って、廊下に出る。

 この二人が揃って俺を訪ねて……そういうことか。


「はいっ! 義理だかんね!?」

「言わなくてわかるでしょうに。ほら、私からも」

「おう、ありがとな」


 すると、二人の視線が俺の席の紙袋に向かう。

 ちなみに、あれは綾が用意してくれた。


「あれ〜? 今年はいっぱいあるね?」

「ミスターコンテストの影響でしょうね」

「あぁーなるほどね〜。まあ、中学時代は私が牽制してたしね」

「そうね。私と飛鳥がいて、女の子は寄ってこなかったし」

「おい? お前らが原因かよ……まあ、良いけどな」

「むしろ、冬馬はアキとのカップリングで人気が」

「やめい!」

「ふふ、そうだったわね。じゃあ、戻るとしましょうか」

「うん! じゃあね〜!」

「ったく……おう、またな」


 飛鳥が去り、最後に小百合が俺に耳打ちをしてくる。


「冬馬……アキにあげたから」

「なに?」

「ついでに言うと……この間、告白もしてきたわ」

「ほう? ……どうなった?」

「ふふ、それは本人に聞いてちょうだい……じゃあね」


 そう言い、小百合も去っていく。


「さて……俺も渡しておくか」


 遠目から食べ終わってるのを確認して……。

 席を立って、啓介の元に行く。



「おい、啓介」

「な、なに?」


 俺らとは違う面子で飯を食ってる時は、なるべく俺らは近寄らないようにしている。

 俺たちは気にしないが、啓介の周りの奴らが気にするからな。


「ちょっと話がある」

「目が怖いよ? はぁ……ついにカツアゲかな」

「ははっ! 言うようになったな!」

「痛いよ!?」


 思わず背中を叩いてしまう。


「おっと、すまんすまん。あんたら、悪いな。少し借りるぜ」





 啓介を体育館の横に連れ出し……。


「おい、これ」

「と、冬馬君から?」

「馬鹿言うな……麻里奈からだ」

「あ、ありがとう……貰ってもいいのかな?」

「貰わなかったら、俺がぶん殴るところだ」

「ハハ……じゃあ、有り難く頂きます。は、初めて女の子から貰ったなぁ……それが冬馬君の妹さんなんて……不思議だね」

「まあ……たしかにな。あの時カツアゲされてた奴がねぇ……」


(確か、この場所だったな。ヤンキーもどきに絡まれてたっけ……)


「あのね、この間……お金は全額返したよ」

「あん? ……ああ、親の財布からってやつか」

「お父さんには殴られたけどね……でも、その後に褒めてもくれた。よく言ったって……そして、よく返したと」

「そうか……まあ、あいつらが悪いんだけどな」

「そうかもしれないけど……僕が弱かったからだし、実際にしちゃったことには変わりはないから。だから、これで良いと思う」

「お前が納得してるなら良いさ」


 啓介も成長したな……。


 これなら、麻里奈と友達になるくらいは許してやるとするか。

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