第156話自分の気持ち

 フラフラして、俺は公園のベンチに座る。


 家に帰ったら、親父と麻里奈に聞かれるからだ。


 どうして帰ってきたの?と……。


「情けねぇ……何が泣かせないだ、何が悲しませないだ」


(他でもない俺が泣かせて悲しませてるじゃねえか……くそっ!)


「でも……俺は、自分に嘘をついたつもりはない」


(本来なら、家族は一緒にいるべきなんだ。それが一番良いに決まってる)


「なのに……胸が苦しい」


(俺がもっと大人だったら……何で、俺は高校生のクソガキなんだっ!)








 あれから、どれくらい経っただろうか?


 あれ……もう暗くなってきたのか?


 ……意識がぼやけてくる。


「ん? 冬馬?……おい! どうした!?」

「あれ? ……真兄? どうして?」

「冬馬君、平気!? こんなに冷たくなって……」

「弥生さんまで……」

「しっかりしろ! 弥生さん! 俺が担ぎます!」

「ええっ!」





 俺は真兄に背負われて……車に乗せられる。


「ほれ! 飲め!」

「あ、ありがとう……ふぅ……あったまる」


 どうやら、俺の身体は冷え切っていたようだ。


「お前なぁ! 寒さで人は死ねるんだぞ!?」

「ごめん、真兄……」

「……何があった? お前がそんなになるなんて……」

「………なにも」

「冬馬君、今日は綾ちゃんの家に行ったのよね?」

「あん? そういや、お前スーツだな……振られたのか?」

「だったら、まだマシだったんだけどね……」

「とにかく、うちに行きましょ。私、お父さんに電話しとくわ」

「よし、俺が運転する」

「二人に悪いよ……デート中だったんじゃないの?」

「ばかやろー、可愛い弟分のが大事……い、いえ、そういうわけではなくて……」

「ふふ、良いんですよ。私は、そういう貴方を好きになったのですから」


(……少し羨ましいなぁ。俺も本当なら、今頃は二人みたいに……)


 暖かくなって安心したのか……意識が沈んでいく……。








 ……んっ……ここは?


「むっ、起きたか」

「クマ……善二さん?」

「誰がクマだ。まったく……ほれ、起きられるか?」

「は、はい」


 起き上がって辺りを見回すと……どうやら、矢倉書店の二階の部屋のようだ。

 俺は、そのソファーの上で寝かせられていたようだ。


「冬馬……俺にできることはあるか?」

「真兄……弥生さん」

「何があったの?」

「俺は席を外そう」

「いえ……もしよければ、善二さんにも聞いてほしいです」

「……わかった、では話してみると良い。お前が、何故弱りきっているのか」





 そして、俺は一通りのことを三人に話した……。

 きっと、誰かに聞いて欲しかったんだと思う。

 それに、俺と似たようなモノを抱えているこの人達なら……。


「そうか……冬馬、辛えな」

「うむ……親父さんも気持ちもわかる」

「そうね……私達も出来ることなら、家族は一緒が良いもの」


 真兄は、両親は生きているけど、一度家族がバラバラになってる。

 善二さんは早くに奥さんを亡くし、弥生さんと二人で生きてきた。

 このタイミングで会うことに、なんだか意味があるような気がする。


「真兄、俺は間違ったかな?」

「いや……間違ってはいない。もし出来るなら、家族は一緒にいる方が良い。しかし、言い方が良くないかもしれん。お前の言い方では、押し付けになってしまうからだ。清水の気持ちを無視している」


(言われてみれば……俺は、あの時一人で決めて……勝手に発言していた)


「多分、冬馬君は心情的にお父さん側にいっちゃったのね。お父さんが、家族と離れ離れで寂しいって……」

「……そうなのかもしれません」

「あのね……綾ちゃん、すっごく今日を楽しみにしててね」

「へっ?」

「嬉しそうに私に言うのよ。明日、冬馬君が来るんですって……きっと、物凄く楽しみだった分、悲しくなっちゃったんじゃないかな?」

「そうだったんですね……」


(そうだったのか……俺は緊張し過ぎて、そのことに気づかなかった)


「冬馬」

「はい、善二さん」

「俺も、バイト中に彼女から話は聞いていた。しかし、俺たちは環境は似ていても、あくまでも違う人間だ。考え方はそれぞれ違うし、立場も違う」

「はい……俺はガキで、どうする事も出来ないです」


(俺達が大人だったら……俺たちは高校生のガキで、親の庇護下にある。そんな俺らが、好き勝手にやって良いわけがない)


「そうだな、お前達は子供だ。そう……

「へっ、親父さん……そうだぜ、冬馬——お前は子供なんだよ」

「ふふ、そうね……冬馬君、貴方は子供なのよ」

「な、何ですか……三人共同じこと言って……そんなのは、俺が一番わかってます」


(やっぱり、諦めろってことか? 俺には力がない。今すぐに綾を養うことも、しっかり責任を取ることも……)


「冬馬、お前は出来た男だ。しかし、まだ十代のクソガキだ。だから、もっとわがままで良いんだ。大人みたいに物分かりのいいフリをしなくていい」

「……真兄?」

「ふん……そいつの言う通りだ。もっと、素直になれ……自分の気持ちにな」

「ふふ、そうよ。貴方の良いところでもあり……悪いところでもあるわ。もっと、綾ちゃんを頼ったり、甘えたり……しっかりとお話をしたほうがいいわ」

「善二さん……弥生さん……」


(そうなのか? 俺はわがままを言って良いのか?)


「あ、綾と離れたくないです……!」


 気がつけば、俺は言葉を発していた……涙と同時に。


「そう、それで良いんだ。結果はわからないが、ひとまず伝えてやれ」

「ああ、それが良い」

「うん、きっと待ってるわ」

「わかりました……ありがとうございました……!」


 俺がそう言うと、三人は照れ臭そうに微笑む。


 まるで、気にするなとでも言うように……。

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