第165話 修学旅行~その5~
その後、綾と共にゲーセンに行く。
「やっぱり、この時期で良かったよね!」
「うん?」
「だって平日だから人も少ないし、他の修学旅行生もいないもん」
「まあ、確かに。三年に修学旅行がある学校も多いからな。観光客もそこまで多くないし、結構穴場の時期かもしれない」
今も目の前にいるのは、俺らの学校のやつらが目立つ。
確か修学旅行は毎年ここでやっていて、相手の旅館としても助かるらしい。
「何やる?」
「うーん……格闘系は冬馬君に負けちゃうし……レース系も強いし……あっ、アイスホッケーがある。懐かしいなぁ……あれでもいい?」
「まあ、何でもいいさ——全力で叩き潰す」
「ふふ、それでこそ——冬馬君だね!」
いくら綾だろうが、勝負事は別物だ。
……まあ、場合によっては手加減するけど。
……はい、負けました。
「ヤッタァ! 冬馬君に勝ったぁ!」
「お、おう」
大はしゃぎして、綾は気づいていないが……。
(何せ、綾が動くたびに……プルンプルンしやがる。幸い、見えるようなことはないが……とてもじゃないが、普通には立っていられない)
何より男共が寄ってきたから、いち早く終わらせる必要があったぜ……。
少し悔しいが……まあ、綾が楽しんでくれるなら良いか。
お次はゾンビ系シューティングである。
これなら、フルフルすることもあるまい。
「うひゃあ!?」
「おい!? 銃を手放すなよ!?」
「だって〜!」
「綾さん! 腕を絡めないで!?」
(銃が撃てないから! 違うものを撃ちそうだから!)
……どうやら、俺も大分テンションがおかしいな。
「あぁー! 楽しかった!」
「そ、そうですね」
「どうしてしゃがんでるの?」
「いや、ちょっと立ちくらみをしただけだ。のぼせたのかもしれない」
(立てない……立っているから立てない……なんと情けない)
「へ、平気?」
「ああ、大丈夫だ」
「わ、私、飲み物買ってくるね!」
(……綾に気を使わせてしまうとは。我ながら、何と情けない事か)
その後、ベンチに座ってお茶を飲む。
「もう平気?」
「ああ、ありがとな」
「ごめんね、ちょっと楽しくなっちゃって……」
「いや、俺も楽しいし。綾が笑ってくれるから」
「冬馬君……えへへ」
(さっき、覚悟を決めた。息子よ、しばらくの間は黙ってろ)
その後、ゲームを再開する。
レース系、キャッチャー……一番大変だったリズム系など。
そして……。
「おい! お前ら! 部屋に戻る時間だ! 旅館の人に迷惑かけた奴は、俺がシメるからな!」
真兄が、生徒たちに声をかけていく。
どうやら、9時半なので部屋に戻らなくてはいけないようだ。
「おう、お前らもいたか」
「お疲れさん、真司先生」
「お疲れ様です、先生」
「すまんな、お前達のために部屋でも用意してやりたいが……」
「ふえっ!?」
「真兄、そういうのは良いから。というか、アンタがすすめるなよ」
「ははっ! それもそうだな! ほれ、じゃあな」
真兄が去った後……。
「「………」
「い、行くか」
「う、うん」
その後、別々に別れて部屋に戻る。
(……同じ部屋なんかにいたら……手を出さない自信がない)
◇◇◇◇◇
……どうしたら良いのかな?
「綾、どうしたの?」
「加奈……うん、冬馬君とのことなんだけど」
「なになに、なんかあったの?」
同室の二人が、私を気にかけてくれてます。
「……し、した方が良いのかな?」
「はい?」
「どういう……あぁーそういう意味?」
「う、うん……」
(……お父さんには、ああ言われたけど)
「何か不安なことがあったのかしら?」
「いや、そんなことはなくて……むしろ、大事にしてもらってます」
「なるほどねぇ……贅沢な悩みではあるけど、複雑でもあるよね」
「そうね……手を出して欲しいの?」
「ふえっ!? そ、そういうことじゃ……いや、冬馬君なら良いんだけど……冬馬君以外は嫌だもん」
「でも、あれでしょ? お父さんと約束したんでしょ?」
「そうよね、あの吉野が破るとは思えないし……」
(そうなんだよね……私も、特別したいってわけじゃなくて……不安なのかな?)
「あのね、冬馬君が浮気するとか考えたり……多分、遠距離でダメになるってことはないと思うんだ」
「そうね、浮気はないわね」
「ウンウン」
「疑ってるわけでもないけど……」
「なるほど……体の繋がりをした方が、不安が消えるのかってことね?」
「そういうことね〜……うーん、どっちとも言えないかも」
「どういうこと?」
「したところで、不安が消えるかと言われれば……結果論だしねー」
「そうよね。それに、吉野の気持ちだってあるでしょうし」
「そっかぁ……そうだよね。うん、また変に考えるところだったかも」
「それに気づけるようになったなら良いんじゃない?」
「そうそう! 以前の綾なら、気を使って私達にも言ったか怪しいし」
(確かにそうかも……少しは成長したのかな?)
「ありがとう、二人とも……私、二人と友達になれて良かった」
「も、もう……」
「あらあら、まだ泣くには早いわよ?」
「うぅ……わかってる……よーし! 今から恋バナだよ!」
「そう言えば、全員いるわね」
「しかも、あっちも仲良いみたいだよ?」
……そっか。
それも含めて、冬馬君に相談すれば良いんだよね。
二人のおかげで、私はすっきりとした気持ちで眠りにつく……。
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