第152話初詣

 ……うん? 何か、柔らかいものが……。


「うん……やぁ……」


「あん? ……うおっ!?」


(なぜ、俺の布団に綾がいる? 待て待て……よし、俺と綾は服を着ている。つまり、何もいたしてはいない)


「おい、綾。起きろって」


 時計を確認し、朝の八時なっていたので、揺さぶるが……。


「やだぁ……」


「ちょっ!?」


(しがみつくな! というか、パジャマからこぼれとる!)


「あら〜困ったわね」


「れ、玲奈さん! 違うんです!」


「わかってるから平気よ。その子、実はねぼすけさんで朝も弱いのよ。きっと、トイレにでも行った帰りに間違えて入ったんでしょうね」


「な、なるほど……」


「ふふ、どうする?」


「どうもしませんよ。ふつうに起こしますから。綾、起きろって」


「じゃあ、あとはお願いしようかしら……お姫様を起こすのは、王子様の役目よ?」


 そう言い、静かにドアが閉まった。


「はぁ……仕方ない」


 そっと、綾の頬にキスをする。


「ひゃあ!?」


「おっ、起きたか」


「と、と、冬馬君!? なんでいるの!?」


「そりゃ……泊まったからだろうな」


「……そうでした。な、なんで一緒の布団に?」


「ここは、俺の布団だ。つまり、綾が入ってきたと推測される」


「あぅぅ……な、何もしてない?」


「ああ、特には。ほら、起きようぜ。みんなで初詣するんだろう?」


「そうだったっ! あっ! わたし、冬馬君いるのに顔も洗ってないよぉ〜!」


「可愛いから安心しろ」


「ほ、ほんと?」


「ああ、これが毎日見れたら幸せだろうな」


「じゃ、じゃあ……はぃ」


 目を閉じるので、今度は普通にキスをする。


「えへへ……朝チューだぁ……じゃあ、先に下に行ってるねっ!」


 頬を染め、綾が部屋から出て行く。


 えっ? 俺はいかないのかだって?


 ……少し待ちます、今は立てそうにありません。





 荒れ狂う息子が治ったら、下に行き、持ってきた道具で朝の支度を済ませる。


 そして、リビングに入り……。


「みなさん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


「こちらこそ、娘と息子共々よろしくお願いします」


「にいちゃん! 明けましておめでとう!」


「冬馬君、明けましておめでとう。今年もよろしくね」




 そして、全員でお雑煮を食べたら……。


「お、お母さん! 早く早く!」


「はいはい、慌てないで」


 二階から騒がしい声がするが……間に合うのか?


「にいちゃん! カッケー!」


「だろ? これ、親父のお下がりだが、サイズがぴったしでな」


 初詣に行くと言ったら、袴を親父が出してくれた。

 前もって綾の家に置いておいたので、それに着替えたってわけだ。


「お、お待たせ!」


「おう……綺麗だ——よく似合ってる」


「あっ——ありがとぅ……えへへ」


 艶やかな赤色の着物に包まれた綾は、いつもより大人びて見える。

 髪も綺麗にまとめて、魅力的なうなじが顔を出している。


「あらあら、良かったわね〜。お母さんも、頑張った甲斐があったわ」


「姉ちゃん! 綺麗!」


「ありがとう、誠也」


「じゃあ、車出すからみんなで行きましょう」


 お母さんの車に乗って、地元民が毎年行く神社に向かう。




 到着したら、お母さんと誠也とは別行動になる。


「ほら、手を出して」

「う、うん、歩き辛いね」

「無理しなくても良かったんだぞ?」

「だめだよっ! 私のわがままだもん!」


 そう、この提案は綾の方から言い出した。

 この間うちに来た際に、親父から袴があることを聞かされたらしい。

 そして、俺に着てほしいと頼んできたわけだが……。


「まあ、俺は嬉しいけどな。めちゃくちゃ可愛いし」

「はぅ……冬馬君もかっこいいです……オールバックだし……」

「 ああ、長くなってきたし、面倒だからこうしたが……お気に召したなら良い」

「うんっ! すごい似合ってる! 映画に出てくる任侠の世界の人みたい!」


(……今のは、褒められたのだろうか?)




 その後、集合場所に行くと……。


「おう、集まってるな」

「やあ、冬馬。よく似合ってるね」

「うむ、やはりお前には似合うな」

「いやいや、剛真には負けるから。博も似合ってるよ。というか、二人が仲が良いとは知らなかったな」

「特別良いってわけじゃないけど、前は同じクラスだったしね」

「うむ、一応部長同士という繋がりもある」


 とまあ、この謎の組み合わせの原因は……。


「綾〜! 超可愛いしっ!」

「とても似合ってるわ」

「二人も可愛いよっ!」


 綾と黒野と森川が、三人で集まりたいと言ったからだ。

 彼氏とも初詣したいし、仲良し三人組でもしたいと。

 まあ、とりあえず言えることは……。


「「「俺の彼女が一番可愛いな」」」

「「「………」」」

「おいおい、寝言言うなよ。綾が一番に決まってるだろうが」

「いやいや、俺たちは付き合いたてなんだし、ここは譲れないかな」

「何を言うか! 森川さんが一番に決まっている!」


 すると、クスクスという笑い声が聞こえてきた。


「ふふ、可愛いね」

「照れるんだけど?」

「まあ、男の人って馬鹿ね」

「ねえねえ! 写真撮ろうよっ!


 通行人の方に頼んで、六人で撮ってもらう。





 その後、俺たちはそれぞれの手に引かれ、お賽銭箱の前に立つ。


「冬馬君、何を願うの?」

「どうだろうなぁ、あんまり信用してないからな」

「あっ、そうだよね……お母さんの時に……」

「おいおい、落ち込むなって。こういうのは、人それぞれさ。だが、まあ……一応願っておくかね」

「なになに?」

「それを言っちゃダメだろう」

「それもそっか……わたしはね、決まってるの」

「そうか……」

「えへへ、冬馬君と今年も一緒に居られるようにって!」


 俺も手を合わせ、願い事を思う……。


 今年も、この子の笑顔が曇らないようにと……。


 そして自分に誓う——この子を泣かせるような真似はしないと。











 ……俺は後に思う……願い事なんてするんじゃなかったと。

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