第171話 アキとの話

 それから数日後の放課後……。


 俺はアキに呼び出される。


「よう、アキ」

「……おう」

「どうした?」

「綾ちゃんとの貴重な時間を奪って悪いが……少し付き合ってもらえるか?」

「ああ、問題ない。綾と居たいのは俺だけじゃないからな」


 今日は森川や黒野と遊ぶと言っていた。

 それもまた大事なことだと思うし……。

 本当に大事に思うなら、束縛なんかしてはいけないしな。


「なるほど、相変わらず出来た男だ……俺とは違って」

「おいおい、らしくないこと言うなよ」

「……とりあえず、歩きながら話すか」

「ああ、そうするか」


 ひとまず、一緒に帰ることにする。







 校門を出て……駅まで歩き……。


 地元に着いてからも、アキはずっと黙ったままだったが……。


 ある程度歩いて、俺の家とアキの家の中間くらいに来ると……。


「そこの公園寄って行かね? 寒いから、人もいねえし」

「ああ、そうするか」


 缶コーヒーを買って、二人でひと気のない公園のベンチに座る。


「なあ、知ってたのか?」

「うん?」

「……小百合のことだよ」

「……気づいたのは、ごく最近だけどな。誰も気づいていない……いや、飛鳥辺りはどうかわからないが」

「そうか……俺も、全く気づいてなかったし……はぁ、どうしたもんか」

「いつ言われたんだ?」

「あの日……罰ゲームで負けた日にな。ずっと、一日中付き合って……いつもみたいに言い合いをして……なんだかんだ楽しんでいる自分に……楽だと思う自分に気がついた時だった……最後に、とんでもない爆弾を落としていきやがった……相変わらず食えない女だぜ」



(……ふむ、この感じは珍しいな)


 大体女の子に告白されたら、喜んで付き合うか……。

 なるべく傷つけないように、穏便に事を済ませるタイプだが……。

 やはり、相手が相手ということなのかもしれない。


「どうしたもこうもないだろう——付き合うか、付き合わないかだ」

「簡単に言ってくれるぜ……でも、そうなんだよなぁ」


(……自分でも、心の整理がついていないのかもしれないな)


「告白されて、どう思ったんだ?」

「……青天の霹靂ってやつだな。ありえない、そんな馬鹿な、なんの冗談だ、カメラはどこだ……気がつけば、そんな言葉を吐いていた」

「可哀想に……とも言えんか。小百合の普段の態度を思えば」

「そうだよ。あいつがツンデレとか知らんし……そもそも、ツンが99,9パーセントで……最後の最後にデレるとか……あいつ、顔を真っ赤にして言いやがった」

「ふむふむ……それで、返事は?」

「それが……即答できなかった。俺にもよくわかんねえ……すぐにふざけんな、お前みたいな女と付き合えるかって言おうとしたんだが……何故か、言葉が出てこなかった」


(アキ自身も戸惑っているってことか……さて、俺にできることは)


「じゃあ、保留中ってことだな?」

「まあ……そういうことだ」

「珍しいよな、お前にしては」

「そうなんだよなぁ……何で断らなかったんだ」

「嫌いなのか?」

「……いや、そんなことはない。なんだかんだで付き合いは長いし……良いやつだっていうのも知ってる」


(ふむ、まあ……これは伝えてもいいか。本人も、薄々気づいているだろうし)


「実はな、お前が問題を抱えていた件……あいつ、知ってたぞ?」

「やっぱりか……この間の台詞はそういうことか」

「しかも、お前を助ける気でいたぞ?」

「……なに? どういうことだ?」

「俺が気づかなかったら、あいつがどうにかしたと思う」

「そんなことが……いや、あいつなら出来そうだ。あらゆるツテがあるからな」


(我が学校全員の弱みを握ってると噂されるくらいだからなぁ)


「まあ、俺に言えるのは……お前みたいな男と付き合えるのはあいつくらいだな。女子が嫉妬しようが、あいつには通じないし。むしろ、お前が嫉妬されるかもな?」

「はははっ! 確かに! そうか……あいつ、そのことは言わなかったな」

「よく似てるよ、お前らは。意地っ張りで素直じゃないし……お調子者で、自分を偽って……それでも、根っこの部分は優しい奴だ」

「冬馬……」

「ふっ……それじゃあ、よく考えるんだな」


 俺は少し気恥ずかしくなり、ベンチから立ち上がる。


「ああ、サンキュー」

「なに……ダチだしな」

「良いダチを持ったもんだな、俺も……」


 俺は背を向けて手を振り、その場を後にする。


(……お節介はこのくらいにしとかないとな。あとは、本人たちがどうするかだ)





 その日の夜……。


「へぇ〜そんなことがあったんだね」

「小百合いわく、俺と綾を見たから決心したそうだ」

「そうなの?」

「ああ、いつどうなるかわからないこと……あと、自分も前に進まないといけないってさ」

「そうなんだ……えへへ、なんか嬉しいね」

「うん?」

「私達が付き合ったことで、みんなに変化を与えてて……今日も、二人に言われたんだ。冬馬君と私のおかげで、自分達も成長できたって……」

「そうか……あいつらも上手くやってるみたいだしな」

「ふふ、色々大変みたいだけどね?」


(そうか……俺と綾が付き合うことで、色々な変化があったんだな)


 俺は心地良い声を聞きながら、そんなことを思った……。

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