第157話二人の話

 少しスッキリした俺は、三人にお礼を言って、家に帰宅する。


 そして、親父と麻里奈にも出来事を話すことにした。


 落ち着いて話せたのも、真兄達のおかげだ。


「そうか……みんな辛いな」

「うん……離れ離れは寂しいもんね」

「ああ、俺もそう思う。だけど、少しわがままを言おうかと思ってる。もしかしたら、二人にも協力してもらうかもしれない。親父、麻里奈、その時はお願いします」

「……冬馬のお願いか。そっか、言えるようになったか」

「えへへ、お兄ってば、全然人を頼らないもんね!」

「そ、そうか?」

「ああ、そうだ。俺たちが言ったところで、お前は意固地になるだろうからな」

「ねー! だから、お兄が言い出すまでは我慢って言ってたもん」


(そうだったのか……俺は知らず知らずのうちに、自分で何でも出来ると……中学の時のように、迷惑をかけないようにしていたのか)


「二人とも、 ありがとな」

「馬鹿やろ、家族だろ」

「うん! 家族だもん!」


(そう……大事な家族だ。 だから、親父さんの気持ちも少しわかる。でも……このままでは終われない)






 その日は頭を冷静にするため、特に行動を起こすことなく寝ることにする。


「スマホを確認しても、綾から連絡もないしな……」


(よし……明日起きたら、綾に電話しよう。そして、きちんと話をしよう)











 そして……翌朝……目覚ましが鳴る。


「ん?……意外と寝れたな。やっぱり、真兄達や親父達のおかげか」


(だが、おかげで体調は悪くない。頭も回る……よし、いけるな)


 起き上がった俺は、窓を開けて空気を吸い込む。


「ふぅ……よし、目が覚めた」






 ひとまず階段を下り、顔を洗う。


「そういや、もう二人は出かけたのか」


(親父は今日から仕事だし、麻里奈は朝練とか言ってたな)



「さて、飯はどうする……へっ?」

「と、冬馬君!」

「……綾?」


 リビングに……綾がいた。


「な、なんで!?」

「えへへ、冬馬君の驚くところなんか久々に見た……やったね」

「い、いや! 驚くから!」


(待て待て! また八時だぞ!? いや、そこじゃなくて!)


「いつからいたんだ!?」

「えっと……えへへ、七時半くらい? お父さんと麻里奈ちゃんに、ここで待ってて良いって言われて」

「そ、そうか……」


(い、色々言いたいことがあったのに……まだ、混乱している)


「あのね、言いたいことがあります。まずは……昨日はごめんなさい!」

「えっ?」

「嫌いって言っちゃったけど……あれは嘘で、でも、あの……好きなの」

「ああ、わかってるよ。俺も悪かった。自分の気持ちを押し付けてしまったかも」

「ううん、私の方こそ……嫌いになってない?」

「もちろんだ——好きだよ、綾」

「よ、良かったぁ……えへへ」


(ひとまず良かった……綾が笑顔になってくれた。だが、なんだ? 綾がいつもより……大人びて見える?)


「そ、それでだな……」

「待って!」

「綾?」

「私から話させて欲しいの」

「……わかった」


 その目はとても真剣で、何か覚悟を決めた感じがする。





 ◇◇◇◇◇



 ……さあ、私——言うんだ。


 昨日、お父さんに伝えたことを。






「お父さん、お話があります」

「……ああ、わかった。座りなさい」

「お姉ちゃん……」

「誠也、お母さんと二階に行きましょうね」

「でも……」

「平気よ、もう喧嘩にはならないから」

「……うん、わかった」


 お母さんが誠也を連れて二階に行ったあと、私はお父さんの対面に座ります。


「さて……なんだ?」

「お父さん、まずはわがままを言ってごめんなさい。お父さんだって、好きで転勤したわけじゃないし、本当なら家に帰ってきたいのに……」

「……ああ、そうだな。それにしても……良い顔になったな」

「えっ?」

「昨日とは違う……それで?」

「う、うん……私は、ここを離れたくありません」

「ああ、しかし」

「うん、わかってる。それが子供のわがままだってことは」

「……俺としては、喜んでくれると思っていた。お前は英語を学びたいと言っていたし、留学も視野に入れていたからな」

「うん……でも、あの時は行かなくて正解だったよ。おかげで、冬馬くんに会えたから」

「……そうか」

「冬馬くんのおかげで人目を気にしなくなったし、いつでも守ってくれた。おかげでバイトだってするようになったり、色々なところにも連れてってもらった。冬馬君に会って、私の全ては変わったの」

「……そこまでか。いや、母さんから話は聞いているが。じゃあ、どうする? 駆け落ちでもするのか?」


 そう言い、お父さんは少し寂しそうな顔をする……。

 うん、やっぱり……これが一番なのかもしれない。


「お父さん、あのね……」

「何? ……うむ、そうか。いや、しかし……そのあとはどうする?」

「何でもするよ。一人で何でも出来るようにする」

「……ひとまず、彼に話してきなさい。そして……また、話し合うとしよう」

「うん、そうするね。あのね、お父さん……私だって、一緒にいたいんだよ?」


(これだけはきちんと伝えないといけない。私がお父さんを好きだってことは)


「……ああ、それが聞ければ充分だ。じゃあ、父さんは寝る」

「うん、おやすみなさい」






 ……ふぅ、よし。


「冬馬君、私は——留学をしようと思います」

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