第166話 修学旅行~その6~

翌朝……ぱちっと目を覚ます。


「ん? まだ6時半……風呂でも入るか」


七時起きだから、まだ時間はあるしな。

確か、昨日は消灯時間の十一時になったら……。


(啓介がすぐに寝てしまったんだよな……)


夜更かしするつもりもなかったが、それもあってみんな寝ることにしたんだ。

まあ、夜更かしも定番だが……それで、今日が楽しめなかったら何にもならんしな。








静かに部屋を出て、廊下を歩く。


ほぼ貸切に近いので、静かで俺の足音だけが響く。


そして、風呂に入ると……。


「ん? 冬馬か?」

「あれ? 真司先生?」

「おいおい、今は誰もいねえよ。いつも通りでいい」

「わかった……真兄、随分と早起きだね?」

「それは、そのままお返しするぜ」

「たしかに。いや、少し早めに寝てさ。夜更かしはしなかったんだ」

「それで良いんだよ。毎年夜更かしをして、この日に具合が悪くなったり、移動中に寝てしまって楽しめない奴らが一定数いるからな」

「そっか」


(じゃあ、啓介に感謝だな)


「それにしても……頑張ったな」


真兄が、俺の頭をガシガシとする。


「な、なにが?」

「色々とだ。よく引き止めなかったな。女々しくならなかったし」

「……だって、かっこ悪いじゃんか」

「そうだな。女の人は弱みを見せて欲しいそうだが……男としては、そういうわけにもいかんしな」

「そうなんだよね……でも、少なくとも見栄を張ることはやめたよ」

「ああ、それくらいで良い」

「真兄、一言だけ言わせてくれ……ありがとね」


(色々言いたいことはあるけど、俺と真兄ならこれくらいがいい)


「おう。じゃあ、背中でも流してもらうか」

「うん、お安い御用だ」


その背中を見ながら思う……。


俺も、アンタみたいな先生になるよ。


俺の憧れの男であり、尊敬する先生みたいに……。






風呂から出て、部屋へ戻ると……。


どうやらすでに起きて、朝飯の用意まで来たようだ。


「おっ、いたいた!」

「なるほど、朝風呂か。良いね、俺も早起きすれば良かったよ」

「そうだよね。せっかく、温泉がいくつかあるし」

「まあ、気持ち良かったな。ほら、朝飯食おうぜ」






美味しい朝飯を食べたら、着替えてロビーに集合する。


「冬馬くん! おはよー!」

「おう、おはよ。よく眠れたか?」

「うん! ぐっすり! 冬馬くんは……顔色いいね」


(……顔が近い。しかも、相変わらず鼻腔をくすぐるし……何よりも)


「俺もよく寝たよ。それより……似合ってる」

「ほんと? えへへ〜良かったぁ」


綺麗な黒髪をポニーテールにして、いわゆる触覚もある。


「それに、マフラーが映えるな」


俺のあげたマフラーをしているので、これなら首が出ても寒くないしな。


「そうなの! 髪が長いと、マフラーを巻き込んじゃって……冬馬君は、やっぱり長いのが好きかな……?」

「綾ならなんでも似合うと言いたいところだが……そういうことじゃないな」


俺は綾をじっくりと観察して、思考を巡らせる。


(顔が小さいにエラもないからショートも似合うだろう……セミロングくらいにしたら清楚感が増しそうだな……ボブも良いかもしれん……いや、しかし……ロングは捨てがたい。あの風になびく感じが好きかもしれない)


「み、見過ぎです……」

「す、すまん……ロングが好きだな。あのなびく感じが好きかもしれない」

「そうなんだ……じゃあ、切らないておくね!」

「まあ……どれでも似合うから無理はしなくて良いからな?」

「うん! ありがとう!」


そこで気づく……みんなの視線を集めていることを。

全員が黙って、温かい目で俺たちを見ている。

きっと……俺たちの事情を知っているからだろう。


「ったく! ほら、そういうのは後でやれ」

「はは……すみません」

「ご、ごめんなさぃ……」


真兄の言葉で我に帰り、先生の話を聞く。







そして、今日の注意点をいくつか聞いた後……。


それぞれ、班に分かれて行動する。


「まずはどこいく?」

「神社巡りが良い!」

「森川?」

「旅立つ綾にご利益があるように! 無病息災とか?」

「愛子……ありがとう」

「良いわね」

「俺は助かるが、博や啓介やマサは……」


俺が男子達に視線を向けると……。


「何言ってんだ! 良いに決まってんだろ!」

「そうだよっ!」

「まあ、そういうことだよ」

「お前ら……ありがとな」

「みんな……ありがとう!」


俺と綾は顔を見合わせ……笑顔になる。


きっと、同じ気持ちだと思う。


こいつらと友達になれて良かったと……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る