第167話 修学旅行~その7~
その後専用タクシーに乗り込み、次々と神社を巡っていく。
現地では美味しい物も多いので、みんなで食べ歩きをしつつ楽しむ。
そんな中、それぞれ土産物を買うために、少しだけ別行動をとる。
そして、俺が土産物を見てると……。
「吉野ー」
「ん? 森川か、どうした?」
(珍しいな……森川が一人で話しかけてくるとは)
真兄との関係上、黒野とは二人でも話すが……森川とはそうでもない。
「いやさ……あんがとね」
「あん?」
「ずっと前だけど、助けてくれたじゃん? 綾のためだと思うけどさ」
「ああ、あの時のことか」
「私自身もショックだったし、色々とあったからさぁ……きちんと礼を言ってなかったよね……あの時はありがとう」
「なに、気にするな。俺は俺のやりたいようにやっただけだ。それが結果的にお前の助けになっただけだ」
(あの時の俺の頭には、正直言って森川のことはなかった。あるのは綾を泣かせたくないと言うことだけだ)
「あははっ! 相変わらずだね! 剛真の言う通りだったね……」
「うん?」
「あいつは、そんなのは気にしないってさ」
「そうか、正解だな。ところで、うまくやってるか?」
「まあ……それなりにね。ちょっと奥手すぎて、付き合ったことないタイプだから……それが面白くもあり、もどかしくもあるかも」
「その辺は許してやってくれ。あいつは女耐性がまるでないからな。大事にしたいと思っているんだろう」
「それなんだけどさ……」
「なんだ?」
「大事にされすぎるのも辛いというか……まあ、そんな感じ。もっと強引でも良いのにとかね……女子的には」
「……そういうものか?」
「そういうものだよー」
「そうか……」
「それだけ! じゃあね〜!」
森川が去ったあと……考える。
(……俺の気持ちを押し付けすぎかもしれないってことか)
その後合流して、再び移動を繰り返す。
そして、夕方ごろになると……。
「じゃあ、別行動ということで」
「博?」
「ほら! 行ってこいよ!」
「いってらっしゃい!」
「あとで、合流で」
「綾、頑張りな!」
(……どうやら、俺の知らないところで動いていたらしい)
すると……綾が、俺の前に立つ。
「と、冬馬君! 少し歩かない?」
「あ、ああ、良いけど……」
「いこっ!」
「お、おい!?」
俺は綾に手を引かれ、強引に歩かされる。
そのまま、黙ったまま歩き続け……。
ひと気のない場所にくる。
そこからは街が一望でき、夕日が綺麗な場所だった。
「ここ、さっき見つけたんだ」
「そうか……」
「ごめんね、騙すようで」
「いや、良いさ。何か理由があるんだろ?」
「うん……あのね……と、冬馬君はアレから変……エッチなことしないよね?」
(……キスは入らないとして……そういうアレはしてないな)
「まあ、そうだな」
「それは……お父さんが言ったから?」
「それもある」
「それ……も?」
(カッコつけることは悪いことではない……だが、弱みを見せないのも違うのかもしれない。俺が、この先もずっと綾といようと思うなら……)
「情けないことに……一度でも手を出したら——どこにも行かせたくないと思ってしまう」
「……ふえっ!? え、えっと……あぅぅ」
「すまん、こんなこと言われても困るわな」
「う、ううん! そ、それが……冬馬君の正直な気持ちなんだね?」
(俺とて何度手を出そうと思ったか。その度に……綾のお父さんの信頼を裏切ること、そして手を出したら……歯止めがきかなくなることを恐れた)
「そうだな。綾は、俺のことを頼りになるしっかりした男と思っているかもしれないが……俺はそんな大層な男じゃない。ただのやりたい盛りのガキで、それに溺れるのを恐れているだけだ」
「や、やりたい……溺れる……」
「幻滅したか?」
「……逆かな。冬馬君も普通の男の子なんだなって。私、きっと……何処かで冬馬君を特別だと思ってたんだと思うの」
「そりゃそうだ、特別なんかじゃないさ。どこにでもいる……好きな子の前ではカッコつけたい普通の男だよ」
「ううん、それは違うよ」
「うん?」
「少なくとも、私にとっては特別なことに変わりはないから」
「綾……そうだな、俺もそう思う」
「えへへ〜聞いて良かった。ずっと気になったままじゃやだもんね」
そう言った綾の顔は、晴れやかな表情になっていた。
それを見て、俺は間違ってなかったと思えた。
弱みを見せることも、手を出さないことも……。
だが……これだけは言っておかないと。
「ふっ……ただ、覚悟はしておけよ?」
「ふえっ?」
「帰ってきたら、ただじゃすまない」
「あぅぅ……はぃ、できれば優しくしてください……」
(やばい……可愛い……今すぐにでも……待て待て! 落ち着け!)
「……カンバル」
「……片言?」
「ほ、ほら、戻ろうぜ」
「ふふ、顔真っ赤だよ?」
「はいはい、わかってますよ」
俺は先に歩き出し……一度だけ振り返り、綾とその夕日を眺める。
「どうしたの、冬馬君?」
(この景色と綾を目に焼き付けておこう。数少ない、綾と高校生活の思い出として)
「いや、なんでもない」
俺は綾に手を差し出す。
俺ま黙って引き寄せ——キスをする。
「んっ……」
すっと離し、何事もなかったかのように……。
「さて、行くか」
「も、もう……」
綾の手を引いて歩き出すのだった……。
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