第150話年末は忙しい

 翌日からは、大忙しだった。


 まずは、家の大掃除から始まり……。


 年末ということで、ほぼフルタイムでバイトに行くことになり……。


 あっという間に、年末を迎える。







 そんな中、ノーゲスのままバイトをしていると……。


 六時前に、店のドアが開く。


「いらっしゃいませ! ……あれ?」


「おっ、いたいた」


「あら〜、冬馬君、こんばんは」


「えっ? 真兄に、弥生さん?」


「おう、暇そうだな?」


「まあ、年末だからね」


 みんな家にいるか、誰かと過ごしているだろうし。


「それにしても、初めて来たよね? どうしたの?」


「いや、まあ……正式に付き合うことになってな……その、アレだ……結婚を前提にってやつだ」


「おおっ!? ほんと!? 」


(そうか……良かった。こんなに嬉しい知らせはない)


「それで、今年中に知らせようかと思ってな」


「今日も綾ちゃんがバイトしてて、冬馬君は夜までバイトって聞いたのよ」


「なるほど、そういうことですか」


「冬馬、まずは座ったもらったらどうだ?」





 見かねた友野さんが声をかけ、奥の席に案内する。


「お前も、こんな年末までバイトで偉いな」


「いや、その予定はなかったんだけど……」


「ふふ、綾ちゃんから聞いたわよ。店長さんの奥さんが、つわりをしてて、代わりに働いてるのよね?」


「なるほど、なおさら偉いな」


「いや、よくお世話になってるからさ。あと、来年からは中々バイト出来ないし」


「そうか……お前も、もうすぐ高校三年になるか」


「ふふ、早いわね。あんなに小さかったのに。おばさんになるわね」


「何を言うのですか! まだまだお若いです!」


「ふふ……真司さん、ありがとう」


(……うん、上手くいってるみたいで良かった。紹介した手前、ずっと気にはなっていたし)


「じゃあ、メニュー決まったらよんでください。ちなみに、今日は俺の奢りなんで、好きなものを頼んでください」


「そんな、悪いわ」


「いや、弥生さん。ここは、冬馬の男気を買いましょう」


「そういうことです」


「あら……良いわね、男の子って。じゃあ、ご馳走になるわね」





 その後、二人に食事を持っていき……。


「聞いて良いかわからないけど……結婚の挨拶ってどうした?」


(俺も、人ごとではないからなぁ)


「うん? まあ、一発ぶん殴られたぜ」


「もう、お父さんったら。ごめんなさいね、真司さん」


「い、良いんですよ! こんな可愛いお嫁さんをもらうんですから! トラックに轢かれるくらいはできます!」


「ふふ、困りますよ。怪我しちゃったら悲しいですからね?」


「は、はいっ!」


(完全に掌の上って感じだな……でも、幸せそうだからいいのか)


「私もご挨拶に行ったわよ〜。お母さんと、妹さんに」


「へぇ? ……母親とは、会ってるの?」


「まあ……ちょくちょくな。まさか、泣かれるとは思ってなかったが」


「お母さん、ずっと後悔していらしたみたいで……私に、よろしくお願いしますって」


「けっ……調子のいいこと言いやがって」


 そう言いながらも……どこか晴れやかな表情を浮かべている。


「そっか……良かったね、真兄。弟として、嬉しいよ」


「おうよ。だから、挨拶に来たんだよ」


「じゃあ、冬馬君は私の弟ね。ふふ〜嬉しいわぁ」


「あ、いえ、まあ……あねさんと呼ばせていただきます」


「おい? 俺は一般人だぞ?」


「ふふ、それも素敵やわぁ」


「ゴハッ……!」


 機嫌が良い時に出る京都弁に、真兄がノックアウトされた。


 ……二人とも、お幸せに。





 その後、食事を済ませ、二人は帰っていった。


 そして八時に店を閉め、俺も上がりの時間になる。


「冬馬君、お疲れ様。ごめんね、年末まで働いてもらって……」


「すまんな、お前しか頼れる奴がいなくてな」


「いえ、気にしないで良いですよ。友野さんに頼られるなんて、これほど嬉しいことはないですし」


「あれ? 僕は?」


「はいはい、嬉しいですよ」


「扱いが雑だよっ!」


「まあ、いいじゃないですか。では、帰りますね。今年もお世話になりました、良いお年を」


「うん、こちらこそお世話になりました。冬馬君も良いお年を」


「世話になったな。来年もまたよろしく頼む」


「ええ、では失礼します」






 急いで家に帰り……。


「お兄、お帰り!」

「おう、ただいま」

「冬馬、間に合うのか?」

「多分……まあ、急がないとね。二人とも、悪いが……」

「もう! 平気だって! お父さんの面倒は見るから!」

「まあ、そういうわけだ。お前は楽しんでこい。相手のご家族によろしくな」

「ああ、わかった。じゃあ、準備をするわ」




 軽く飯を食って、風呂に入り、着替えを持ったら……。


「げっ、もう十時過ぎたか。麻里奈、親父、行ってくる!」


「気をつけてねー! 綾ちゃんによろしくねっ!」


「事故に遭うなよー!?」


「ああ、わかってる。じゃあ、良いお年を!」


 家を出て、バイクに乗って……。






 綾の家の前に到着する。


 すると……すぐに綾が玄関から出てくる。


「と、冬馬君、いらっしゃい」


「お、おう……今日は世話になる」


 そう……今日は、綾の家にお泊りすることになっていた。


(ていうか……ピンク色のパジャマか……可愛いな、おい)

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