第151話年越し

 ひとまず、家にお邪魔して……。


「にいちゃんだっ!」

「冬馬君、いらっしゃい」

「誠也、玲奈さん、こんばんは。遅くにお邪魔して申し訳ない」

「良いのよ、バイトだったんだもの」

「僕、頑張って起きてたよっ!」

「そうかそうか、ありがとな。今年もお世話になりました、来年も宜しくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ」

「もう! 冬馬君、まずは上がって」

「ああ、そうだな」




 リビングに案内され、コタツにてぬくぬくする。


「はぁ……生き返る」

「ごめんね、寒かったよね。すぐにお茶持ってくるね」

「すまんな」

「ねえねえ! いつもにいちゃんは何見てるの!?」

「うん? 笑ってはいけないとか。格闘技とか」

「面白いよね! でも、僕はいつも録画なんだ! 今日は、にいちゃんが来るから特別だって!」


(なるほど……道理でテンションが高いとは思ったが。まあ、もう十一時を過ぎている。普通の小学生なら寝る時間だもんな。そういや、麻里奈も初めて夜更かしするときはテンション上がってたな)


「はい、冬馬君」

「おっ、ありがとな……ふぅ、あったまるわ」

「隣いい?」

「お、おう」

「えへへ、不思議な感じ」


(いかん……上にブランケットを羽織っているとはいえ、パジャマは生地が薄い。色々と柔らかいものが当たる)


「にいちゃん?」

「い、いや、なんでもないさ」


(ふぅ……誠也とお母さんがいて良かった)


「じゃあ、お母さんが年越しソバを作るわ」

「あっ、手伝うよ」

「ダメよ、冬馬君の隣にいなさい。せっかく可愛いパジャマ着てるんだから」

「お、お母さん!」

「うん? いつもと違うのか?」

「お姉ちゃん、いつもは地味な色か中学のジャージだよ!」

「あ、あぅぅ……」

「そっか……うん、可愛くて似合ってるよ。ありがとな、綾」

「はぅ……」

「あらあら、良かったわね〜」




 そして……いよいよ年明けが近づく。


「誠也、起きろ」

「う、うん……」

「どうする? 寝ちゃう?」

「……うん。にいちゃん、ごめんなさい」

「何を謝ることがある? 明日もいるさ。だから、しっかり寝ておけ」

「はぁーい」


 玲奈さんに手を引かれ、誠也は二階に上がっていった。


(いかん……ストッパーがいなくなった。鼻腔をくすぐる香りとか、肌の感触が……)


「あ、あのぅ……恥ずかしぃ」

「へっ?」

「ずっと……胸元見てるから」


(ゴハッ!?)


「す、すまん! 無意識だっ!」

「う、うんん……大きくなった?」

「はっ?」


(え? 俺のが? そういう意味? いや、大きくなってるけれども!)


「少しサイズが上がっちゃって……冬馬君は大きいのは嫌いかな……?」


(いえ、好きです……うわぁ……我ながらひどい)


「いえ、大変結構なことかと存じます」


「ふえっ? ……ふふ、変なの。冬馬君、今年もお世話になりました。その……来年も一緒にいてくれたら嬉しいです……」


「ああ、もちろんだ」


 自然と口と口が近づき……キスをする。


 すると……足音が聞こえたので、急いで離れる!


「あらあら〜邪魔しちゃったわねー」


「お、お母さん! 別に何もしてないもん!」


「ノーコメントでお願いします」


「ふふ、じゃあ年越しソバを食べましょうね」


 そう言い、玲奈さんはキッチンへ向かった。


「へっ?」


「……過ぎてるし」


(どうやら、イチャイチャしてる間に年を越していたらしい)


「あはは……」


「ひとまず……そば食うか」




 玲奈さんが用意してくれたソバを食べ終えると……。


「じゃあ、お父さんは予定通り二日に帰ってくるんだ?」


「ええ、そうよ。ただ……」


「何かあったの?」


「うーん……ちょっと歯切れが悪かったのよね。もしかしたら、何かあったのかしら?」


「帰ってこれないとか?」


「そういう感じじゃなかったわね……まあ、気のせいかもしれないわ」


「俺はいつ頃伺えばよろしいですか?」


「三日のお昼過ぎかしらね。時差ボケもあるでしょうから」


「わかりました」


「お母さん、作戦はどうするの?」


「あまり立てなくて良いと思うわ。ありのままの冬馬君を見てもらいましょう」


「うんっ!」


「それに冬馬君はともかく……綾には腹芸は出来ないもの。嘘が下手だし、お父さんも嫌がるだろうから」


「そうかも……でも、お父さんもきっと気にいるよ!」


「いや、それはあり得ない。娘に近づく男は、すべからく敵だ」


「あら、わかってるわね。さすが、妹さんがいるだけあるわ」


(そうか……いよいよ、近づいてきたな。気に入られるように、しっかりしないとな)






 そして、就寝時間となる。


「えっと……良いんですかね?」


「ふふ、信頼してるから」


「では、頑張ります。おやすみなさい」


「お、お母さん、おやすみなさい」


「ええ、おやすみ。じゃあ、また明日」


 俺は綾の部屋に入る……つまり、お泊りだ。


(と言っても、ただ寝るだけだけどな。ここで手を出したら、今までの苦労が水の泡だ)


 というわけで、大人しく綾のベットの横にある布団に入る。


「ふふ、変な感じだね」


「まあ、そうだな」


(ヤベェ……部屋中から綾の香りがして……色々まずい)


「そういえば、先生たち来た?」


「ん? ああ、真兄たちか。報告ついでに食べに来たよ」


「私も、今日上がる時に伝えられて……びっくりしちゃった」


「まあ、お互いに良い歳だしな」


「弥生さん、幸せそうだったなぁ……わたしも、いつか……」


 綾はうとうとし始めた。

 その姿は、ずっと見ていたいほどに可愛い。


「寝て良いぞ。明日も予定あるしな」


「うん……おやすみなさい……」


 そして……すぐに寝息をたて始めた。


「さて、俺も寝ますか。そのために、今日は頑張ったんだし」


 そう、俺が今日朝から晩までバイトをしたのは、もう一つの理由がある。


 疲れ果てていれば、何とか寝られるのではないかと思ったからだ。


(……おっ、来た……これなら、何とか……)


 その感覚に身を委ね……俺も微睡みの中に沈んでいく……。

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