第168話 修学旅行最終日

 その後、宿に帰り……。


 飯を食って、ダチとゲームをして遊んで……。


 最後の夜は、楽しくてあっという間に過ぎていく……。







「なんというか、あっという間だったな」

「だよな! もっと遊びたかったぜ!」

「じゃあ、今度は普通に旅行しようか。受験でも終わったらさ」

「ぼ、僕もいいかな?」

「当たり前だろ」

「そうだぜ!」

「もちろん」

「あ、ありがとう」


(そうだよな……もうすぐ三年生になるんだよな)


「そういや、以前も聞いたけど進路は決まってるか? それとも変化したか?」

「俺は変わらず進学だね。上の私立大学に行こうかと思ってる。できれば、黒野と同じところに受かりたいしね」

「あれ? 黒野はお金がどうとか言ってたけど……」

「兄さんが払ってくれるってさ。だから、行きたいところに行けって言われたらしいよ」


(そうだった、こいつらには内緒だったな。それにしても……真兄の奴、相変わらずかっこいいな。それでこそ、俺の憧れる男だ)


「僕は国公立の大学かなぁ……今のままの成績をキープできればだけど」

「お前は真面目だし、平気だと思うがな。お前には公務員になってもらわんと」

「ハハ……頑張るね。というか、元々そっち方面に進むつもりだったから」


(まあ、良い意味で啓介らしいわな。公務員なら、万が一……万が一、義弟になっても麻里奈を養えるだろうし)


「俺は専門に行こうかと思ってたけど……頑張って大学に行こうかと思ってるぜ」

「へぇ? 何か理由が?」

「キャンパスライフだよ! 俺だって可愛い彼女を作ってイチャイチャしたい!」

「うん、ある意味健全だな。清々しいくらいに真っ直ぐだし。しかし、お前の成績で平気なのか?」

「うっ……それなんだよなぁ」

「まあ、マサはラッキーだったな」

「あん?」

「ここに学年トップクラスが三人いるからな」


 啓介もクラスでは上の方に入るし、俺と博はトップクラスファイブに入っている。


「まさか……教えてくれるのか!?」

「俺はそのつもりだが? もちろん、真面目にやるならな」

「同感だね。きちんとやるなら教えるよ。復習にもなるしね」

「僕でよかったら!」

「ウォォォォ! ありがとよ!」

「ええい! 暑苦しいわ!」


 抱きつこうとするマサを布団に放り投げる!


「やったな! そうだ! お前とは一度やってみたかったぜ!」

「ほう? 良いだろう、かかってくるが良い」

「さて、啓介。俺たちは窓際の椅子に座ってお茶でもしようか」

「うん、そうだね」


 こうして……最後の夜は更けていく……。








 そして、翌朝……みんなで少し早めに起きる。


「ふぁぁ……ヤベェ」

「中々気持ちいいね」

「うん! 朝風呂って良いね!」

「だろ? 早めに起きて正解だったろ?」


 昨日羨ましがられたので、提案したわけだ

 少し早めに起きて朝風呂をしないかと。

 今日は帰るだけだから、多少眠くとも問題ない。

 というか、帰りの電車は毎年静からしい……みんな寝てしまうから。









 スッキリして風呂から出たら、最後の朝食を済ませて……。


 帰りの支度をして、帰りの新幹線に乗り込む。


 そして、案の定……静かな車内になった。


「ん……まだ、みんな寝ちまってるな……さて、どうするかね」


 俺は眠気覚しに、車両の間の洗面所に向かう。


「あれ? 冬馬君?」

「おっ、綾も眠気覚しか?」

「うん、そんなところ」


 二人で並んで、外の景色を眺める。


「楽しかったなぁ……すごく」

「ああ、俺もだ」

「みんな、良い人たちで……離れたくないね」

「綾……」

「ご、ごめんね……」

「いや、良いんじゃないか。それだけ、思い出に残ったということだ」

「……そうかも。愛子と加奈と話してたら、色々なことを思い出しちゃって……結局、三人で泣いちゃって……」


 俺は綾の涙を拭いて、大人しく話を聞く。


「そうか」

「高校でできた、初めての友達で……これからも、ずっと友達でいようって言ってくれて……嬉しかった」

「ああ、そうだな」

「冬馬君が浮気をしないように見張りは任せろとか、寄ってくる女は排除するとか」

「おい?」

「ふふ、もちろん冗談だよ?」

「なら良い」

「冬馬君の友達もいい人ばかりで……」

「ああ、そう思う」

「先生も良い人で……弥生さんたちも……」

「ああ、そうだな」

「……私だけ、別々になっちゃうね……みんなはいいなぁ……三年生になっても、一緒にいられて……」


 俺は優しく綾を抱きしめる。


「大丈夫さ、みんな待ってる。卒業式は一緒に出れるんだろう?」

「うん……来年の三月に帰って来れるって……」

「そしたら、卒業旅行でも行こう。そして、みんなで高校生最後の思い出を作ろう」

「冬馬君……うん!」


 そう言って、ようやく綾は笑ってくれた。


 そして肩を寄せ合い……二人で黙って外を眺めるのだった。

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