第161話 修学旅行~その1~

 そして二月に入り、修学旅行の日がやってくる。


 四、五、六の二泊三日の旅で、行き先は京都だ。






 ひとまず、集合場所の駅に到着すると……。


 同じ制服の高校生たちが集まっていて……。


 その中から、真兄が近づいて来る。


「おっ、来たな。班の全員が揃ったら、俺の所に来てくれ」


 どうやら、担任ごとにクラス名簿があり、来たらそれに○を班長がつけるらしい。


「わかった」

「清水。準備はどうだ?」

「はい、順調に進んでいます。先生、色々とありがとうございました」

「なに、気にするな。これでも、担任の先生だ。何より、可愛い弟分の頼みだからな」

「ふふ、そうですよね」


(本当に真兄はよくしてくれた。自分の結婚式のことで忙しかったのに)


「なに言ってんだが……ほら、書いたよ」

「クク、照れるなよ」

「えへへ」

「はぁ? 照れてないし。それより、この間言ってた結婚式は決まったの?」

「ああ、三月の初めに決まった。弥生さんと話し合って……清水、お前も出られるようにな」

「先生……」

「親父さんと弥生さんが、どうしてもお前に出て欲しいってさ」

「でも、私……急にバイト辞めて……まだ半年も経ってないのに……」

「ばかやろ、そんなのは関係ねえよ。だいたい、冬馬が一人ぼっちで可哀想だろうが」

「そうそう、俺が可哀想だ。黒野だって、博を連れて行くらしいし」

「そうなの?」

「ああ。そういや、綾には色々と決まってから言うことになってたな」

「ふふ……嬉しい。先生、ありがとうございます!」






 その後、真兄は次々と生徒に声をかけていく。


「立派な先生だよね?」

「ああ、見た目はともかくな」

「えへへ、そうかも……私、このクラスで良かったなぁ」

「ん?」

「だって、先生がいなければ……冬馬君とこうなることもなかったかもしれないし」


(……あぁー、そういや……真兄が、俺の住所を教えて……そこから始まったんだっけ)


「もう、10ヶ月も前なのか……なんか、あっという間に過ぎたな……楽しすぎて」

「うん……そうだね」

「綾〜!」

「わぁ!?」

「何しみじみしてるの?」

「もう! びっくりしたよ!」


 綾の背中に、森川が乗っかっている。

その横には黒野もいる。


「やあ、冬馬」

「おす、冬馬」

「おはよう、冬馬君」

「おう、これで揃ったな」


博、マサ、啓介も揃ったので……。

 俺は真兄の元に行き、○をつける。






 そして、新幹線に乗り……いよいよ、出発である。


「イェーイ!」

「だからうるさい」

「うるさいね」

「はは……でも、貸し切りだしね」

「そうだよな!」


 向かい合わせになっている四人席で、俺たちは座っている。

 通路を挟んで向こう側には、女子達が座っている。


「なあなあ……」

「ん?」

「清水さん、留学しちゃうんだろ?」

「ああ、そうだな」

「寂しくなるね……」

「うん……」

「おいおい、お前達が暗くなるなよ」

「意外と、お前は冷静なんだな?」

「この先もずっと一緒いたいと思ってるからな」

「はは……参ったね」

「冬馬君らしいや」

「確かに! お前、男前すぎんぞ!」

「ええい! 首を絞めるな! 暑苦しい!」


 すると……隣から笑い声が聞こえる。


「ふふ、綾の顔が真っ赤ね」

「綾! もはやプロポーズだよ!」

「はぅ……いや、その、あの……」


 流石にプロポーズされたことは言っていないらしい。

 本人達から漏れるとかではなく、単に恥ずかしいだけらしいが……。

 この旅行中に伝えるとか言ってたな。






 そして席替えをしつつ、トランプなどをして、あっという間に京都に到着する。

 いわゆる、楽しい時間は過ぎるのが早いってやつだな。


「お前ら! 迷子になるなよ! しっかりついてこい!」


 真兄に先導され、皆でワイワイ移動する。


「冬馬君。私、京都初めてだから楽しみ!」

「そういや言ってたな」

「関東の人は、普通は中学の時に来るんだよね?」

「まあ、定番だからな。埼玉県民は大体そうだろ。たまたま綾は違ったらしいが」

「えへへ、じゃあ……案内してもらおっと」


 そう言って、腕を組んでくる。

 最近、特にスキンシップが多い。


(嬉しいのだが……約束した手前、手を出すことはできない。かといって、寂しいであろう綾を我慢などさせられない。故に、俺が全身全霊の力でもって、これに耐え抜くしかない)


 あと二ヶ月、厳しい戦いになりそうだ……。






 そのままバス停の前まで行き……。


 みんなが集まるまで、ジュースを買って待っていると……。


 綾がヒソヒソと話しかけてくる。


「ねえねえ、いつ言ったら良いかな?」

「綾のタイミングでいいんじゃないか?」

「でも、冬馬君だって知られちゃうよ?」

「まあな……俺は色々と言われそうだなぁ」


(アキや剛真、智や飛鳥、小百合には、先に言っておいた方が良いか。あいつらには、本当に世話になったからな)


 この一ヶ月、あいつらは俺を励ましてくれた。

 アキは、三年になったら遊ぼうぜ!と。

 智は、一緒に勉強しましょうと。

 剛真は、運動で発散しようと。

 飛鳥と小百合は、俺に女の子が寄ってこないようにするって綾に伝えていたな。



「ふふ、みんな驚いちゃうね?」

「俺はさっさと知らせたいよ——綾は俺の奥さんになるって」

「ふえっ!?」

「こんなに可愛いんだ、色々と心配だしな。この旅行でも、俺の側を離れるなよ?」

「は、はぃ……」


 寒い空気の中、俺たちは身を寄せ合う。


 しかしそうすると……不思議と、寒さは感じなかった。


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